2008年01月24日

スケールを規定するもの

◆05−06年
◆完成度の追求
◆効率性と安定性
◆均一性とその限界
◆異質性の包容
◆スケールを規定するもの

最後のところに「追」を追加しました。

◆05−06年

 前回の続きで、ガンバがどうやれば一段上の力をつけ、
Jリーグで優勝できるかを考えたいのだが、
その前段階としてガンバの特徴を見ておきたい。

 ガンバで印象的なのは、その効率の良さだ。
ガンバでは選手個々人の能力が全てチームに生かされていて無駄が無い。
そして、この傾向はここ2年で明確になってきたと思う。

 05年までのガンバの印象は全く違うものだった。
試しに下に05年のスタメンを書いておく。
ちなみにサイドは左二川、右渡辺というパターンも多かった。
GKは後半戦から藤ヶ谷が松代からスタメンを奪っている。

大黒、アラウージョ
フェルナンジーニョ
家長、遠藤、橋本、二川
山口、宮本、シジクレイ
藤ヶ谷

 当時のチームは前線の得点力に依存したチームだった。
サイドに二川、ボランチに遠藤、DFに宮本を起用したことでチームの守備力は相当低く、
82得点を上げたものの58失点と守備が散々だった。
(当時のガンバと攻撃守備については過去の記事を参照)

 当時のガンバの問題は、選手の能力のバランスが悪かったことにあった。
前線のタレントを後方が支える事ができない。
二川、遠藤、宮本の起用はサイドでの攻撃起点作りというメリットがあったが、
それ以上に守備でのデメリットが大きかった。
05年はアラウージョが33試合で33得点と記録的な得点を挙げ、
大黒が16得点と特に前半戦で好調だったことで守備のアラはなんとか隠せたが、
前線の調子がそのままチーム力に反映される不安定さは残り、
特に彼らの疲れが見えた後半戦に失速して優勝争いは混戦になった。

 西野監督の優勝インタビューで最も印象的だったのは、
チーム作りとしては上手くいかなかったと述べたことだ。
その言葉の通り、06年にガンバは効率的で組織的なチーム作りを進める。
移籍したアラウージョと大黒に代わりマグノアウベスと播戸を補強。
その他にも加地と明神、手島を獲得して守備の建て直しを図った。

 最も大きかったのは4バックを採用したことだ。
その経緯は過去の記事に譲るが、陣形を変えたメリットは大きかった。
まずサイドに二川を置かずにすみ、DHを明神と橋本にしたことで遠藤の負担を軽減。
3バックのストッパーだとスピード不足が露呈したシジクレイも、CBだと問題ない。

◆完成度の追求

 ここまでは真っ当な戦力と戦術の再編。
その後、マグノやフェルナンジーニョが負傷するも
播戸や二川が穴を埋める層の厚さを見せてリーグを快走。
ガンバはビッグ・クラブになった」と口を滑らせたのもこの時期だった。

 ところが暗雲が立ち込めたのはリーグ終盤の10月。
遠藤が病気をして、27節から33節まで出場できなかった。
本来ならフェルナンジーニョが穴を埋めたはずなのだが、
西野監督は彼を起用せず、3バックに移行し、
家長が左WBに入ることになった。
しかし、チームは機能せず成績は急速に悪化した。

 なぜ遠藤の代わりにフェルを使わなかったのだろう。
家長への期待もあるだろうが、シーズン序盤にFWで起用したことを考えると、
当初からフェルをMFで使う気はなかったように思われる。
FWはともかくMFは日本人を使って完成度を高めたい、と。
実際、06年のシーズン後にフェルは清水に移籍し、
代わりにフィニッシャータイプのバレーを獲得している。
またマグノが予想以上にフィットしたこともあったかもしれない。

 しかし、少なくとも06年の遠藤離脱後に限れば、
フェルを使った方が優勝の確率は高かったはずだ。
逆に言えば、西野監督に彼を使いこなす事ができなかった。
このあたりに西野監督の特徴が現れている。

