戦術論(サッカー)

2009年05月01日

4−1−4−1と4−1−2−3

 近年の戦術の発展を反映して、
システム(この言葉もどうかと思うが)を4列表記することが増えてきた。
しかし、お題の「4−1−4−1と4−1−2−3」の違いはイマイチ分からない。
あと「4−2−3−1と4−4−1−1」の違いも正直言って分からない。
今回は前者について頭の整理をするのが目的。


◆4−1−4−1

 まず4−1−4−1だが、これは引いて受けるのに適している。
これは最も使われることの多い中盤がフラットな4−4−2と比較すると分かりやすい。
4−4−2は綺麗に3列のラインを作ることでパスコースを限定しやすくなる。
その一方で、DFラインの制御が甘くなるとDFとMFの間にスペースを作り、
バイタルエリアにパスを通されて大ピンチを招きやすいという欠点がある。
4−1−4−1は予めそのポジションにアンカーを置いているのでその心配はない。
一方、中盤をフラットにしてゾーンを埋め、一方前に置くのがFW1人なので、
相手のDFにはプレッシャーをかけることはできず、
必然的に味方のDF裏のスペースへのパスを恐れてラインは下がってしまう。

 もう1つの守備での特徴は、相手のボランチにプレスをかけやすいということ。
自分達がダブルボランチの場合、
相手のボランチにプレスをかけようと味方のボランチが前に出ると、
後ろのバイタルを埋める選手がいなくなってしまって隙を作りやすい。
しかし、4−1−4−1だと予めアンカーがそのスペースを埋めているので、
CHの2人が思い切って前に出ることが可能になる。
但しこの点は4−1−2−3とも共通していて、むしろそちらで重要なポイント。

 引いて守ることになるのだから、怖いのはアーリークロス。
従ってCBは両方とも高さと強さを兼ね備える必要があるし、GKにも高さが必要。
場合によってはSBやアンカーにも高さや強さが必要になる。

 しかし、こうした特徴は攻撃の組み立てを難しくする。
そもそも引いて守っているため、ボールを奪う位置が低い。
もちろんバルサの選手ほどテクニックがあればそこからボールを繋いでいけるが、
守備陣の身体的特徴でそうした細かいテクニックまで備えている選手は少ない。
1トップへのロングボールが増えるため、その選手にもフィジカルが要求される。
あるいはSHが長い距離を走ってロングボールを受けたり、
自陣深い位置からドリブルで持ち上がっても良いが、これはスピードと体力を要求される。
引いて守るのでカウンターはロング・カウンターになりやすいのだが、
これまたチーム全体、特に前線の選手の体力が必要となってくる。

 選手の身体的な特徴をまとめてみると、守備陣は大柄な選手が必要で、
1トップにはフィジカルとボールキープ力、
中盤の選手はとにかく長い距離を走る運動量が要求される。
一方、細かいテクニックというのはあまり必要とされない。
結果としてアスリート集団向けの戦術だと言えるだろう。

 ただし、こうした選手の特徴から自分たちが攻める段になると攻撃が単調になりやすい。
特に1トップのためにゴール前の人数が不足しがちなため、
SHやCHにゴール前に入っていくセンスがある選手があると良いが、
その役割までSHに求めると体力的に厳しいので、CHの方が現実的。

 こうしてみると、このシステムとチェルシーの相性が良いのは必然。
ほとんど全てのポジションで4−1−4−1をやるのに適した選手が揃っている。


◆4−1−2−3

 4−1−2−3と4−1−4−1は選手の配置だけをみたらそっくりだが、
その守備戦術での根本的な発想が大きく異なる。
4−1−2−3は高い位置からのプレスが大きな特徴だ。

 近年4バックが普及しているので、相手は4バックだと仮定していいだろう。
4−1−2−3だと4バックの相手に高い位置からプレスをかけやすい。
まず相手の4バックに対しては3トップが積極的に前に出る。
相手のSBにはWGが対応し、相手のCBの特に上手い方に1トップが対応。
相手のボランチに対してはCHの2人が前に出てプレスをかける。
ボールサイドの相手SHにはSBが前に出て対応し、
残りのDF3人がラインを形成してボールサイドにスライドする。

