手にしたレーザーガンと、シーリンが持っているビームサーベルを指さす。
「で、そのまま堂々と門をくぐってきたのさ。拍子抜けだったな。せっかく念願の東の塔にきたっていうのにさ、少しは邪魔ぐらい入ってほしかったよな」
 思わずため息をついた。やっぱりササキだ。いくらすんなり入れたっていっても、まともな人なら少しは躊躇するよねえ。
「それでそのまま、あの狭い廊下を走ってきたってわけ? そのおやじくさい自転車で?」
 あきれ返った顔でルナが言う。
「それに階段はどうしたの? まさか自転車に乗ったまま階段を駆け上ってきたなんて言わないでしょうね」
「そのまま走ってきた。こいつに乗ったままで」
 ササキが当たり前のように答えた。
「あんた、おかしいんじゃない? あたしたち、ここにたどり着くまでに何十階分も階段やエレベーターを上ったのよ。エレベーターはともかく、自転車に乗ったまま階段を上れるはずないでしょうが」
「階段なんてなかったよ。廊下も走ってない。入り口を入ったら一面、広い畑でさ。そこに一本道がずっと続いてるんだ」
「畑? そんなの塔の中にあるはず・・・」
 そこまで言ってから、ルナは気づいたようだった。
「そうか。さっき、私たちが走ってきたあの畑・・・」
 考えこんだルナを、不思議そうな顔でササキが見つめる。そんなササキの視線が気に入らなかったのかもしれない。ルナが続けてまくし立てた。
「って、建物の中に畑が広がってることに何の疑問も持たなかったの? 塔の中なのよ。上に行く階段なりエレベーターなりを探すのがふつうじゃない?」
「ほかに道はなかったんだから仕方ないじゃないか。とにかくそこをまっすぐ走った。でこぼこの土の道だぜ。だんだん日が暮れてきてさ。なんか、きれいだったな。夕日に向ってどんどん自転車を走らせていくんだ。赤とんぼがいっぱい飛んでてさ、何だかすごく懐かしくて、自然に鼻歌を口ずさんでたな。ほら、いつかあずさとエレナと歌ったあの歌。夕焼け小焼けの赤とんぼ、ってやつ」
 あっけらかんとしたササキの答えに、私たちは顔を見合わせた。
 畑の中の一本道。真っ赤な夕焼け。群れ飛ぶ赤とんぼ。
「おんなじね。私たちと」
 ルナの目が考え深そうに光る。
「その歌を歌ってたら、ここにたどり着いたってわけね」
「まあ、そういうことかな。歌い終わったとたん、あたりが真っ暗になったんだ。そうしたら、あずさたちが化け物に襲われてるじゃん。こりゃあまずいってんで、こいつを撃ちまくったわけよ。邪魔なビームサーベルは、シーリンに放り投げてさ」
 ため息をついた。なんだかお気楽。ま、ササキらしいといえばそのとおりだし、助けてくれたんだからありがたく思わなきゃいけないんだけど。

「僕たちは狭い廊下を歩いてきたし、ササキは最初から畑の道を走ってきた。この塔は自在に内部を変えることができるんだ。でも、塔が自分の意思でそうしてるわけじゃない。誰かが塔をコントロールしているはず」
 じっと考えこんできたソウキチが、シーリンに向き直る。
「それはおとなですか。あなたなら知っているはずです」
 シーリンは答えない。
「おとなに間違いないな。そして、夢見もおとなの仲間だと俺はにらんでる」
 ソウキチの言葉を引き取ったのはササキだった。
「ここに来たのも、シーリンをとっちめてやろうと思ってたからなんだ。あずさにこんな辛い思いをさせやがって、って思ってたから。だから面食らったんだ。あの化け物どもをシーリンがやっつけてることに。夢見はおとなの仲間なのに、どうして、おとなが差し向けた化け物と闘っているのかわからなかった」
 ササキがシーリンを睨みつける。
「シーリン、答えてくれ。あんたは俺たちの味方なのか敵なのか。東の塔に自由に出入りできるのは夢見だけだった。塔の中で何が行なわれているのか、おとなたちが何を企んでいるのか、夢見は知っていたはずだ。特にあんたは、ずっと精神委員会に出張していた。こんなに長く出張していたのには、それなりの理由があったはずだ。シーリン。教えてほしい。何のために精神委員会に出張していたのか、そもそも精神委員会とは、いや、おとなとは何なのか」
 ササキとソウキチが、シーリンにつめよる。黙ったまま二人を見つめているシーリン。
 どうしていいのかわからない。そんなはずないよね。シーリンが私たちの敵だなんて。
「おい。何とか言えよ。それとも図星なのか?」
 ササキがもう一歩を踏み出したとき。

 不意に気づいた。シーリンの視線は、ソウキチとササキに向けられてはいなかった。シーリンが険しいまなざしを注いでいるのは、まだ煙があがっているミニチュアの東の塔だった。
「今の質問に対する答えは、いささか長くなります。もちろん、お答えしないということではありません。でも、その前に私たちは、やっかいな相手と戦わなくてはならないようです」
 視線を動かさないまま、シーリンが言った。
 不意に部屋の中が暗くなる。
 ルナの叫び声が聞こえ・・・。

seiretsu30

 意識がすっと遠くなった。落ちていく。どこか深い闇の中へ。
 もう二度と戻れない。そんな気がした。底知れない恐怖と絶望が心を満たす。ついさっき、化け物に囲まれたときよりもずっと深い絶望感。
 怖いよ。一人にしないで。シーリン。純子さん・・・。(つづく)


☆なんとササキは、自転車であずさちゃんたちのいる東の塔の操縦室までたどり着いたと言います。
内部が変幻自在に変わる東の塔。
そこにはどんな秘密が隠されているのでしょう。
そしてシーリン。
何のために精神委員会に出張していたのか、精神委員会とは、おとなとは何なのか。
さらに。
ゾンビとの戦いに勝利を収めたと思っていたら、新たな戦いが始まりそうな気配です。
それも、幻だったゾンビとは違う、ずっと強力な敵と。
あずさちゃんたちはどうなってしまうのでしょうか。
敵の正体は一体…?