2016年11月18日

三浦九段のスマホ不正疑惑について

サウジ戦と見せかけて、斜め上の将棋の話題。
しかも読者層を絞り切れていない、長い悪文。。。


この問題は不正があった派、なかった派でもめている。
先に自分の意見等をまとめておく。


・白か黒か

自分は羽生さんと同じように(寄らば大樹)
白とも黒とも言えないだろうというもの。
白の証明は原理的に不可能だし(悪魔の証明)
黒であることも証明は難しいだろう。
もちろん、スマホやPCから通信記録等が出てくれば別だが、
まともな悪人なら証拠を残すようなことはしないだろう。


・一番悪いのは将棋連盟

電王戦が始まって以降こうした問題が起こることは懸念されてきたし、
例えば田中寅彦九段は理事会でスマホ制限等を提案したが、
結局総会に回されて、そこで否決されてしまったらしい。
もっと早い段階で対処しておくべきだった。


・渡辺竜王も悪くない

彼の行動やその理由、いきさつについては彼のブログに書かれている。
あの時点、状況では仕方なかったと思う。


・将棋連盟の更なるミス

連盟は10月12日に処分を発表し、会見を行っている。
ここで問題だったのは、処分理由を明確にしなかったこと、
あるいは明確に伝えられなかったことである。
また、棋士個々人にメディアへの対応を許したことも大きなミス。
ここで情報をコントロールしなかったことで、
不必要な混乱を生み、棋士個々人に負担をかけてしまった。
本来であれば緘口令を出して、
情報を一本化しなければならなかった。
特に直後に竜王戦を戦う渡辺竜王は辛かったと思う。


・私の棋力

私の棋力はアマチュアレベルで、
その実力は20年前に地方の道場で初段だった、
という人と互角ぐらいでやっていた程度。
最近はもっぱら「見る将」で指してすらいない。
従って、三浦九段の手がソフトっぽいかなどは全く分からない。


・さらに、さらに

私は将棋ソフトを持ってもいないし、
インストールして自分でデータを取ることすらしていない。
(忙しい暇人なので)

関心があれば、アプリを使って確認してほしい。


・以下の文章の意図

上に書いたような自分の棋力なので、
個々の手について自分の感想を述べることはほとんどない。
以下では主に、三浦九段が不正をしたと言われている数局で、
最早プロよりも強いと考えられるコンピューターソフトと、
手の一致率が非常に高いという点について考える。
結論を先に書くと、一致率が高いことは必ずしも不正を意味しないが、
逆にプロの存在意義がより怪しくなってくる、というものだ。




◆「やった派」の主張

上でも書いたように、
処分直前の三浦九段の勝った数局において、
将棋ソフトの「技巧」と高い一致率が指摘されている。
具体的には、竜王戦久保戦、丸山戦第2戦、第3戦、
そしてA級順位戦の渡辺戦である。
http://openblog.seesaa.net/article/443095004.html

ここで「勝った対局」というのは、
三浦九段の最近の対局では負けたものもあり、
それらでは一致率が低かったためだ。
例えばリンクを張った先のブログは、
「重要な対局でのみ不正をしたのだろう」としている。
実際に竜王戦は最も賞金額が高い棋戦で、
順位戦は大体それに次ぐものである。

また、三浦九段は少なくとも数台のPCを保有しており、
スマホも持っており(羽生三冠は携帯を持ってないらしい)
また、自宅のPCを遠隔操作できるアプリの存在も、
同僚のコンピューターに詳しい将棋棋士に聞いて知っていた。
(これがいつだったかは不明)
PCは将棋連盟職員が押収したが、
スマホは三浦九段が提出しなかったらしい。
(提出要求を拒否したかどうかは見解が分かれている)
将棋連盟はPCの調査を行っていないようだが、
普通に考えて三浦九段が黒ならダミーを用意するだろう。

また、三浦九段は自ら調査会社に依頼し、
自分のスマホを調査してもらい、
当日の通信量が少ないことを示している。
将棋ソフトといっても当然ハードにも実力は依存するわけで、
もしスマホで将棋ソフトを回したのだとしたら、
スマホ程度の処理能力でどれだけ実力が発揮されるかは不明だ。
遠隔操作でどこかの大容量PCを回したと考える方が自然だが、
通信量の少なさは遠隔操作をしていない証明にならないし、
そもそもまともな悪人ならこちらもダミーを用意する。

