軽くラノベを(完結)

ライトなラノベ用のブログです。 ・ライトなのか ・ラノベなのか ・面白いのか の、三点に疑問符がつく以外は、なんとか。 一日更新(予定)です。14回で終わります。 完結しています。 後は完全な蛇足です。

派生:隣人変人幼女情報参謀

 今日は朝早くから任務があった。彼女はその外見に似合わず…いや、似合ってはいるのか、早寝遅起である。
 アラーム代わりに、目覚まし訳をおおせつかった少年は、主人をどのように起こせば良いのか常に悩む。しかし、何をどうやっても強制覚醒の不快さに勝るものは中々無いようで、最近は、不機嫌になった主人をどのように機嫌よくするかに気を置くようになった。こちらは極めて簡単で、美味しい朝食を用意すればすぐに機嫌など良くなる。
 かくして少年は主人の部屋に堂々と入り、ベッドの上で無意識に抱き枕と戯れている主人の耳元に近づき、まずは音で起こしてみる。
「マスター、時間ですよー」
 囁くような声から、普通の会話レベルまで音量を上げてみたが効果は無し。むにゃむにゃと、恐らく実際に耳にすることはないようなオノマトペすら垂れ流しだす始末だ。少年は主人の耳元から顔を上げ、その寝顔を見つめる。相当に幼いが、それゆえの可愛らしさに無理をするのは常に心が痛むものだ。が、主人に任務があるように自分にも任務がある。

 かくして、異彩の反蓬莱連邦軍中央司令部直轄情報参謀セクト副主任 霧花ユキの朝は片頬にやや赤い腫れを作る朝を迎えた。

「わしは起こせというたが、暴力を振るってよいと言った覚えは無いのじゃが」
「僕は暴力を振るうなと言われていませんでしたので、優先事項を命令どおり覚醒にしただけです」
 既に腫れは引いたはずだが、ユキは自身の意思で頬を膨らませ忠実に命令をこなした少年に文句を垂れる。
 キッチンの椅子の上で両足をぶらぶらさせながら朝食を待つ間、抗議に時間を費やすようにしたようだ。
「大体、最近お主は乱暴すぎではないか? 昨夜もわしが寝付けぬのをいいことに腹部をぽかぽかと叩きおって」
「眠れないから添い寝して欲しいという要望にこたえただけです。それにマスター」
 少年はキッチンから牛乳の入ったコップを持ってきてユキの前に置き、
「最近、お腹の肉がついてきましたか? 朝食はこれだけでも…」
「わしは育ち盛りじゃ! だから問題ない、早くご飯をもってくるがよい!」
 奪うようにコップを掴み中身をごきゅごきゅと口の中に放り込む。
 まあ、外見だけで言えば、胸はつるぺた、お腹はぽっこり、頭身は低めと、絵に描いたような幼児体型で育ち盛りと言えなくもない。が、実年齢は24歳の立派な成人であり、もはやこれ以上の成長は望むべくも無い。非常識な時間で成長が止まってしまったので、過剰に食べれば縦ではなく横に成長していくハメになる。
「はいはい、今日は塩麹着けの鮭を焼いていますから、お待ちください。マスター」
「ユキ」
「…はい?」
「マスターはやめいというておるのじゃ。世の中にマスターなんて山ほどおる…というても」
「はい、僕はマスターと呼ぶことをやめられません」
「じゃったのう…」
 何度目か知らないが、ユキは少年に名前を呼ぶようにお願いしているのだが、これは少年の仕様上かなわないことである。少年はいわゆるメイドロボでユキのように単身かつ政府協力者に対し貸与されている。そう、反政府軍も政府協力者であって矛盾しないのだ。
 メイドロボといっても、自我はあるし心もある。そんな彼らは「スワンプマン」と呼ぶ一部哲学者の方が心無いようにすら思える。
「じゃあ前のやりましょうか?」
「前の?…ああ、あれは無しじゃ。なんとも、むず痒い」
 折衷案として名前とマスターを引っ付けて呼んでみてはとユキが考案し、実際にやらせてみたところ「マスターユキ」というのは自分に向けられると肌を羽毛で撫でられたかのような感覚に陥った。
「それより、ナツ。食事を終えたら、わしはすぐ学園に向かうのでな。家事は頼むのじゃ。それと…」
「テレビのチェック…ですね。分かりました。マスターユキ」
「だから、やめいというておるじゃろがー!」
 にぎやかなダイニングキッチンで微笑しながら、主人のためという思いを新たにした少年メイドロボ、霧花ナツ。主人にも自分にも家族というものはいない、ここまで良くしてくれているのだから、とナツは決心しているのだが、実は戸籍上、彼はユキの実弟になっている。ユキは職場で使うような手腕を思う存分発揮して、自分の戸籍にナツを埋め込んだのだが、そのことはまだ本人には内緒にしている。そして、その最中、ナツを配偶者の所に埋めてしまおうかなんて考えてしまったことは当の本人も封印してしまったようだ。



