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「ソウキチ!」
 小柄なソウキチの姿が、このときほど大きく見えたことはない。
「よかった。無事だったんだね」
 走り寄る。
「へへへ。ちょっといい夢を見せてもらったけどね。でもこのとおりピンピンしてるよ」

seiretsu37

 その姿が見えないことがずっと不安だった。まさか殺されたりはしていないだろうけど、精神委員たちの心理攻撃でおかしくなってしまったんじゃないかと思っていた。
 一人だけ残った精神委員が、砂を擦るような声で笑う。
(大した精神力だった。我らの攻撃にあれだけ耐えられるとは思わなかった。それどころか、心理攻撃を逆手にとって、我らの心を探るとは)
 そんな精神委員の笑い声には、なぜかこれまでのような不気味さが感じられなかった。それどころか。まんまとしてやられたはずのソウキチに対して親しみを抱いているかのような柔らかさを含んでいた。

「それにしても驚いたよ。伝説上の存在だと思っていたおとなが本当にいるとはね」
 おとな。
 私の肩を抱いているママを見上げる。さっき、精神委員が言ってたっけ。子どもの見ているところでおとなを再生させることは、破ってはならない戒律だって。それじゃ、ママもおとな? 精神委員会の委員たちも? 他にもおとながいるの?

「いるんだよ。この塔の中にね」
 ソウキチが、部屋の真ん中にそびえる塔の壁をとんとんと叩く。
「何人いるのかはわからない。でも、たぶんたくさんいると思う。その肉体と心は、メモリーに転写されている。地球を出発してからこっち、僕たちの見えないところで都市惑星の機能すべてをつかさどってきたのは、おとなたちなんだ」
「おとなとして転写されたのは、各分野で最高の知識と経験を持つ科学者やエンジニアでした。地球でもっとも優れたメインコンピューターを搭載した都市惑星でしたが、やはり生きた人間の知恵と決断力、そして勇気がなければ、都市を正常に機能させることはできなかったのです」
 ソウキチの言葉を引き取ったのは、シーリンだった。
「私たち夢見は、おとなとこどもをつなぐ存在。おとなの言葉を子どもに伝え、こどもの言葉をおとなに伝える、それが使命でした」

「前に東の塔に忍びこんだときから、おとなの存在には気づいてたんだ。この塔」
 ソウキチが、もう一度、塔の壁を叩く。
「東の塔そっくりの形をしたこいつは、都市のいわば大脳さ。転写されているおとなの知恵と知識を集大成した都市の中枢なんだ。僕たちは、前にもこの塔にアクセスしたことがある。ほんの一瞬だったけど、僕とルナの記憶容積をはるかに超える量の知識と情報がいっぺんに流れこんできて、二人ともパニックになった。そのとき、道のどこかにほころびができたんだろうね。あっさりとつかまっちまった。このおじさんたちにね」
 黒いフードに包まれた顔を、ソウキチは指さす。
「精神委員会は、僕たち二人の記憶を消去しようとした。全員の精神感応波を集中して心のいちばん奥までクリーニングするんだ。なみの人間だったら狂ってしまうほど強烈なクリーニングさ。彼らはある程度、それに成功した。でも、完全にはできなかったんだ。塔に納められた情報の一部は、僕とルナの心にしっかりと残っていた。残っていた情報のひとつが、あずさ、君の家族に関するデータさ」

 そうだったんだ。だから、ソウキチとルナは、私に家族がいるって言ってたんだ。
「さっきまで、直接、塔にアクセスして、今までの情報を検証してたんだ。申し訳ないけど、あずさやシーリンが精神委員会のおじさんたちと闘っている間にね」
 それで塔のうしろに隠れてたの。それにしても、あれだけの騒ぎだったのに、悠々とそんなことができるなんて。
 ソウキチ。いつもどおり超然としたその表情。(つづく)


☆あずさちゃんたちが精神委員会と死闘を繰り広げている間、なんと東の塔の中枢を綿密に調べ上げていたソウキチ。
ミニチュアの東の塔は、都市惑星の大脳だと言います。
「おとな」たちは、いわばメインコンピューターであるミニチュアの塔にデータ化して収納されているのだとも。
小柄で大人しく、どこか飄々としているソウキチは、実は恐ろしく聡明な少年でした。
というわけで、都市惑星の秘密がひとつひとつ明らかになっていきますが、のんびりしているわけにはいきません。
破局の時は、もう間近に迫っています。
あずさちゃんたちは、果たして破局を回避できるのでしょうか。
…というわけで、今回は8月以来久々の掲載となりましたが、次回からはテンポアップして連載してゆきたいと思っています。
これまでのお話を忘れてしまった方は、どうぞ最初から読み返してみてくださいね。
長く続いたこのお話、もうすぐ最終話を迎えます。