 こうした前からのプレスを成立させるために、DFラインは高くしなくてはならない。
そのためDFにはライン制御を行える選手が必ず必要になる。
逆に、ラインを高くしているので高い位置からプレスをかけないと、
DF裏や逆サイドにボールを通されて用意にピンチを招いてしまうことになる。

 ラインを上げるためリスクはあるが、
ボールを奪う位置が高くなるので組み立ての難易度は4−1−4−1より下がる。
高い位置からプレスをかけるので、相手は苦し紛れのロングボールが増え、
その結果として支配率が高くなる可能性も高い。
むしろボールを積極的に奪って攻めたいチーム向けの戦術で、
その意味でバルサが4−1−2−3なのは理にかなっている(*)
もちろんショートカウンター中心の戦術もありえるが、
これだと引いて守る時間が長い4−1−4−1より体力の消耗が激しく、
これはなかなか厳しいかもしれない。

 そもそも、ショートカウンターとポゼッションは分離できない可能性も高い。
まず、ショートカウンター中心だといっても、
それが相手にバレてしまうと、相手はそもそもポゼスを放棄するかもしれない。
こうなるとボール支配率は上がるかもしれないが、
ショートカウンターに持ち込めないので、様々な攻撃スキルがないと得点力は上がらない。
ポゼッションして攻めきる力があってこそ、相手は支配率の低下を恐れ、
そのため無理なポゼッションをするので、それを咎めてショートカウンターにできる。

 逆にポゼッションとそこから攻め切る力がありながら、
プレス・ショートカウンターがなければどうなるか。
今度は相手が無理やりポゼッションを試みるかもしれない。
攻めが怖い相手には攻めさせなければ良いわけで、ボールを渡さなければ済む。
多少悪い形でボールを失っても、それが失点に直結する可能性は低い。

 ショートカウンターを成功させるためには、
1トップは一発で相手のDF裏をとって点が取れるFWが望ましいし、
ボールを奪う可能性が高いCHやアンカーにはラストパスのセンスが欲しい。
積極的なプレスを行うので、特に前の5人の運動量が欠かせない。
DFはライン制御と裏を狙われた際のスピードが必要。
攻める時間を長くするとしたら、当然攻撃の多様性が必要で、
そのためには多くの選手にさまざまな技術が必要になる。

(*)システムは違うが、ガンバがチームの完成度を高める中で、
   高い位置でのプレスに取り組んできたのも必然だと言えるだろう。

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2009年04月21日

好対照

J6節、アルビレックス新潟対サンフレッチェ広島、3−3


◆新潟の3つの構造的欠陥

 GKの負傷と交代したGKのミスからの失点という
逆境を跳ね除けアウェイで同点に追いついた広島。
その要因は新潟の3つの構造的欠陥を突いたからだった。

(1)ジウトンの守備
(2)DFの前のスペースを埋めるのが本間1人
(3)交代策が乏しく後半に息切れする

 1つ目に付いてはミキッチとマッチアップになったのが新潟にとっては不運。
逆に右から攻められたおかげで助かったのが横浜戦
2つ目が露骨に表れたのが2失点目の柏木のゴールで、
佐藤をケアしてDFが下がると、その前のスペースがぽっかりと空いた。
3つ目だが、新潟はまともな交代要員が弔靴いない。
特にリードをした後は守備に難のあるジウトンを下げたいし、
負担の大きい中盤も変えたいところだが、替えが効かない。

 ただ、あまり有効な交代策がないという点では広島も同じで、
同点に追いついてから20分はあったのに、勝ち越すことはできなかった。



◆身長体重

 この試合を見ていて気になったのが、選手の体格の違い。
新潟と広島を比べてみると、新潟の選手がやたらとデカく見える。
まあオレンジという膨張色のユニを着ているからかもしれないので、
一応選手の身長と体重をオフィシャル・サイトの数字から確認してみた。