 特区中等錬兵学園…通称、学園となっており、他の学園たちが黙っていないような通称だが、特区内にある教育機関で「学園」とつくのは特区中等錬兵学園だけであり、初等教育、あるいは錬兵ではない中等教育を行う場所は学校、高等教育を行う場所は大学である。
 中等錬兵となっているが、実際には8年の初等教育を終えた14~19歳までの若者が始めて戦闘の訓練を受ける教育機関であり、卒業までに兵士として確実に使えるように教育を受ける。
 卒業後はそのまま兵士として任務に就くものが大半で、一部の人間は上級錬兵大学校で教育を受け士官の道へ進む。こちらは兵士の道に負けず劣らずの茨の道で、士官の初陣での比較死傷率を考えると、ひるんでしまうのも頷ける話だ。

 そして、実はこれ以外にもう二つ、道はある。

 一つは兵士として任務に就くこと、但し反政府軍として。もう一つは、反蓬莱軍士官養成機関に入隊し、反政府軍の士官として道を進むこと。当然いずれも、表には出てこない道だが、あくまで表向きの話。実態は公然の秘密であり、反政府軍に進む生徒も多くはないが少なくもない。
 ただ、あくまで秘密ということにしているうえ、数が少ない。必然、質の高い生徒が求められるため、反政府軍の関係者が学園を訪れて品定めを行う。もっとも、親しく訪れ、学園教官と談笑しながら生徒名簿を眺めるという光景は名ばかりとはいえ反体制としては違和感がある。これに関しては「学園自治」という名目を政府から取り付けているから出来るとも言えるが。

 ともあれ、ただでさえ関係性が複雑な政府軍、反政府軍にとって、学園はより注視すべき場所ということもあり、公然の秘密として士官を送り込む以外、完全秘匿で人間を送り込む事は当然であった。

「しかしのう…」
 学園校舎内にあっさり忍び込み、女子トイレ個室でウェアラブルコンタクトレンズで指令を確認しつつ、ユキは嘆息した。
 自宅の隣に住んでいる少年が気になることもあり、今回の任務に志願してみたユキだが、考えなくてもおおよそとても目立つ。実年齢24歳だが外見年齢は8~10歳程度で、生徒にもなれず教官になることも出来ない。そこらの男子生徒に「おにいちゃん、ハイ、お弁当忘れていたよ」と言う手は、流石に相手が居ないと使うことは不可能だ。
 そうなると、完全な隠密行動しかないわけだが、よくあの上官も任務参加を許可したもんじゃな。自分から手を挙げておいて信頼を置いてくれた上官相手に軽く毒づく。
 任務そのものは簡単で、公然の秘密で反政府側に着くことにした生徒を学園内で洗い出すことだ。人的諜報(ヒューミント)は済んでいるので、今回は、ナマの生徒の情報を集めることが主になる。正直、この年齢で政治主義やらなにやらを持っている事は大体無く、仮に持っていたらその時点で、反政府軍の士官・兵リストからは除外することになる。
 つまり、情報参謀直々に出てきて、やっていることは素行調査なのだ。

 そもそも、ユキとしてもそれほど今回の任務を重要視していない。今回の行動そのものは重要としてもだ。反政府軍は公然とはいえ政府軍に比すれば弱い、だから、素をいくつか作っておく必要がある。そして、それは組織だって行われてはならない。情報参謀の独断専行は、半ば計算ずくである。