◆効率性と安定性

 ガンバの特徴は、その効率性にあると書いた。
選手の個々の能力が無駄なく生かされている。
これはスタメンを見てもそうだし、
控えを含めても余計な戦力は少ない。

 この点でも対照的なのは浦和だ。
「省エネ」とか「手抜き」と言われる事が多いように
チーム自体が余力を持って戦うようになっている。
個々人を見ても、長谷部や山田の様に
特に攻撃面で能力を完全に発揮していない選手もいるし、
小野のようにチーム戦術にフィットしない選手もいる。
永井のように力の発揮の仕方がよく分かってない選手までいる始末だ。

 両者の違いが現れるのがパフォーマンスの最大値と安定性だ。
個々人の能力の総和で見れば、明らかに浦和の方が上だろう。
しかし、ガンバはその効率性ゆえに、
フルメンバーなら浦和と互角に戦えるし、
リーグでも浦和といい勝負をすることが出来る。

 しかし、効率性の高さは安定性を犠牲にもしている。
効率が良いということは、逆に言えば1つ欠けると取り返しがつかない。
もちろん控え選手もある程度いるし、橋本の様にポリバレントな選手もいるが、
チームの核が欠場したり複数のスタメンが離脱すると一気に力が落ちる。

 一方の浦和は、チームのやり方にも選手起用にも「遊び」が多い。
そのため、特定の機能に欠損が見られてもそれを補う力がある。
(補強抜きの)新戦力」とか「日替わりヒーロー」と言われているのがそれだ。
長いリーグ戦を考えると、ここ2年のガンバと浦和の差はここにある。
07年の浦和は監督の選手起用の問題で、後半に余裕を失い優勝を逃したわけだが…

◆均一性とその限界

 ガンバの効率性を支えているのは、均一性だ。
ある程度明確なチーム戦術、それに整合的な補強と選手起用、
それがここ2年のガンバの成長の源泉になっている。
この点についてはアトさんが書いているので、そちらも参照

 しかし、今となってはその均一性がガンバの限界にもなっていると思う。
1つは上でも書いたチーム力の安定性の問題だ。
ただ、これは戦術の修正で特定の選手への依存度を下げたり、
適切な補強によってある程度は改善することは出来る。

 より本質的な問題は、均一性それ自体にある。
(特に長期的な)その弊害は3つ考えられる。

(1)マンネリに陥る、相手に対応される
(2)戦術に適合しない有能な選手を生かせない
(3)チームが成長しない、戦術の枠を超えない

 (1)は分かりやすい。アトさんが

実際問題単一原理的でない”いい”チームが、
ある程度以上安定的継続的に存在することってそう多くない

と書いているが、単一原理的なチームも長期的には寿命が来る。
もちろん、そうでないチームよりは(成功している場合には)長持ちするが。
ただ、ビデオなどで情報が流通するようになり、
特に欧州では相手に対応される事が多くなっている。
(Jリーグの場合は、この面でもまだまだ)

 (3)はあまり指摘されないが、非常に重要な問題だ。
均一性の前提になるのは、ある程度明確な戦術だと書いた。
スタイルが明確になっているからこそ、選手の意思統一もスムーズになる。
しかし、その戦術が固定的なものであれば
チームはある程度のところで完成してしまい成長しない。
もちろんディテイルの追求という路線はあるのだが、これにも限界がある。
今のガンバが陥っているのはこの状態だと思われる。

 もちろん、これには幾つかの但し書きが必要だ。
まず戦術のスケールが非常に大きい場合には問題になりにくい。
イルレタ時のラコルーニャは、長期にわたって成長した
またオシム=千葉も数少ない例外の1つだが、
ここでは次々と新しいスタイルに挑戦していた。
しかし、ガンバにはこれらの要素は欠如している。