 結果、フィールド・プレーヤーの平均で、
新潟は広島より4cm弱大きく、3kg弱重いことが分かった。
このあたりは両チームのスタイルの印象と非常にマッチしている。
セットプレーの強さと前線のパワーが特徴の新潟、
ほぼ全員がテクニックがあり細かい動きとパスワークで試合を支配する広島。
特に広島の前線の佐藤・柏木・高柳と新潟のCBの永田・千代反田を比べると、
身長で10cm、体重で10kg以上の差があり、特に違いが目立つ。

 また広島は選手の体格の均質性(分散の小ささ)も目立つ。
ほとんどの選手が身長175cm、体重70kg前後に集中していて、
敢えて違いを探すと佐藤がやや小さく、ストヤノフがやや大きく、槙野が大きくて重い程度。
このあたりも「全員MF」的なイメージと整合的。
(ただミキッチははっきりと「サイドアタッカー」)
一方の新潟はCBとFWがゴツクてMFとSBが普通。
但しジウトンは大きくセットプレーで得点も取っている。

 確認はしていないが、おそらく新潟がJ最大・最重量級で広島が最小・最軽量級だろう。
(ひょっとしたらCBの高さがない神戸が最小かもしれないが)
体格の面で対照的な2チームは、
それぞれJリーグにおける編成の極端な例を示していて(*)、
その強さと弱さがはっきり出たこの試合は非常に興味深いものだった。

(*)もう1つのパターンとして、少し前(テセがいない時期)の川崎のような、
   前にスピードがあって後ろが大きいものもある。


・新潟

ペドロ:182cm、74kg
大島:184cm、78kg
矢野:185cm、76kg
松下:174cm、70kg
本間:172cm、65kg
マルシオ:173cm、67kg
ジウトン:184cm、74kg
永田:184cm、80kg
千代反田:183cm、80kg
内田:175cm、68kg
北野:186cm、80kg

フィールド・プレーヤーの平均:179.6cm、73.2kg


・広島

佐藤:170cm、68kg
柏木:175cm、68kg
高柳:174cm、67kg
服部:175cm、67kg
青山:173cm、72kg
森崎和:177cm、72kg
ミキッチ:177cm、66kg
槙野:182cm、77kg
ストヤノフ:182cm、74kg
森脇:177cm、74kg
佐藤:183cm、73kg

フィールド・プレーヤーの平均:175.9cm、70.5kg

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2008年06月30日

戦術の教科書

EURO準々決勝、オランダ対ロシア、1−3

・オランダのスタメン

ニステルローイ
スナイデル、ファン・デル・ファールト、カイト
エンゲラール、デヨング
ジオ、マタイセン、オーイエル、ブラルーズ
ファン・デル・サール

控え
GK ティマー(13)、ステケレンブルグ(16)
DF ハイティンハ(3)、デゼーウ(6)、メルキオット(12)、バウマ(14)
MF デ・クレア(15)、アフェライ(20)
FW ファン・ペルシー(7)ロベン(11)フンテラール(19)
   フェネホール・オフ・ヘッセリング(22)

・ロシアのスタメン

パブリチェンコ(19)
アルシャビン(10)
セムショフ(20)サエンコ(9)
ジリヤノフ(17)セマク(11)
ジルコフ(18)コロディン(8)イグナシェビッチ(4)アニュコフ(22)
アキンフェエフ(1)

控え
GK ガブロフ(12)、マラフェエフ(16)
DF V・ベレズツキー(2)ヤンバエフ(3)A・ベレズツキー(5)シロコフ(14)
MF トルビンスキー(7)ビリャレトディノフ(15)シチェフ(21)ビストロフ(23)
FW アダモフ(6)イワノフ(13)


◆オランダ対ロシア

 ドラマチックではあるが完成度の低い試合が多かったユーロ2008。
この試合もオランダ側から見ればただただ不出来なものだったが、
それを誘発させたヒディング=ロシアの作戦は見事なもので、
戦術の教科書とされてよいものだったと思う。
この試合に関しては蹴球計画さんの分析があるので
それをベースにして細かいポイントを補足しておきたい。