「さて、行くとするかのう」
 あやつは一番最後にしてやろうかの。と思い、ユキはミッションを開始した。


 霧花家ではナツが家事を一通り終え、ダイニングでお茶を飲んで一服していた。
 メイドロボの本分は主人のために尽くすことでは有るが、今の段階でこれ以上尽くしようがない。よく使う部屋の掃除に洗濯まで終わらせると、後は食事の準備以外細かい仕事がちょこちょこ残っているだけである。
「さて…と」
 ナツは湯のみをそのままにし、リビングに置いてあるテレビの電源を入れた。早速、辛気臭いとしか言いようのない顔をしたアナウンサーが現れて、今日の戦況などを報告している。蓬莱政府がプロパガンダと堂々と宣言しているせいで、テレビなどを持ち見ている人間など殆ど居ない。戦場の動画ならばネットで見ればいい。
 そういう風潮なのだが、さらに蓬莱政府がプロパガンダ宣言と同時に偏向報道はしないと、何のためのプロパガンダだという宣言もしてしまい、余計にテレビに対する不信感が強くなっている。まるで「テレビを見るな」といわんばかりに。
 実際に一般人にはテレビを見て欲しくないのだろう。ネットで個人のバイアスがかかった動画を見てもらった方が、蓬莱政府として助かることは多い。
 なので、余計に情報参謀はテレビを見る必要がある。ナツはユキの代わりに、何か情報の切れ端がないかを探すために余すことなくテレビの情報を記録していく。

 しかし、ユキにとって、テレビはまだ別の意味を抱えている。

 ユキの両親はフリーのジャーナリストだった。戦場に飛ぶことも多く、両親ともに、戦場で命を失った。
 悲しいことだったが、ユキは乗り越えることが出来た。しかし、一つだけ、腑に落ちないことがある。
 それは、両親がそれぞれ死ぬ間際まで追っていた戦場の動画が世に出回っていないのだ。価値がない動画だったのか。いや、ユキは身内びいきではなく、両親が優秀なジャーナリストだったと信じている。そんなジャーナリストが撮った最後の映像は何かしらかの価値を持っているに違いない。
 それを知るため、ユキは諜報の世界に身を投じた。
 そして、テレビから流れるコンテンツをつぶさに観察することも忘れない。ひょっとしたら、ひょっとしたら、両親の撮った最後の動画が流れるかもしれない、だから、どうしても目が行ってしまう。
 もっとも、それ以外の意味があり、テレビを見ることがユキにとって、数少ない、両親との接点を保持することに繋がる。両親は親としてはギリギリの合格点程度で、ユキを可愛がってはいたが、どうしても報道魂を忘れることは出来ない。一人寂しく、家で留守番をしているとき、テレビを見ていると、そのレンズの手前には両親が居る可能性があると思うと、ユキにとっては慰めになった。
 では、ナツがテレビを見る理由は何だろう。
 ナツは両親の最後に記録した動画が流れるかのチェックを依頼されていると思っている。それだけが、自分に与えられたマスターからの任務だと。
 一方、ユキはナツを両親に、両親をナツに紹介しているつもりなのだ。
 この世界、メイドロボを家族同然とする家は多いが、今、霧花家でユキとそのことを分かち合えるのはナツだけである。ユキはその外見より実年齢通りの精神構造を持っており、ナツへの気持ちを、ほのかな想いで片付けるほど、鈍くも青くも無い。
 ただ、ナツがどう思うか。人間としてではなく、メイドロボであることに引け目を感じる事が当然な仕組みとなっているため、なんとか、そのギャップを埋めるためにユキはナツへ、間接的なアプローチを続けている。
 ナツも何となく、それに気がついているが、やはり引け目はどうにも重い。このままの関係の方が自然だと思っているが、それに対して、何か刺々しい感覚を持ってしまうのは、彼が優秀な「広義の人間」だからだろう。

