May 19, 2004

輸入盤が規制されて・・・僕達は輸入盤だけを買うことになる(本編)

輸入盤規制に対する反対の声が急速に高まるにつれて、推進している人々も打ち消しのために口を開かざるを得なくなりました。しかし、その言葉は歯切れが悪い。そして、何かを言えば言うほど、矛盾が矛盾を呼ぶようにもなっている。
しかし、その矛盾の中には一面の真実も含まれているのではないか。なぜ、彼らは矛盾を口にしなければならないのか? 僕がずっとずっと考えていたのは、それでした。

答は目の前にありました。シンポジウムの前に買ったスガシカオの台湾盤「須賀/微笑」です。ドン・キホーテに還流盤を探しに行った時、僕が迷った末に、スガシカオを買った理由は、それが一番、台湾盤としてのオリジナリティーがありそうだったからです。バックインレイには中国語のタイトルが添えられている。ボーナストラックも入っている。逆に言うと、残りのほとんどのタイトルは日本盤のパーフェクト・クローンと言ってもよいものだったのです。
しかし、そうやって選んだ「須賀/微笑」ですら、日本盤との違いは仔細なものでした。ブックレットはすべて日本語で、オリジナルの日本盤と寸分違いません。バックインレイ以外はすべて同じと言っていいくらい。CDのレーベル面にはJASRACマークすら入っています。
これを眺めているうちに、思ったわけです。そもそも、「還流盤」とは何だろう?と。

というのも、日本で国内盤として発売されているCDもすでに、かなりのパーセントが台湾や中国本土でプレスされているからです。日本の業界最大手のCDプレス・メーカー、メモリーテックも中国本土にその生産拠点を築いています。つまり、現在、国内盤と呼ばれるものの中には、台湾や中国で生産された海外プレス盤もたくさん混じっているわけです。
ということは、もしも、とあるアーティストの日本盤が台湾で生産されていて、同時にその台湾盤も出ているという状況があったとしたら、日本盤は台湾盤の印刷物をわずかに差し替えたものだけ、と考えることも出来るでしょう。バックインレイを変えるだけで良いのです。「日本での販売を禁止します」という但し書きが加えられた台湾盤のインレイを抜いて、日本のメーカーとレコード番号を入れたインレイを入れる。それだけです。
台湾盤が日本盤のパーフェクト・クローンではなく、そもそも同じ生産ラインで生産されたCDだとしたら? 本当にそういうことが現在あるかどうかは調査してみないと分かりませんが、あっても不思議はないことです。そして、そこではつまり、国内盤と還流盤は実は同じものであるということになります。

さて、ここで先日、僕がその内容をあざ笑った三菱総研の報告書をもう一度、見てみましょう。2012年には1265万枚の還流盤が日本に入ってくる。そのベースとして、アジアで7000万枚以上の日本の音楽のCDが生産され、その82%はアジアで消費されるとこの報告書は言っているわけです。日本の音楽が主に中国語圏でそんなマーケットを築きうるということは、巨大な文化変動が起こるということです。わずか8年間で。
そんな兆しはどこにもありません。逆の兆しだったら十分にある。BOAや女子十二楽坊の日本での成功がそれです。8年後に日本のマーケットの10%がアジアのアーティストで占められることはあるかもしれない。しかし、BOAや女子十二楽坊程度の成功も経験していない日本のアーティスト達が、年間5000万枚以上のマーケットを築くなどというのは、どう考えても夢物語です。1000タイトルが平均5万枚以上売れて、ようやく5000万枚ですからね。それをめざしたインフラ(とりわけアーティスト育成などのソフト開発の努力)など、日本のレコード会社は何もしていないのですから。
しかし、この三菱総研の陳腐な報告書も一面の真実は含んでいるかもしれない。その数字をあらためて読んでみると、こういう予測もそこにはあるわけです。日本の音楽が5000万枚以上売れて、それが全体の10%程度のシェアを占める。ということは、マーケット全体についていえば、数億枚のマーケットが出現すると報告書は言っているわけです。本当にそれだけの需要が生まれるかどうかは分からない。が、それに先駆けて年間数億枚の生産能力が築かれるという予想はあながち間違っていない気がします。もちろん、その最大の拠点は中国本土でしょう。巨大な中国マーケットのために、中国でCDの生産を行う。それ以外には、一枚数百円で売らねばならないだろう中国盤のCDを成り立たせる方法はありません。