更に、処分直前の総会で久保九段がスマホの制限を提案した際、
三浦九段は「自分はやっていない」と、
名指しされたわけではないのに発言したと言う。

ここまでの「やった派」の議論は筋が通っている。


◆一致率

上のリンクを張ったブログにも書かれているが、
「一致率」は30数手からのものである。

将棋は平均手数が大体100手ぐらいで、
それを3分割して序盤・中盤・終盤とされる。
序盤はかなり定石が整備されており、
また戦型によっては手順前後して同じ局面に辿り着く場合も多く、
これが30数手から後の一致率が用いられている理由だ。
(対局ごとにこれが違う理由は不明だが、
 それぞれの定石化されていると思われるまでの手数だろうか)

通常は、30数手から中盤と呼ばれるステージに入り、
ここが最も棋士の個性・能力が発揮されるところである。
序盤は定石化が進んでいて、どの定石を選択するかは別だが、
一旦、定石が選択されるとかなりパターン化されていることが多い。

終盤も、間違えるという意味では棋士の個性・能力が現れるし、
「攻めても勝てそうだけど怖いから守ろう」といった、
人間的な心理があるという点でソフトと乖離することがある。
しかし、詰む詰まないの厳密な計算による部分も大きく、
中盤よりは「最善手」がはっきりしやすく、
そのため強いソフトとプロの一致率は高くなる。

三浦九段が不正を指摘された対局は2016年の7月以降で、
これは技巧が公開された時期と一致する。
その他のトッププロの手と技巧の手の中終盤の一致率を比較すると、
30−80%に分布するらしい。
しかし、三浦九段は上に挙げた勝った4局において、
この数字が全て80%を超えている。

なお中終盤といっても、この手しかない、という場面もあるため、
最低限の一致率があるのは自然なことで、
上であるように30%がそのぐらいなのだろう。
従って一致率80%といっても、
残り70%分の50%で、実質的には70%ぐらいということだ。

現在では、少なくともPCのハード面を準備した状態では、
技巧はトッププロと同レベルかそれ以上だと考えられている。
従って一致率が高かったというのは、上手く指せた、
ということを意味する、のかもしれない。

また、単に強いというだけではなく、
プロには分かる「人間とは異質な手」というのもある(あった)らしい。
少なくとも数年前にはそう発言するプロ棋士がいたのは事実だ。
しかし、近年はソフトを使って研究・トレーニングする棋士が増え、
ソフトの側もかなり進化しているので、
今でもその異質性がどれだけ残っているかは分からない。
あの手がソフトっぽいとか、そうでもないとか意見が分かれているが、
最初に書いたようにここではそういう議論はしない。

こういった理由で、一致率が高く、
それが勝った4局で続いたことで疑惑がもたれている。


◆渡辺竜王と丸山九段の見解

本筋とはあまり関係がないが、
ソフトの手の一致率について、竜王戦を戦っており、
三浦九段の疑惑の対局の当事者でもある2人の見解を見てみよう。

今回の騒動の告発者である渡辺竜王は、
一致率は必ずしも重要ではなく、
離席のタイミングや、差し手だけではなく読み筋も一致していたこと、
こうしたことが重要だったと発言したようだ。
後で見るように、確かに三浦・渡辺戦では、
素人目に見ても三浦九段が素晴らしい手を連発していて、
トップ棋士が議論した際も、この棋譜を見て怪しいと皆が感じたようだ。

一方、三浦九段の疑惑の4局のうち2局を戦った丸山九段は、
全く怪しいとは感じなかったようだ。

このようにプロの見解も分かれている上に、
肝心の渡辺竜王が一致率は必ずしも重要ではないと言っている。
ソフトっぽいとかそうでもないとか、
アマチュアが議論することは不毛に思える。
プロが正しいのかどうかも分からない。

この文章では、アマでも分かる一致率の解釈についてのみ議論する。


◆高い一致率の別の可能性

既にまとめたように、
三浦九段が「技巧に関係なく」高い一致率を続けたことは、
確率を考えるとかなり低いと言わざるをえない。
だから、多くの人は三浦九段が不正をしたと考えている。

