May 26, 2005

セラフィールドの事故は本当に"漏洩"事故か #2

 その後も日本のメディアではまったく報道はありませんね。某テレビ局のニュース番組が取り上げるのでは・・・という情報もなくはなかったりしますが。
 イギリスからも何も続報はないようです。だから、書くことなどないといえばないわけですが、そこは文科系の人間ですからね、ネタは何とかします。理科系の場合は、十分な判断材料となる情報がない時は、コメントしないのが正しい態度とされるようですが、音楽評論家なんてのは、ミュージシャン当人に確認したわけでもないことをあれやこれや憶測で、しかし、断定口調で書くのが常ですから。

 さて、一昨日のBLOGで書いたセラフィールドのソープ(再処理)工場での事故への疑問点について、今日はもう少し、セラフィールドの過去をほじくり出しつつ、考えてみましょう。
 まずは順番を逆にして、疑問点をもう一度、整理します。
第一の疑問は複数の配管が破断した事故が起きたことです。複数の配管が同時に破断するには、何らかの大きな力がその瞬間に働いたと考えるのが自然でしょう。大きな力というのはいろいろありえますね。物がぶつかるとか。内圧が急激に高くなるとか。が、よほどのことがなければ、ありえないとされる管の破断が複数、同時になど起こらない。だから、人間の入ることのできない密室の中で、何かよほどのことがあったのは確かです。
 が、ニュースはまったくそこを突っ込もうとしない。というより事故原因に触れた情報はまったく目に出来ません。これは非常に不自然です。

 第二の疑問は、タンクの手前で破断した管から、83000リットルもの液体をこぼしたことです。これはタンクをほぼ満タンにする量か、少なく見積もっても一割くらいを満たす量にはなるはずです。液体中には使用済燃料から熔かし出された20トンのウランとプルトニウムが含まれています。
 ところで、5/9の英ガーディアン紙の記事によれば、セラフィールドのソープ工場の年間処理目標は725トンだが、昨年は590トンの達成にとどまった、そうです。この処理目標の725トンというのは、使用済み燃料の量でしょう。液体中にある20トンのウラン、プルトニウムは、使用済燃料から金属被覆を取り去った後の中身から熔かし出されているものですから、もとの使用済燃料は20トン以上はあるということです。
 ということは、昨年並みの操業をしていたとすると、年間処理量の30分の1以上の量だったのは確かですね。
 が、さらに注意深く資料を読んでみると、事故の起こった清澄セルの計量槽というのはふたつあるようです。つまり、ラインは二系統あるということですね。だから事故が起こった方のラインについていえば、年間にそこを通過するウラン、プルトニウムの15分の1以上が流出したと考えていいように思います。

 そんな量が一度に流出するものなのか? 二、三週間、流しっぱなしにしたって、流出するのは15分の1じゃないか?と素人は考えてしまいますね。とすると、流出はいつ頃に始まったのか? と思ったら、原子力情報資料室のHPにこんな記載がありました。

◆セラフィールド原子力施設内にある同工場では、すでに4月5日に清澄セル内で漏えいが確認されたため、部分的に運転が停止されていた。
http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=140

 本当でしょうか? とすると、4/5から漏洩しているのが分かっていたが、二週間、洩らし続けた?
 幾らなんでもありえない話に思えますね。イギリスからの情報資料にはそういう記述は見当たりません。ひょっとすると、これはこの記事の誤訳かな?
http://www.corecumbria.co.uk/newsapp/briefings/briefsmain.asp?StrNewsID=210

 もうちょっとしっかりして欲しいですね、原子力情報資料室は。GOOGLEで「原子力情報資料室」で検索して一番最初に出てくるのが、更新がとまったまま放置されている旧サイトだったりするし。
 ちなみに、工場は事故の後も5/6まで操業を停止しなかったそうです。が、事故が起こった清澄セルより手前のラインは動かせなかったでしょう。処理途中の溶液が増えてしまいますから。事故が起こったセルをすでに通過した溶液の処理を続けたということでしょうね。それがすべて終了するのに、二週間以上かかった。

 第三の疑問に移りましょう。管が破断して流出が起こったなら、瞬時に検知システムが働いて、警報が鳴ったはずではないか? 83000リットルも流出してしまった後になって、気づいたとされる理由です。
 検知システムが故障した? すべての検知システムを破壊するような、よほどのことがセル内で起こったのでしょうか? でも、検知システムは主排気ダクトの中にもあるらしいので、それは難しそうです。ピット内の検知システムや漏洩した液体を吸い出すポンプなどは破壊されてしまっているのかもしれません。ポンプで吸い出すことが出来ないようですから。
 では、検知システムは異常を伝えていたが、作業員がそれを無視していた? これについてはセラフィールドは前科があります。