RIAAやRIAJ、文化庁や自民党代議士がここに来て、還流盤だけでなく、発展途上国からの洋楽輸入盤全般をこの法案で禁止するのだ、と居直るようになったのは、この安い中国盤を是が非でも止めなければならないからでしょう。そもそもの法案の趣旨など、もうどうでもよくなっている。河野太郎氏はマイケル・ジャクソンの輸入盤もとまります、と公言しているのですから。
それは誰の利益になるかといえば、アメリカのレコード会社の利益に他なりません。日本の音楽のアジア進出を促進する、などというのは主目的ではなかったわけです。マイケル・ジャクソンを中国では数百円で売るが、日本では二千円以上で売る。それこそが目的だと、河野太郎氏は正直に明かしてくれました。何よりも守らねばならないのは、アメリカン・ミュージック、いや、アメリカン・ミュージック・ビジネスなのです。

さて、そこで考えてみたいのは、例えばマイケル・ジャクソンの日本盤CDが、実は中国で生産されたCDであるという可能性です。言い換えると、数百円の中国盤も二千円以上の日本盤も実は同じ生産ラインで作られたものになっていくのではないか? 中国に巨大なCDの生産プラントがあれば、コスト的に日本の国内プレスは敵うはずがありません。中国が数億枚のCDを生産し、その何分の一かが印刷物だけを変えて日本向けとなる。8年後にそういう状況が生まれることは、日本の音楽がアジアで5000万枚のマーケットを築くことよりも、ずっと容易に想像することができます。
その場合、日本のレコード会社が販売する「国内盤」とは一体、何を指すことになるのでしょう? それは海外プレス盤という意味では「輸入盤」です。洋楽の場合は、現在ある「輸入盤、帯、解説付き」、日本の音楽の場合は「還流盤」とほとんど変わらないものになる。
逆にいえば、「国内プレス」という意味での「国内盤」は消滅するのです。もとより、CDは亡びゆく古いメディアですから、8年後には日本ではほとんど生産されていなくても不思議はない。現在のアナログ盤、あるいはカセットテープのような存在になっていると考えてもいいかもしれない。

なぜ、RIAAがあれほど「並行輸入」を敵視するのか? あるいは、RIAJはなぜ「直輸入」という言葉を繰り返し使うのか? これらの答もここから導き出せます。
「並行輸入」は絶対にあってはならない。なぜなら、プレス品質すらも同じ「日本国内盤」という名の「直輸入盤」をメジャー各社は、中国の数倍の値段で日本で売りたいからです。それが近未来の日本の五大メジャー系レコード会社の洋楽ビジネスの姿であるかもしれない。
多国籍メジャーの場合、「直輸入盤」は輸入した在庫を置いておいても、市場に出荷されるまでは、同じ会社内の事業所間の物品の移動としか考えられません。US盤やEU盤も日本の事業所に移動しただけでは、販売されたことにはならず、著作権印税も発生することはない。日本の出荷時に初めて、印税対象としてカウントされる。そういう意味でも、「直輸入」というのは、レコード会社に有利なビジネスになります(逆に言うと、アーティストにとっては、並行輸入よりも不利です)。そんな直輸入盤ビジネスにシフトさせた方が、効率の悪い現在の日本国内盤ビジネスよりもはるかに好ましいと、海の向こうの五大メジャーの上層部が考えても不思議はない。実際、五大メジャー系のとある日本のレコード会社は洋楽の日本発売をするかどうかのラインを、初回6000枚とするようになっていると聞きます。それ以下だったら、直輸入盤で良い、ということですね。
そう思うと、日本のレコード業界の人々が「直輸入」という言葉を選んで使うことに、僕は悲しい思いも禁じ得ません。というのも、五大メジャー系のレコード会社に務める人ならば、すでに肌身に感じているでしょうから。自分達がレコード会社というよりは、「直輸入盤」のディストリビューターに過ぎなくなっていくことを。
ワールド・プライオリティーという名のプレッシャーが、年々、日本のレコード会社から独自性を奪いつつあります。日本独自のマーケティングでクイーンを100万枚売ることよりも、欧米諸国と同じようにコールドプレイをビッグスターにすることにエネルギーを注げ。そういう画一的なビジネスを多国籍メジャーはすべての国のレコード会社に求めるからです。
並行輸入盤規制の後、日本の五大メジャー系のレコード会社の洋楽セクションは、US盤やEU盤の「直輸入盤」を自社直卸で販売する一方で、中国や台湾で生産した「日本盤」という名の「直輸入盤」も販売する、そういう「直輸入盤ディストリビューター」に他ならなくなっていく。中国の巨大マーケット、そして、巨大なCDの生産ライン。そのおこぼれをもらって、ビジネスするようになると言ってもいい。ワールド・プライオリティーももちろん、中国語圏のマーケットの方を重視して決定されるでしょう。中国でこのアーティストが1000万枚売れたのに、なぜ、日本では売れないのか? 五大メジャー系の日本のレコード会社はそんなプレッシャーに苦しむ日々が来るかもしれない。

