蒸気機関車に竜を乗せて
黒崎 江治
2024-03-09
エラム歴1058年10月25日。
15歳で故郷を離れブランタン・ハルゴン社に入り4年になるジャックライン・ベイパー。
女性だからと日々雑用に近い仕事を押し付けられていたが、ある日紀行文の下調べのため地方への取材を命じられる。
田舎の漁村で「怪物がいる」という噂を聞き干潮の時だけ島と繋がる小島を訪ねてみると、そこには赤い竜と青い竜がいて、なぜかジャックラインにとても親し気に話しかけてきた…

可愛いんですよ、この巨大な赤と青の竜たちが。
お酒大好きだけど、キラキラ金貨を集めたりはしない。
いきなり人間に悪意を放ったりはしない。
二人は双子でかつて親しくしていた人間とジャックラインを間違えていた。
動揺したのはジャックラインの方も同じで、竜たちは「ジャッキー」と彼女を読んだから。
でも本物のジャッキーは男性で、しかも竜たちは400年も眠っていたんだとか。
ジャッキーがとうに永遠の眠りについている事に気付いた竜たちは、彼の子孫なり、墓なりを訪ねたいという。
こういうところもなんか可愛い。
広い世界のどこをどうやって400年前に生きていた「ジャッキー(ジャック)」を探すというのか。
ジャックラインは突如沸いた好奇心から二人の案内役を申し出る。

本を読む前詳しいあらすじはなるべく見ないようにしているので、表紙を見ただけでなんとなくドラゴンが存在するハイファンタジーを思い浮かべた。
でも、ちょっと違う。
双子の竜たちは変身ができる。
赤い竜兄のフリオは30歳ほどに見えるたくましい木こり風姿に。
弟の青い竜パルサは初老に見える中世貴族風姿にぽんと変身した。
どちらも現代人ぽい姿ではなく浮世離れした感があるが、二人はこの姿で芸人と触れ込み、火を吹いたりして路銀を稼ぐ。
人間のことをよく知っているなぁと思えば、かつては若い貴族に変身したばかりに姫たちに追いかけまわされ散々な思いをしたこともあるという。400年も生きていれば経験値が違う(笑)

こんなキュートで頼れる竜たちの力になりたいと思うジャックラインの気持ちはよくわかる。
二人に蒸気機関車の二等車の切符を与え大移動の旅がはじまる。
途中、事件に巻き込まれ、さらに暗い影に追われたりなかなか危険なジャックを探す旅。
この辺り、巻頭、巻末に地図がないかと探してしまった。
地図を眺めながら登場人物たちの見る世界を確認するのはすごく楽しいから。

最後の章辺りでは私も淋しくなった。
この双子たちと別れて生活するなんて、もう会えないかもしれないなんて悲しい!と。