◆露呈しないトラップディフェンスの隙

 序盤、ロシアはオランダの攻撃に対して
自分達の左サイドを空けるトラップディフェンスを行っていた。
しかし、一見したところ、この守備戦術には大穴が空いていた。
上がってきたブラルーズに対してジリアノフが左サイドに出て対応した場合、
アンカーのセマクが「左ボランチ」の位置に入ってバイタルを埋めるのだが、
この時「右ボランチ」のスペースが空いてしまう点だ。
このスペースで相手にボールを持たれると大ピンチになるのだが、
そういった場面は全く起こらなかった。

 その理由は単純な数あわせだった。
カイトには左SBのジルコフ、ニステルローイはCB、
スナイデルは右SBのアニコフ、ファンデルファールトはアンカーのセマク、
このマッチアップがはっきりしていたので、
空いたスペースに入ってくる選手はいなかった。

 この話の前提になっているのは、
オランダのダブル・ボランチは上がってこない、という点だ。
もし彼らがタイミングよく相手を振り切りバイタルに侵入していれば、
ロシアの守備陣を切り裂くことは容易だっただろう。
しかし、エンヘラールは当然だが、
デ・ヨングにもこういったオプションは皆無だった(補足)

◆オランダのゴール・キックへの対策

 ポゼッションを重視するオランダは、
ゴールキックをDFが低い位置で受けることが多い。
しかし、ロシアはこのプレーに対して完璧な対策を見せた。

 まずボールを受けた選手にプレスに行く。
GKに返されることが多いのだが、
そのままGKにも連続してプレッシャーをかける。
この間、DFはハーフウェーライン(HL)付近までラインを上げ、
中盤も適切なポジショニングでパスコースを作らせない。
苦し紛れにロングボールを蹴ったのをコロディンを中心に跳ね返した。

 ファンデルサールはキックが上手いと言われているのだが、
追い込まれていたとはいえキックがHLを大きく超えることはなかった。
またロシアのSBには高さがないので、
カイトの方に蹴れれば競り勝てる可能性が高いのだが、
そこにきっちり蹴ることもできなかった。
動かないボールを落ち着いて蹴ればよいのだが、
機動力に劣る分、動きながらのキックは苦手のようで、
そこを見透かされていたようだ。

 このパターンは後で重要な意味を持ってくる。

◆ロシアの攻撃パタン

 攻撃においてもロシアは練られた作戦を披露していた。
彼らの攻撃の多くは右サイドから行われていたが、
これには幾つかの理由がある。

 まず、トラップディフェンスのため右サイドに人数が多いこと。
小柄な選手が多いロシアとしては狭い局面でもすり抜けていけるし、
相手にボールを奪われたとしても、
そもそも人数が多いので取り返しに行くことが容易だ。

 また、守備力においてもオランダは左右に偏りがあり
それを突いていこうという意図も考えられる。

 まずSBは左はジオで右はブラルーズ。
CBもこなすブラルーズの方が厄介なのは間違いない。

 次にWGは左がスナイデルで右がカイト。
スナイデルも決して守備に手を抜く選手ではないが、
どちらかといえばカイトより守備力は劣る。
またオランダの中心選手であるスナイデルが守備に追われて疲労すれば、
それだけオランダの攻撃力が低下することも意味している。

 ボランチでは左がエンヘラールで右はデ・ヨング。
身長が高いエンヘラールは高さのないCBを補うために起用されているが、
デカいだけに小回りが利かず、また機動力も低いためサイドのカバーも遅れがちだ。

 右からの攻めを見せているので、
時折繰り出す左からの攻めも効果的だった。
スペースがある状態でのジルコフとブラルーズの1対1はロシア有利。
裏のスペースはバランスを取って低い位置取りのズリアノフがカバーしていた。

 この攻撃が機能していたことは支配率からも明らかで、
前半23分の時点でロシアの支配率は54%になっていた。
実際、ペナルティーエリア内でのチャンスもロシアの方が多くなっていた。

◆オランダの前半の対策、へのロシアの対策

 ロシアのトラップディフェンスに対して、
オランダはハーフタイムまで無策にやられていたわけではない。
前半20分頃からスナイデルとカイトがサイドを入れ替え、
スペースのあるロシアの左サイドに攻撃の起点になるスナイデルを置いた。
右利きのスナイデルは左に置いた方が展開力を生かせるのだが、
スペースがないよりはマシだという判断だろう。