「今、戻ったのじゃー」

 蓬莱連邦軍がS3地区で-25級の魔物に対し、反蓬莱連邦軍と小競り合いをしつつ、負傷者2名に被害を収め撃退したとの報道が始まった時点で、玄関から大きな声が聞こえた。
「おかえりなさいませ」
「うん、ただいまなのじゃ。何も無かったかの?」
「特には、その…」
「いや、お主に何かじゃ。それが一番じゃ、それより」
 玄関まで主人を出迎えに来たナツに小型のメモリーカードを渡して、
「隣の変人少年、なんというたかの。歳が上の方の。あやつ、中々、面白いかもしれん」
 変人少年というと、先日、テレビがどうのと、余人ならどうでもいいことを、一々、問いただしに来た少年のことだろう。しかも、わざわざお土産まで引っさげてということもあり、ユキはともかく、ナツからしてみれば、確かに変人だが好意度は高い。
「面白い…ですか?」
「そうじゃ、後でそのメモリを読み込んでみれば分かるのじゃが、あやつ、妙な魔力を持っておる」
 上手くうちに引き込めれば面白いのじゃが。と、ユキは続けた。
 なるほど、ユキは隣の少年をうちに引き込みたいのか。反蓬莱とも言わず、うちにと。
「それが上手くいけば、マスターも嬉しいのでしょうか」
「無論じゃ。わしの目的の一つが達成できるやもしれん。ところで、今日のおや…甘味は何かのう」
 意図的に話題をずらしたのだろうが、その過程でわざわざ言い直すほどに外見を気にはしているのだろうか。
 おやつでも甘味でも何でも良いのではとナツは考えたが、ともかく、主人が間食糖分を欲している。
「今日は団子です。みたらしのたれと、つぶあんを用意してありますので、リビングでお待ちください」
 ナツの料理の腕前はユキが自分の腕前のように自慢するモノの一つで、特にジャンルを問わず様々な食材から美味としか言いようのない料理に変換をかけてくれる。
 よし、手を洗ってすぐに行くから、準備しておれ、とユキは洗面所へ向かった。ナツも甘味を用意するためにキッチンへと向かう。その途中、手渡されたメモリーカードを手のひらから導電読み込みすると、隣の少年の姿が脳裏に確認される。そんな大それた魔力を持つようには見えないが、どこと無く、何事にも裏表無く、公平に、しかも不器用に接しようとする姿は、確かに興味をそそる。
「そうじゃ、忘れておった、お茶についてじゃが」
 洗面所から流水音とともに声が飛んでくる。
「思い切り熱く、でしょ?」
「お主の分は、飛び切り美味くじゃ、忘れるな、じゃ」

 流水音というノイズに負けないように少し大きめに声を張るナツ。

「分かっていますよ、ユキ」

 …あれ?

「ナツ、お主、今…」
 洗面所から手をぬらし、水を流したままで、ユキが飛び出てくる。
「僕…今…マスター」
 メイドロボは主人に敬称をつけるべし。一応の原則にして、実は大きな原則。メーカーでなければそれは解除できず、蓬莱政府の許可なしに解除は出来ない。
「…もう一度じゃ。お主のお茶は飛びきり美味く。いや、もっともーっと、飛び切り美味くじゃ!」
「はい、ユキ。その通りします!」

 魔力ではない気がする。ユキは自分の目論見が外れたかと思ったが、今はそんなことはどうでも良かった。目的の一つが目の前で解決してしまったのだから。
 愛しい者が、自らの名を特別に呼んでくれる、情報参謀として、あるまじきほどに感情を爆発させたくなっていた。これで、またこれで、次の段階に進める。進もう。二人で、ユキはそう思った、ナツもそう思っているのだろうと勝手ながら、完全に一致する解釈。

 別の場所で少年は世界を慎重に選んでいた。

 隣の家の、男の子と女の子が幸せになれる世界を。


 まだまだ、可能性はあるはずである、さあ、次の世界を選ぼうか。

あとがき

まずは、ご読了いただいた方、ありがとうございます。まあ、この作品、

ライトじゃないですよね。

他の方の応募作品を読んでみて、つくづく痛感しましたが、書き上げてあったので後戻りできず。

一応、どの日から読んでも大丈夫な作りにしてはありますので、

一日に一日のペースで好きなように、数分お時間を頂き、読んでいただければ幸いです。

十四日目、そして。(完)

