企業はどのようにして崩壊し得るのか。その答えを見つけるためにはまず企業というものがどのように成り立っているかを知る必要がある。

僕の考えはこうだ。

何かを提供し、その対価を得る。あるいは対価を支払い、何かを得る。その繰り返しと積み重ねで経済活動は成り立っている。これを「取引」と呼ぶ。

「取引」のオリジンは信頼に基づく約束で、信頼に形を持たせ、現実世界の文脈下において具体的な条件を設定するために「契約」を交わす。

企業は信頼、あるいは明記された信頼の形である「契約」に基づいて取引を繰り返す。

そして、企業とは取引を繰り返すことで価値を蓄積・分配するシステムであると見なす事が出来る。

※「世の中に価値を提供する」という理念を持つ企業があったとしても、それは己の中に価値を蓄積し、その残りカスをいかに効率的に排出するかという話になるので、企業にフォーカスを当てると結局それは価値蓄積・分配システムであることに変わりない。異論は募集する。

システムを動かすためにはエネルギーが必要で、脳味噌がGlucoseをエネルギーとするように会社にとって唯一の現実的なエネルギー源は現金である。資産でも売上でもない(当たり前の話)。

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ちいさな会社の殺し方

さてようやく本題に入る。上記のような考えに基づけば、会社の息の根を止めるために必要なのは、

  • キャッシュフローを止める
  • 社内外の信頼を断ち切る

という2点。前者は即効性があり確実で、後者は救いがなく致命的だ。

これらの論点に着目する事によって、小さな会社にとってリスクとなる行動とは何か、組織とはどうあるべきか、組織と個人の境目はどこにあるのか...。そのような疑問に対していくつかの示唆を与えられれば良いと思う。

キャッシュフローを止める

夢を追うのは悪い事じゃないが、せめて現実的なキャッシュフローを確保してから夢を見よう、というお話だ。いま金がないなら営業に力を入れても仕方ない。その金が振り込まれるのは何ヶ月先ですか。前金でやらせてもらうとか、急遽講演を開いて現金を落としてもらうとか、とにかくキャッシュを確保しないとその日の呼吸すらままならないのがちいさな企業の現実だ。

※このへんは一昨日、社長業1年生の友人と飲んだときに聞いた話

ちいさな会社の経営はどうしても自転車操業にならざるを得なくて、余裕資金なんてほとんどない。入金の予定が少しでもズレると支払いが出来ない。日々が決断の連続で、胃がキリキリと痛む。

そんな状況だからこそ、社員を食わせて行くために、毎月のお金の流れは何としてもコントロールしなければならない。夢見案件と日銭案件を明確に区別(いま考えた分類)して、先々まで予測を立てて計算しておく。

もし会社のトップがキャッシュフローを見ていなければ、かなり風向きは悪いと考えて良い。

ほぼ無償のサービス案件や、開始前から赤字の確定している案件を具体的な戦略もなく請け負ってしまうのは、工数が見えていないバカか、社員を24時間働かせる気満々の確信犯か、そのどちらかだ。

営業は単純な売上額よりも粗利の確保を目指すべきで(とはいえ流石に当期の売上目標を掲げておいて、その利益率を考えていない営業はいないと思うが)、

現場(開発)は"頑張り"ではなく稼動コストとアウトプット/成果の比によって評価すべきだ。

それが巡り巡って会社の資金繰りへと繋がり、キャッシュフローを安定したものにするのである。

社内外の信頼を断ち切る

前述のように、企業は取引を行うにあたって信頼を形にするために「契約」を交わす。ところがちいさな会社の場合、高度に発達した信頼関係は契約と区別がつかない。言い方を変えると、"なぁなぁ"のまま話が進むのが通例だ。

つまり営業の個人的人脈を基盤として、

「いやぁ、ウチこういうことやっててねぇ」

「それならウチはこんな感じのものがありますよ。ここは一丁一緒にどうですか」

「お、いいね」

というノリで売上が立つ。契約なんて後回しで、イケイケで仕事を取って来る。それでもうまく行くのがベンチャーの営業というもの。

ところが創業当初はうまく行っていた人脈ベースの取引が、だんだん通用しなくなる。失敗が増え、人が足りずに、見積もりが外れ、プロジェクトが回らなくなる。騙された!と思う間もなく、馬鹿みたいな悪条件でいつのまにか契約を交わしてしまう。

文句を行っても結果は結果、不手際は記憶され不履行は記録に残る。エビデンスを取る仕組みもないちいさな企業はモロに泥を被ることになる。そうして社外で信頼を失ってしまうと、狭い業界に悪評が出回り、どうにも首が回らなくなる。少なくとも、現状維持は出来ても現状からの飛躍は絶望的になる。