しかし、多くの人が見落としているもう1つの可能性がある。

ここで疑惑の対局の1つ、A級順位戦の三浦対渡辺戦を見てみよう。
この対局では角換わり腰掛銀模様の序盤から、
三浦九段が27手目に4五桂という、この局面では珍しい手を指し、
そこから39手目の4四角成で若干優勢に立ったと見られている。
この間の渡辺竜王の28手目の2二銀と、32手目の4四歩が分岐点で、
こう指してくれれば先手が望めば39手目までは必然だ。
ここまでは研究手順という可能性は多くの人が認めている。
(上のリンク先のサイトはこの対局の一致率を27手目から計算していて、
 この部分についての一致率の解釈は注意する必要がある。
 41手目からの一致率だともう少し下がると思う)

なお、若干有利といっても評価値で300程度で、
プロ同士でもここから先手(三浦九段側)が勝ち切るのは大変だ。
三浦九段が疑われたのは、39手目以降にも凄い手(構想)を見せたからだ。
それは50手目の7三桂に対し、7五歩と仕掛け、
6五桂と跳ねてきたのに対し、6六歩!とついて自陣の7七銀を取らせ、
それを取り返した桂馬が59手目に8五桂!!と跳ねたもの。
ここで普通に同飛車だと7四歩と取り込まれて、
飛車交換か、それを拒否すると7三にと金を作られてしまう。
これでは陣形の乱れた後手は銀桂得でも戦えない。
渡辺竜王は8五桂を取ることができず、
ここからも三浦九段は間違えることなく攻め切った。

39手目以降の一般的には中盤と呼ばれるステージで、
三浦九段は凄まじい手を指して勝利した。
39手目までは定石化されても良い序盤だからここまでは良いとしても、
ここから先は「通常は」自力で考えなければならず、
それで凄い構想で、しかも技巧と読み筋が一致したのだから、
怪しいと考えるのが自然だ、と思われる。

しかし、これは本当だろうか。
39手目の局面で若干先手良しの結論を得た三浦九段は、
ここから先も事前に技巧を使いながら研究をしていたのではないか。

従来の人間の研究だと、極端な場合は「91手定跡」などがあるし、
「詰みまで研究されていてもおかしくない」という局面もあった。
しかし、これはかなり限定された局面だけだし、
プロが実戦例を積み上げていくのは時間がかかるし、
練習将棋となると実戦よりは数が多いが、
今度は情報が共有されないので定石の進化は難しくなる。

しかし、現代ではトッププロよりも強いかもしれないソフトがある。
そして、ソフトは疲れないし24時間実戦例を積み上げることができる。
マシンさえ増やせば指定した局面から数百局の良質な棋譜を、
それほど長くない期間で蓄積することができる。
実際に、そうしてデータを取っていることを公言する棋士もいる。

三浦九段は研究熱心な棋士である。
特に角換わりは近年トッププロが最も研究しているものの1つだ。
三浦九段が39手目の4四角の筋が面白いし実現可能性があると考えれば、
上で書いたように棋譜データを大量に作った可能性はある。
プロなら見るだけなら1局1分程度で39手目からの進行を見ることができるし、
自分が気になる変化があったらそれだけを深く掘り下げることもできる。
あるいは自分が後手番に立ってみて人間が指しそうな手をやって、
それをどうやって崩していくかを教えてもらうことができる。
渡辺竜王は7三桂と跳ねたのが不用意だったと見ているが、
(アマの目から見ても)これはありえる変化で、
こう指せば技巧は7五歩から6六歩、8五桂の差し手を披露してくれる。
三浦九段が見た(かもしれない)数百局の内に、
この流れが幾つか出てくれば、面白いし、三浦九段は憶えただろう。

7五歩、6六歩、8五桂の変化が難しいのは、
そもそも6六歩と打って自陣の銀を取らせることが思いつきにくいからだ。
もちろん39手目時点ではサンク・コストなので考えても仕方ないのだが、
既に桂損しているので、更に桂銀交換だと純粋銀損になってしまう。
8五桂は見えにくいので、6六歩を読むことは非常に難しい。
だから直観に優れたプロ棋士は6六歩の筋をそもそも読まない。
(逆にいうと、一回59手目の段階まで来てしまうと、
 8五桂は思いつくプロはいるのではないか、と思う。
 そして、ある段階までは網羅的に手を読んでいくソフトは、
 こういった変化を見つけることに長けている。)

しかし、事前にこの変化を知っていたのであれば話は全然別だ。
全く同じ局面ではなくても、似たような変化は起こり得る。
それなら、三浦九段ならそれを実行できるかどうかは判断できるし、
上手くやればこの筋に誘導することすらできるかもしれない。

