April 15, 2004

今夜は

うちには若い衆が4人(3/4はギャル)も泊まっているのだが、みんなが寝静まった後に目が冴えてしまったので、この機会に書くことにする。

昨日の参議院・文教科学委員会について、幾つかのサイトでチェックしてみたが、思った通り、いや、思った以上にヤバイですね。レコード協会会長が五大メジャー以外の日本のレコード会社から出ている(エーヴェックスの前はそういえばビクターだったな)意味まで、分かったような気がした。
J-POPのCDのアジアからの還流阻止が、実は著作権法改定の主目的ではないのかもしれない。表向き、否定すれば否定するほど、この法案が通った翌日から、レコード会社が消費者を無視して、最大限の利益率を得るために国内盤と輸入盤の流通をコントロールできる図式が見通されてしまう。五大メジャーにとっては、まさに棚からボタ餅。CCCDに続いて、日本ではやりたい放題、という図が作り出されるだろう。
いやいや、五大メジャーじゃなくても、僕のような極小のレコード会社をやっている人間ですら、この法案が通れば、利益がないわけではないです。国内盤の高価格が維持されれば、やりやすいですもん。うちみたいに沢山売れるわけではないCDをそれでも最大限、クォリティーを落さず、作ろうとしているレーベルだって。あるいは、ライセンス・ビジネスをするにあたって、輸入盤の流入が抑えられるなら、抑えたいに決まっています。レコード会社の経営者のひとりとして、最大限の利益を上げることを考えたら。
五大メジャー以外の洋楽のライセンス・ビジネスをしているインディー系レーベル、あるいは、輸入盤の販売を主とする大型レコード店からも、この法案に対して、大きな反対の声が上がらないのは、そう考えると頷けることだったりする。輸入盤に対する規制が行われたら、タワーやHMVが一番打撃を受けそうに思うけれども、実はそうではないのかもしれない。国内盤の高価格が維持されること。それによって、多くの宣伝費がレコード店にも投下され続けること。そのことの方が大型店にとっては重要であるかもしれない。ちょうど今頃、そのあたりを社内で論議しているところかな。

ちょっと話が逸れるけれども、二十数年間も音楽業界に巣くってメシを食ってきた僕は、純粋な音楽ファンとは違うとは自覚しています。この業界ではかつて、レコード会社はかなり利益率の良いショーバイであり、僕もその恩恵を多分に受けてきた。どれほど利益率が良かったかというのは、年間7000億あったという売り上げが4000億代にまで落ち込んでも、ほとんどのレコード会社が潰れてはいないことを見ても分かる。他の業界だったらアリエナイでしょう。20%以上もその産業自体がシュリンクしたら、バタバタ会社が潰れているはずだ。
とはいえ、今やこの産業は虫の息というのも事実には違いない。近年のレコード会社のリストラの凄まじさはこの目で見ているし。音楽業界でメシを食っている以上、この先、さらにシュリンクが続くとしたら、僕だってお先マックラだろう。そして、先も書いたように、レコード会社の経営者のひとりとして単純に考えたら、輸入盤の流入のコントロールは出来ないより、出来た方が良いに決まっている。少なくとも、僕はそう考える立場にいる人間だということは書いておいた方が良い気がする。

しかし、それでも僕は法案には反対だ。ひとりの音楽ファンとして。なんて書くとキレイゴト過ぎるから、ただ単に、文化を法律で規制しようということ、それ自体が気にくわないから、と言った方がスッキリするかもしれない。だから、J-POPのCDのアジアからの還流阻止だけに限る、ということだったとしても反対だ。
ただし、その一方では、こういう感情があることも書いてはおきたい。この一、二週間、輸入盤の規制について、うちのBBSやよく見るBBSにも多くの書きこみがあったり、知り合いから何通ものメールをもらったりもする中で、US盤やUK盤が入ってこなくなることがそんなに大変なことか?という気持ちになった部分もあったのは正直なところだった。そこだけを見て、そこだけに反対して、それが阻止されればいい、というのは、感覚的にどうもしっくり来ない。
いや、僕だって輸入盤をたくさん買う人間のひとりだから、買えなくなったり、価格が上がったりすれば、不利益を被るとは言える。が、世の中では輸入盤なんて買ったことがない人が大多数を占めるはず。その人達(例えば、自分の母親であったり)に何が問題なのか、ブランド品やソフトウェアの並行輸入が規制される例とはどこが違うのか、うまく説明できなければ、一部のレコード・マニアが安い輸入盤が買えなくなったと嘆いている、という程度のこととしか、社会には認知されないだろう。そうじゃなくて、究極的には、どういう社会が欲しいのか、どういう文化を楽しみたいのか、そのためにオマエは何を守らなきゃいけないのか、ということが、この件だけじゃなくて、あっちやこっちから僕達には問われているはずなんだけれどね。

