2014年06月22日

ビートルズ MONO LPリマスターに期待するこれだけの根拠

12年にリイシューされたSTEREO LPリマスターの失望から、今度のMONO LPへの期待はゼロに近い。そんな辛辣な意見が出るのももっともかもしれません。STEREO LPの音質に関する問題点は、無論技術云々もあったと思いますが、それ以前にマスタリングエンジニアの仕事に取り組む姿勢にこそ大きな問題を孕んでいたのではないかと。以下は、STEREO LPリマスターを担当したシーン・マギーの当時の言葉である。


音源さえあれば、当時の状況を知る必要はない。我々の作業は、記録されている音を最新技術できちんとリストアし、彼らが創り上げた音を細部まで楽しめるようにすることなのだから(レコード・コレクターズ13年1月号 アビー・ロード・スタジオ試聴会の記事より)。

「当時の状況を知る必要はない」――受け取り方によってはその不遜ともいえる発言、アビー・ロード・スタジオ専属エンジニアにして偉大なる先達の軌跡を顧みない姿勢の何たることかと、その記事を読んだときの憤懣やるかたない気持ちから、一時はこんな高価なBOXを買ったことを悔やんだりもしました。

STEREO LPと同時にカッティングまで終わっていてあとは発売日を待つだけだというMONO LPなんぞ、金輪際二度と手を出してなるものか。できることならそのままお蔵入りしてしまえばいいものを!本気でそう思ったりもした。果たしてカッティングが終わっていたラッカー盤は日の目を見ることなくお蔵入りの運命を辿り、すべてゼロからの仕切り直しとなって、改めてアナログリマスターの真価を問うMONO LPリマスターの登場となったわけです。

ここで多くのファンからは、そのシーン・マギーによって何が変わるのか?結局は元の黙阿弥となって批判を浴びて終わるだけ、そんな見方が大勢を占めるような気がします。しかし、ここでもう一度公式サイトのニュースをしかとお読みいただきたいのです。ビートルズファンにはひとり聞きなれない名前の人物がいるではないですか。そう、その人こそ今回外部から招聘されたリマスタリング監修者スティーヴ・バーコヴィッツ――ソニー/レガシー・レーベルのプロデューサーとして一連のリイシュー関連を手掛けてきたA&Rマンです。

シーン・マギー(左)とスティーヴ・バーコヴィッツ

ボブ・ディランマイルス・デイヴィスのファンであれば、彼の名前は耳にしたことがあるでしょう。リイシューに関しては史実の裏付けに基づく徹底した現実主義を貫く。ボブ・ディラン『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』では、そのリマスタリングにおける音決めの基準として使用されたのは、マトA1のアナログ原盤であり、マトA1が存在しない『BLOND ON BLOND』は白ラベルのプロモ盤が比較に使われた。また現存するモノ・マスター・テープが発見できなかった『THE TIMES THEY ARE A CHANGIN'』は、マトA1オリジナル盤を基に3トラックマルチから寸分違わずにリミックスされたとのこと。そのことがアナログLP BOXにおいて見事な音質となって結実し、特に『THE FREEWHEELIN'』ディランの息遣いもナマナマしいシズル感全開の音は、これぞアナログリイシュー最高峰のマストアイテムであったと断言します!(ちなみに、10年くらい前にリイシュー専門のSUNDAZEDからMONO LPがシリーズで出ましたが、あれはまったく比較になりませんでした)

海外のAnalogPlanetというサイトに、MONO LPリマスターに関する記事がありました。今回のリマスター作業の詳細についてかなり詳しく書かれているので、ここから要点を抜粋して紹介します。以下、箇条書きにしてみました。

(1)ジャケットは、オリジナルのディテールに沿ったラミネート加工されたフリップバック仕様である(英文ではfold-over typeと書かれている)。

(2)180g重量盤がドイツのオプティマル社の工場で全世界向けにプレスされる。

(3)アビー・ロード・スタジオにおいて、オリジナル・1/4インチ・アナログ・マスター・テープがスチューダーA80のモノ・ヘッドで再生された。コンプレッサーを使わず最小限のイコライジングによって、ビートルズの最高のリイシューは達成されるであろうとのこと。

