物の怪、というものがこの世に存在するのかどうかわかりません。
昔の人は、病気になると「悪いモノに取り憑かれた」といってお祓いをしました。
科学の進んだ今、物の怪なんているはずないよ・・・と言いたいところですが、これまで私は何度か、そんな経験をしたことがあります。

あれは30年以上前、星と鉄道が好きだったO氏に誘われて、廃線間近だった静岡県の清水港線に乗りに行ったときのこと。
清水港線は、東海道本線の清水駅と美保の松原がある砂嘴までをたどる線ですが、一日一往復しか旅客列車のないことで有名でした。
しかも貨物列車と並結のいわゆる混合列車です。
春の好日、青春18きっぷを使って首尾良く一日一往復の列車に乗車することができ、美保の松原で遊んで帰路につきました。

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と、帰りの清水港線に乗った頃から二人とも急に重い石を載せられたように背中が重たくなり、気分が悪くなってきました。
O氏は「ダメだ。オレ、新幹線で帰るよ」と途中で乗り換えてゆき、私も家に帰ることはできそうになくなり、熱海から伊東線に乗り換えて何とか、当時、伊豆の宇佐見にあった親戚の別荘に転がりこみました。
別荘には祖父と祖母が住んでいたのですが、祖母はよろよろと入ってきた私を見るなり「背中に女が貼りついてるよ」と言いました。
それから三日間、猛烈な吐き気と腹痛にのたうちまわり、ようやく帰宅したのですが、何か悪いモノを食べたわけでもなく、原因はまったく不明です。
O氏も三日間、寝たきりだったそうです。

もうひとつは、数年前、自宅近くの山を探検していたときのこと。
私は暇なときには山野を彷徨する性癖があるのですが、そのときは巨大な岩をご神体にしている神社の裏に、山奥へ伸びる細い道を見つけ、いかにも妖しげな「匂い」を感じましたので、早速、その道をたどってみることにしました。
しばらく行くと、倒れかかった朽ち木がX字状に交差して道を塞いでいました。
その奥は、急に山深くなり、昼なお暗い細道が続いています。
交差した朽ち木からは、侵入を拒んでいるような気配を感じましたが、かまわずくぐって進みました。
草むした山道をしばらく歩くと、広い場所に出ました。
崩れかかったお堂、廃墟じみたコンクリート製の待合所、そして煉瓦づくりの、これも半ば崩れかかり焼けこげた内部が覗きこめる・・・火葬炉が2基。
周囲の山を見回すと、見渡す限り、所狭しと木や石の墓標が囲んでいます。
そこは、使われなくなった火葬場なのでした。
せっかく来たのだからとひととおり写真を撮り、帰路についたのですが、翌日から気分が悪くなり、肺炎になってしまいました。
入院こそしませんでしたが、それから2ヶ月あまり絶不調で、出勤して椅子に座っているのがようやくといったありさま。
X字状の朽ち木は結界だったんだよ。
娘が言いました。言われてみればそうかもしれません。

お化けや超自然的な力をいたずらに信奉するものではありませんが、私が経験したちょっと不思議な話を書いてみました。
家内によれば「パパは人が好すぎて、物の怪にも親和性が高いのよ」とのことです。
こうした体験をして以来、心霊スポットや怪しげな場所には近づかないようにしています。

写真:清水港線終着美保駅にて。大きい人がO氏。