◆セラフィールドは、爆発警報を無視した
http://www.jca.apc.org/mihama/uk_france/bnfl_burst010211.htm

 恐ろしい話です。「2000トン以上の高レベル核廃棄物が爆発寸前だった」なんて・・・。こんな前科からすれば、警報は鳴ったが、しばらくの間、無視されたという可能性は排除できませんね。

 さて、ここでセラフィールドの核施設の前科について、もう少し、見てみましょう。以前にもリンクしましたが、過去の事故歴はここにあります。

◆再処理工場の主な事故
http://www.labyrinth.co.jp/~hoode/kakunen/jiko.html

 1986年に配管からのプルトニウム漏れで作業員11人が汚染。1992年には30リットルのプルトニウム溶液漏れ。この時には、計測危機が早期検知に失敗したと書かれていますね。一度、失敗したのに、改善されていなかったのでしょうか?
 1994年には4トンの硝酸漏れ。4トンも漏れるのは配管、もしくはタンクのかなりの破損がありそうです。破断かもしれませんね。
 そういえば、僕は文科系なので、硝酸の比重も知りませんでしたが、これは1.5くらいのようです。ということは、4トンは2700リットルくらいか。
 今回、流出した83000リットルは硝酸だけで120トン以上はありますから、溶けている20トンのウラン、プルトニウム、さらにそれ以外の核生成物質を含めると150トンはあるでしょう。過去の漏洩事故と比べても、やはり桁違いです。

 さらに事故ではありませんが、こんな報道も知っておく必要があるでしょう。

◆核物質30年間放置 貯蔵プールに溶け出す(2004年12月13日 毎日新聞)

英国核燃料会社(BNFL)が運営する原子力施設の屋外貯蔵プールで使用済み核燃料を覆う合金が腐食、内部のウランやプルトニウムが一部溶け出したまま約30年間放置されていることが11日、欧州連合(EU)高官の証言で分かった。溶け出した放射性物質はプールの底に沈殿し、プールの水も放射能を帯びている。同施設についてはEUが9月、「安全情報が得られない」として、英国を欧州司法裁判所に提訴していた。
使用済み核燃料が溶け出したのは同社のセラフィールド事業所(英国中西部)の施設「B30」。
BNFLは、60年ごろから使用済み核燃料を施設内の屋外貯蔵プールに一時貯蔵、敷地内の工場で再処理し、核兵器や核燃料に使うプルトニウムを抽出していた。
ところが、74年に再処理工場が長期間稼働を停止したため、核燃料が長くプールに停滞。燃料を覆うマグネシウムとアルミの合金の表面が腐食した。このためウランやプルトニウムを含む内部の燃料が溶け出し、底部に沈殿した。水は濁り、放射能値も高まった。
その後、これらが障害となり再処理作業が遅れ続け、核物質の沈殿も続いたという。
BNFLは沈殿量を明かしていないが、プールには92年まで核燃料が搬送されていた。関係者によると現在、プールの水はかなり濁り、付近での作業は一定時間内に制限されている。BNFLは「環境への影響や、安全性には全く問題はない」としている。
BNFLはプールなど同施設の解体を検討中だが、関係者は「10年以上の期間と、膨大な経費が必要だ」と話している。
同施設を巡っては、EUが昨年以来▽放射性廃棄物の全体量▽安全確保のための計画▽査察官の立ち入り調査−−などを要求。だが英国は満足な回答をせず、EUは英国を同裁判所に提訴していた。BNFLは99年、日本向けのウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の検査データねつ造が発覚、大きく批判されている。

 毎日新聞はこんな報道はしたのに、なぜ、今回の事故はまったく報道しないのでしょう? この記事はWEB上のMainichi Interactiveにも乗っていましたが、現在は当該URLは削除されてしまっています。

このプールの危険な状況については、ここにも英紙の記事翻訳があります。

◆セラフィールドの「汚れた」貯蔵プールがもたらしている恐れ
http://www.jca.apc.org/mihama/uk_france/sundayherald030713.htm

 このプールは屋外プールだそうです。使用済み燃料が溶け出してしまったまま、30年も放置され、水は濁って、中は視認できなくなり、放射能が高くて、容易に人が近づかなくなったプールが、一昨日のBLOGの航空写真のどこかに写っているというわけですね。
 このB30プールは1992年以後使用されていないということですが、ということは、現在は別のプールに使用済み燃料は置かれているということですね。今回の事故で、ソープ工場の操業再開のメドが立っていないということは、その別のプールを含め、使用済み燃料が処理できないまま放置される問題が起きてくるかもしれません。

