歯技同人誌「鱓」第15号(平成8年2月発行)中嶋五郎「紺屋の白袴」より。

『医療の仲間入りに執着してきたことが、はたして得策だったのだろうかと案ずることがあります。
 諸先輩が長年にわたって、そのことに傾注してこられた結果が今日の姿であります。この先、医療従事者となるまでにはどれほどの年月を要するものか。また、今後はより壁も厚くなるものと思えるのですが、消極的でしょうか』


著者がいう「医療従事者となる」の定義がはっきりしないが、恐らく、国民皆保険制度における歯科技工士の位置づけを明確化すること、と解釈した。とすれば、確かに保険制度における歯科技工士の位置づけは曖昧である。技工料は診療報酬点数化されていないし、そもそも歯科技工士の名が診療報酬点数表に登場したのは2010年4月の改定からと、歯科技工法制定から半世紀もかかった。で、半世紀を過ぎた今も中医協での発言権はないし、現在厚労省にて検討されているコメディカルの業務拡大(チーム医療推進策)においても、歯科技工士は蚊帳の外だ。というか、日歯が検討会で歯科衛生士案件を取り上げたので、歯科自体が蚊帳の外だが。
では、歯科技工士は医療従事者ではないのかといえば、そんなことはない。
歯科技工士なくして、歯科医療は成立しない。そして、明治以来の厚生行政が歯科、特に欠損補綴を軽視してきたのは事実だが、最近は官僚の意識も変化した。かつての官僚は欠損補綴を「疾患治療ではない→修理である→医療ではない」とみていたフシがあるが、現在はQOLの概念から口腔機能障害は重視され、義歯による機能回復がもたらす医学的効果も明らかになっている。以上はすばらしき頭脳を誇る官僚の方々にはすでに常識であろうから、歯科技工士が医療従事者なのも、言うまでもないことである。

『仮に、かっての歯科技工法制定時から、職人としての道に徹していたならどうなのか。勝手な考えではありますが、保険点数にとらわれることなく手間から技工料の算出をすることで、補綴の点数もそれにつれて採算点が出されるものと思います』


「保険点数にとらわれることなく手間から技工料の算出をする」のは、今でも可能だ。というより、点数化されていないメリットはそこにしかない。7:3の大臣告示が7:3だったゆえんは厚生省の歯科技工料調査だったように、実は「保険点数にとらわれることなく手間から技工料の算出をする」のは歯科医師にもありがたい話なのである。実勢価格のUPがあって、補綴点数のUPが可能だからだ。歯科医師は、歯科技工料の高さをおおいに喜ぶべきなのである。だが実際は「保険点数にとらわれることなく手間から技工料の算出をする」歯科技工士は敬遠されるので、その場合は歯科技工士が団結し、保険技工総辞退をすればいい。すると歯科医師会が騒いで厚労省が点数化を言い出すから、中医協委員の歯科技工士枠を要求して、決着だ。

『職人さんとの賃金に差の開きを覚えるのは小生だけでしょうか』


職人は――職人にもいろいろあるが、モノづくりは総じて厳しい状況だろう。母は服職人だったが、80年代には仕事をやめた。安い既製服が大量に生産されるようになり、食えなくなったからだ。かつて職人がつくっていた服は工場で生産されるようになり、さらにその生産工場も海外に移転した。出版界における職人も、いわゆるIT化で消えている。科学技術の発達や海外からの攻勢は、日本のモノづくり職人を容赦なく痛めつけ、それは歯科技工士の職人的な業務も同じである。その先を生き残るのは、職人としてではなく、医療従事者としての歯科技工士だろう。医療従事者としての歯科技工士をさらに強化するには、チーム医療の一員としてもっと求められるようになること、具体的には対患者行為の拡充が必要である。看護師や診療放射線技師、薬剤師などの業務拡大はすべてチーム医療推進策であり、特に訪問診療や在宅医療での活躍を期待されている。介護施設や病院で、もっと歯科技工士が活躍できるようになればいい。そして、活躍できるはずだ。
「賃金の差」はもちろん、労働環境や将来性をも、同じ皆保険制度下にある他医療従事者と比べてほしい。あの程度は歯科技工士にも当然与えられるべきものであり、歯科技工士は求めるべきである。