 しかし、これもロシアの読み筋だった。
スナイデルはWGではないので、やや中よりでプレーしようとする。
だが、そこには予めジリヤノフが守っている。
彼にしっかりマークされ、やはりスナイデルは活躍できなかった。
スナイデルがサイドを変えてもロシアの守備に混乱は全く見られなかったため、
これも予想していた展開なのだと思われる。

 ジリヤノフがスナイデルのマークをしたため、
ブラルーズはより高い位置に上がってくることが可能になった。
しかし、ジルコフに前に出て対応されると、
やはり攻撃の起点には成れていなかった。

 この流れも最後にもう一度振り返る。

◆ロシアの先制点

 後半10分。ロシアは待望の先制点を奪う。
ハイティンガ投入後のロシアの狙い、
つまりハイティンガの裏のスペースを狙うことは
蹴球計画に書いてある通りなのだが
あの得点シーンはやや意味合いが異なる。

 まずプレーの起点は例のゴールキック対策だった。
ゴールキックを右サイドの深い位置で右CBのオーイエルが受けるが
そこに素早くアルシャビンがプレッシャー。
苦し紛れのキックをセマクがカットしアルシャビンへ。
オーイエルはそのままアルシャビンへチェック、
ブラルーズはアルシャビンの内側を上がったジリヤノフをマーク、
この流れでオーイエルとブラルーズの位置が入れ替わっている。

 しかし、この流れでやはりマークのズレが生じていた。
マークをされていない選手、それはボールをカットしたセマクである。
彼はボールカットの勢いでアルシャビンの外側(左サイド)を上がるが、
上で書いたようにオーイエルもブラルーズも自分のマークを抱えている。
速攻なので右WGのファン・ペルシーが間に合うわけもなく、
右ボランチのデ・ヨングもゴール前を固めようとしていた。
フリーの状態でパスを受けたセマクはダイレクトでクロス、
本来ならオーイエルがいるはずのニアのスペースにパブリチェンコが走りこみ、
そこに低いクロスがぴったり合ってゴール左に流し込んだ。

 上でも書いたようにゴールキック対策は前半から行われていたし、
苦し紛れの縦パスをカットしたセマクがそのまま上がるプレーも前半から見せていた。
クラブで攻撃的MFをやっている彼の攻撃参加は、実はロシアの隠れたオプションだった。
この得点は、ロシアの狙いがピタリとはまった瞬間に起きたものだった。

◆機能しないオランダの攻撃

 失点したオランダは、同点にすべく攻めに出る。
しかし、なかなか攻撃は形にならない。
失点から後半35分までシュートを6本放っているが、
そのほとんどがペナ外からの可能性の低いシュートに留まっている。

 その理由の1つはロシアが守備を固めたからだ。
まず前半からのトラップディフェンスを解消して、
ジリヤノフは通常の左SHの位置に入っている。
これは、ハイティンガの攻撃力に対処するためだろう。
こうすると今度は中央が薄くなってくるが、
そこはアルシャビンが下がって中央の守備を受け持っていた。

 しかし、同時にオランダの攻撃パターンの貧弱さも露呈していた。
とにかく全体的に動きがないため、パススピードが上がらない。
後半交代で入ったペルシーは、後半の立ち上がりこそ
フリーランからスナイデルのスルーパスを受けてシュートをうっているが、
その後は右サイドに張り付くばかりで動かない。
また攻撃力を見込まれて入ったはずのハイティンガも、
トラップディフェンスを解消したロシア守備陣に何も出来ない。

 どんな拙い攻めでも一方的に攻めていれば守備側に疲れも出てくる。
だが、そうならなかったのはパブリチェンコの頑張りも大きかった。
ロングボールをキープして時間を作るため、
オランダの選手は帰陣しなくてはならないし、
ロシアの選手は上がっていく時間を与えられていた。
ここでもオランダCBの能力の低さが露呈していて、
パブリチェンコを抑えることができなかった。