(4)マト1、マザー1、スタンパーG(1stスタンパー)のEMIプレスのオリジナル盤をオルトフォン2M Blackのカートリッジで聴いて、初回カッティングエンジニアのメモに基づいたEQ処理を適用した。

(5)マスタリングは当時と同じ部屋で行われ、カッティング・マシンは現在のトランジスタから、当時と同様の真空管へと変更された。ノイマンカッターヘッドSX-74(モノ仕様)(拙の勘違いでした。普通のステレオ・モノ両用と思われます)装備したVMS-80マシンでカッティングが行われた。ちなみにオリジナルはスカリーのカッティングマシンでウェストレックスのカッターヘッドが使用された模様。

(6)EMIの担当者は、前回デジタル音源から作られたSTEREO BOXに対するたくさんの批判を鑑みて、すべてアナログ機器だけを使用したMONO LPの制作を決定した。

(7)EQ作業にあたっては、経年で脆くなったマスター・テープに負担をかけないために、その音源をいったん96kHz/24bitのデジタルに変換して、これをオリジナル盤(再生にはスタントンのMMフォノプリアンプとクラスモノブロックスのパワーアンプでB&W 802sスピーカーを駆動した)と比較しながらEQの音決めを行った。そのデータをスティーヴ・バーコヴィッツがノートに記録して、シーン・マギーがそれを元に最終的なEQセッティングをして、マスター・テープを回しカッティングを行った。

細かな付随的なことは省略しましたが、だいたい以上のような内容です。これでリマスタリング作業のほぼ全貌が見えてきたと思いますが、それでも気になることがないわけではありません。たとえばオリジナル盤のカッティングにおいては、フェアチャイルド製もしくはEMI製のオリジナル・コンプリミッターが使われましたが(オリジナル盤特有のサウンドキャラクターはこのコンプリミッターによるところが大きいと言われている)、その点はどうしたのか?など。

すべて50年前と同じ機器を揃えることが不可能ではあるものの、カッティングマシンを真空管方式に改造するなど極力近い環境に整備する一方で、往時のリスニング環境と現代のそれとの差異によって敢えて変更している部分もあるはずです。そのあたりが気になるところではあります。

さて、国内通販サイトのMONO LP BOX輸入盤の価格も出揃ってきました。前回は、AMAZONが最安値で出してきたところを、それを一度引っ込めて、それまでの予約者に対して強制キャンセルが行われて気分を害されたので、拙は前と同じくHMVから購入することで手を打ちました。今のところ42,000円ほどで、輸入アナログ盤2点同時購入でそこからさらに2,000円安くなります(値段は前回STEREO LP BOXとほぼ同じ)。今回MONO LPのプレスは全世界ドイツ・プレスで統一されるとのことなので、USプレスで不良品が大量発生という事態はないと思われ、どこから購入しても安心だと思います。

さあ、みなさんはどうされますか?それでもやっぱり不安?・・・ですよねぇ。結果的には蓋を開けてみないことには、真相は何もわかりませんがね(笑)。


mickbanzai at 15:32│Comments(8)TrackBack(0)路傍のつぶやき 

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この記事へのコメント

1. Posted by hogan   2014年06月23日 08:58
路傍さま、いつもながら楽しい記事をありがとうございます。

前回のSTEREO版リマスターのときにお邪魔させていただいた記憶がございます。

あの時も路傍様のSTEREO版に対する期待のこもった記事の数々を拝見させていただき、私も脳内ドーパミンが大量に発散されてポチってしまい、大変後悔した口でございます(笑。
もちろん自己責任ですので・・・

今回のmonoは私としても大いに期待が出来そうなので、路傍様と同様にHMVですでにポチっております。

最後によくわからないのが、コンプやリミッタなどはどうしているかですが、これはマスターテープを作成する段階で施すのか、あるいはカッティングの際に施すものなのか?という点と、EQに関してはRIAAの特性を織り込んでカットしますので、記事中で言及されている「EQ」はRIAAを含んだ全体的な音調整を指されるのでしょうか。ご存知でしたらご教示頂けるとうれしいです。

話は少し変わって以下はレコードではなく、リマスターUSBのことになります。

あまり前期のアルバムは聴かないので詳しくは無いのですが、UKオリ(レイトプレス)と比べるとUSBはリミッタがかかっているなと感じられます(WhiteやAbbeyなど)。