 朝、目覚まし時計に問答無用に覚醒されて、早々に機嫌がレッドゾーンに入り込む。もう、毎度毎度の事なのだが、これでは毎度毎度不機嫌になる自分の方に問題が有りそうと反省しつつも、もう少し時計側も譲歩するような動きを見せてもいいのではないか。例えば、目覚まし数分前に微量の音楽を流しつつ、徐々にフェードインし、心地よい覚醒を促すとか。なお、当然だか、そういう製品は既にもうある、財政上の問題と、それ以上に今の時計に愛着があるので変えていないだけだ。それに、眠りから覚まされるというのは、どの道、不機嫌になるものだと思う。悪夢でさえ愛おしく感じるほど、眠りというのは心地よい。では悪魔を見せてしんぜようといわれると、それは全力で拒否したい、単体で言えばやはり悪夢は嫌なものでしかないわけで。
 夢に着想を得るほど覚えているものは無く、ただ、まあ確信はあったので、部屋のクローゼットに入っている直方体の化粧箱を取り出して、かばんの中に押し込んだ。使いつぶしたら、その次と思って用意しておいたのだが、使い所としては今だと思う。
 二回の洗面所で一式を終えて、身支度まで済ませて階下のダイニングに向かう。既に弟と妹は起床して朝食をぱくついているが、姿はパジャマ姿のままなので、食欲を優先したのだろう。俺も自分の定席に座り、メイドロボからサラダとゆで卵の乗った皿、トーストを受け取り、食事に取り掛かる。欲を言えば、和風が良かったのだが、我が家の朝食和風派は男性陣だけで、父を欠く今、その声はマイノリティとなってしまっている。無論、週に一度か二度は米と味噌汁の朝もあるが、毎食ともにそうであればなと、いや、逆に飽きるものかも。

 そういえば、母の姿が見えないなと思いつつ、ゆで卵の殻をむいていると、その母が携帯電話を握り締めてダイニングに飛び込んできた。父の休暇が年末に重なるらしく、家族総出で年越しが出来そうだと、とてもうれしそうにしている。若々しく見えるが、まあ、といっても四人も子供を生んでいる以上、それなりに肝も据わっている母がこの様子ということは、相当うれしいということなのだろう。父が前線勤務で休暇が不定期な職についている以上、無理からぬことだ。
 ならば、年末は料理のグレードが一つ上がるなと内心喜んでいたら、どうも見透かされたようで、メイドロボが頑張りますねと決意を表明してくる。妹弟も手がかからなくなり、家事の手伝いもするようになったので、メイドロボを置いておく実利的な意味は無いのだが、誰もそのことは口に出さない。既にメイドロボは福利厚生措置ではなくなっているので中央政府に結構な金額を支払っているのだが、そうシンプルな問題ではないのだ。
 そして、喜ばしいことなのだろう、この国では一度支給されたメイドロボが返還される例はほとんど無いという。これからも、うちでその腕を振るって欲しいものだ。そのためにも、選択を間違えられないな。

 朝食を済ませ、いってきますと家を出る。玄関脇に見覚えの無い自転車を見つけたが、そういえば姉夫婦に借りたままだった、これも返さないといけないのだが、返すという口実にかこつけて、何か面白い話でも期待できないか、少し落ち着いてから菓子でも持って邪魔をするとしよう。

 おお、変人青少年、朝早いの。自転車の置いてある方向とは反対側から声が聞こえる、見るまでもないが、この声と独特のしゃべり方の持ち主は、新聞受けから新聞を取りに来たようで、格好は妹たちと同じくパジャマのまま、欠伸までしているところを見ると本当に起きたままのようだ。学園生活は暇ではないと抗議してみるが、お主は暇ではない集団の中でも余裕がありそうではないか。まあ、良いことじゃがな。
 少年メイドロボを待たせているので、ではまたのと変人幼女は自宅へ引っ込む。こんなに隣家とのフェンスは低かったけ、少なくとも相手の身長は相当低いのだが、上半身は見えていた、中央政府運営の官舎なのでプライバシーとかはそれほど気にしていないのかもしれない。本来の庭は狭いし、このくらい見通しがあったほうが良いのかも、少なくとも、隣人は変人だが恵まれている方である事だし。

 学園までは徒歩で向かう。戦場特区に突入すると朝も早くから政府軍と反政府軍が睨み合っている様子で、歩行者に文字通り気をつけながら狙撃手の位置などを変えたりしている。腕前は超一流だがターゲットが間違っていた場合、その腕前が文字通り命取りになるので、歩行者が射線に入らないように気をつけて移動しているのだろう。加えて榴弾などの爆発する弾頭の使用は許されておらず、罠の設置など言語道断。大分前だが、どこかの部隊で地雷を設置したところ、双方の上層部から鬼神の雷のように叱責が飛び、その部隊そのものが消失してしまったとも聞く。
 これも、一つにまとまれば良いのか、まとまらないほうが良いのか、分からない。下手にまとまってしまうと外敵を自主的に探し出す可能性もあり、変則的ながら国内はこれはこれで平和なのかもしれない。攻めてくる脅威には圧倒的な力を発揮するのも事実なのだから。
 そして、そんな連中を育成する錬兵学園とたどり着いた。校内は試験が終わって以来、最上級生が緩みがちで空気そのもの緩んでいる気もするが、現在二年である後輩が引き締めを行うのだろう。二年の主導権を渡せるようにわざと緩んでいるというのは一年の頃から聞く俗説だったが、その立場になるとそれが嘘か真かはよく分かる。なるほどなとも思う。