 (3)の問題は(2)とも関係している。
チーム戦術の枠を超えた選手を生かす余地がないため、
能力の高い選手を使いこなす事ができない。
特に(チーム戦術から見て)欠点を抱える選手は生き残れないし、
そうでない選手も自分の能力をフルには生かせない。
フェルナンジーニョは前者にあてはまる。
また遠藤はオシムジャパンでは違った側面を見せているが、
ガンバではそれを生かす余地は少ない。
遠藤の場合は問題が少ないが、それ以外の選手は移籍することになるだろう。

 一見、効率が良いと思われた均一性だが、
逆に言えば戦術に適合しない選手を排除しており、
その結果チームのスケールを下げることで効率性が達成されているとも言えるのだ。

追)余談だが、ここ2年のガンバが非常に良いチームだと思いつつ、
  それほど興味が持てないのは、ここに原因がある。
  文句を言いつつも浦和に注目するのは、
  やはりスケール感に大きな差があるからだろう。

◆異質性の包容

 それではガンバはどうすればいいのだろうか。
今更、浦和のように選手を買い集めるわけにも行かないし、
そもそもそれでは資金力の差で負けるのは目に見えている。
均一性の良さを生かしつつ、チーム力を上げる手はないのだろうか?

 多くは無いものの、過去にはそれに成功したチームが存在する。
答えは、異質な要素を1つ(だけ)抱え込む、というものだ。
1人だけならその弊害を最小限にとどめ、メリットを享受できる。
具体的には以下のような例が挙げられる。

イルレタ=デポルのジャウミーニャ
ビエルサ=アルゼンチンのオルテガ
バルセロナのロナウジーニョ
アーセナルの(晩年の)ベルカンプ

 攻撃的なチームで組織力が高い場合、パスワークが上手い。
その場合には、ドリブラーを組み込めると上手くいく。
ベルガンプは例外だが、上の例でもドリブルに特徴がある選手が多い。

 しかし、言うは易し行うは難し、だ。
そもそもまとまりのあるチームを作る監督はチームワークに厳格で、
個性のある選手をプレーでも性格面でも許容しにくい。
だがなんらかの偶然や監督の許容度によっては、
非常に魅力的で強いチームが成立する。

 それではガンバはどうすればいいのだろうか。
ガンバもパスワークに特徴があるチームで、
真っ先に思いつくのは二川の位置にドリブラーを導入することだろう。
ルーカスや遠藤への依存度を下げチームに安定感を出すという意味でも、
ここに個人技があってできれば得点力のある選手が欲しい。

 しかし、フェルナンジーニョの処遇を見ると
よほどの選手で無ければ西野監督が受け入れることはなさそうだ。
しかし、すでに外国人枠は3人使い切っている。
家長が成長してくれればいいのだが、それも難しいし、
そもそも家長にも問題がある

 もう1つはボランチの位置に得点力のある選手を置くことだ。
福西、去年の谷口や枝村のような選手が挙げられる。
しかし、このポジションで安定した得点力がある選手というのも難しい。
世界を見ればランパードやジェラードのようなタイプもいるが、
国内から探してくることは難しいだろう。

◆スケールを規定するもの

 最後にある問題を指摘して終わろうと思う。
それは、上で代えるべきだとされた選手だ。
それは二川であり、橋本である。

 しかし、これは皮肉なことでもある。
例えば二川はあささんが07年のMVPに選んでいる
また橋本は私がガンバで最も買っている選手だ。

 上で、チームのスケールを規定するのは戦術だと書いた。
しかし、同時にそれは選手が規定しているとも言える。
より正確には、戦術と選手が相互に規定しているのだ。
この関係が強固であるほどチームは効率的になるが、
逆に言えばそれはチームをある限界に閉じ込める。

