「残り続ける像
        The Persistence of Vision 
 私は見るのをやめたのに、私の目が見続ける!
                ロバート・オズボーン

残像とは、見る行為の後に網膜に映像が残ることである。
網膜に映った残像はすぐには消えず、少しの間その場に残ろうとする。
私たちが普段残像を意識しないのは、目が絶えず動き続けて入れかわり立ちかわり新たな像を捉えているからだ。

残像は調べてみるととても興味深く、いろいろと啓発してくれる視覚現象である。残像を視覚化することは難しくない。
何かを見て中断し、目と精神を別のものに向かわせるだけでよい。

残像が知識として語られるようになったのは、16世紀パトリス・ダルシ―というフランスの科学者が熟した石炭をひもに結びつけ、暗闇で振り回したのがきっかけだという。彼は発光する石炭の動きに沿って光の筋が見えることに注目した。

現代に生きる私たちは、この残像効果のおかげでテレビや他のデジタル映像を楽しむことができる。
私は個人的に“彼方へ旅する凝視”と呼んでいる。

“味気ない文法を教師が延々と話し続けている教室で、
生徒の私はぼんやりと窓の外を見ている。
何も見えないのだが、同時にすべてを見ている。
その光景は私の中に取り込まれるが、心ははるか彼方へと飛び去っている。”

錯視の不思議 ロバート・オズボーン」



湘南新宿ラインを使って、ラ・トミオカへ行く。
5時45分に自宅を出発したが・・・渋谷で高崎行きを待つ40分が余分にかかって、結局到着は9時30分となってしまった。

ラ・トミオカは8時出社の5時までだから、すでにラジオ体操も終わっていた。
今日は忙しい日と覚悟していた。

まず、せいこさんが抜けた穴をシューズ部でどうするか?話し合いをして、結論を出さないといけない。
そして新しいスタッフの面接。
あと銀行さんとの打ち合わせもある。

“社長がこんなに長い時間ラ・トミオカにいるのははじめてですね”
と、とくとめさんが話す。

私は、規則正しくキチンキチンと一日の仕事が始まり、終わる姿を見て驚く。
昼12時には“キンコンカーン”と館内にチャイムが流れる。職人の人たちは昼食をすませ、それぞれウォーキングに出かける。自然の中を歩いたあと、また仕事をし、そして3時にはまた“キンコンカーン”とチャイムが鳴り、小休止。そして5時きっかりに一日の仕事は終わる。

“ワァーこうやってお衣裳を縫ったり、仕上げるんですネ”
はじめて見る光景に、銀行の人も目を輝かせる。
レオタード、チュチュのボン上げ、バレエシューズ、トウシューズ・・・とラ・トミオカを見て回った行員の人達はいい感じで帰られた。

さてと、私も帰ることにしよう。

“味気ない文法を教師が延々と話し続けている教室で、
生徒の私はぼんやりと窓の外を見ている。
何も見ていないのだが、
同時にすべてを見ている。
・・・心ははるか彼方へ飛び去って行く。”

なんとか飛び去って行く心を、しっかりとつなぎとめたい。
それが今を大切に生きること。
ふっと、“ちかさんが一筆とりました!!”
という心強いことばで、私は目を覚ますことができた。
よかった!!