日食航海中は一昔前、いや、50年ほど前まで時代を溯ったかと思うほど情報から遮断された毎日でした。
ツアーに申しこんだ時点では、携帯電話はともかく、船上でもネットはつながるだろうと思っていたのですが、実際は携帯電話はもちろん、ネットも使えず、テレビも見えず、新鮮な情報を得ることはほとんどできませんでした。

そんな状況下で、私たち乗客の最大の関心事は何かといえば、もちろん天候です。
姫路港出港時は今にも降り出しそうな曇天。
日食の前日になっても、雨こそ降らないものの、いっこうに晴れません。

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唯一の天気に関する情報源は、ホワイトボードに定期的に貼り出される天気図と衛星からの雲画像でした。
 日食が近づくにつれ、ホワイトボードの前は常に人だかり状態。
 日本列島を縦断する雨雲を見てため息をつく人、あくまで強気の予想を崩さない人などさまざまです。
 特に前日の夜に貼り出された天気図と衛星画像は、私たちをがっかりさせるものでした。
それまで比較的北にあった前線が、日食当日はぐっと南へ下降し、それに伴って雨の範囲も南下する予報だったのです。
 予報通りとすれば、明日の天気は絶望的。
 晴れ男の私も、このときはさすがにダメかなと弱気になりました。
トカラ列島は大雨、上海も悪天候らしいという情報が伝えられ、ますます弱気に拍車がかかります。

ブリッジ外観

その晩、そろそろ就寝する時刻が迫ってきたころ、ふと感じるものがあって船首甲板に向かいました。
ドアを開けると強い風が頬を打ちます。真っ暗な船首甲板に出て空を見上げると・・・。
いきなり雲のような天の川が目に飛びこんできました。
緯度が低い分、いて座やさそり座が驚くほどの高さに見えています。
北半分は曇っているものの、船の進行方向の南天は(こういう表現はしたくないのですが)、それこそ「プラネタリウムのような」星空です。
緯度が低い上に水平線まで見えるため、おおかみ座やケンタウルス座といったふだんは見ることの少ない星座がよく見え、これまた月並みな表現で恐縮ですが「傾斜式プラネタリウム」で見る星空のよう。
周囲は見渡す限り海ですから、光害はまったくありません。アンタレスが木星のような明るさで輝いています。

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アンタレスの西側を、ちょうどアンタレスと同じ赤い色をした流れ星がかすめます。
赤っぽくて火花を散らすようなプロフィールの典型的な「やぎ座流星群」の流星です。
いて座の下方にあって、光害やモヤのためになかなかはっきりとは見られない「南のかんむり座」がホンモノの?かんむり座よりもくっきり見えます。
そんな豪奢な星空を、ogawa嬢と二人、しばらく言葉もないまま見上げました。

つい先ほど、レストラン前のホワイトボードに貼り出された天気図を見てしょぼくれていた気分はどこへやら、船が向かっている南の空が晴れているのですから、明日の日食当日も、晴れる期待が俄然、高まってきました。
ずっと星を見ていたかったのですが、明日はいよいよ本番。
後ろ髪を引かれる思いで部屋に戻りました。

写真:ホワイトボードに貼られた気象衛星の画像・船首甲板から見たブリッジ・フェニックスのような夕雲