 つまり、二川や橋本がMVPであるということ自体が、
ガンバの能力とその限界を象徴していると言えるだろう。
そこから抜け出すのは、並大抵のことではない。

◆追

 あれだけ引用していながら全く信じられないのだが、
Variety Footballに非常に似た話が載っていて
しかも二川と橋本の位置づけが全く同じだった。
独立に考えた結果として同じ結論に落ち着いたのだが、
ここまで一致していると知らない内に影響を受けていたのではないか、と
思えるほど気味が悪い。

meitei2005 at 04:43│Comments(4)TrackBack(0)この記事をクリップ!Jリーグ07 | 戦術論(サッカー)

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この記事へのコメント

1. Posted by チェルシー   2008年01月12日 10:50
初めまして。
以前からずーっとこのブログを読んで楽しませて頂いています。
私はJリーグ創設時からのガンバ大阪ファン(スタジアムに足を運ぶわけではないので、あえてサポーターとは呼びません)です。

私も今のガンバに足りないのはドリブラーだと思います。
それも、【相手の出方を待つのではなく自分から仕掛ける】タイプのドリブラーだと思います。

家長の素質は認めますが、今のままではダメになる可能性が高そうな気がします…。
家長自身が描く自分の理想像と、周囲(西野監督含め)の期待するプレーヤー像とのギャップが多いと感じています。

→続く
2. Posted by チェルシー   2008年01月12日 10:50
ドリブルが持ち味だと良く言いますが、相手をガンガン抜きに行くのではなく、どちらかと言えば相手をいなしながら抜いていくタイプです。
それは今のガンバに必ずしも求められているわけではないでしょう…。

そう考えると、やはりフェルナンジーニョは残しておきたかったわけで…。
しかし、ガンバサポの間では相当有名ですが西野監督とフェルナンジーニョの間にはかなりの確執があったようです。
それがフェルナンジーニョを起用しない最大の原因だったそうです。

ですので、彼を使いこなすことが出来なかったというのはある意味正解ですがある意味ではそうではなかったということだと思います。

→続く
3. Posted by チェルシー   2008年01月12日 10:51
今ガンバはJ2山形の佐々木というMF獲得に動いているようです。
私は全く知らないのですが、足の速い韋駄天ドリブラーだということです。

これが実現すれば来期はまた違ったサッカーが見られるかもしれませんね。

ただ福元・ミネイロ・水本(決定はしてませんが)の、新加入CBをどう使いこなすのかの方が気になりますが…。
試合数が多く代表の試合も重なる来期こそ、西野監督の手腕が大いに試されるシーズンではないかと思うわけです。

……長すぎるコメント失礼しました。
今後はひっそりとブログ読ませて頂きますので…。
4. Posted by 酩酊   2008年01月12日 16:57
コメントありがとうございます。
偉そうなことを言ってますが、こちらはガンバに関しては素人同然。
ファンの方からコメントをいただけると大変助かります。
これからもよろしくお願いします。

フェルナンジーニョとの確執は、こちらの耳にも届いてます。
その点での西野監督の問題はフェル以前からあったみたいですね。
そういう意味での監督の人徳?も現実的には重要な要素ですが、
ここでは戦術的な話に絞りたかったので、敢えて触れずにおきました。

家長の問題もかなり広く認識されているようですね。
西野監督は彼のことを「和製メッシ」と言ってましたが、
その表現から彼に対する監督の期待がどういうものかが分かります。
しかし前になにかのTV番組で、家長が自分の子供の頃のビデオを見て
「やっぱり俺はパサーだな」みたなことを言ってたんですが、
彼の中では「和製メッシ」になるつもりはないみたいです。
http://osaka.nikkansports.com/osc/p-ot-tp3-060304-0028.html

CBのところでも触れられてますが、
今年は代表の試合が多い年でもあり、ACLもあるわけで、
ある程度ローテーションを意識せざるを得ないでしょうね。
ガンバは割りと代表、特にスタメンが少ないので被害は小さいかもしれませんが。
西野監督はJリーグでの選手起用はかなり保守的なので、
この点でもあまり期待できないかもしれません。
チームが整備されるにつれて、西野監督のデメリットが目立ってきた感じでしょうか。






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