ぷくぷくのさくらを、グレースママと私で川の字になって寝た。
夜中に2回ミルクタイム。いつものように4時に目が覚めると、さくらが私の方に近づいてきている。
“カワイイー、超カワイイー” あー母親の気持ちだ。まだ歩けなくって、食事もミルクだけ。いつもお世話が必要で、誰かが守ってあげないといけない赤ちゃん!! あー思いだしてきた。この気持ち、横で添い寝をしていると、自分の身体の中の赤い赤い血が、ザワザワと流れて、あったかーくなって、ちっちゃなさくらの手のひらをずーっと握っていたい。

「好みというのは、永遠に気まぐれな人間の美学である。しかし古来、飽きやすい大衆の好みこそが、時代を創ってきた。流行を次々と送り出さねば飽きられる。早く次を創造せねば、そうした繊細でクリエイティブな職業は近代社会に始まったと思われているが、そうじゃない。2400年前のギリシャにも始まっていたのです。女神の腰から始まる話だ。あの世界一有名な上半身裸体のミロのヴィーナスの像。なぜ女神はあのように魅力的な、腰を捻じるポーズを取るに至ったのだろうか。古代の大衆は端正に直立する古典期の神像に飽き始めていた。好みの変化を鋭敏に嗅ぎ取った彫刻家プラクシテレスは、像の腰を“ちゃんと捻る”新様式を創出した。名作クニドスのヴィーナスである。新スタイルを一目見ようと、船乗りたちが各地からクリニドスの港を訪れ町は潤った。古典古代の末期“ちょっと捻る”ポーズが大ブレイク。その後いよいよミロのヴィーナスは、一夜にして飽きられる流行とは異なり今日も世界中から、大勢の船乗り、観光客を呼び寄せ、文化大国フランスを支える。  時代を変えた新女神像  芸術文明史家 鶴岡真弓 」

夜明け、青山の高層マンションとは違って、シー、コロコロキシー、チロン・・・と、たくさんの虫の音が聞こえてくる。外は真っ暗だ。グレイスママもさくらにミルクをあげたあと、また眠りについた。
時間は途方もなくゆったりと過ぎていく。
何も焦る必要はない。
そう言えば、とくは、夕食6時までどうしようと、大村の平戸の港町で、2時間いや正確には1時間と55分をもてあましていた。
“じゃあ、オランダ坂を下りて、港町を散策しよう”と歩き出したとたん、“ねえ、早くおうちへ帰ろうよ。早く、早く!!”と、何度も私の横で呼び止める。すでに東京で生まれ東京で4年を過ぎたとくは、何にもあてがなく歩いてブラブラと散歩するという、一見意味をなさない行動が理解できないらしい。
いつもの習慣で4時に起きた私も、食事までの3時間、それに食事を終えて車が迎えにくるまでの3時間、どうしようか?と、途方にくれている。
旅行って、なんにもしなーい贅沢と、ゆったりとする心地よさを満喫しなきゃあ。