角換わりは他でもよくある戦型なので、
事前に準備してここぞの場面で研究を披露したのか。
それとも、A級順位戦は事前に先後が決まっていて、
渡辺竜王は角換わりは得意戦法で、後手でも避けることは少なく、
三浦九段は有力な筋の1つとしてこれを用意してきたのか。

疑惑の対局の残り3つの内の竜王戦挑戦者決定戦第2局は、
事前に先後が決まっていて、
丸山九段は後手なら1手損角換わりにする可能性は非常に高い。
第3局も振り後まで事前に分からないが、
やはり丸山九段が後手なら1手損だ。
そして、2局とも丸山九段は居玉早繰り銀で、
それに対して三浦九段はどちらでも矢倉で対抗している。
もちろん、プロの戦いは端歩1つで大きく違ってくるが、
対渡辺戦と同様の要領で数百、あるいは数千の棋譜データがあれば、
ある程度似たような筋が出てくれば勝ちやすいだろう。

最後の久保三浦戦は三間飛車の戦いで、
どれだけ三浦九段が事前研究していたかはより難しい。
いちおう、三間飛車は久保九段の得意戦法の1つで、
37手目までは前例があり、そこで後手の三浦九段が変化している。
まあ、1局だけなら偶然の可能性は高くなる(変な表現だが)

逆にいうと、こんな変な研究をしていたら、
疲れる上にソフトの手を見すぎて感覚が狂うリスクもある。
三浦九段は後手番の横歩取りで丸山・稲葉に連敗していて、
佐藤康光九段には陽動振り飛車を振られて負けている。
陽動振り飛車は予想が難しいし、
横歩取りを事前研究しなかったのだとすれば、
こうした結果になることも十分にありえるだろう。


◆上の仮説の意味

上の話は、あくまでこういう可能性があり得る、というだけだ。
ただ、技術的には可能で、既に現実の棋士がやっていてもおかしくない。

最初にも書いたように、この文章の真意は、
三浦九段の疑惑について白黒をつけることではない。
ただ、どうやっても灰色に留まる、という主張はしている。

もし三浦九段が白なら、上でやったような研究をした可能性があり、
(というか、高い一致率を連発するにはこれしかない?)
そして、その場合には、プロの存在意義が大きく変わってしまう、
これがこの文章で確認したいことだ。

少なくとも、そう遠くない将来に、
人間が将棋でソフトに全くかなわなくなる日が来る可能性は高い。
しかし、だからプロに存在意義がなくなるわけでは、必ずしも、ない。
別に、車が人間よりも速いからといって
100mやマラソンが廃れたということはない。

しかし、ソフトと手の一致率を高めることがトレーニングになり、
事前にソフトの仮想対局をどれだけ覚えてきたか、
この競争になっても人はプロの将棋に魅力を覚えるだろうか。
それとも、人間は力戦型しか指さなくなるだろうか。


◆その他、細かい点

・スマホ不提出

三浦九段はスマホを提出を拒否したという話もあるが、
これは白でも普通にありえるのではないかと思う。
誰でも見られたらマズいものの1つや2つはあるだろう。

常識で考えれば、将棋界の外部の専門家に見せるのだろうが、
混乱していたらそれを理解できない可能性もある。

逆に本当に賢い悪人なら、事前にダミーを用意したはずで、
それを拒んだのは、彼が賢くない悪人だからだろうか。
それとも、やはり賢くない善人だからだろうか。


・遠隔操作アプリを将棋界の人に聞いたこと

以前から三浦九段は「質問三羽烏」として知られていた。
もちろん、将棋の研究について深く聞くのはマナー違反だが、
三浦九段は棋界でも有名な変人だった。
(まあ、棋士は大体変人だ、という話もあるが)

将棋以外にも細かいことを知っていたり、
気になったことは聞かずにはいられない、というタチかもしれない。

逆にいえば、またもや賢い悪人なら、
業界内の人に悪事のやり方を聞いたりしないだろう。
もちろん、三浦九段は棋士の中でも変人だから、
変なことをしてしまった可能性もある。


・総会での変な発言

これも、疑われるばかりで得なことは全くない。
これまた同じ話の繰り返し。

meitei2005 at 00:44│Comments(0)TrackBack(0)社会 

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字