これはデジタル化した後に最終段階で調整されたそうですから、やはりオリジナルのマスタに対し何らかの必要性を認識したときに後世の権利者がリミッタやEQを追加する、というものなのでしょうか。

何か質問のような形になってしまい、大変恐縮ですが、お時間があるときにご意見を賜ることが出来れば幸いです。
2. Posted by ノイ   2014年06月23日 10:40
路傍さま ごぶさたしております。
今回のMONOLPプロジェクトですが前回のタイミングで出なくてよかったのと反面、今回のはほぼ仕上がりが予測できてしまう取組みですね。hoganさんの書込みにもありましたように前回のUSBですら適切にコンプレッサー処理がなされていて絶妙な音質に仕上がっていました。Led Zeppelinのハイレゾリマスターも息を呑むような鮮烈な音で素晴らしいものでしたが決して処理をしていない音ではありませんでしたよね。今回のMONOはコンプレッサーを使わずEQ処理のみでカッティングをするというのはオリジナル盤とはかなり違うものになりそうな気がします。いわゆるフラット・トランスファーの音です。それはそれで良い音なのでしょうけどオリジナルモノ盤の出番が無くなるようなことはないのではと。それともコンプレッサーなしでガッツを込める技が何かあるのでしょうか?あとどうしても気になるのは鮮度ですね。50年くらい経った状態の良いマスターテープにどれほどの鮮度が残っているのか、彼等もそれは十分理解しているはずなのでこのチャレンジは素晴らしいと思いますが。どっちにしても聴いてみたいので箱にするかバラ買いするか悩むことになりそうです。
3. Posted by hogan   2014年06月23日 18:04
たびたび恐縮です。

確かにAnalogPlanetの説明の字面を追ってゆくと、最小限のEQはかけるがコンプは使わないように読めます。

UKマト1、マザー1、スタンパーGをリファレンスにするも、必ずしも同じ音を目指すのではなくて、ノイさんご指摘のようにフラットトランスファーを目指すというのであれば、オリジナル盤の忠実な?レプリカを期待する人にはリスキーな商品のような気もします。

と、いうことでやはり出てみるまではわかりませんね!
吉と出るか凶と出るか・・・
ちなみに当方はオリ盤の忠実なレプリカが良いです。
4. Posted by 路傍の石   2014年06月23日 22:57
5 hoganさん、どうもです。さま付けはナシで、かしこまらずにお願いいたします(笑)。
> 最後によくわからないのが、コンプやリミッタなどはどうしているかですが、これはマスターテープを作成する段階で施すのか、あるいはカッティングの際に施すものなのか?という点と、EQに関してはRIAAの特性を織り込んでカットしますので、記事中で言及されている「EQ」はRIAAを含んだ全体的な音調整を指されるのでしょうか。

よくご存知ない方のために補足的に説明しますと、コンプやリミッターの用途はいろいろあります。音の波形そのものを変えるエフェクター的な使われ方も多く、リミッターで音のアタックのピークを潰したり、コンプレッサーでサスティーンを強調したりといったような、楽器のエフェクターにも多く存在します。これらは最初の録音の時点から使われます。記事中でいうところのコンプレッサーは、全体のダイナミックレンジ(音量の大小の幅)を狭めることで音圧をアップする効果を狙うのが目的です。録音後のミックスダウン(2chマスターテープ作成)のとき、カッティング前のマスタリングのとき、その両方もしくはいずれか片方で必要に応じて柔軟に使用されます。

> 話は少し変わって以下はレコードではなく、リマスターUSBのことになります。
> これはデジタル化した後に最終段階で調整されたそうですから、やはりオリジナルのマスタに対し何らかの必要性を認識したときに後世の権利者がリミッタやEQを追加する、というものなのでしょうか。

この辺は、マスターテープの劣化でなまった楽器の音のエッジを立たせて迫力を増したい、そんな意図でリミッターもしくはEQを行うということが多いと思います。ビートルズのUSBハイレゾでは、そんなリマスタリングの課程が手に取るように聴き取れたりしますね。あまり上手な説明ではありませんが、ご理解いただけると幸いです。
5. Posted by 路傍の石   2014年06月23日 23:20
5 ノイさん、こちらこそご無沙汰しておりました。
> 今回のMONOはコンプレッサーを使わずEQ処理のみでカッティングをするというのはオリジナル盤とはかなり違うものになりそうな気がします。いわゆるフラット・トランスファーの音です。

