松に梅に、赤い実がついた小枝に、すいせん・・・と、花屋はいろとりどりに正月用の花やお飾りで賑わっている。
けど、私の財布の紐は固く、まだダンスパーティでいただいたユリが花瓶にりんとしているし・・・と。まどかは4色の花束をお正月用に買っていた。
そんななかに、ハイビスカスが、私の気持をパアっと明るく染めてくれた。大晦日にハイビスカスも悪くない。

そういえば、あの時も年の瀬にハイビスカスを見た。
メキシコで年をとったあの日が、グーンと記憶にもどった。
カリブ海に面したホテルは、コバルトブルーの空と海が、境界線もなく広がっている。白いコテージ、ブーゲンビリアにハイビスカスが太陽にまばゆい、天国のような景色が広がる。
ホテルのレストラン、大型のテレビからは紅白歌合戦が。
その前のテーブルに陣取って、おいしそうな食事に、舌鼓をうっている大家族がいた。
聞くと、日本から移民として着の身着のまま出てきた人たち。
その中でも一握りの家族は成功を収め、こうしてホテルで紅白歌合戦を観るのが、至福の時らしい。
いろんな人生が、花の数ほどにある。
そうだ。IL Divnをかけよう。
(ちなみに、‟IL Divn”とは、イタリア語で神のようなパフォーマー。もしくは男性版ディーヴァを意味する。日本風に短絡的に紹介すれば欧米のイケメン4人によるグループということになろうが)
すてきに響くテノールにバリトンが耳をくすぐる、切ない歌を繰り出す4人グループ。
その中の一人が亡くなったと、年末の新聞でみていた。
あー今年もあっという間に一年が過ぎてゆく。
‟激動の一年でしたネ”とフラビオが言った。
“さあ踊り納めにしましょう” ワルツ、チャチャ、ジャイブ、そしてルンバ。一気に言葉もなく踊った。それでもあと5分レッスン時間が残っている。
‟先生、今年のダンスはもうこれで終わりにしましょう”
レッスンルームの扉を閉め、エレベーターに乗った。
思い出せないほど、思い出す時間がないほど、あれやこれやとビッシリつまった一年だった。
あと3日。
何にもまして、ありがたい一年だった。
もし、そのことに感謝をしなければ・・・・、自分は不幸になると、IL Divnを聞きながら、ハッと気づいた。
本当に、こうして、好きなことを、楽しく、生かさせて頂いていることに、愛をふりそそいで守って下さっていることに、頭を下げ、手を合わせないと、私はいけないと。
ありがとうございます。本当にありがとうございます。
「過ぎ去って行く
歌は人間が書くものではなく
自然と生まれてくるもの
歌は我々の身の周りに毎日起きている
歌は気に入ったものを集めるだけでいい
君のための歌はある
なんと君は生きることに疲れ
笑顔を忘れているのだろう
歌はジプシー 詩を盗んでしまう
一時の喜びを得るための薬のように人の心をまどわす
歌は愛の苦しみや病気を治しはしない
でも生きていることで
我々が感じる小さな痛みをいやしてくれる パセラ 」