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 目を開いた私は、近づいてくるものの姿を見極めようとする。ここは・・・天文台? だって私、宇宙に浮かんでる。
(あずさ。よく来た。ここが約束の地だ。神がお待ちになっている。さあ、我らとともに神の御傍に参ろう。お前ならば神はきっと拒みはしない)
 私に向って手を差し伸べているいくつもの影。長いローブを揺らめかせたその姿に、不思議なことに顔がない。黒いフードを目深にかぶった顔の部分には、燐光を放つ銀河がいくつも浮かび、骨ばった長い指先は、核恒星系と同じ色の光を放っている。
 精神委員会。
 直感的にそう思った。根拠は何もない。でも間違いなかった。この黒い影たちが精神委員会の委員なんだ。
 シーリンは? みんなはどうしたの?
 あたりを見回す。誰もいない。上も下も星だらけの空間にいるのは、私と黒い影たちだけ。
 フードの中で、見えない顔がゆらりと笑った。
(みんな無事だ。それぞれの夢の中で未来永劫、幸せに暮らすことができるだろう。心配することはない。お前が彼らを導くのだ。都市惑星と地球のすべての民を)
 意味がわからなかった。私がみんなを導く? 
(我らはずっと神の姿を捜し求めてきた。神が造りたもうた人類は、長い歳月を経て、今ようやく神の末席に並びうる能力を得つつある。古来、あまたの王や英雄が神を自称し、同じくあまたの宗教がそれぞれの神を主張してきたが、それらはすべて詐称であり、自己陶酔であり、いずれも神の意思からはほど遠い単なる人間界の喜劇であった)

 頭がこんがらがってくる。神さまがどうしたって? 
 ずきずき痛む頭をおさえながら、歴史の授業を思い出してみる。古代エジプト王をはじめ、神を自称した権力者たち。怪しげなものから世界中に広まったものまで数知れない宗教が説いていてきたそれぞれの神。権力者と同じく自ら神を名乗った教祖たち。
 たしかにそんなことを習ったっけ。でもそれは大昔の迷信のはず。あんたたち、おかしいんじゃない? いい年して神様を信じてるなんて。

seiretsu33

 混乱が怒りへと変わってくる。
 そもそも精神委員会ってなんなのよ。へんてこなフードをかぶって顔を見せないことも気に入らないし。さっきから、おかしな夢を見せてくれたのもあんたたちね。ママを消滅させたり、おねえちゃんに命令したり、あんたたち、ぜったい頭、狂ってるよ。たとえ夢だとしても、ママやおねえちゃんにあんなことをするなんて許さない。
 黒いフードをぐっと睨んだ。考えれば考えるほどむかついてくる。
 神さまがどうのこうのなんてくだらないことを言ってないで、早くシーリンたちを返してちょうだい。精神委員会ってどんな偉い人たちがやってるのかと思ったら、ただ頭がおかしいアナクロのおじさんたちじゃない。そのどんくさいフード、千年は流行に遅れてるよ。
 黒いフードが、ふわりと揺れた。かさこそと音がしたように思ったのは、その中の見えない顔が笑ったのだろうか。

(では、神はいないと言うのか)
 私の心を読んだのだろう。嘲笑を含んだ黒い思念が押し寄せる。
 当たり前でしょ。神様がいるんなら、今すぐここに来て姿を見せてよ。ほら。早く。
 黒いフードの人影が顔を見合わせる。
(あずさ。たとえば夢見の能力をすごいとは思わないか。そればかりではない。ソウキチの、ルナの能力、さらに)
 骨ばった指がぐいと私を指さす。
(何よりもおまえ自身のその力だ。道を開く程度なら、精神感応の強いものならできないことはない。また、そうした能力を生身の人間に植えつけることも現代の精神科学では十分に可能だ。夢見がそうであるように。だが、お前の力は夢見をはるかに超えている。お前の力には限界がない。これまであまたの人間が憧れ続けた神と並ぶ能力をお前は備えているのだ)
 どういうこと? 何を言ってるの?
(だから言っただろう。夢見は造られた存在なのだ。神に近づく力を人類が獲得するために、私たち精神委員会の主導で造られた超能力者なのだ)
 夢見が造られた存在? じゃあ夢見は、ソウキチやルナが言ってたみたいに人間じゃないの?
 フードの奥から、再びくぐもった笑い声が聞こえた。
(彼らは人間だ。あるいは人間であったと言うべきか。我らは世界中の人間の精神感応力をリストアップし、最も能力の強い四人を選んでその精神を改造したのだ。彼らの役割は、その能力を駆使して、神の末席足りうる人類を探し育成することにある。彼らは望んで夢見となることを受け入れた。人類が神と同列に並ぶための最後のステップを越えるために)

 何を言っているのかわからなかった。夢見は改造された人間? シーリンも? 人類が神になるために?
(予想外だったのは、精神改造された四人の外貌が改造前とまったく変わってしまったことだった。彼らは揃って、古来からの宗教に説かれてきた天の使いそのものの姿に変わってしまったのだ)
 ・・・天使。言われてみればその通りだった。夢見は誰も、言い伝えられている天使そっくりの姿をしている。整った顔立ち、艶やかな長い髪、よこしまな行為や考えを許さない潔癖性と誰をも愛する寛容さ。
 じゃあ、シーリンは最初からあの姿で生まれてきたわけじゃないの? 改造される前は、まったく違う顔をしていたっていうの?
(ふふふ。その通りだ。何なら、改造前のシーリンの顔を見せてやってもいい。見たいか。見せてやるぞ。望みならば)
 心が痺れてくる。黒いフードの奥の暗闇がぐんぐん大きくなり、いつか視界いっぱいに広がり始める。
 引きこまれる。憧れ続け、嫌悪し続けた五万個の星がきらめく星空に。
(さあ、ともに来るがいい。お前なら神と話すことができる。神の意思を我らに伝えることができる。都市に接近した彗星を破壊したお前の力。その力をもってすれば、核恒星系中心に住まう神のもとへ一瞬のうちに到達することもできるはず。お前は、人類の膨大な知恵と精神の歴史が育んだ神の子。我らはずっとお前の出現を待ちわびてきたのだ)(つづく)


☆イラスト担当の娘が忙しく、なかなか連載が続きません。
さて、いよいよ出てきました。
謎の集団、精神委員会。
黒いフードをかぶり、フードの中にはいくつもの銀河が浮かんでいるといういかにも怪しげな風体の彼らは、いったい何者なんでしょうか。
彼らは言います。
神は実在し、あずさちゃんこそが神に近づける存在、神の子なのだと。
夢見は改造されて造られた超能力者だと。
あずさちゃんは混乱します。
そんなあずさちゃんを、精神委員会はどこへ導こうというのでしょうか。
何をさせようと目論んでいるのでしょうか。
物語はいよいよ佳境に入っていきます。