May 24, 2005

セラフィールドの事故は本当に"漏洩“事故か?

いろんな人から情報のありかを教えてもらったり、理科系の人からアドバイスをもらったりして、ようやくイメージできるようになってきました。セラフィールドの核施設で何が起こったのか。これまでは、どうもうまく絵を描けなかったのです、頭の中で。83立法メートルの硝酸に溶けた20トンのウランと200キロのプルトニウムなんて言ったってねえ。
視覚性を高めるために、今日はなるべく絵を使いましょう。
まずセラフィールドというのはこんなところです。


http://www.visitcumbria.com/wc/sellafield-1515b.jpg

原発が4機あるように見えますね。80年代にチャイナ・クライシスというイギリスのグループがいて、二機並んだ原発の写真をジャケットに使っていましたが、あれはこれだったんじゃないかな。
さて、再処理工場はどこにあるかというと、この黒い建物です。


http://www.ens-newswire.com/ens/may2005/20050511_thorp.jpg

事故が起こったのは、この細長い建物の右から三分の一の赤い何かがある辺りではないかと思われます。
この建物って手前が背が高く、先に進むに従って、背が低くなっていますね。これは手前から向こうに進む形で、使用済み燃料の処理が進むからかもしれません。液体に熔かして処理するので、高いところで始めて、低いところに下ろしていく形で進めるようです。
ここで昨日のBLOGでも使った再処理のフロー図ももう一度、見ておきましょう。


http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/pict/04/04070101/04.gif

事故が起こったのは、この分離の過程の一つ目のタンクに入る手前のようです。
現在のところ、どういう事故が起こったのか、最も具体的に言及している資料は下にあります。

http://www.jca.apc.org/mihama/uk_france/core050513.htm

もちろん、そこに書かれていることがどこまで真実かは分かりません、が、とりあえず、この資料にそって、もう少し、事故のイメージを頭の中に作り出してみましょう。
このレポートによれば、事故はひとつのタンクの上部についている配管が破断して起きました。そう、"破断"です。漏洩事故などと言っていますが、ポタポタと漏れたのではありません。破断したからこそ、83000リットルもぶちまけたのです。

では、このタンクのある部屋はどうなっているのでしょう。これも分かりやすい絵を見つけました。
上と同じく六ケ所村の資料からリンクして表示している絵ですが、こんな風になっているようです。


http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/pict/04/04070108/05.gif

液体は今、こんな二重の分厚い障壁を持った部屋の中に閉じ込められています。まずは安心ですね。
セルという言葉がよく使われますが、内側の四角がセルです。このセルの大きさは高さ20メートル、幅が20メートルと60メートルで、中に二機のタンクが設置されているそうです。
セルの厚さは2、3メートルで、コンクリートとステンレスで出来ているようです。さらに、その内側に漏洩液受け皿というのがあります。英語ではドリッピングトレイと言うらしい。タンクから液体が漏れた場合、このトレイが受けとめ、斜面になったトレイの面を液体は落ちて、漏洩検知装置のある窪み(ピット)まで落ちます。
ピットに落ちた液体は、本来ならば、スチームジェットポップで回収されます。それが今回は回収できていないのは、ポンプの能力をはるかに上回る容積だからか、あるいは、ポンプが破壊されてしまったからかもしれません。

この図ではドリッピングトレイはかなりの高さまであります。技術畑の人に話を聞いたところ、こういう場合はタンクの中身がすべて流出しても、受け止められるように設計するだろうということ。だから、83000リットルの液体がトレイの中には収まっている可能性は高そうです。
あと、そう聞いて、あらためて疑問に思ったのは、流出した83000リットルというのは、タンクの総量からすると、どのくらいの割合なのだろう?ということです。これはタンクの大きさが分からないので、分かりません。
とはいえ、タンクの容積が83000リットルより小さいことはないでしょう。
セルの一辺が20メートルというところからして、中に置かれている二個のタンクはそれぞれ直径5メートルから10メートルの間ぐらいではありそうです。でも、直径5メートル、高さ5メートルの円筒だったら、容積は98立法メートルくらい。ということは、83立法メートルはほとんどすべてぶちまけたに等しくなってしまいます。
直径10メートル、高さ10メートルあれば、その8倍の容積ですから、1/8くらいが漏れたのかもしれませんが、いずれにしろ、漏洩というよりは流出といった方が良い量です。

タンクの上部の配管から流出した液体は、こぼれ落ちる時に、タンクを支えている鉄製の構造物の一部を熔かしたそうです。ですので、液体中には溶けた鉄も含まれている。鉄が溶けたのは高温だったからなのか、硝酸だったからなのか、その両方だったのかは分かりません。残った鉄の構造物がいつまでタンクを支えていられるも心配ですね。

昨日のBLOGにも書いたようにトレイが受けとめた液体の状態については、何一つ発表がないので分かりません。が、理科系の人に聞いたところ、溶液になっているならば、溶けているウランもプルトニウムも液体中に均一に存在するはずだということ。プルトニウムが沈澱して低いところに固まっていく、というようなことは考えられないそうです。窪みにプルトニウムがたまっていくのではないか、と考えてしまう僕は、やっぱり文科系ですね。
しかし、液体の揮発によって濃度が上がっていくことはないのか?とか、硝酸の腐食作用とウラン、プルトニウムの強い放射能、熱にさらされるトレイ、セルの強度は?とかはやはり気になります。