◆オランダの同点ゴール

 こんな状況の中でも、モチベーションと動きを落とさず、
積極的にゴールを狙いに行く選手がいたことがオランダに幸いした。

 それは、スナイデルである。

 失点後の後半16分にエンゲラールとアフェライが交代し、
ファンデルファールトをボランチに下げたオランダ。
アフェライを左WGに入れることで、
スナイデルはトップ下の自由を得て躍動し始めた。

 後半30分頃から流石にロシアの動きが落ち、
特にアルシャビンが中央の守備に戻れないことが増えてくる。
また両SBを上げたこと、ファンデルファールトがサイドに大きな展開をしたことで、
ロシアのSHがサイドに引っ張られるようになっていた。

 こうしてできたバイタルのスペースで
スナイデルがパスを受け、自らシュートを放っていった。
実際30分からの15分でスナイデルは5本のシュートを放っている。

 スナイデルの迫力に引きずられるように、
ようやくオランダにも勢いが出てきて、
残り5分のところでセットプレーからなんとか追いついた。

◆延長戦

 しかし、この勢いも長くは続かなかった。
スナイデルの動きが落ちると、そのままオランダは停滞。
そうなるとSBの高い位置取りも隙にしかならない。
そこにアルシャビンを始めロシアの選手に走りこまれてしまった。

 勝ち越し点も典型的なパタンだった。
ハイティンガの裏のスペースにアルシャビンがドリブル、
スピードのないオーイエルと1対1で縦にかわし、
ファンデルサールの頭越しのループクロス、
これを交代で入ったトルビンスキーが飛び込んでゴール。

 3点目もアルシャビンのスピードが生きた。
右サイドからのスローインを受け、そのままの勢いでゴール前へ。
オランダの守備は全くついていくことができず、
そのままシュートに持ち込まれてしまった。

◆戦術の差

 後から考えると意外とロシアに良い選手が多かったとはいえ、
オランダが物量で劣ると考える人はいないだろう。
しかし、この試合の内容を見る限り、
ロシアの勝利は必然的なものだったと思われる。
それほど、両者の実力には差があった。

 もちろん、コンディションの差は大きかっただろう。
シーズン途中のロシアリーグに所属しているロシアの選手と、
ヨーロッパの長いシーズンをようやく終えたオランダの選手。
また、死のグループに入ったことで、
オランダはピークを早めに持ってこざるを得なかったこともある。
しかし、日程的にはオランダの方がはるかに有利だったはずだし、
交替選手の動きの差は疲労では説明できない。

 やはり、監督の差は歴然としたものがあった。
オランダの長所と短所を丹念に分析して、
短い時間でしっかりとした対策を採ってきたヒディング。
一方のオランダにはスカウティングをしてきた気配は全くない。
いつも通りの自分達のサッカーをして、その弱点を露呈させていた。

 これまで書いてきたように、ロシアの対策は素晴らしかった。
トラップディフェンスという大枠だけではなく、
それと整合的な右サイドからの攻撃、
スナイデルとカイトのポジションチェンジへの対応、
オランダの低い位置へのゴールキックの対策、
相手が右サイドの攻撃力を上げてきた際のトラップディフェンスの解消、
こういった細かい点も含めてロシアの対策は万全だった。

 オランダにはこういった対策は皆無だった。
オランダがそこを突いていくことは全くなかったが、
冷静にロシアの陣形を眺めてみると弱点も多かった。

 まずCBも含めて絶対的な高さと強さがないため、パワープレーには弱い。
スナイデルのシュート以外でのオランダのチャンスは、
その多くがセットプレーからのものだったし、
同点ゴールもセットプレーから生まれている。
攻撃の組立でもカイトとSBのマッチアップなら、
そこにロングボールを入れれば勝つ可能性は高かった。
ロシアの中盤のプレスが厳しいのならば、
そこをロングボールでかわしてしまう手はあった。
特にゴールキックでの不手際は試合中に修正することができなかった。

