「挽歌」スチール
















『挽歌』   1957(昭和32)年  松竹   1957 (昭32)年キネマ旬報ベストテン第27位)

<五所平之助監督>
五所平之助監督<監督>五所平之助
<製作>加賀二郎・内山義重
<脚本>八住利雄・由起しげ子
<撮影>瀬川順一
<音楽>芥川也寸志
<美術>久保一雄
<編集>長田 新
<衣装>森 英恵
<録音>岡崎三千雄
<照明>平田光治
<編集>長田 新

「挽歌」原田康子著
「挽歌」原田康子著<原作>原田康子『挽歌』




<出演>
久我美子・森 雅之・斎藤辰雄・高崎敦生・浦辺粂子・高峰三枝子・中里悦子・渡辺文雄・石浜 朗・中村是好 ・武藤れい子・高杉早苗・松山照夫・陶 隆・稲吉 靖・伊籐周子・青木道子・岩崎ちえ


「挽歌」














「挽歌」-1<粗筋>

  北海道の魚港釧路。霧の深いその街を、兵頭怜子(久我)は関節炎を患って以来硬直してしまった左肘を右手で抱え、ゆっくりと歩いている。父(斎藤)は、そんな娘を不愍に思って何回となく縁談を持って来るが、彼女はまるで耳を貸さない。
  そんな孤独な怜子の唯一の救いは、アマチュア劇団「みみずく座」の美術部員としての仕事である。幼馴染の久田(石浜)も同じ部員で、お互いに心の通じ合うのを感じている。だが、怜子の心の空虚さは、彼によっても満たされないのだった。
  怜子は、ふとした切っ掛けで、中年の建築技師桂木(森)と知るようになった。桂木の眼差しの中に感じられる空虚さが、彼女の心を惹きつけたのである。
  そして、怜子はある日、桂木の妻あき子(高峰)が、古瀬(渡辺)という青年と自宅の近くの道端で抱擁しているのを目撃する。
  それを見た怜子は、桂木の空虚」さ原因を突き留めたような気がした。そして、大人の傷口に触れることの興味が、怜子を積極的に桂木に近付かせた。その好奇心は、やがて桂木への激しい慕情に変って行ったのである。

「挽歌」-2   そしてある日、桂木に誘われて阿寒国立公園へ出かけた怜子は、そこで初めて彼と夜を共にした。桂木が孤独なのは、妻の秘密を知っているからだと語った怜子は、「お願い!今だけでいいの、私のことだけ愛して!」と泣き叫んで、桂木の胸の中へ崩れた。
  帰宅してから、桂木からの電話にも出ないで床に臥す数日が過ぎた。桂木が札幌へ出張した後、怜子は桂木夫人に絵のモデルを頼み、久田と2人でたびたび桂木宅を訪れた。そして、優しい夫人の微笑は、母の愛に飢えた怜子の心を捉え、怜子は罪の意識に怯えるのだった。
  しかし、桂木への愛情は募るばかりである。そして、札幌の桂木の許へ走らずにはいられなかった。そんな彼女に、妻と離婚すると言う桂木に、「今のままでいいの。私をただのアミーにしておいて」と、怜子は泣きじゃくって訴えるのだった。
  釧路に帰って、怜子は桂木夫人にぶっつけるように、桂木と過ごした夜のことを打ち明けた。そんな彼女に対して夫人は、「自分を大切にしなければ」と静かに微笑するだけだった。そして、霧の深い夜、夫人は自らの命を絶った。そのデスマスクは、気高いばかりに美しく、胸には怜子の贈った十勝石のネックレスが光っていた。

 「みみずく座」の公演が迫った。団員たちと公演地へ向う怜子は、トラックの上で、もう逢うことはないであろう桂木への思慕に疼く胸の中で、哀しい「ママンへの挽歌」と、彼女自身の「青春への挽歌」を口ずさむのだった。


「挽歌」














「挽歌」-2<一言> 
   
  舞台は昭和30年代初めの釧路。当時の釧路の町は原野を残していて、霧に覆われた湿原の中に続く一本道は、まるで日本離れした光景である。この作品から数年後に私は北海道へ旅行をしたが、未だそんな風景が見られたものである。
  太平洋戦争を体験し敗戦による失意を引きずりながら、戦後を生きようとする中年男の建築家桂木。偶然の縁で桂木と知り合い彼と彼の家庭に好奇の心を注いで侵入者となっていくヒロインとの不倫の愛。
  そんな物語が、不毛と憂愁を湛えて広がる釧路湿原を背景に描かれる。丁度、戦後の復興期を脱して漸く高度経済成長に向かおうとしていた、日本のゆとり指向の風潮があった。
  そんな風潮に、従来の日本文学の持つ雰囲気とは異質な西欧的な文学世界とが重なり合う形で、新聞連載中から広く関心を呼んだ。やがて作品の完結出版と映画化によって、空前の「挽歌」ブームが起こった。
  当時の釧路は、1年の半分近くは濃い海霧に包まれる上に、周辺の魚揚場や水産加工場から吐き出される悪臭が漂い、生活環境では極めて厳しいマイナスのイメージを色濃く抱えた最果ての港町だった。

