今回はブラウン大学経済学部の三浦憲さんから寄稿いただいた記事を掲載します。三浦さんは一橋大学でザンビアにおける天候保険の研究をされ、現在はブラウン大学に在籍されています

マイクロファイナンスは、マイクロクレジット(融資)以外にも多様な金融商品を包含する概念だと以前ご紹介しておりますが(「マイクロファイナンスとは?」ご参照)、天候リスクへの対処策としての天候保険も、そのうちの一つであると考えられます。
(以前の投稿(「農業金融の概要」)は本記事と関連しますので、こちらもご参照ください。)


【以下、寄稿いただいた記事】

一般的に、農業において、生産性を上げてくれる肥料や改良品種の種子は、農業の生産性を高めてくれるものとして歓迎されるものです。しかし、アフリカの農民はそうしたものを敬遠する傾向があるようです。なぜでしょうか?
天候リスク、および天候リスクへの対処策としての天候保険は、その謎を解く鍵になります。今回の記事では、まずサブサハラアフリカ(アフリカ、特に、サハラ砂漠より南に位置する地域)における農業生産性の特徴をご説明し、次回、その特徴に対する天候リスク、そして天候保険に期待される役割について紹介します。

サブサハラアフリカの農業生産性は近年上昇傾向が観察されますが、依然として低い値で推移しています。私の研究対象国であるザンビアの主食作物であるメイズ(トウモロコシのこと。コムギ、コメと並ぶ世界三大穀物の一つ。)を例にとると、2004年から2013年の過去10年間の平均単収(1ヘクタールあたり、どの程度穀物が収穫されるかを示す指標)は2,285kg/haであり、世界平均の5,059kg/haの半分以下に留まっています(FAO[1], 2014)。さらに注目すべきは、年毎のメイズ生産性の変動が非常に大きいことです。具体的には、変動幅を示す指標の変動係数を見てみると、世界平均は0.042であるのに対し、ザンビアのそれは0.147と約3.5倍大きな値を取っています。

農業生産性の年間変動は重要ですので、もう1つ、データを紹介します。

サブサハラアフリカの農業の特徴と天候リスク、天候保険(第1回)
図1. ザンビア南部県チョマ地区およびシナゾングェ地区におけるメイズ単収(ton/ha) と降雨量(mm)の推移, 1975/76-2010/11
注: メイズ単収はザンビア統計局が実施したCrop Forecast Survey. 降雨量はチョマ測候所で計測された年間降水量を使用. 

図1は、私のザンビアの研究対象地区の過去35年間にわたるメイズ単収(単位面積あたりの収穫量)と降水量を時系列にプロットしたものです。2つの点線が研究対象地域のメイズ単収を示し、実線は年間降水量を示します。図1を見て分かるように、年間降水量の変動も大きいですが、それに呼応するかのようにメイズの単収の変動も大きいことが分かります。
これはザンビア農村部では灌漑普及率が限りなく0に近く、農業形態が基本的に自然の雨に頼る農業であることに由来します。また未発展な天候予測の技術とその農民への情報伝達経路が確立されていないことも要因の1つだと考えられます。

このように、サブサハラアフリカの農業の特徴は、農業生産性の低さと生産性における年間変動幅の大きさです。両者は切り離して考えるより、密接に関連していると考えたほうが合理的です。両者をつなぐ鍵が天候リスクです。図1が明示している通り、降雨量の変動は農業生産性の変動に結びつけることができます。
農業生産が年ごとに大きく変動するということは、農家の農業所得も変動します。より具体的に、干ばつになってしまい、期待した収穫が得られない年を考えましょう。その場合、親戚や村内の友人からお金を借りたり、保有家畜を売ったりすることで現金をかき集めてくるかもしれません。しかし、干ばつの年はお金を借りようとした親戚や友人たちも収穫の減少に手をこまねいている可能性が高く、あまり期待できません。保有家畜数が多い比較的豊かな家計ならばなんとか対応可能かもしれませんが、貧しい家計は困ります。また、皆が一斉に家畜を売り出すと供給過多になり、家畜価格が下がり、効率的に現金化できない可能性も否定できません。このような天候リスクへの事後的な対処はある程度は機能しそうですが、完璧に所得損失を補填できません。その場合、余裕のない家計は食料支出を減らすしか策が無くなります。多くの人にとって、消費量を減少させることは嫌なことですが、特に貧困線ギリギリのところで生活している家計にとっては、是が非でも避けたいシナリオです。

このシナリオを回避する戦略があります。それは、あらかじめ農業所得の変動が大きくない農業経営の計画を立て、それを実行することです。例えば、値段の張る改良品種でなく、伝統的に現地で使用されている種子を使います。なぜなら、伝統的に使用されている種子は、これまでの歴史から収穫量の見通しが立てやすく、降水量が少なかった場合などネガティブなイベントに対する対処の仕方も周知されているためです。経験値の少ない改良品種は、期待されたとおり栽培・収穫できれば伝統的に使用されているものよりも多くの収穫をもたらしてくれるかもしれませんが、運悪く干ばつの被害にあった場合など、その投資コストは回収できなくなり、安い現地種子を使ったほうが良かったかもしれないというリスクを孕んでいます。これまで伝統的に肥料を使ってこなかった地域における、肥料投入の回避あるいは過小使用も、同じ理由で説明できます。ポイントは、現地種子や肥料過小使用は、所得の変動は抑えられそうですが、改良品種の種子の使用や肥料の十分な利用に比べて収益性は低くなってしまうことです。このように、天候リスクがあるために、農民は収益性が高い農業投入財の使用を敬遠し保守的な農業経営を行う可能性があります。

以上のようにアフリカ農村部では天候リスクへの対処が、食料供給の安定化及び食料増産、そして究極的には農家の生活向上の側面から求められています。この点に対する試みとして、注目されている天候インデックス保険を次回の記事で紹介します。

三浦 憲 (ブラウン大学経済学部)

参考資料
FAO (2014) FAOSTAT. FAO Statistics Division. Accessed December 29, 2014
http://faostat3.fao.org/home/E 


[1] 国際連合食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)