2008年01月20日
コンスタン「アドルフ(Adolphe)」
大塚幸男訳/岩波文庫フランス文学の古典で、心理主義小説の先駆けとし知られている。
主人公は、あるフランスの貴族を紹介され訪問する。そこで貴族に保護された愛人であるポーランドの亡命貴族の女性を恋するようになる。主人公は女性に思いを寄せ、ついにその愛を獲得する。女性は無一文となって亡命していたところをその貴族に助けられ、保護されていたのである。その恩を忘れ、恩人との間にできた子どもまで捨てて、女は若い主人公にすべてを捧げようと決心し、主人公と暮らし始める。
その頃から、彼にとってその女性がいろいろな意味で重荷になり始める。しかし、彼は別れを言い出すことができない。
別れることをすすめる父の友人である地元の有力者に当て、彼はその場の言い逃れにすぎない「別れる決心」の手紙を書く。有力者は前途ある若者を救い出すため、よかれと思ってその手紙を彼女に見せてしまう。女性は打撃を受け病気になって死んでしまう。主人公はすべてを捨てて放浪の旅に出る。
愛の本質を深くえぐって感動的な作品である。愛は失ったときに初めてその深さ、ありがたさを感じることができるという意味で、幸福と似ている。主人公は、職にも就かず仕事もせず、愛人の元でぶらぶらしていたわけであるが、父の友人の地元の有力者が、父の意を受けて主人公を窮地から救い出そうとおせっかいを焼くわけである。「いい若い者が、愛人のくびきの元でなにもせず無為な生活をしているのはよくない」というのである。
これほど深く強く愛された男というものは、それで本望でそれ以外何も要らないと思わないのだろうか。それでも男は愛が重荷であり、愛から逃れたいと思うことがあるのだ。人間は愚かで迷うものであり、失って初めて誤りに気づくものである。そこにまた愛の本質がある。
アドルフ (岩波文庫)