April 21, 2004

賛成191、反対0

僕が知る限り、音楽ファンで賛成している人など、誰もいない。コピー・コントロールの問題だったら、いろんな立場があるかもしれないが、今回の著作権法改定は自分の財布を開いてレコードを買う人間だったら、賛成しようがないものだ。市場分割や市場閉鎖に繋がる点で世界の流れに逆行し、国内盤の高価格が維持されてしまう点で消費者の不利益が大きく、独占禁止法に抵触しかねない。しかも、日本で原盤製作されたCDのアジアからの還流防止を法案提出の目的と謳いながら、実際にはUS盤やUK盤の輸入規制に繋がり、五大メジャーに大きな利益をもたらす内容の法案だったという騙し打ちですらあった。
だが、参議院では出来レースが繰り広げられただけ。音楽ファンの声などどこ吹く風。国会とはそういうものだ、というのを今日は思い知らされました。

つまるところ、この一件を通じて、僕達が見ているのは今の日本そのもの。そう思えてならない。この前、レコード協会の会長がなぜ、五大メジャー以外のレコード会社から出るのだろう?ということにちょっと触れたけれど、ここ三代についていえば、キング〜ビクター〜エーヴェックスと外資系以外のレコード会社から会長を出ているのは、たぶん、五大メジャーにばかり牛耳られるのではない、独自性を持った「日本」レコード協会であろうというタテマエもあってではないかと思う。
しかし、現実には今、行われようとしているのは、五大メジャーに利益を導くための著作権法改定だ。
実は僕はエーヴェックスの依田さんともわずかながら面識がある(ジャーナリストあるいはプロデューサーとして、僕はエーヴェックスにはそれなりに世話になっている)。だから言うわけではないが、彼ひとり、あるいはエーヴェックス一社が、今回の一件を強引に押し進めているとはとても思えない。
エーヴェックスにアジアからの還流防止を求めさせることによって、五大メジャーが表に立つことになく、こっそりと利益誘導が行われるシナリオが描かれていたのではないか。そう考えてしまうのは、僕だけではないだろう。
7月から発効する日米租税条約によって、外資系レコード会社の日本現地法人が得たライセンス収入は日本国内の課税対象外になるという。五大メジャーの洋楽国内盤にはだいたい20〜25パーセントのライセンス料が乗っている。2500円のCDなら600円ぐらいか。それがそのまま吸い上げられ、主にアメリカに税収をもらたすようになるわけだ。そんなおいしい話を前に、輸入盤との競争を減らし、国内盤が高価格のまま維持される環境作りのための法案が通るというのは、何ともよく考えられたシナリオではないか。日本人のアタマで考えついたのか?と言いたくなったりさえする。

しかし、それこそは今の日本そのもの。日本のレコード協会会長が、非外資系レコード会社から選出されているにもかかわらず、アメリカやイスラエルに利益を導いていく図は、そのまま、ブッシュの忠犬のような小泉政権の在り方をなぞっている。つまるところ、そういう国にしてしまったツケを音楽ファンも払わされるということだろう。
レコード会社と音楽ファンの対立、というだけだったら、まだ良かった。企業と消費者の利益、不利益はどこかでバランスが取れるものだから。が、結果的にはどちらの利益にもならないことが、さらには国益にもならないことが、堂々と国会を通過して行ってしまう。そういう国になっていたのだ、日本は。
今回の著作権法改定は小泉政権の「知財立国宣言」のもとに押し進められている。政界で旗を振っているのは、自民党のコンテンツ産業振興議連会長である甘利明衆議院議員だ。彼のホームページにはこう書いてある。「特許や著作権を戦略的に駆使して産業の競争力をつける、たとえ高くても日本のモノを使うしか方法がない"オンリーワン政策"の構築です」。これが彼の考える「知的財産国家戦略」であるという。
ところが、「高くても日本のモノを使うしかない」というのは海外においての日本製品の競争力のことを指しているのではなかったわけだ。これから日本の洋楽ファンが「高くても国内盤を買うしか方法がない」ことになるのだから。そして、その中身は欧米からライセンスされたソフトであり(CCCDの場合はその特許もだ)、外資系レコード会社の場合は、原盤のライセンス料は日本の税収には繋がらない。
う〜ん、もう誰が益を得るかはらかですね。