そんな状況を解決するためには会社の「組織化」--信頼のシステム化が必要であり、早い時点で問題に気付き対処しなければならない。

最初に必要なのは経営の考え方を変えることだ。『売上2億円の会社を10億円にする方法』という本が、かなり具体的にちいさな企業の現実を言い当て、さらに解決の道筋まで示していて、これはスゲー、と思った。

売上2億円の会社を10億円にする方法 業績アップの「設計図」、教えます。
売上2億円の会社を10億円にする方法 業績アップの「設計図」、教えます。

信頼の最小単位は個人と個人である。「取引」に限らず、個々の社員と会社の関係性においても、信頼が大きな役割を果たす。

(本来的には"雇用"が労働力の提供と引き換えにサラリーを渡す契約であることを考えれば、これも広義の「取引」と考える事も出来るが)

わざわざ小さな会社を選んで入るような人間であれば、ある程度の覚悟は出来ている(と想定する)。

毎日少しずつ貯金した人と人の信頼が会社の逆境で力を発揮するわけだし、「いま正直経営厳しくて人も取れない、でもこうすればきっと俺らうまくやれるから今は我慢して一緒に頑張ろうぜ」という一体感と先への希望さえあれば、

絶望的な戦況の中でも、労働環境が悪くても、前だけを向いて頑張る事が出来る。

逆に言えば、いかなる戦闘民族であろうとも、会社への信頼が崩れてしまうといけない。会社で働く事をwork forと言うのだけど、forが向かう先は会社でなければならない。

会社への信頼を失わせる方法は無数にある。たとえば、

  • ルールを作成し、それを真っ先に破る。
  • 約束したことを守らない。
  • 将来の理想形(ビジョン)を示さない。
    • 理想へ現実を近づけようとしない。
  • 問題に対して根本的な解決策を提示しない。
    • その場しのぎを積み重ねる姿勢。
  • 信頼の核、心の支えとなる社員を排除する。
  • 諸悪の根源となっている膿を排出しない。そもそも気付かない。
  • 会社の重要な決定について説明責任を果たさない。

...など。企業が福利厚生を充実させたり、残業代を出したり、約束した事を守ったりするべきなのは、金のためでも義務だからでもなく、ただそれは純然たる信頼関係の確認のためである。

他の方法で信頼関係が確立しているのであれば不要だとも言える(※法律違反は[バレては]いけませんが)。

社員の心が付いて来なくなった企業は、いかに利益を出し潤沢なキャッシュフローを確保していようとも、遅かれ早かれ死ぬ。小さな会社ほど迅速に。

繰り返しになるが、人間対人間、個人規模を越える仕事を行おうとするからこそ「組織」を起こし、人の間を信頼ではなくシステムで繋ぐわけだ。

だから「組織」が非人間的性格を有するのは、その起源を考えれば当然といえば当然で、今まで個人規模の目線で仕事をしてきたちいさな会社へ組織化を導入する際には必ず反発が起こる。

必要なプロセスであるにもかかわらず、社員の心がそれを認めようとしない。追加された書類と承認プロセス、堅苦しい規則の徹底、非人道的な仕組みの登場、今までと違うやり方に拒否感を示す。

このありがちな罠を回避するために、社内への共感に基づく根気強い説得と、合意の上の仕組み化が必要とされる。

これを認識せず無根拠に上から押し付けるような「組織化」を目指してしまうと、今までベースとなっていた信頼が崩壊し、代わりになるはずの組織化も失敗する。

そうなれば、組織は外形を保ちながら、中身がぐずぐずになって溶け出すだろう。

念のため補足

タイトルにも入れているけど念のため注釈を付けておくと、当記事が対象とできるのは社員数2桁、売上5億程度の会社が限界だろう。大規模な組織をこの方法で潰そうとしてもなかなかうまくいかない。

生命線と言えるキャッシュフローの確保には二重三重の防御策を講じているのが普通だし、契約とシステムでがんじがらめにガチガチな大企業の信頼を1つや2つ切った所で、部署程度はひっくり返せても組織全体を崩壊させるには至らない。

綱渡りのように生きている、よちよち歩きの赤子の息の根を止めるシンプルな方法を挙げたに過ぎない。

企業の歴史の法則性

企業の成長にはパターンがある。誰でも「いやウチは特別だから...」と言うけど、ある程度「型」が存在するもの、らしい。 『成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語』という本は、ありがちな「型」をストーリーにしてまとめた本だ。

成功者の告白 (講談社プラスアルファ文庫)
成功者の告白 (講談社プラスアルファ文庫)

企業の作り方、育て方、殺し方にも法則性がある。ところがそれを現実に当てはめようとする人は驚くほど少ない。

自分は例外だと頑に信じ続ける人々と、現実に存在する法則性。人間にも当てはまる心理の罠だ。