という風に考えてくれば、こういうパラドックスも成立するわけです。
輸入盤規制が行われた後に、消えるのは輸入盤ではなく国内盤である。
そして、僕達は輸入盤だけを買うことになる。

もちろん、本当にそんな未来が待ち受けているかどうかは、僕にも分からないことです。が、少なくとも、誰かがそういうビジネス・プランを思い描き、現在、僕達を踊らせているシナリオを書いたのは間違いないと思えてきている。
これまで奇妙に思えていたことが、そう考えれば、すべて納得が行きますから。

だ〜っと書いたので、ちょっと推敲が必要になりそうです。アップしてから少しなおすかもしれません。
あと、話はまだ半ばです。もはやCDは亡びゆくメディアであり、配信を含めた次世代音楽ビジネスとの関係の中で、今回のことは考えないわけにはいかない。が、それはもう少し、余裕が出来た時にしましょう。

あ、でも、もうひとつだけ。誰がどんな予測を立てようとも、シナリオを書こうとも、未来には僕達自身が書き換える可能性が必ず用意されています。たぶん、今日、僕達は少し書き換えました。
http://www.taro.org/ml/mailmagazine/index.php?mode=new#no65
これは小野島大さんと鈴木カツさんの行動の成果です。もちろん、今回の著作権法改正に反対してきたすべての人の行動の成果でもあります。
といっても、この程度で安心は出来ません。大臣の言葉の効力なんて、あるかどうか分かりませんから。もっと押し戻しましょう。たとえ法案が可決されても、それが僕達の選択の自由を何一つ奪えないところまで押し戻すことは、きっと可能です。

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昨日のコラムで音楽評論家の高橋健太郎氏(サイトはコチラ)が触れていたパラドックスの意味、詳細がアップされています。是非、内容を読んでいただければと思います。 関連というか、その中国に関しての記事 ...
下記にも書きました、【owner's log by Kentaro Takahashi】さんにて「輸入盤が規制されて・・・僕達は輸入盤だけを買うことになる」の本編が追加更新されています 「輸入盤が規制されて・・・僕達は輸入盤だけを買うことになる(本編)」 ぜひ、一読を。...
昨日のコラムで音楽評論家の高橋健太郎氏(サイトはコチラ)が触れていたパラドックスの意味、詳細がアップされています。是非、内容を読んでいただければと思います。 関連というか、その中国に関しての記事 ...
昨日のコラムで音楽評論家の高橋健太郎氏(サイトはコチラ)が触れていたパラドックスの意味、詳細がアップされています。是非、内容を読んでいただければと思います。 関連というか、その中国に関しての記事 ...
owner's log から。 『輸入盤が規制されて・・・僕達は輸入盤だけを買うことになる(本編)』 昨日取り上げたエントリーのつづき。 なるほど・・・ って展開の話を述べられてます。 海外(中国語圏)プレスされたCDと、日本国内プレスされたCD。 クオリティが同じなら、コス
高橋健太郎氏のブログに「輸入盤が規制されて・・・僕達は輸入盤だけを買うことになる(本編)」がアップされました。とても興味深い内容になっています。必見です。...
7. 音楽禁止法・・・高橋健太郎氏へのTB  [ HP管理人のつぶやき ]   May 20, 2004 13:13
どうも情報を集めれば集めるほど、儲かるのはアメリカのレコード会社という構図しか出
海外盤洋楽CD輸入禁止法についての話題です。読めば読むほど、「搾取」を感じられずにいられません。 情報元→音楽配信メモ
9. 激しく出遅れてしまいましたが  [ 術者の世界 ]   May 20, 2004 22:14
そういえばアソシエイションの『日本盤』は、韓国製だった気が……
評論家の高橋健太郎氏のblogに 興味深いことが書かれていた。 鋭い指摘になすすべもなくただ唖然としました。 氏が言うとおりのことが現実に起きている可能性は 僕の正直な気持ち否定できません。 >ワールド・プライオリティーという名のプレッシャーが、年.
11. 輸入CDに関しての最近の動き  [ aauw_blog ]   May 21, 2004 00:09
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12. 5月20日のレコード輸入規制問題  [ OTO-NETA ]   May 21, 2004 00:28
輸入CD規制に広がる不安 著作権法改正案(asahi)←音楽配信メモ 河野議員へ(benli)←音楽配信メモ 小倉弁護士が、先日の河野議員のメルマガの内容を見て、著作権法改正案の解説として誤っている点を指摘したメールを河野議員に送ったそうです。 輸入盤が規制されて・・・
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今回の法案成立の黒幕。歯向かうべき対象は日本の音楽レーベルだけじゃなく、 実はアメリカでもあること。今回の法案成立によって起こる可能性のあること。 P2Pによるネットの優位性も先日のwinny開発者の逮捕によって搾取されてしまう可能性があること。 音楽評論家の高橋健