「真空地帯」スチール



















『真空地帯』   1952(昭和26)年 新星映画
1952(昭和26)年キネマ旬報第6位/第3回ブルー・リボン賞ベストテン2位/NHK日本映画委員会選出ベストテン9位

<山本薩夫監督>
山本薩夫監督<監督>山本薩夫
<制作>嵯峨善兵・岩崎 昶
<脚本>山形雄策
<撮影>前田 實
<美術>川島泰三・平川透徹
<照明>伊藤一男
<音楽>団伊玖磨
<録音>空閑昌敏

「真空地帯」野間宏著
「真空地帯」野間宏<原作>野間 宏『真空地帯』

<出演>
木村 功・神田 隆・加藤 嘉・下元 勉・三島雅夫・岡田英次・利根はる恵・高原俊雄・金子信雄・沼田曜一・花沢徳衛・佐野浅夫・林 孝一・武内文平・椎原邦彦・三島 耕・南川 直・西村 晃・鈴木 茂・下条正巳・大町文夫・小栗一也・谷 晃・清村耕次・薄田研二・沼崎 勳・野々村潔・原田甲子郎・山田洋次


「真空地帯」①-2










「真空地帯」①-3<粗筋>

  週番士官(沼田)の財布を盗んだ疑いで、2年間服役していた木谷一等兵(木村)は、敗戦の前年に大坂の原隊に帰って来た。
  彼は入隊後2年目に直ぐ入獄したので既に4年兵だったが、中隊には同年兵は全く居ない。出迎えに来た立澤准尉(三島雅)も大住軍曹(西村)も全く見覚えのない人間だった。  
   部隊の様子はすっかり変わっていた。木谷に対する班内の反応は様々である。彼は名目上病院帰りとなっており、何もせず寝台の上に坐ったままの彼は古年兵達の反感と疑惑をつのらせた。
  木谷が財布を盗ったのは偶然であった。しかし被害者の林中尉(加藤)は当時反対派の中堀中尉と経理委員の地位を争っていて、木谷は中堀派と思いこまれた事から中尉の策動によって事件は拡大されたのである。

「真空地帯」①-4  木谷の愛人山海樓の娼妓花枝(利根)の許から押収された彼の手紙の一寸した事も反軍隊的なものとして、一方的に審理は進められたのだった。
  兵隊達が唯一の楽しみにしている外出の日、外出の出来なかった木谷は班内でただ一人彼に好意をもっている曾田一等兵(下元)に軍隊のこうした出鱈目さを語る。
  班内には種々の人間が蠢いている。獰猛な地野上等兵(佐野)・エゴイストの初年兵安西(三島耕)。事務室要員の曾田は軍隊を「真空地帯」と呼んでいた。そこでは人は人間らしさを削除されて一個の兵隊--真空管となるからだ。
  或日、野戦行き15名を出せという命令が出た。木谷は選外にあったが、陣営具倉庫で金子軍曹(金子)がしつこく木谷を野戦行きに回す様に准尉に頼んでいるのを曾田が聞く。
  金子班長はあの事件の時中堀派の一人として木谷の面倒をみたのに、今は木谷との関わり合いが煩さかったのだ。

「真空地帯」①-5  木谷が監獄帰りだと吹聴する上等兵達(佐野・谷)の言葉に木谷は猛然と躍り掛かる。
  彼を監獄帰りにさせた真空地帯を壊そうとする憎しみに燃えた鉄拳が彼等の頬に飛んだ。そして、木谷は最後の力をふりしぼって林中尉を探し回った。
  彼に不利な証言をした中尉に、野戦行きの前に会わねば死んでも死にきれなかった。遂に二中隊の舎前で彼を発見した。中尉の必死の弁解に対して、木谷の拳骨が頬に跳んだ。
  やがて、転属者が戦地に行く日が来た。花枝の写真を懐に抱いて船上の人となった木谷に、漸く自分を翻弄した軍隊の機構やその実態が幾らか分かりかけてきた。
  見知らぬ死の戦場へと赴く乗組員達の、捨て鉢で野卑な歌声が隣から流れてくる。しかし木谷の眼からは、もはや涙も流れなかった。

「真空地帯」②














「真空地帯」②-3<一言>  

  この映画で描かれる、かつての日本陸軍の軍隊生活の残酷さは目も当てられない。まさに地獄の様相である。
  初年兵は、先輩への命令には絶対服従である。常に直立不動で命令を聞き従わねばならない。
  誰かが失敗をすれば、連帯責任として同じ班の全員が制裁を受ける。虐めや暴力は日常茶飯事である。全くの理不尽なことで殴られたり、柱にしがみ付いて蝉の鳴き真似をさせられたりもする。
  まるで人間の行為とは思えない場面が展開する。朝起きてから夜寝るまで、一日中ひたすらその責め苦に耐えなければならない軍隊生活。戦争映画は数多くあるが、この映画はその中の白眉と断定出来る。

「真空地帯」②-2  現代の時点で考えれば、群れる男達ほど馬鹿らしいく見える。
  先輩・後輩など、その組織内でしか通用しない階級制度を設けて、理不尽なルールに従わなければならいのはエネルギーの浪費以外の何ものでもない。
  この戦争映画は、その馬鹿馬鹿しさを徹底して描いており、醜悪でさえある。逆らえば問答無用で殴られる。自分の意志などを持つ人間は自ら思考を停止するしかない。まるで下らない事でお互いに牽制し合い、上官へのご機嫌とりでは嫉妬や猜疑が渦巻く。その姿は陰湿で自閉的で「男らしさ」とは空極の地点にある。
  かつての日本では、兵隊という殺人鬼或いは殺人マシーンを製造するには、こうしたシステムが必要だったのだろうか。
  人間はこれだけの醜いシステムを作り上げなければ組織化が不可能だった(と考えられていた)のなら、情けなさを通り越して生きると言うこと自体が恐ろしく又は虚しくさえ思える。

