日本対タイジーコ時代の悪夢、再び

2008年02月20日

偶然が生み出す例外か、それとも危機の予兆か

東アジア選手権、日本対北朝鮮、1−1

・日本のスタメン

播戸、田代
羽生
山岸、鈴木、遠藤
加地、水本、中澤、内田
川島

控え
GK 川口、楢崎
DF 駒野、岩政、安田
MF 今野、山瀬、橋本
FW 前田、矢野

・北朝鮮のスタメン

チョン・テセ12
ムン・イングク11、パク・ナムチョル4
アン・ヨンハ9、キム・ヨンジュン15
ナム・ソンチョル16、リ・クァンチョン5、リ・ヨンイル3、パク・チョルジン13、ハン・ソンチョル14

控え
GK キム・ミョンギル18
DF チャ・ジョンヒョク2、ソ・ヒョクチョル6、ジ・ユンナム8
MF リャン・ヨンギ20、キム・ソンチョル21
FW キム・ミョンウォン7、チェ・チョルマン17、アン・チョルヒョク19、キム・クミル22、パク・チョルミン23

◆試合後のコメントから見えてくるもの

 欧州組は当然として、高原・大久保・巻・阿部が帯同しておらず、
憲剛は発熱、山瀬も負傷と飛車角金銀落ちの日本は、
出場選手に国際経験をさせるだけの試合になってしまった。
おそらく岡田監督もそう割り切ったのだろう、
思い切って左SBとGKも変えてきた。

 これに対して、タカクさんKET SEEさんらの批判がある。
それは、バックアッパーのテストだからといっても、
チームコンセプトをはっきりさせた上で、
その適合性を試すものでなければ意味がないのではないか、というもの。

 この点について、岡田監督は試合後に非常に興味深いコメントをしている。
また遠藤・内田・鈴木のコメントも併記しておく。

・岡田監督

(北朝鮮は)立ち上がりはもうちょっと下がって守ってくるのかと思ったら、
プレッシャーをかけてきたので、最初10分くらいは選手が怖がったところがあった。


向こうに先制点を奪われて、1対1で勝負できる選手というのが必要だと思いました。
今回はミチ(安田)が一番勝負できるので(投入した)。
嘉人(大久保)とかいれば勝負できるんですけど。
(前田も一緒に投入したが)流れを作るときに、ミチを入れて次を入れるよりも、
1回で入れたほうが、リスクは高いけれど流れは変わりますから。
(安田には事前にこういった起用があるかもしれないとは?)
言っていない。

チームでのやり方もありますけど、
選手の個性を生かしてあげないといけないなと、あらためて思う。
メンバーが代わって同じことをやってもね。
やっぱり、ボールを受けるのは苦手だけど、
競るのは得意な選手だったら、そういうプレーをさせないとね。
そのへんのことは、今回は何も言っていないので、次はちょっと言おうと思います。

(ハーフタイムで強いことを言ったか?)
ボール際で負けているということは言ったけれど、
ちょっとやり方をみんな勘違いしていた。

(これで4試合だが想定どおりか?)
想定はあまりしていないから。
こういう大会に、こういうメンバーで来ることも想定していなかった。
あまり想定はしていないけれど、今日はもうちょっといい試合ができるかなと思っていた。
だけど、それはやっぱり状況によって変わるので。

(遠藤のポジションが途中で変わったのは指示か)
そうですね。
(加地がけがをしたとき?)
あの時、少し変えたんですけど、ハーフタイム以後はもっと変えました。

・遠藤

前にボールが入らなくて、自分が下に降りてスペースを空けるなりしてリズムを作ろうと思っていた。
前半の途中から後半はよくなったと思う。
自分がボランチに下がるのは結構早い時間からやってて、岡田さんには30分くらいに伝えた。
タテにボールが入りづらかったんで、羽生と山岸のスペースに入っていくようにした。
前半途中からパスが回るようになった。