 ロシアはチーム全体の攻撃力を上げるために
SBに攻撃的な選手を起用していたが、
本来ならここも弱点になるはずだった。
特に周りにスペースがある左SBジルコフは狙い目で、
ここを攻めた時にはファウルを貰うことも多かった。
カイト、スナイデル、ファンデルファールトが
代わる代わるロシアの左を攻めれば前半からチャンスは広がったはずだ。

 しかし、パワープレーもサイドからのゴリ押しもオランダ的ではない。
ボランチを守備的にして現実路線を採用したとはいえ、
そこまで現実と妥協する気はなかったと思われる。
こうした選択を行っている限り、
オランダが大きな大会を勝ち進むことは難しいだろう。

◆交代策の差

 交代策、交代選手の活躍にも大きな差があった。
ロシアは右サイドを主戦場に選んだことや、
攻撃では前線を中盤が積極的に追い抜いていったことから、
サエンコとセムショフの運動量が非常に多くなっていた。
そこをビリャレトディノフやトルビンスキーと交代させることで、
チームの運動量を大きく落とさないことに成功していた。
実際、トルビンスキーはフリーランから勝ち越し点を奪っている。

 一方のオランダは交代選手がほとんど活躍しなかった。
別に彼らだって好きでサボっていたわけではないし、
やることさえハッキリすれば、しっかり働ける選手たちだ。

 問題は「ハッキリ」しなかったことに尽きる。
ペルシーとハイティンガを右サイドに起用して何をさせたかったのか。
ペルシーにドリブルで打開させたかったのか、
それともフリーランからスルーパスを受けてほしかったのか。
ドリブルで打開するなら、どうやって彼にパスを入れるのか。
彼にパスを入れた後、ハイティンガは彼の外を追い越すのか、
それとも奪われたときに備えてカバーに回るのか。
特に交代枠2つを使った右サイドの2人に連携がないことは最悪だった。

 アフェライの投入の意図も不明。
最終的にはスナイデルとポジションを変えて、
右SBのアニュコフを引き付ける役割しか果たしていない。
ロシアが引いてくることを予想してロベンを使わない判断自体は間違いではないが、
肝心のアフェライ自身が活躍できないのでは意味がない。

◆チーム力の差

 また、監督の采配以前のチーム力の差も大きかった。
ロシアのプレーで特に印象的なのが、
右SBアニュコフ、左SBジルコフ、
アンカーのセマクの思い切りの良い攻撃参加だ。

 アニュコフは後半25分のシュートが印象深い。
オランダの反撃に備えて一時的にボランチの位置に入っていたアニュコフは、
相手のパスをカットするとそのままの勢いでゴール前にフリーラン。
最終的にパスを受けたパブリチェンコはダイレクトでDF裏へ、
そこに走りこんだアニュコフはGKと1対1になっている。

 彼らの攻撃参加の前提になっているのが、味方のカバーリングである。
彼らはそれぞれ守備の重要なポジションを守っているため、
味方がきっちりカバーしてくれないと彼らの攻撃参加は大穴を作る。
ジルコフにしてもセマクにしても、ジリアノフのカバーが光っていた。
またアニュコフの攻撃参加には、マーク相手のスナイデルだけではなく、
左SBのジオの攻撃参加もリスク要因になりえる。
よって右SHのサエンコが必ずジオについていく、
という信頼がなければ成立しないプレーだった。

 オランダ側にはこうした積極的なプレーはみられなかった。
唯一の例外といえば、後半の後半に見せたスナイデルのプレーぐらいだろう。
それもチームとしてどうこう、というものではなく、
点を取らなければならない状況で、
スナイデルが個人の判断で行ったものだった。
そこにチームとしての意図や狙い、信頼といったものは皆無だった。

 例えば、前半途中からスナイデルとカイトがサイドを入れ替えた際、
スナイデルにジリヤノフ、ブラルーズに左SBのジルコフが対応していたが、
ジルコフの裏のスペースが空いていることが多かった。
ここにファンデルファールトやカイトが走りこんでくれば、
左CBのコロディンやアンカーのセマクが対応せざるを得ない。
こうなると、必然的にゴール前かバイタルに隙ができる。
こうした連動した動きというのはチームの相互理解や信頼がなければ行えない。
オランダには、それが欠如していた。

