いらっしゃいませ

銀河の片隅の拙ブログへようこそ。
ここは私へいが「廖化」名で書きました「科学忍者隊ガッチャマン」のファンフィクション置き場です。
(個人的見解による創作ですのでお気に召さない内容もあるかと思いますが、私的解釈とお許し下さい)


  
 御意見・御感想がありましたら お気軽に一言どうぞ


’15・12・31「迎えてくれる人」をアップしました。

’15・9・29「二つの名前」をアップしました。

’14・12・31「多才な人々」をアップしました。

’14・9・29「同郷」をアップしました。

’14・2・22「邂逅」をアップしました。

’14・2・14「Unhappy Valentine's Day!」をアップしました。

’13・2・01 「屋根裏部屋」を増設しました。


思いだした頃に更新されるまったりとした場ですが、よろしくお願いいたします。

  →<フィク一覧

  →<フィクに出てくる食品・料理



へいmikadukikichi  at 22:22  | コメント(26)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! 

迎えてくれる人

迎えてくれる人


質素で必要最低限の家具しかないが奇麗に片づけられた部屋。
暖炉には赤々とした小さな炎。
そこまではいつもの自室だがこの季節、机の上にはクリスマス仕様の燭台が置いてある。

しばし燭台に目を向けた後、老婦人は再び編み棒を動かした。
物資が何もかも不足している今、新しい毛糸を手に入れることはできなかったが古いセーターをほどいて息子が好きな色を用意した。
あの子のために編み物をするのは何年ぶりだろう? 手作りの品を気に入ってくれるかしら? いえいえ、そんな心配よりまずはクリスマスまでに仕上げてしまわないと・・

  婦人がリズミカルに編み棒を操っていると、ノックの音がした。
「奥さん、今お邪魔してもいいかしら?」
 隣に住む女性の声だ。
「どうぞ、開いていますよ」
 老婦人の返事にドアを開けて入ってきたのは恰幅の良い中年の女性だ。
「薪とパンの配給があったのでもらってきましたよ」
「まぁ、いつもありがとうございます。助かります」
 編み物の手を止めて女性へ礼を述べた老婦人は、女性の後ろの人物に破顔した。
「まぁアンナさん」
「こんにちは、おばさん、ご無沙汰しています」
 アンナと呼びかけられた二十歳前後の娘は丁寧に挨拶をした。
「本当にお会いするのは久しぶりね。最近はすっかりあなたのお母さんにお世話になっているのよ」
「奥さん、それはお互いさまよ」
 隣家の女性は謙遜すると娘を振りかえった。
「この娘もいろいろ忙しいらしくてなかなか帰って来ないんですよ」
「仕方ないでしょう、お母さん。今は世界中が復旧に向けて動いているのよ」
 
 
 今年、地球は大きな自然災害に見舞われた。世界征服を企んだ組織が人工的に地殻を破壊したことにより地震が発生し、更に地震に伴う土砂崩れや津波が多くの人々の命を、生活の場を奪って行った。
 クリスマスを迎える今もなお生活インフラの寸断や物資の不足が続き、日常生活にも支障が出ていた。
 隣家のアンナはまだ学生であるが食料調達と配布のボランティア活動に奔走している、と母親から聞いていた。

「奥さんの所の息子さんもせっかく帰って来たのにろくに顔を合わせていないんでしょう?」
「ええ」
 老婦人の息子は経済的な理由で学業を続けられない環境から家を飛び出し、長い間音信不通の状態だった。しかしこの夏に安定した職を得たと連絡があり、一度だけ帰ってきたがその直後に例の災害が起きたのであった。
「息子も職場では新人だから周りに気を使って、なかなか席をはずしにくいようなのよ」
「まぁ、そういうこともあるのねぇ」
 二人の会話を聞いていたアンナがふと口をはさんだ。
「おばさんの息子さんって、背の高い茶色の癖っ毛の人?」
「いいえ、息子の髪の色は茶だけれどストレートね」
「そう? 前におばさんの家から出てきた若い男の人を見かけて、てっきりあの人が息子さんだと」
「ああ彼は・・」
 老婦人が思いだしたというようにうなづいた。
「彼は私が公園で転んで動けなくなっていた時に家まで送ってくれて、その後も様子を見に来てくれていた青年なの。彼もあの頃から仕事が忙しいと言っていたわ。そうね、彼もどうしているかしらね」
 老婦人の言葉に隣家の女性がため息をついた。
「若い方たちが身を粉にして働いているのに、私は何も手伝えなくて申し訳ないわね」
「あら、いいのよ、気にしないで」
 アンナは母親の肩を優しく抱いた。
「お母さんやおばさんは私たちが疲れて帰って来た時に笑顔で迎えてくれればいいの。それだけで私は元気百倍になるんだから」
「まぁ、それでいいの?」
「もちろんよ」
 そしてアンナは一つの包みを老婦人に差し出した。
「そうそう、これをおばさんに」
「私に?」
「ローストチキンなの。本当に一口だけどクリスマスにどうぞ」
「まぁ、物の無い時期なのにいただいてもいいのかしら」
「無い時期だから分けあいましょう。クリスマスには息子さんも短時間でも帰って来られると良いわね」
「ありがとう」
 老婦人が包みを受け取って胸に抱く様子を見て、隣人親子は帰って行った。

 老婦人は包みを燭台の隣に置くと編み物を再開した。そして先程の会話の中に出てきた青年の事を考えた。
 親はいない、と言ったあの青年にも仕事から戻った時に迎えてくれる人がいるといいのだけれど。
 そうだわ、クリスマスには間に合わないけれど彼にも何か編みましょう。
 世の中が落ち着いたら彼もまた顔を見せてくれるかもしれないし。
 色は何にしましょう。彼の瞳の深い青がいいかしら?