・内田

(後半はサイドが高い位置を取るように監督から指示があった?)
それはあった。水本さん、佑二さん、啓太さんが残って自分たち両サイドは前に上がろうと。
指示がなかったとしても行こうと思っていた。

・鈴木

ゲームの入りがこのチームらしくなかった。
もっと自信をもってやっていいはずなのにミスをしてしまったり。
相手が5バックで来て動くスペースが限られていたのもあるけど、
なんかおかしいなという感じだった。
タテにボールを入れるのが難しかった。
FW陣がどうするかは周りの選手次第。
播ちゃんのスペースに飛び出す動きをどう生かすかは、ボールを出す側が考えなければいけない。
蹴ってセカンドボールを拾われてというのが多かったし、
そこは改善しなければいけないのに、意志の統一がなかった。
蹴るなら蹴るで、みんなが同じ方向を向いていないと。
やることが中途半端になってしまったと思う

 これらの発言から分かることはいくつかある。

(1)多くの選手が離脱することを想定しておらず、
   試合展開についてもあまり想定はしていないこと(岡田)
(2)特に北朝鮮に対する準備はしていないこと(岡田、鈴木)
(3)監督が想定する「やり方」を選手が理解できておらず(岡田)
   意思統一ができていなかったこと(鈴木)
(4)試合中に状況を見て遠藤や内田のポジションを変えたこと(遠藤、内田、岡田)
(5)先制点を奪われた状況で1対1で勝負できる安田が必要だと判断し、
   リスクがあるが流れを変えるために前田を一緒に投入したこと(岡田)
(6)試合後に選手の個性を生かすことの重要性を再確認し、
   そのことについて何も言っていないので今後指示すること(岡田)

 まず(1)(2)から、少なくともこの試合は「出たとこ勝負」であり、
そのため(4)(5)の様に監督や選手のその場の判断が重要になっているのが分かる。
もちろんその場その場での判断が重要なことは間違いない。
ただ、播戸・田代、羽生・山岸・鈴木、内田・加地、中澤・水本という面子を見れば、
遠藤が低い位置から組み立てなければ機能しないことは誰でも分かるのに、
そこを修正するまでに失点してしまった(*)
また(3)や(6)からすると、監督と選手の意思疎通が不十分だったようだ。

 岡田ジャパン発足当初、私は「コンセプト重視という姿勢」に問題を感じると書いたし
タイ戦の後にもオシム時代との最大の差はコンセプト運用の柔軟性にあると指摘した
しかし、これらの発言と試合内容から考えると、
岡田監督は状況判断の能力を重視しており、
その観点からバックアップの選手のテストを行ったと解釈できる。


◆袋小路の入り口か、それとも現実的妥協か

 もちろん、こういったやり方がコンセプト重視派から受けが悪いのは間違いない。
彼らから見れば、明確なコンセプトもなくその場の判断でやり繰りしていく手法は、
果ての見えない大海を羅針盤も無く航海しているようなものだ。

 選手間、選手監督間の意思統一の欠如もこの問題が絡んでいる。
コンセプトが明確になっていれば意思統一もたやすい。

 コンセプト重視という姿勢を批判していた私の立場は分かりにくいが、
この点ではコンセプト重視派とそう大きくは違わない。
私の意見は、(適応範囲の広いものだが)コンセプトの存在を前提にしていて、
それを消化しきった上でどう使いこなすかが重要だ、というものだからだ。

 この試合の比較対象として面白い例がオシム時代のガーナ戦ではないかと思う。
この試合では、その前のイエメン戦から5人が入れ替わっており、
その内4人(山岸、佐藤、水本、今野)が初スタメンだった。
オシムはその慎重なチーム作りから選手が大幅に入れ替わることは稀で、
あとは06年8月のイエメン戦とオーストリア戦ぐらい。
前者は最初期(オシム2試合目)なので当然だし、
後者は初の欧州遠征で俊輔(アジア杯ではスタメン)や稲本を試した試合だった。