 今日の授業は座学のみでちょうど良い。昼休みまでに纏めることもあるし、少し足りない事もある。ノートを取り出すと、一ページを手で切り離し、それをどう折ったものか手を動かしながら考える。同時に考えることも有るのだが。

 今までライトノベルの極として小説とかそういうモノを置いてきたが、実際にはそういう単純な対の存在ではない。どちらかというと、様々なモノを内包した文章というものがあり、それにラベル付けをして小説とラベルが貼られたものの一種にラノベが含まれているという立ち位置だろう。比較のナンセンスさは分かってはいたが、区別して考えた方が分かりやすいかなと思ったのだ。
 なので、ライトなラノベといえど実態は小説ラベルの一種に過ぎない。正直、色々と差別化などの話をしてきたが、レッテル貼りが一番正しいような気がする。このレッテルは良くも悪くも使われているが、そもそもこの場合、決めていく、あるいは決めかかっていかないとあやふやなままなので、仕方が無いという特例なのかもしれない。読んでもらうまでライトかそうでないのか分からないという、一種、量子学的な要素を見せるのかと思うと驚くが、案外、読み終わってもライトなのかそうでないのか分からないままという境界線上の作品もあるから、そういう意味では余計に驚く。
 どう考えてもライトノベルではない文学作品にイラストなどを添えてライト寄りにしてみたり、原典がありつつも精力的な破壊と想像を行いライトな感じになってみたり、総体で言えば、境界線を乗り越えてライト側に乗り越えてきているものが多いというところか。
 なので、ライトなラノベともなると、それはレッテルすら貼りようの無い、今までの勢いとかハッタリとかスパイスとか、そういうものをすら一時置いておいて、名乗ったもの勝ちといえる。名乗ったもの勝ちなのだ。
 そんな名乗りを上げようというものたちが満足する量が集結しつつあるのも昨日のネット情報で理解した。そろそろ、混沌の中から抜け出して相応しい何かを選び、定着させなければ。

 上の空状況だったが、教官から特に何とか咎められる事も無く、手元を見ると長方形の何かが完成していた。うむ、このくらいがちょうどいいかもしれない。午前の授業ももう終わりだ。教室内の幼馴染が立ち上がり、こちらを見て促している。今日は公園か屋上か。弁当の中はなんだろうか。
 幼馴染の後をついていきながら、食事の後、礼をすると述べると。ありがとうとそっけない言葉が返ってきた。このそっけなさもまた良いものだ。

 弁当も食べ終わり、まずは幼馴染に化粧箱のほうを渡す。中は新品のタンブラーが一つ。自分の予備用なので余計なものは何一つ入っていない、意匠もシンプルなものだ。もう一つ、幼馴染にノートで折った得体の知れない紙片を渡した。手紙ではない、栞に使えそうだが、ならばもっと気の利いたものがあるだろう。
 だが、幼馴染は今度はとてもうれしそうな顔で言う、ありがとう、と。俺はうんまあ、と柄に無くやや緊張しつつ、次はそっちだなと答えた。
 このやり取りそのものが恐らく答えではないかと思っていたが、どうやら正解だったようで、うんうん、と幼馴染は頷く。

 俺たちは将来的に恐らく兵士となり、戦いの渦中に巻き込まれていく。それは、どうやら基軸のようで、何を選ぶか取り込むかをしても変えようも無い。長寿をまっとうできる可能性は低いだろう。だからこそ、なんでも良いやり取りでも何でもいい場でも共有しておきたかった。出来るだけ、長く、さりげなく。

 これから選ばれる物語の中で名も無い兵士として生きていくだろう俺たちだが、そこで様々なモノを共有して作った良き場を、励みとして生きたいものだ。どうにも少しは選り好みができるようだし、混沌極めゆく世界の先よりは遥かに好ましい、そう思いたい。

 どのライトなラノベが俺たちの生きる世界としてみようか。

 それは。

(了)
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