と思ったが、ちょっと待て。ひょっとすると、甘利さんは考えているのかもしれない、日本の音楽文化のことを。僕達などよりもずっと真剣に、長い目で。入ってこない輸入盤、高いうえにCCCDの国内盤。それに嫌気がさして、音楽ファンの洋楽離れが進む。問題ないじゃないか、と。コンテンツ産業の振興のためには、オリジナルなソフトを生み出すことが必要なのだから、イ〜カゲン、欧米の音楽をフォローすることはヤメロ。聞かなければ、真似もしなくなるだろう、と。
ここは一度、情報鎖国して、オンリーワンのサムライ・ミュージックを生み出せ、ということだったら「知財立国」の一環としても理解できますね。ついでにヤマハやローランドやアカイの機材なんかを全部、輸出禁止にするのも良いかもしれない。日本のミュージシャンしか使えない純国産エレクトロ・サウンドで、国際競争力のある音楽ソフトの創出をめざす、というのはどうか。

というようなことも冗談だけでは言っていなかったりします。前にも、壊滅させっちゃたら、なんて書いたけれど、そういう破壊的な気持ちが僕の中にあるのは正直なところだから。その根底にあるのは、ミュージシャンもメディアもリスナーも、ちっとも危機感を持たないまま、こんな場所まで来てしまったことへの苛立ちかもしれません。少なくとも、レコード会社は危機感を持っている。だから、企業の論理の中でジタバタしているのだと思う。でも、ミュージシャンもメディアもリスナーも、レコード会社から与えてもらうものを待っているばかり。だとしたら、企業の論理でしか、物事は変わっていかないでしょう。オルタナティヴが示されないんだから。
ミュージシャンが魅力的な音楽を生み出して、メディアやリスナーがそれを積極的にサポートして、という音楽シーンがそこにあれば、レコード会社なんて、その後から着いてくれば良いだけの存在かもしれない。理想論かもしれないけれど、少なくとも、30年以上、ポピュラー・ミュージックを聞き続けてきた中で、そういう光景を目にしなかったわけではない。そのことを思うと、レコード会社批判だけでは何も変わらない。変わらなきゃいけない要素は、むしろ、その他の場所の方に多いのではないか、というのが僕の皮膚感覚だったりするのです。
例えばの話、CCCDについてだって、レコード会社の人とそのことを話題にすることは多いし、いろんな状況で、いろんな意見をかわしてきた。一個人としての意見を含めて。見て見ないフリをしている人、口にすることを避けている人は、むしろ、他の場所に絶対的に多い。ほとんどの音楽雑誌やラジオにおいては、そんなもの存在していないかのようだったりするのだから。ネットだけがジャーナリズムを担わなきゃならない時代なのか。そういうことを含め、狂っていると思うのだ。この国の音楽シーンは、ひいてはこの国は。そこをいいように利用されちゃうんだよ、アメリカに。

話を戻すと、とりあえず、参議院では付帯決議をつけた上での通過にはなった。一歩、押し戻したとは言えるのだろう。が、付帯決議というのは、つまり、この法律の運用にあたっては役人が慎重に判断すべき、ということのようだから、僕の一番恐れることが現実になるわけだ。「法を運用する役人の判断が、音楽の現場に入ってくる」というね。運用に幅が持たされるということは、イコール脅しをかけられるわけです、役人は音楽シーンに対して。
同じく甘利明衆議院議員ほかが提出した「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案」で、コンテンツ制作者に「青少年等に及ぼす影響への配慮」を義務づける条項(第6条2項)が問題視されていることも然り。この条項から多くの人が想像するのは、ネット・ポルノに対する取り締まりかもしれないが、現実にはネット上の裏の産業に対する取り締まりは不可能だろうし、その一方で国がいつ、どういう理由で「配慮に欠ける」と判断するか分からないのだから、コンテンツ制作者一般が潜在的な脅しを受けることになる。知的財産の保護なんてことを謳いつつ、どういう方向にこの国は進もうとしているのか。僕は怖いです、本当に。

