うつ病薬剤師の『抗うつ薬人体実験記』

QIDS-Jで『極めて重度』と評価されてしまった新米薬剤師が 心療内科に通いつつ、抗うつ薬を色々と飲んで闘病した体験記です。 同じうつ病に悩む人、薬の副作用や効き目に疑問を持つ人の助けになれば幸いです。

タグ: 離脱症状


 一般論としての『』とあわせて読んでください。

 こちらの記事はかなり個人的な意見です。



 先の記事でも紹介した通り、SSRIが抗うつ薬として効果を発揮する、ということは科学的に証明されている事実です。

 何度か病院のカンファレンス等にも参加し、精神科医の方の話もお伺いしてきましたが、SSRIが一般的に有効であることは特に疑う余地がない、という見解で一致しています。



 うつ病の極期にある時、その苦痛を和らげ、少しでも早く体調を上向きにするよう、SSRI等の薬を利用する。

 快方に向いてきたら、同じ過ちを繰り返さないよう、認知行動療法によって自分の思考や考え方を矯正する。

 ハーブやヨガなどは、本人がやりたいと思い、心地よいなら、薬物療法・認知行動療法に合わせて用いる。


 
 私自身の考えも同じものです。





 『』で紹介した「BDNF仮説」のように、SSRI等の抗うつ薬にはダイレクトに脳の損傷を回復させる効果があるかもしれない、といった話題もあり、

 この仮説に基づけば、SSRIが効果発揮までに2~3週間の時間を要することにも説明がつくのですが、まだまだ主流の仮説ではありません。

 血圧の薬に、心臓や腎臓を保護する効果がある事実が最近判明してきたように、SSRIにも今後色々な良い効果があるかもしれない、といった報告は増えてくるかもしれません。








 SSRIはそれだけ可能性のある薬ですが、『使わない方が良いのでは』という話題もあります。

 特に『長期』でダラダラと使い続けない方が良い、という意見は比較的多いように感じます。



 もちろん、早々とSSRI等の抗うつ薬を中止・減量してしまうことは再燃の危険性を高めてしまいます。

 欧米のガイドラインによれば、寛解後、26週間は抗うつ薬による再燃予防効果が立証されていることから、副作用の問題がなければ4~9ヶ月以上は急性期と同じ量を服用すべきである、とさえ断言されています。

 参考)American Psychiatric Association, 2000, 2004, 2010; Lam et al. (2009) 



 こういった維持療法は、SSRIの添付文書上の用法にも記載されており、今も現場で最も多く推奨されている治療です。





 ところが、SSRIを長期で服用していた人が、その薬の服用を中止した時に『離脱症状』を起こすことがあります。

 その原理は色々と示唆されていますが特定はされていません。


 めまいや発汗、悪夢、吐き気、不眠、混乱など様々な症状となって現れると言われていますが、

 つまるところ、セロトニンは脳をはじめ生体の様々な機構の制御を司っているので、そのバランスが崩れれば色んな場所に不具合が生じる、と考えると簡単です。




 この『離脱症状』ですが、添付文書上にもごく簡単に「さらり」と書いてあるのですが、薬剤師として少し気になるところもあります。

 薬を中止すると、色んな症状が出る。

 この現象を聞いて、”薬物中毒”のようなイメージを持ってしまうのは無理もないと思います。


 一旦、薬を飲んで頼ってしまったら、もう二度と、薬無しでは生きていけないのではないか。



 インターネットで検索すれば、離脱症状に苦しめられた人たちの体験談もたくさん出てきます。

 生々しい苦痛の経験をつづるブログ等を見て、SSRIを飲み始めたら薬物中毒と同じような状態になってしまう、と考える人も居るかもしれません。




 ですが、例えばSSRIの中でもレクサプロ(エスシタロプラム)は、急な中止でも離脱症状が少ないと言われています。

 また、そもそも薬を”急に”中止せず、少しずつ減量していく方法によって、離脱症状を回避できる可能性があります。

 正しい情報を知らずに、インパクトのある特殊な情報に惑わされて、有効な治療が受けられないことは、非常に憂慮すべきことだと思います。



 現場の薬剤師も、もっと離脱症状について正しい理解を広めていく必要があります。

 そもそも離脱症状が何故起こるのかといった機序も解明する必要があると思います。













 もう一つ、『前頭葉類似症候群』と呼ばれるものがあります。

 これは、SSRIを長期で使用した際に現れる副作用の1つです。

 先にも示したように、抗うつ薬は寛解後も4~9ヶ月以上続けるべきである、とガイドラインで言われているのに、長期でSSRIを使用するとまたややこしい副作用が現れる可能性があるわけです。



