2020年12月07日

201207 絶対絶命の危機   

長い一生には、誰でも死ぬほど苦しい時がある。私の最大の危機はボート事業の時だった。予算会議で会長より 我社は主力のFRP樹脂を販売するだけでは勿体ない。一歩進んでFRP成形品にして販売すれば 売上高は直ぐに2〜3倍になるだろうとの話だった。要は材木屋が製材を売るだけではなく 家具にして売れば、売上高は何倍にもなる筈という単純な話だった。早速社内で協議して 私はFRPボートの製造販売を担当することになり、外部から専門技術者を採用して釣舟事業を始めたが 大失敗を犯してしまった。   
                                             
車で持運びできる小型ボートを200台ほど製造して 全国の釣具店経由で販売した。 誰でも買える10万円の安さ、車搭載できる小型で 最初は好調で半年が経過した頃、この小型ボートが沈没したとの報告が入った。住宅の雨漏不可と同じく、舟は転覆しても首だけは水面から出て 暫く浮いていることが絶対条件であった。早速近くの海でテストしてみたが簡単には沈没しなかった。  
                                            
しかし現実には釣舟は海底に沈没したのだ。原因を追究すると、発泡スチロ-ルの留め金に使ったステンレス製ボルトが海水に溶けて 留め金が外れたと分かった。最強のステンレスでも電蝕反応で海水に溶けてしまったのだ。電蝕反応とは巨大タンカーでも徐々にイオン化して海水に溶ける恐ろしい現象であり、造船業界ではアルミニュウムなどを取り付けて、鉄より先にアルミ部分が溶けるよう必ず工夫されているのだ。   
                                           
最強のステンレスなら大丈夫だろうと 軽く考えた我々の重大ミスで、小型釣舟の小さなボルトは半年で海水に溶けてしまったのだった。船体の沈没は絶対に許されず 自転車なら軸が折れて車輪が外れるのと同じ深刻な事件であった。我々一同は顔面蒼白になり、早速全国の販売店を訪問して200台のボートのリコール作業を開始した。しかし地方の漁港の小さな釣具店には 買ったお客様の記録は殆ど無かった。従って全国的に回収して修理することは不可能だと判明した。あとは事件発生のクレイムを待つ以外に対策が無かった。もし一人でも溺死者が出ると 忽ちマスコミが騒ぎ出して重大事件に発展し、責任者の私は刑事事件になる筈だった。ボート事業部は全ての業務を止めて、恐怖の事件発生を待つだけとなり 生きた心地はなかった。結局 小型釣舟で荒海に出る人は殆ど無く 犠牲者は発生しなかったが ボート事業部は大赤を出して解散となった。     
                                                 
規模は違うが半世紀前に、ホンダのN360が米国の高速道路で転覆死亡事故を起こして、設計不備を訴えられて裁判になり 数百億円を支払った事件と同じことで、素人が安易にボートや釣舟などを販売すると、命取りになる危険があること知らされた。長い人生では誰でも絶体絶命の危機に直面する可能性はあるが、もし事件が発生すると直ちに全力対応して、その後は運を天に任せて、幸福の女神が見逃してくれるよう祈願する以外に対策はないことを知らされた。    




mh3944 at 09:23│Comments(0)

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