「挽歌」-3  「挽歌」はこうした暗いイメージに塞がれていた北の小都市釧路を、霧の街や挽歌の街としてロマン溢れる街として変貌させた。さらに、急速に発達する経済成長が、道東における産業・文化の中核都市として急速に街の姿を変えていった。
  「挽歌」はその意味で、釧路の都市像が変革する予兆ともいえる作品になった、と言える。加えて、北海道観光ブームに拍車をかけ特に釧路を中心とする道東観光の発火点ともなって、地域の観光・文化の宣伝振興に寄与するところがあった、とされている。
  ヒロイン怜子の生き様や、風俗などのスタイルへの関心が高まり、「挽歌族」や「挽歌スタイル」の流行語が日本中を席巻した。私にとっては他人事だったが。
  いずれにしても、ヒロインのモラルや価値観を拒否し、特定職業を持たずに自らの感性に従って自由に積極的に行動する女性像には、戦後の終息と新しい時代の到来が予兆された。また、今日の感性の時代の到来を予見する文学とされている。映画では、久我美子の個性が大きく貢献していると思える。
  ただ、ヒロインは少女特有の好奇心とコンプレックスゆえの意地悪ささで、大胆に男を誘惑していく。それに対して男は大人の節度を見せつつ分別を持ちつつ、大胆不敵である。
  妻の不倫を告げるヒロインの口を塞ぐがために突如キスしたり)、「今夜君を連れだそうと思っていた、そうでなければ街中を探そうと思っていた」などと、湖畔ホテルへ連れて行く。男としての狡さに溢れてゐる。それでいて、理性が見え隠れするなど、男としてはかなり憎い人物に思えた。
  そんな展開の中で、ヒロインが不倫相手の妻をどうしようもなく好きになってしまうという点は、いささか切ない。普通ならそんな感情が湧くはずがないだろう。嫉妬で狂うと思えるのに、夫人の温かく慈愛に満ちた態度。夫人のノーブルな気品がそれを納得させてしまう。
 ヒロインがプレゼントしたペンダントが夫人の遺体の首に巻き着いているのも、かなり痛ましい場面ではあった。


「挽歌」














「挽歌」-2<参考>

  ベストセラー小説原田康子の『挽歌』を由起しげ子と「最後の脱走」の八住利雄が共同脚色。これで作品第80号になる五所平之助が「黄色いからす」に次いで監督した。
  撮影は昨年度、色彩技術賞を獲得した新進の瀬川順一。主演は「黄色いからす」の久我美子・「今日のいのち」の森雅之・「浪人街(1957)」の高峰三枝子・「海人舟より 禁男の砂」の石浜朗。ほかに、渡辺文雄・浦辺粂子・中村是好・斎藤達雄・高杉早苗など。
  原作者の原田康子は、「髪が長く、ガリガリに痩せている」ことが女学生・怜子役の絶対条件としたらしいが、久我はそれにピッタリであったので安心したと言う。当時、人気急上昇のオードリーヘップバーンをかなり意識したらしい。
  トレンチコートに黒のタートルネック、同じく黒のパンツにローファーは中々のもの。また、煙草をふかすシーンもかなり決まっていた。私は、特別に惹かれることは無かったが。
 
「挽歌」記念碑「挽歌」碑(幣舞公園)

 高台から見降すと
 下町には明かりがともっていた。
 しかし町の明かりの果ては、
 広い真暗な湿原地に呑みこまれているようだった。
             ―原田康子『挽歌』より―



「挽歌」


















<釧路湿原>
釧路湿原







<ロケ地にて>
「挽歌」ロケ「挽歌」ロケ








<リメイク>

「挽歌」1976「挽歌」   1976(昭和51)(1976)年  東宝    1976 (昭51)年キネマ旬報ベストテン第29位)

<監督>河崎義祐
<原作>原田康子『挽歌』
<脚本>井手俊郎・蒼井マキレ
<撮影>村井 博
<音楽>馬飼野俊一
<美術> 樋口幸男
<編集>山地早智子
<録音>神蔵 昇
<助監督>松沢一男
「挽歌」1976<出演>
秋吉久美子・仲代達矢・草笛光子 ・田中 健 ・村野武範 ・西村 晃 ・宮田 真・近松麗江・南風洋子・飯島洋美・阪本真澄・杉本孝次・矢野勇正・太宰久雄



<テレビ>

「挽歌」原田康子※1961年(昭和36年)10月2日〜12月25日・フジテレビ
<演出>岡田太郎                             
<脚本>浅川清道                              
<出演>
稲垣美穂子・高倉みゆき・原 保美・夏川大二郎

※1966年(昭和41年)1月3日〜4月1日・・TBS
<演出>野村 孝                              
<衣装> 森 英恵
<ヘアー>名和好子                   
<出演>
亀井光代・根上 淳・小畠絹子

「挽歌」原田康子※1971年(昭和46年)11月1日〜11月5日・NHK「銀河ドラマ(後の銀河テレビ小説)
<演出>和田 勉                              
<脚本>倉本 聰                             
<出演>木村夏江・小山明子・佐藤 慶・中村敦夫 


「挽歌」本文※1982年(昭和57年)11月8日〜12月31日・TBS「花王 愛の劇場」/製作・松竹
<監督>番匠義彰<助監督>山田良美                     
<脚本>秋田佐知子
<製作主任>大川 修
<進行> 水島誉志次
<プロデューサー>田中浩三・藤川忠勝・金川克斗志
<音楽>牧野由多可
<美術>猪俣邦弘
<撮影>宇田川満
<録音>青木左吉
<照明>飯島博<編集>鶴田益一 
<構成>長尾広生
<編集>鶴田益一
<協力>釧路市                               
<出演>
平 淑恵・結城しのぶ・大出 俊・市山 登(市山貴章)・土屋嘉男・新倉 博・滝奈保栄・大森暁美・唐沢民賢・笹入舟作・渡会良彦・甲斐みどり*ナレーター:白坂道子

<1957年作品>

ポスター「挽歌」新聞記事




















「挽歌」ポスター














「挽歌」パンフレット「挽歌」パンフレット


















VHS



















「挽歌」DVD「挽歌」DVD