 そのガーナ戦がどんな試合だったかというと、
ホームながら0−1で負けたこともあり非常に評判が悪かった

特にフィニッシャーの佐藤をWGに起用し、
しかも相手のSBにマンツーマンを要求したため活躍できなかった。
また本職がMFである阿部と今野、初代表の水本で3バックを構成した。
このため守備戦術と選手起用の両方に批判が集中した。

 当時、私は「チーム作りのために短期的には非効率なことも必要だ」と書いたし、
この試合はその後の札幌サウジ戦での3−1の快勝につながった。
親善試合のガーナ戦でコンセプトと心中した事が、その後の発展につながったわけだ。


 しかし、これが唯一の正しいプロセスというわけではない。
コンセプトという枠組みが曖昧な状況で戦うことで、
選手達の状況判断能力が異常に上昇するかもしれない。
もちろん、そんな例は歴史上皆無だと思われるが、
もし実現すれば革新的な手法だろう。

 もちろん、「革新的手法」は皮肉半分なのだが、
岡田監督のチーム作りには現実的な背景もある。
日程を見ればWCアジア3次予選が迫ってきており、
オシムの様にコンセプトを煮詰めるのは時間的に厳しいだろう。
また、最低限の結果を残さなければ批判が大きくなり、
その為にも現実的なサッカーをする必要もある。

 そうした環境の中での多数の選手の離脱。
対策を考える間もなく試合が来てしまった、というのが実情ではないだろうか。
そうだとすると、この試合は想定できない偶然の産物なのかもしれない。
また「選手の個性を生かす」という発言も、
一人歩きしがちな「接近・展開・連続」というコンセプトが
周りが考えるより適用範囲の広いものであることを意味しているのかもしれない。


◆重要なのは中国戦

 それにしても、せめて山瀬が出場できていれば、と思う。
タイ戦の分析で山瀬の重要性を指摘しておいたが
彼がいればもう少し機能しただろうし、
内容もコンセプトと大きく外れたものにはならなかったのではないか。
もちろんそうならなかった可能性も十分にあるが、それはそれで情報としての価値がある。
憲剛不在・山瀬出場というパターンで試合が出来れば、
彼らがどこにどう効いているのかよりはっきりしたはずだった。
それにしても、憲剛の不出場について書いている人は多いのに、
山瀬の負傷についてはほとんど触れられていない。
このあたりの注目度の差も興味深い。

 それはともかく、次の中国戦には山瀬も憲剛も帰ってくる。
中盤の構成が安定し、それなりに意思統一が図れれば、
チームのパフォーマンスも上がるし、
当初のコンセプトも(ある程度は)復活し、
バックアップの選手のテストもより充実したものになるだろう。
岡田監督もその程度のバランス感覚は持っていると信じたい。
この試合は、結果と内容の両方が注目される試合になるだろう。

meitei2005 at 03:29│Comments(2)TrackBack(0) 岡田ジャパン 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by タカク   2008年02月20日 19:48
俺もちょっと勢いに任せて書きすぎましたね。笑 久々にげんなりしたんで。
今日は山瀬、憲剛入って、形になってるような。

そろそろ、J1展望対談でもしませんか?地獄よ再び。笑
2. Posted by 酩酊   2008年02月20日 22:42
いや、タカクさん達の心配もごもっともだと思いますよ。
げんなりという意味では自分も全く同じですから。
多分オシム時代からの落差が余計にそう思わせるんですよね。
どの程度が監督・コーチの責任で、どこからが状況なのかは不明ですが。

監督レベルが普通になったので、素の日本代表が表れてる感じもします。
確かに選手が揃えばそこそこですよね、このチームは。
内田・安田の抜擢も長期的には正しいことですし。
それにしても内田の守備はどうにかならないんですかね。。。

J1対談やりましょう。
最近自分の見方が硬直気味なんで、大歓迎です。




コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
日本対タイジーコ時代の悪夢、再び