「本はお好きですか」 「ハイ」
「どんな本を読まれますか。小説とかエッセイとか」
「小説は読みません。ファイナンス系です。」
「実はよろしければプレゼントしたいものがあるんです」
「え!?」
というわけで、とりあえず乗った個人タクシー。いつもの何気ない天気の会話から本の会話になり・・・・。なんと大学生の息子さんが書いたという詩集をいただいた。文庫本になっていて、赤い羊というタイトルの詩集。そもそも、今日の新聞でちょうど詩歌の未来はどうあるべきか、という欄を見ていただけに、何かがやっぱり見えない世界でつながっているんじゃないか・・・・。という不思議なプレゼントだった。

「大波小波
出版不況が言われて久しいが、それは売れていた小説の世界の話。詩歌の世界では、とっくの昔から不況どころではない。現代詩を例にとっても、詩集が本当に売れるのは、谷川俊太郎と最果タヒくらいではないか。ではそれ以外の詩人はどうするのか。ひたすら働いて資金をため、詩集を自費出版する。少なくとも150万円はかかるだろう。出版社もぎりぎりなのだからどうしようもない。好景気の時代は、車一台と思えば納得も行ったかもしれない。今の若者は懸命に働いても、車など買えないのが大半だ。詩歌の栄光は現世にはないのだから、金銭問題に頓着するなという意見もあるだろう。だが、すべての詩人が死後の発掘を待つことはできない・・・・・。(タコ)詩歌の未来」

18才の大学生が書いた詩集。たぶん父親がその出版費用を出したのかしら・・・・。
ちょっとロマンスグレーの個人タクシー。運転はすべるように走るいい感じだった。
息子の書いた詩集をプレゼントします、バリトンの声。読んで頂いたらきっと感動していただけると思います。
しかも、今日これからのご予定は? などと、個人的な質問に、会話に間があく。 
いったいこの男? 私はきっぱりと 仕事です!!と答える。
なんとも不思議なプレゼントだった。

「僕は海賊が好きだった。
パイレーツ、という言葉を聞くと胸がおどったものだ。だから日がな
バイロン卿の
われらは若きパイレーツ 
という詩を暗誦しては 一人暮らしのさびしさを紛らわしていた。
これから始まるのは船の中で書いた物語である。
ぼくの船は音楽で出来た船で、ビバルディの四季の帆をはりめぐらし、
モーツアルトの音を敷き詰めた船室で、ぼくはドビッシーの海を
聴きながら瞑想にふけった。
中世風の家具什器、ベルリオーズの音の煙の中からあらわれてくる
幻の召使たち
何もかもが申し分なかったが それらは夜になると 
みんな消えてしまうのだった
レコードをとめると ぼくは貧しい下宿暮らし一人の詩人にすぎなかった 
から。
船の中で書いた物語は七編ある
だがぼくの船は とうとう一度も航海しなかった。
だからぼくはまだ、地中海もマダガスカル島もみたことがない」
    さよならの城  寺山修司 著