 というより、今年からこのB30プールを含めたセラフィールド施設のクリーンアップ作戦が進められる予定になっていたが、その予算のかなりの部分は、ソープ工場の生み出す利益によって、まかなわれることになっていたようです。クリーンアップの予算は年間4300億円ほどで、そのうち、1100億円ほどはソープ工場の事業利益があてにされていた。
 うーん、これまた凄い数字ですね。クリーンアップには10年かかるということですから、単純に10倍すると4兆3000億円かかる。これを再処理工場の事業利益でまかなおうとすると、40年分になる。過去30年の操業で生み出した放射能汚染をクリーンアップするのに、これから40年分の事業利益を費やすって? 再処理がいかに非経済的なアイデアだったかが分かります。

 しかし、ソープ工場の操業停止によって、そのクリーンアップも予算のめどが立たなくなった。さらに、操業停止によって、処理されるはずだった使用済み燃料の保管の問題も出てきた。もちろん、これにも莫大な費用がかかるでしょう。と考えると、今回の事故による経済的損失は、事故処理にかかると言われる数百億円から一兆円(これも幅のあり過ぎる予想ですが)だけではなく、時間がかかればかかるほど、雪だるま式に膨れ上がって、イギリスという国の屋台骨を揺さぶるくらいものになるのは間違いなさそうです。

 このあたりの話は英ガーディアン紙の報道に詳しい。翻訳資料は下のリンクにあります。
http://blog.livedoor.jp/aoyama211111/

 ただ、この辺の資料を読んでいると、いろいろな機関の略称がこんがらがってきます。NDAとか、BNAとか、BNFLとか。スポーツの団体みたいですが、何度も読んでようやく分かってきました
 NDAは原子力廃止措置機関。政府機関です。このNDAが今年の4月1日にBNFL(英国核燃料公社)から工場の所有権を引き継いだのだそう。事故の直前に工場の所有者が民間から政府機関に変わったのですね。原子力廃止措置機関はセラフィールドのクリーンアップを進めるとともに、再処理事業そのものの見直しする方向で設けられたものでしょう。
 所有者はNDAに変わりましたが、工場の操業はBNG(英国原子力グループ)に委託されたそうです。じゃあ、BNGって何だ? と思ったら、文書の中にこうありました。(BNG formerly BNFL)。
 なんだよ、同じじゃん。でも、この名称変更も意味はありそうです。セラフィールドは核燃料の再処理を主な目的にした施設ではなくなっていく方向にあった。だから、もはや核燃料公社という名称はふさわしくなかったのでしょう。早く各国から預かっている使用済み核燃料の処理を終えて、契約を履行し終ったら、イギリス国内の使用済み燃料について再処理を続けるかどうかを見直す。そういう時に、あろうことか、かつてない大事故が起こってしまった。

 という流れからして、今回の事故がイギリスの使用済核燃料の再処理からの撤退を決定づけるのは間違いなさそうです。たぶん、今後はそういう報道が相次ぐでしょう。

 でも、そちらに報道の比重がかかることによって、事故の詳細、とりわけ事故原因については、このまま闇に葬られそうな空気があります。もう再処理やめるんだからさ、それはいいじゃない、と。まあ、イギリスではそういう空気になるのも分からないではない。が、日本人にとってはどうでしょうね? これから六ケ所村の再処理工場を稼働させようとしているわけですから。

 さて、長くなってきましたが、セラフィールドの過去をほじくる資料はまだありました。これは最近のものですね。去年の11月にも、こんなミステリーが起きていたようです。

◆MYSTERY OVER RADIATION SPIKE
http://www.whitehaven-news.co.uk/health/viewarticle.asp?id=201875

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1. セラフィールドの件,続報。4月以降いろいろあったらしい。  [ today's_news_from_uk+ ]   May 27, 2005 22:18
4月に英セラフィールド原発の再処理工場で20トン以上のウランと160キロのプルトニウムがパイプから流れ出していた件(<1つ前の記事)の続き。 あまり時間の余裕がないのですぐにできることしかやってません
2. セラフィールド…重大性を隠匿しようとしたBBCニュース  [ 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士 ]   May 28, 2005 01:41
セラフィールドについて、再度、海外のメディアをチェックしていたところ、BBCが4月23日時点で、報道していたことを発見しました。 http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/cumbria/4476905.stm 記事は、その半分以上を使って、「たいしたことないよ。安全」としている。

この記事へのコメント

1. Posted by 竹山徹朗   May 29, 2005 12:46
「1月に漏洩していて、それを3ヶ月間放置していた」という情報があります。
2. Posted by 流離のRSSウォッチャー   June 03, 2005 03:11
いろいろなリンクを流離いつつ、ココに辿り着きました。

…原子力関連のニュースは、日本ではどうもタブー視される傾向が強く、国内の事故ですら殆ど続報が聞かれませんね。

核燃料の再処理を海外に依存してる現状からか、日本の核政策に関連しそうな「海外事故」はなおさら報じられないのではないでしょうか…

…ところで、Thunderbird1.0.2内蔵のRSSリーダー機能では、この『#2』が読み込まれないようです(記事の内容が白紙になります)
修正していただければ幸いです。

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