輸入盤の規制が現実になり、国内発売された同一タイトルのUS盤やUK盤がタワーやHMVで買えなくなったとして、僕個人がどれだけ困るかということを想像すると、実はそれほど困らない、とも思っている。欲しいレコードは法をかいくぐっても、手に入れるだろう。個人輸入もあるし、海外に買い出しに行ったっていい。タワーやHMVが日本になかった頃から、それこそ30年以上もずっとやってきたことなのだから、あの手、この手でやり続けますよ。そもそも輸入盤文化なんてサブカルだったのだ。またそこに戻ればいいだけじゃないか、とも。
五大メジャーがやりたい放題、もさ、やりたきゃやればいいじゃん。文化を法律で規制しようというような動き(それもただ単に権益のために)がここまであからさまになると、もはや、ついて行かない音楽ファン、あるいはミュージシャンも確実に増えていくはずだ。CCCDだって、すでに相当数のそういう人達を作り出した。その上、時代に逆行する障壁作りまで進めた日には、いよいよ見捨てられますよ、レコード会社なんてものは。それは結果として、僕が、あるいは僕の周囲にいる多くの友人達が五大メジャーの外側に作りだそうとしているものを加速させることになるかもしれない。大手のレコード会社を介さない、アーティストとリスナーの直接、取り引きの形もこれからはもっと増えるだろうし。つまるところ、パッケージ・ビジネスの断末魔でしかないのだ、こんな出来事は。僕達はその先をしっかり見ていればいい。そんな風に楽観視する自分もいたりする。

というようなことをつらつら書いてくると、オマエはどっちなんだ、反対なのか、賛成なのか、と問われそうだが、何度も書いているように、もちろん反対なのです。そもそも、法による規制なんて少ないに越したことはない。だから、それを潰すために、音楽業界の内部の人間として出来ることがあればする。具体的なアクションについては、周囲にいる人達と話し合いたいとも思っています。

あるいは、もし法案成立してしまった時にはどうするか、についてはひとつ考えていることがあります。というのは、僕はこれまで音楽評論家としては、国内盤に対してある程度の保護というか、優遇というかを与えようとする立場でした。1年ほど前に、朝日新聞の「試聴室」欄で輸入盤を取り上げられるようにしたいという要望がピーター・バラカン氏から出て、筆者の間で議論が行われたのですが、僕が強硬に反対し、膠着状態になったため、結局、国内盤に限るという原則が保持されたのでした。しかし、法案成立後はこの立場を変えることにします。そのぐらいはしないとバランス取れないですからね。

memorylab at 06:38│

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1. 高橋健太郎氏が輸入権問題に多面的な見解  [ OTO-NETA ]   April 17, 2004 04:59
owner's log←newswave on line (personal edition) 小野島さんのページで知ったエントリー。 さかな、朝日美穂、篠原ともえ…などなどのプロデューサーを務め、自身でもレーベルMEMORY LABをやっている高橋健太郎氏が輸入権問題に言及しております。複数の立場からの正直な
2. ちりだって積もれば誇り!  [ ao2yo4 blog ]   April 17, 2004 09:03
はじめまして。 輸入盤の販売を主とする大型レコード店から、この法案に対して、大きな反対の声が上がらない理由を高橋さんが書いています。
3. 2004-04-17  [ wms: musicbiz edition ]   April 17, 2004 14:59
 音楽業界の人で「けんたろーさん」と言うと、オレの場合、萩原じゃなくて高橋。そこに深い意味はまったくないのだけど(笑)、その高橋健太郎さんまでが通称レコード輸入権に関するコメントを公開した。読んでみる ...