サブサハラアフリカの農業の特徴と天候リスク、天候保険(第1回)に引き続き、ブラウン大学の三浦憲さんからの寄稿記事を掲載します。


【以下、寄稿いただいた記事】
「サブサハラアフリカの農業の特徴と天候リスク、天候保険(第1回)」では、(1)サブサハラアフリカの農業の特徴は、農業生産性が低く農業生産性の年間変動が大きい、という2点に要約されること、(2)以上の2点は干ばつや洪水といった天候リスクが密接に関連していること、を述べました。今回は、天候リスクに対する対処策としての天候インデックス保険をご紹介します。

前回見たように、灌漑設備が未発達なアフリカの地において、天候リスクが農業発展の大きな阻害要因になっています。そこで現在保険でカバーされていない天候リスクを何らかの政策介入で排除すれば、アフリカの農業にとって望ましい効果が得られるかもしれません。この動機を基に、近年アフリカだけでなくアジア諸国を含む国々で実施されている新しい金融商品が天候インデックス保険です。その名の通り、天候インデックス保険は天候指標つまりインデックスを基に保険金の支払い有無を決定します。通常、インデックスとして降水量や温度を使用しますが、これらの指標が農業生産と高く相関していることが必要条件となります。天候インデックスは地域の気象台の観測値など、公に利用可能な指標を使用します。

サブサハラアフリカの農業の特徴と天候リスク、天候保険(第2回)
図1. 天候インデックス保険の仕組み 出所:筆者作成

 図1は、仮想の天候保険契約の仕組みを示しています。この保険契約の下では、播種時期の累積降水量によって保険金支払いの有無が決まります。また、この保険契約では播種時期の干ばつ(少雨)を補償する保険となっています。すなわち、降水量が第一の閾値である100mmを下回れば、保険金が支払われます。そこから、第二の閾値40mmまで保険金支払額は線形に900ルピーまで上昇します。そして40mmを下回る大きな干ばつの場合、2000ルピーの固定額が支払われます。100mmや40mmといった閾値は保険販売前に保険提供者により定義されます。保険デザインは契約によって様々ですが、効果的な契約を設定するためには信頼できる過去数十年間の気象データと農業生産データが必要です。

天候インデックス保険は、測候所で観測される公の天候指標に基づいていることから、穀物保険や自動車保険などの損賠賠償型の保険にはない幾つかの利点があります。まず、契約者の申し立てに対する被害調査が不要であり、多くの取引費用がカットできます。なぜなら、契約者が被害を申し立てる必要は一切ないためです。また、保険金支払いは契約者の行動とは独立に決まるインデックスに基づいているため、従来型の保険が抱えている、契約者が契約後にリスクへの対応を怠る問題(例えば、自動車保険加入後に少々運転が荒くなる等)や被害額を偽って申告する問題を回避できます。

逆に、デメリットもあります。天候インデックス保険は、天候指標に基づいているため、穀物被害全てを賠償せず、天候インデックスに関連付けられる部分の被害のみしか賠償しません。例えば、保険契約者が住む村と気象台が遠く離れている場合、観察される降水パターンが異なり、村では干ばつが起きたのに、気象台で観測された降水量は閾値を超えなかったため、保険金支払いは発生しない、というケースも考えられます。しかし、アフリカ農村部など気象台の数が十分でない地域では、多少地理的に離れた測候所に頼らざるを得ないのが現状です。さらに、ある年の農業生産はその年の気象条件に大きな影響を受けることは事実ですが、それだけで決まるわけではありません。例えば働き手の一人が病気になった場合も生産が落ち込みますが、このショックはもちろん天候インデックス保険では補償されません。このように、天候インデックス保険が保証する額と実際に農家が受けた被害額との差は、どうしても生じてしまいます。この天候インデックス保険契約に内在する問題は、Basis Riskと呼ばれています。

さて、この天候インデックス保険、どのような経路を通じて、農家の生活向上に寄与するでしょうか。2つの役割が期待されています。第1の役割は、農家所得の安定化です。干ばつや洪水が起きてしまった場合に、保険金を受け取ることで、これまでのように農業所得の落ち込みを補填するために、家畜を売却したり食料支出を削る必要は無くなります。すなわち、セーフティーネットとしての役割です。第2の天候インデックス保険の役割は、リスクの高い農業経営を行うインセンティブを農家に付与することです。前回の記事で少し触れたように、農家は天候リスクの存在のために、肥料や高収量品種を使用しない保守的な農業経営を行っている可能性があり、天候リスクはアフリカで広く観察される収益性の高い農業投入財への過少投資を説明する要因であると指摘されています。天候インデックス保険によって、天候リスクが取り除かれれば、農家は化学肥料や高収量品種の使用を開始するかもしれません。後者の経路は農業生産の増産に繋がるため、非常に重要であり、天候インデックス保険の効果を評価する際に見落としてはならない点です。

後者の天候保険に期待されている役割に対するシンプルな対立仮説は、そもそもサブサハラアフリカの農家は必要なお金をもたないために、改良品種種子の播種や肥料の投入を諦めているのであって、保険により天候リスクを排除しても投資は促進されない、という資金制約からの説明です。天候リスクからの影響、資金制約からの影響、どちらのほうが現実の説明として正しいのでしょうか? この重要な問いについて、イェール大学の研究グループがガーナ農村部で天候保険を導入して検証しています。その論文を次回、紹介します。

三浦 憲 (ブラウン大学経済学部)