 この『前頭葉類似症候群』は、乱暴な言い方をすればSSRIの長期投与によって『うつ病』が悪化したように見える状態のことです。

 気分は普通なのに、無気力・無関心になって疲労感があり、感情が平板化します。


 
 『うつ病』を治すためにSSRIを飲み始め、『うつ病』の再燃を防ぐためにSSRIを長い期間続けていたら、SSRIのせいで『うつ病』が悪化したような状態になる。


 
 こういう、”結局、どうやっても何か問題が起こる”という、ややこしい状態であることもSSRIの問題点のような気がします。





 もちろん、『前頭葉類似症候群』もまた、ドパミンやノルアドレナリン活性の低下という原因が示唆されているため、SNRIへの変更等で改善させることも可能です。

 また、この副作用が増えてきた原因の1つに、本来であれば1種類のSSRIで治療を開始すべきところ、医師がいきなり2種類以上のSSRIを大量に併用したりする、といった無茶な処方がある、という問題もあります。

 1種類のSSRIで効果が見られない場合、1種類をオーバードーズするよりも、異なる種類のSSRIを重ねる方が比較的安全である、という考え方もありますが、誰にでも画一的に、安易に増やすのはこういった”ややこしい”副作用を増やしてしまうと思います。

 (基本は1種類だけで用いる薬を、これと同じ理由で2種併用するといったことは現場ではよくあります。例えばアレルギーに用いる抗ヒスタミン薬に関しては、アレルギーのガイドラインにも『1種の過量投与よりも、別の抗ヒスタミン薬を追加することを考慮する』と明記されています)












 いずれにせよ、医師には正しく状態を伝え、その治療方針には従い、薬はきちんと言われた通りに服用するのが大原則の鉄則なのですが、

 『全て任せておけば良い』という受け身な姿勢では、マズイと思います。

 日本うつ病学会のガイドラインにも『薬を飲んで、休んでいれば、それだけで調子よくしてもらえる』といった医療への過剰な依存・退行について問題視する文言があります。



 自分が飲む薬についてはSSRIに限らず、きちんと『正しい情報』を収集する必要がありますし、


 同じ過ちを繰り返さないよう、認知行動療法によって自分の思考や考え方を矯正する。

 ・・・といったように、患者側が積極的に治療に参加する必要もあると思います。




 SSRIは非常にややこしい薬で、病気そのものが未だ解明されていない部分も多いために、薬の効果や副作用についても謎の部分が非常に多いです。

 それでも、効果があることや、具体的な副作用があること、その副作用を回避・緩和する方法があることなど、明らかな部分はしっかりと区別して、自分の治療に活用していく必要があります。




 
 現在、この世界で使用されている薬には全て確実に効果があるということが統計学的に認められており、またその効果には全て科学的な根拠が存在します。

 この点が、民間療法や健康食品などとは大きく異なるところです。

 

 民間療法や健康食品の一部は、そういった因果関係の統計学的な処理や、効果についての科学的根拠の検証などを行っていません。

 このキノコを食べれば癌が治る・・・かもしれない。

 でも、その癌が治った人は、本当にそのキノコを食べたから治ったのか?そのキノコを食べなくても治ったのではないか?他に癌を治す要因があったのではないか?

 そういった検証を行っていない、ということです。

 行ってみたら、きちんと効果があると証明されるものもあるかもしれません。

 でも、証明できないものも非常に多いようです。

 







 SSRI、いわゆる選択的セロトニン再取り込み阻害薬は本当に『うつ病』に対して効果があるのか?安全なのか?

 ・・・という疑問や不安は絶えないようです。


 自分自身も薬剤師でありながら、『これ以上、薬に頼ってられるか!』といった感情で突っ走った経験があります。

 しかしながら、当然、SSRIの効果と安全性についてもまた、きちんとした科学的根拠があります。




 うつ病の患者に、SSRIを投与した場合と、SSRIを投与しなかった場合とで比較すると、SSRIを投与した方が治療効果が高かった。

 その差は、偶然に生まれるものではなく、統計学的に意味のある差として。


 こういった検証を踏まえた上で、世の中に薬が出てくるわけです。



 ですので、SSRIは本当に効果があるのか?安全なのか?といった疑問や不安に対しては

 一般論として、『有効』であり、『安全』であるということが明言できます。












 ですが、『統計学的に』というところに少し落とし穴があります。

 確かに人間を100人集めてきて実験を繰り返しても、必ず同じ結果になります。

 しかし、個人に焦点を当てて考えてみると、その人にとって効果があって安全かどうかは、実際に使ってみないとわからないのです。

 自分が、効果のない例外や少数派になる可能性はいくらでもあります。



 SSRIは、そういった例外や少数派の発信する意見や情報にかなりインパクトがあり、効果がありましたという主流の意見よりも大きな力を持ってしまっているように思います。





 ・・・というのが、薬剤師として、薬局でもお話をする内容です。

 個人的な意見としての、SSRIの離脱症状や、長期投与による前頭葉類似症候群についての話はまた後日まとめます。
 

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