さて、これで少しはどういう事故だったのかがイメージできるようになってきました。
が、どうにも賦に落ちないところはあります。

まず、それは事故の発見についてです。
工場の運転員が、剪断・溶解された使用済み燃料溶液が、工程の次の段階ー清澄セルの計量槽に到着しなかったことで漏洩に気づき、カメラで確認した、というように報告されていますが、そんなことがありえるでしょうか?
83000リットルです。少しづつ漏れて、そんな量になることは不可能です。83時間かけても毎時1000リットルですから。
そして、セルの内部には上の図のようにわずかな漏洩も検知するシステムがあります。

再処理施設での放射性物質の漏洩については、こんな資料を見つけました。

http://www.jnc.go.jp/news/topics/PT98122501/4-2-2/betten3/

この資料で語られているのは何ミクロンの穴、何ccの液漏れといった微小なトラブルの検知についてです。配管の完全な破断はありえない、ともしていますね。
漏洩することはあってならない放射性物質ですから、そのくらいの検知システムが備えられているのは当然でしょう。ピットの検知システムとは別に、主排気筒のモニタでも極めて微小な漏洩を検知できると書いてあります。
今回の事故はそんなレベルの出来事ではありません。配管が破断して、83000リットルの液体が吹き出したのです。タンクや配管内には圧力計や温度計だって備えられていないはずがない。破断が起こった瞬間にすべてが異変を示さなければおかしい。警報が鳴らなければおかしい。

さらに奇妙なのは、破断した配管がタンクの上部に繋がっているものだったとされている点です。上部にあるということはタンクに液体を流入させる管でしょう。液体の移動には重力を利用するのが、再処理施設の基本設計だそうですから。
「清澄セルの計量槽に到着しなかった」というのとも、これは合致しますね。タンクの手前で流出してしまったわけです。
しかし、その流出量はタンクひとつ分の容積をすべてぶちまけたか、少なく見積もっても1割くらいはこぼしてしまった量です。タンクの出口の側で配管が破断したら、タンク内から多量の流出が起こるのもまだ分かります。でも、タンクの手前でそんなに沢山こぼすことがありうるのか? わずかな漏洩でも瞬時に検知できるシステムがある場所で、大規模な管の破断に気づかず、タンクに入れているつもりで、83000リットルに達するまで液体をこぼし続けた?

もうひとつ、上のレポートでは破断した配管は複数だとも書いてあります。複数の配管が同時に破断する。一体、その原因は何でしょう? 一本だけだったら、腐食とか、金属疲労とか原因で破断することがあるかもしれない。でも、二本以上同時に老朽化が原因の破断が起こるはずはない。複数の配管が同時に破断した時には、原因は配管自体ではなくて、何かの別の要因があったと考える方が自然です。

なんだかまたミステリーになってしまいました。
本当にタンクの上部で複数の配管が破断したのか? 83000リットル流出するまで、誰一人、それに気づかなかったのか?
液体はたぶん、100トンはあります。上の写真の建物の中で、そんな量の液体が噴出して、落下したら、巨大な震動だってありそうです。
ミステリーの答はいつか明かされるのでしょうか?

memorylab at 22:02│Comments(1)TrackBack(7)この記事をクリップ!

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1. 英セラフィールドの核処理施設で重大事故  [ unnatural groooove ]   May 25, 2005 02:14
まだ全く事態が飲み込めていないのですが 知らん顔する訳にもいかないので。 →[http://blog.livedoor.jp/memorylab/:title] 音楽評論家高橋健太郎氏のblog。 検索してみてもひっかかるのはblogばかりで 新聞・TVなどでも全く報道されていない様子。 ・・きっとピア
2. セラフィールドの漏洩の件について  [ ひろのきまぐれ日記 ]   May 26, 2005 19:28
 めたかさんのコメントから教えていただいたエントリにトラックバック。  今日、この件についてははじめて知ったので、  情報はトラックバック先のものだけでこのエントリは書いてみました。  端的に言うと、放射性物質は施設内でとどまっていると思われます。
3. ウラニウムについて  [ ひろのきまぐれ日記 ]   May 26, 2005 19:40
 一言でウラン(ウラニウム)といいますが、ウランには同位体というものがあって、  いろいろな種類があります。  今回の漏洩の件で、もれたウランは20トンとのことですが、このうち核分裂性を  もったいわゆる臨界をもたらすウラン235と言われる同位体の濃度
4. 再処理施設の核不拡散性について  [ ひろのきまぐれ日記 ]   May 26, 2005 19:55
 こういう核物質とくにプルトニウムの漏洩が起こると、核の拡散が心配に  なると思いますが、今回のような再処理施設の上流側の漏洩では、  事実上その拡散はありえません。  というのは、放射線があまりに強すぎて、そばに近づけないからです。  これは使用済
5.   [ johnnyjumpupの日記 ]   May 27, 2005 12:00
 こんな事件があったのですね……  報道されてる?
6. セラフィールドの事故は本当に"漏洩“事故か?  [ johnnyjumpupの日記 ]   May 27, 2005 12:01
 こんな事件があったのですね……  報道されてる?
7. セラフィールドの件,続報。4月以降いろいろあったらしい。  [ today's_news_from_uk+ ]   May 27, 2005 22:18
4月に英セラフィールド原発の再処理工場で20トン以上のウランと160キロのプルトニウムがパイプから流れ出していた件(<1つ前の記事)の続き。 あまり時間の余裕がないのですぐにできることしかやってません

この記事へのコメント

1. Posted by ひろ   May 26, 2005 19:41
取り急ぎ原子力のエンジニアとしての見解をまとめて、トラックバックしました。再処理は専門ではありませんが、質問がありましたらわかる範囲でお答えしますので、よろしければご連絡ください。

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