前回のSTEREO LPでは、CDとUSBハイレゾでは通されていた最終的なコンプは使わなかったんですよね。何となく元気のない音に感じたのは、そんなことも要因のひとつだったのでは?と想像してました。ビートルズのオリ盤はガッツリコンプを使った音ですから、その辺のプロセスを通さないのであれば、かなり変わってくると拙も思いますね。フラット・トランスファーというのは、何となくビートルズには似つかわしくないような気もします。ビートルズのオリ盤は、ブルーノートのRVGのように、カッティングのときに作り込んで出来た音だと思いますので。

> それともコンプレッサーなしでガッツを込める技が何かあるのでしょうか?あとどうしても気になるのは鮮度ですね。50年くらい経った状態の良いマスターテープにどれほどの鮮度が残っているのか、彼等もそれは十分理解しているはずなのでこのチャレンジは素晴らしいと思いますが。

その鮮度の問題を克服するために何らかのワザの秘密があるかも、なんて考えると面白いです。ZEPのリマスターなんて、鮮度を復活させて失われた(もしくは最初からマイクに入らなかった)倍音を増強するような技術を使っているような気がします。でなけりゃあんな音絶対に出てきません。それがもしビクターのK2テクノロジー”スーパー”みたいなヤツだったらどうしますか(爆)。

> どっちにしても聴いてみたいので箱にするかバラ買いするか悩むことになりそうです。

みんなでBOX買ってもう1回後悔するというのもありかもしれません。それでもビートルズコレクターはやめられません、ということで(笑)。
6. Posted by 路傍の石   2014年06月23日 23:34
5 hoganさん、どうもです。その前にご返事の追記です。RIAAカーブですが、これはカッティングマシンのアンプにデフォルトで織り込まれているイコライザーなので、マスタリング作業で意識する必要がないものです。

> と、いうことでやはり出てみるまではわかりませんね!
> 吉と出るか凶と出るか・・・
> ちなみに当方はオリ盤の忠実なレプリカが良いです。

拙はなんかよくわからなくなってきました。もうどっちでもいいです。で、本当はアナログだけでなく、そのオマケにハイレゾも付けてほしいです(もう言ってることがムチャクチャ)。
7. Posted by hogan   2014年06月24日 07:42
路傍さま(さん)

大変ご丁寧に解説を賜りましてありがとうございます。

私も、今回のmono BOXにそのハイレゾのダウンロード権がオマケに付いて(どっちがオマケだ?)くれば気が狂うほどにうれしいです(笑

凶と出ても吉と出ても、これから2ヶ月と半の間、つらくしんどい日常の中で大いなる期待感と楽しみを与えて頂けるわけですから、感謝しなければいけないと思っております。


8. Posted by 路傍の石   2014年06月24日 22:38
5 hoganさん、たびたびどうもです。
> 私も、今回のmono BOXにそのハイレゾのダウンロード権がオマケに付いて(どっちがオマケだ?)くれば気が狂うほどにうれしいです(笑

今回は完全アナログリマスターなんだからハイレゾなんかあるわけないじゃないか、と思われた方、もう一度記事をよ〜くお読みください。EQの音決めとオリ盤の比較は96/24に取り込んだハイレゾでやってるんですねぇ。なのでリマスタリングされたデジタル音源もしっかりあるわけです。そこでこれをオマケに付けろ!と強行に申し立てているわけであります(笑)。

> これから2ヶ月と半の間、つらくしんどい日常の中で大いなる期待感と楽しみを与えて頂けるわけですから、感謝しなければいけないと思っております。

日常の重圧で辛うじて生きている人々に救いの手を!ビートルズこそそんな音楽ファンの救世主であります。だから前回のような裏切りは、文字通り地獄に突き落とされるような苦しみであると。今度こそ極楽で成仏できることを切に願う次第であります。もはや死んでもいいという覚悟で・・・(爆)。

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