memorylab at 18:14│

この記事へのトラックバック

1. [音楽] 賛成191、反対0  [ 昨日の風はどんなのだっけ? ]   April 24, 2004 04:16
音楽配信メモ経由で、高橋健太郎氏のblogより。うん確かにこの問題に関心が……というよりエンタメ業界の流通とかそういうものに関心のある人は全員読んどけって内容です。
2. 代々木で「コンニチハ!」  [ The Trembling of a Leaf -「音楽障壁」粉砕編- ]   April 24, 2004 07:01
 霞が関ビル11階にお勤めの「国家公務員」の皆さんへ 今夜は国立代々木競技場第一体育館で「コンニチハ!」 高橋健太郎氏のBLOGより。賛成191、反対0(owner's log・2004.4.21)http://blog.livedoor.jp/memo
3. 誰がための法案か?  [ 若旦那の独り言2004 Ver.3 ]   April 25, 2004 13:01
また著作権法改正ネタ。Woodenshipsさん経由でowner's logさんのこの記事。 実は先日ひとつ、イマイチ理解できないニュースがあった。こちらのリンク先にある「RIAAは洋楽についても輸入コントロール権を設定せよと要求している」というもの。どういう意味なんだろう?と思っ
4. 賛成191、反対0  [ THE WATERMELON BOOTLOG - A Masanori Furutani BLOG - ]   April 26, 2004 22:57
音楽プロデューサー・高橋健太郎氏のBLOGより。 要は、イラク派兵も輸入盤禁止も、根っこを辿れば同じってことだね。はあ・・・。...
5. 反対0  [ airoplane.net ]   April 26, 2004 23:33
ヤバイ。非常にヤバイ。ヤバイのだけど、実際どうすることもできていない。 いったい僕たちには何が出来るんだろうか。こういったサイト上で訴えかけるだけなんだろうか?
6. owner's log:賛成191、反対0  [ creatures@blog ]   April 27, 2004 01:28
owner's log:賛成191、反対0 著作権法改正周辺から。 反対0っての
7. 輸入CD規制問題  [ 燕盤日誌 ]   April 27, 2004 22:00
いわゆる輸入CD規制問題について自分なりにまとめてみた。 ・CCCD問題が輸入CD規制問題の序章としてある つまりは、 (売り手) CCCDはいやなので輸入盤を買っちゃう→国内盤の洋楽アーティストの売り上げ激落ち→こりゃいかん (買い手) CCC.
8. 海外盤CD輸入禁止問題  [ ish☆石倉由のブログ ]   April 27, 2004 23:17
 遅すぎですし、どうこう言うガラでもないのですが、裾野を広げる一助にでもなればと思います。何せ検索ワードで一番多いのが「ニューハーフ」ってサイトですから、そもそもこの問題を御存知ない方もいらっしゃるでしょう。  ポータル。 海外盤CD輸入禁止に反対する  かな
9. [音楽]  [ −・−−(ケーカリョーコー) ]   April 28, 2004 15:51
> 告知(自由にコピーペースト、メール転送などして下さい)  選択肢を保護しよう!!  著作権法改正でCDの輸入が規制される?  実態を知るためのシンポジウム  期日:5月4日  場所:新宿ロフト ...
10. 「海外盤CD輸入禁止」問題  [ nutschoco ]   May 22, 2004 00:08
賛成191、反対0ってありえんやろう。 とりあえずここで反対の署名とかやってるみたいです。
11. もうダメポ  [ Shimの日記帳 ]   June 20, 2004 17:54
まずはリンク なんか輸入盤の輸入が規制されそうな流れです。 逆輸入の日本版ならともかく、安い非CCCDの海外版が入手できなくなったり、更に解釈しだいでは海外でしか販売されていないDiscが買えなくなる可能性もあるわけで(個人輸入って手があるけど)、これだけネットで