「真空地帯」③-2  兵学校から誰を戦地へ送るか(=誰を先に殺すか)。誰を出世させるか(=誰を生かしておくか)。
  その決定には利権が複雑に絡み合い、上層部では食糧や金銭の裏取引が渦巻く。経理部を中心に軍隊組織は腐敗する。
  そうした利権構造の真実を知ってしまった主人公の視点から、その実態が暴露されて行く。こうした腐敗や不正は組織が大きくなれば当然出てくる問題であって、現在では日常茶飯事であるとさえ言える。
   しかし「大東亜共栄圏の建設」「天皇陛下の為」と言う絶対的なお題目の下に、国家を上げて組織化された軍隊でこうした事実がまかり通っていた事は衝撃的である。
  当時の陸軍の軍人達がこうした理不尽な事を平気で(寧ろ正義と信じて)やっていたのだとすれば、物量面以前に人間的な在り方の面で、日本は既に負敗北していたと言える。日本の歴史を考える上で、この事実を見過ごすことは出来ない。
   それにしても、日本の俳優は兵隊が良く似合う、と定評があった。やはり、俳優にも軍隊経験者が多かったからだろう。その証拠に、「きけわだつみの声」がリメイクされたが、2作目の出演俳優達には、正直言って笑えたものである。
  この映画のラストシーン。戦場へ輸送される船の上での木谷(木村)の空虚な眼の表情が、今でも記憶に焼き付いている。

「真空地帯」③














「真空地帯」③-4 hspace=<参考>

  「真空地帯」は、野間宏が実際の軍隊体験を元にして書いた小説であり、同じく軍隊経験を持つ山本薩夫監督らが集結して独立プロダクションの制作で映画化された。
  戦後の東宝争議きっかけにして、大手の制作に頼らずに自分達の映画を作ろうとした、当時の映画人たちの並々ならぬ情熱に満ちた映画となっている。画面から伝わってくるその迫力は凄まじいものがある。

「真空地帯」③-3   昭和27(1952)年はサンフランシスコ講和条約が発効した年。
  アメリカによる占領から解放され、GHQによる言論統制からも解放され、続々と戦争時代の真実が文学や映画で噴出し始めた頃である。
  その鬱積されたエネルギーの噴出が結晶したかのような映画と言える。
   やはり、見所は軍隊生活の克明な描写。実際の体験者達が、まだ記憶が鮮明なうちにリアルに描いておきたかったのだろう、と言われている。軍隊という組織における人間関係の理不尽さを細部にまでとことん拘って再現している必見の名作である。
  

「真空地帯」③-4   染一等兵(高原)の営倉入りのお祝いで歌われる数え歌>

一ッともせいーえ、人も亦嫌る軍隊えーいえ、志願もまたするよな馬鹿もある、志願処か再役するよな馬鹿もあるわーえ。
二ッともせいーえ、ふた親見捨てきたからにゃいーえ此身は国家に捧げ銃、及ばずながらもぇー務めますわーえ。
三ッともせいーえ、みなさん御承知の軍隊はいーえ、呑気で気楽でよい様だが、来てみてみなされぇーつらいものぞーえ。
四ッともせいーえ、夜も亦寝られぬ不寝番じゃいーえ、あくれば衛兵に交代す、勤務勤務で苦労するわーえ。
「真空地帯」③-6五ッともせいーえ、いつかは知らねど不時点呼じゃいーえ、真の夜中に起されて班長さんより番号かけられ解散じゃわーえ。
六ッともせいーえ、無理な事でも軍隊はいーえ、命令なんぞとかこつけて、絶対服従せにゃならぬわーえ。
七ッともせいーえ、七日七日の土曜日にはいーえ、被服検査や兵器検査内務検査、検査検査で苦労するわーえ。
八ッともせいーえ、焼けで営門出たからにゃいーえ、遊びつかれて七、八日帰りゃチョット二十日のえー重営倉じゃーえ。
九ッともせいーえ、此処の規則はよく出来たいーえ、寝るも起るも皆ラッパ、
衛兵交代、会報、非常呼集、食事、皆ラッパじゃわーえ。
十ともせいーえ、十日十日の俸給日にはいーえ、一円と八十五銭貰います、女郎買処かアンパン代にも足りはせぬわーえ。



<舞台>

新演劇研究所(新演)第4回公演   1953年4月21日~4月27日・毎日新聞社主催/1953年度毎日新聞演劇賞を受賞/同年5月12日・大阪毎日会館、5月18日・京都弥栄会館で上演

<演出>下村正夫<脚色>鈴木政男
<出演>小松方正・杉浦直樹


<1952年作品>

「真空地帯」①

















<シナリオ>「真空地帯」シナリオ











「真空地帯」パンフレツト
























「真空地帯」VHS















「真空地帯」ポスター「真空地帯」DVD(カバー)


















「真空地帯」VHS


















「真空地帯」DVD①「真空地帯」DVD②















「真空地帯」VHS(カバー)①