ホテルの部屋に戻ると、独房のようだった。
シングルのベッド一つと作り付けの椅子、バストイレはユニットで非常に狭い。テーブルの上をテレビが占領していたので床に置く。少しすっきり。ただ窓から代々木公園の緑と空が見えるから、そちらに向いて朝の幸せな時間を始める。
Myカップにインスタントコーヒーをいれ、Myグラスで持参のレモンはちみつを2枚入れて炭酸水を飲む。
工夫をすれば、それなりにどこでも楽しめるようになる。
そう言えば、このワークショップを受けて、確かに自分の観察力、視力が確実にグレードアップしたと思う。
たとえば壁。何の変哲もない壁が、自己主張を始めた。ただのどこのホテルにもあるクロス貼りの白い壁が、けっこう茶色の水玉のようなシミが湯沸かし器の側に点々と見える。ゴミ箱の横には、血だれのような赤茶の汚れが4か所。デッサンをする時に、対象物をしっかりと見てじっくりと描く練習で、見方が変わったとしか思えない。
しかも、デッサンで毎日描いているのが自分の手。私は私の手が身体の中でも嫌いだった。血管が浮き出て、関節がゴツゴツしていて、皺だらけ!!
だけどだけど、今は、その手が愛おしく美しいと感じる。
あー私の爪って、こんなにつるつると光沢があって、うす桃色の元気なさくら貝のようにかわいらしい!!
そうか、見つめてあげることって、大切なんだ。こんなに自分の手を愛おしいと思ったことは、今だかつてなかった。

「絵の描き方を学ぶ第一歩は、絵を学ぼうとしないことです。矛盾しているようですが、それはつまり、絵を描くのに適した脳のシステムに自発的にアクセスする方法を身につけるということです。脳を視覚モード  ー絵を描くのにふさわしいモードー  に転換させれば画家と同じ特別な見方でものが見えるようになります。画家のものの見方は通常の見方と違い、意識を飛躍させて心的状態をシフトさせる能力を必要とします。もっと正確にいえば、画家は周囲の状況を整えて、知覚の転換を起こさせるのです。さらにものを違ったやり方で見て洞察力を意識的なレベルにまで呼び出すことは、絵を描くだけでなく、人生のさまざまな側面で役に立ちます。(アルキメデスのように)とりわけ創造的な問題を解決するのに助けになります。」 Drawing on the Right Side of the Brain.