 従来、オランダは白人・黒人選手間での争いが喧伝されるなど、
能力が高い選手が多いものの決してまとまりの良いチームではなかった。
しかしこの大会では、めずらしくチームのまとまりが指摘されていた(*)

 しかし、精神的な一体感は最低限の前提に過ぎない。
チームとして機能するためには、戦術的な統一感が必要になる。
だが、オランダには肝心のそれが欠如していた。
全てのポジションに世界最高クラスの選手がいるなら話は別だが、
そうでないチームが戦術なしに勝ち進める可能性は決して高くはならない。

(*)セードルフ・ダービッツ・クライファートという黒人の大物選手が不在で
   人種のバランスが変わったことも大きかったのかもしれない。

◆補足

 GLで大量得点を続けたことから「攻撃的」だと評されたオランダ。
しかしダブル・ボランチの性格からしても、
その実態はかなりバランスを考慮したものだった。
これはCBの能力が低いことも要因だろう。
イタリア・フランスに勝てたのは相手の不出来と、
先制できたことでカウンターに持ち込めたのが大きい。
それでもGLでは失点してもおかしくない場面は多く、
ボランチを守備的にしても守備は決して堅くはなかった。

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2008年06月05日

Jリーグにおけるロングボール

 中盤のプレスをロングボールでかわそうというのは、
ヨーロッパでも最近良く見られる作戦

その一方で、Jリーグでは中盤のプレスが整備されている割には、
攻撃側が、結果的に蹴らされている場面はあっても、
最初からそれを狙いにしてくることは多くない。
その原因として、ブラジル人FWが2重の意味で影響している。続きを読む

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2008年03月14日

「理論派」の限界

◆好調リバプール

 スロー・スターターのリバプールに、ようやくエンジンがかかってきたようだ。
FAカップで2部のバーンズリーに破れる波乱はあったものの、
CLではインテルに2連勝して準々決勝に進出、
プレミアでもここ6試合を5勝1分と絶好調だ。
好調さの原因は単純で、得点が取れているからだ。続きを読む

meitei2005 at 21:32|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2008年03月06日

ミランの黄金時代。本当の終わりか?

 昨年のCL決勝、ミランがリバプールに勝利を収めた際に、
私はこれが「ミラン黄金時代の終わりの始まりだ」と言っておいた
セリエAで振るわないミランにとってCLでの勝利が唯一の存在意義だったため、
ここでの敗北は「サイクルの終わり」と受け取られても仕方ない。
とうとう、来るべきものが来てしまったのだ。続きを読む

meitei2005 at 19:02|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2008年01月24日

スケールを規定するもの

◆05−06年
◆完成度の追求
◆効率性と安定性
◆均一性とその限界
◆異質性の包容
◆スケールを規定するもの

最後のところに「追」を追加しました。続きを読む

meitei2005 at 04:43|PermalinkComments(4)TrackBack(0)

2008年01月19日

ガンバ大阪のJ07年

◆07年Jリーグの結果詳細
◆夏場や連戦に弱いか
◆マグノアウベスへの依存
◆補:得失点差と勝点の回帰分析続きを読む

meitei2005 at 18:40|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2008年01月17日

リバプールの再建案

プレミア22節、ミドルスブラ対リバプール、1−1

「現有戦力で採り得る戦術」と「リバプールの混迷」
後者はこれまでの繰り返しが多いので後ろに回しました。続きを読む

meitei2005 at 00:37|PermalinkComments(6)TrackBack(0)

2007年07月30日

11対10は有利なのか?

◆問題意識

 アジア杯で日本が豪国戦と韓国戦で11対10になりながら、
得点を奪えずPK戦に持ち込まれたことに対する批判が多い。
しかし、特に負けたら終わりのトーナメントにおいて、
10人になった方の守備意識が高まり
11人の方が勝ち越せないことはよくあることだし、
逆に10人の方が勝ってしまうことすらある。
はたして勝ち越し点を奪えなかった日本を批判するのは公平なのだろうか?
続きを読む

meitei2005 at 00:49|PermalinkComments(6)TrackBack(0)