Merry Christmas 聖なる夜

「いってきます」と出かけた人が、元気に「ただいま」と帰ってくる
「行ってらっしゃい」と送り出してくれた人が、「お帰りなさい」と迎えてくれる
そんな当たり前の日々が続く世界でありますように

Merry Merry Christmas 



へいmikadukikichi  at 23:12  | コメント(8)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン  

二つの名前

 

  彼の故郷で
 彼の幼馴染が
 俺たちには聞き慣れない名前で彼を呼んだ。

 それはこの土地に俺たちが知らない彼の生活がかつてあった、と知るには充分だった。

「ジョージ」と「ジョー」。
 彼には2つの名前があった。
 発音は似通っているが、全く別の名前だ。

『俺はケン。ケン・ワシオ』
 初対面時、自己紹介した自分に対して彼は
『俺は・・、ジョー』
 とぶっきらぼうに答えた。
『ジョー、だけ?』
 ファミリーネームは? と問いかけたが返事は無かった。
 他国から来てまだ言葉が不自由だと聞いていたので、こちらの質問の意味が判らないのだと思いその時はそれ以上聞くことはなかった。
 

 暗殺された両親と共に命を奪われる寸前だった彼を救った南部は、彼の存在を隠すため彼を記録上死亡者扱いとし、彼の本名は故郷の墓に葬られた。
 しかし彼の命を守るためとはいえ、自己を最も表現している名前を失い、更に故郷で両親と共に過ごした幸福な日々までを封印しなければならなかった彼の苦悩はいかばかりであっただろうか。


 後日彼が話してくれたことがある。
「『ジョー』というのは親父とお袋だけが使っていた愛称だ。だから『ジョー』は仮の名ではあるが、本当に親しい人たちが使ってくれる名前なのだと思っている」

 2つの名前の間で揺れた彼の生涯を想う。

 
 
 
 
 
 

 彼の命を狙っていたギャラクターが消滅した今、彼は亡き両親の息子に戻り、堂々と本名である「ジョージ」を名乗ることができる。
 しかしやはり自分にとっての彼は「ジョー」だ。

 自分は今、どちらの名前で彼を呼べば良いのだろう?
 お前はどちらの名で呼ばれたい?
 

 答えが 聞きたい。



へいmikadukikichi  at 08:43  | コメント(10)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン  

多才な人々

多才な人々


「常日頃の諸君の労をねぎらいたく、今年のクリスマスには楽しいパーティーへ招待して、う~~んとご馳走しようと思っている」

突如南部に切り出され、科学忍者隊の面々は言葉を失った。

「・・どうしたね? 喜んでもらえると思ったのだが・・?」
戸惑い顔の五人を見まわしながら南部も困惑顔だ。

「そりぁ華やかな場所でご馳走が食べられるのは嬉しいんだけどよ。・・前に舞い上がった後にひっくり返されたことがあったからのう」
「そうそう、初めてISOの本部へ行った時だったよ。『時間が無いからやめた』って言われてさ。だから今回もそうかも?と思うと喜ぼうにも喜べないんだよね」
「いや今回は本当に招待するつもりだ。もちろんスクランブルが無ければとの条件は外せないが、一応予定を空けておいてもらいたくてね」
 ここでようやく五人の表情がほころんだ。
「博士、パーティーというからにはそれなりの服装での参加ですか?」
 ジュンが頬を紅潮させながら問いかけた。
「もちろん男性はスーツ、女性はドレスだ。思いきり豪華な衣装を選んで来るといい」
「嬉しい。ねぇ、健、私にはどんな色のドレスが似合うと思う?」
「え? 別に何色でもいいだろう?」
 気の無い健の返事にジュンが柳眉を逆立てそうになる瞬間
「ま、ジュンはどんな色だろうとデザインだろうと着こなせるからな」
 とジョーの絶妙なフォローが入った。
「そういうことなの? 健?」
「え?」
 健は何を問われているのか分からなかったが、周囲の厳しい視線にとにかくこの場は肯定したほうが良いと判断した。
「あ、ああ、もちろんそうさ」
 健の返答にジュンも笑顔を返したところで、健は改めて真剣なまなざしを南部に向けた。
「で、博士、そのパーティーの食事はどのようなものなのでしょうか?」
 口調と表情は生真面目そのものだが、質問の内容は甚だ情けない。
「立食になるが、毎年有名ホテルからのデリバリーだ。質、量ともにシティ内でも屈指の内容だと思う」
 やった! と竜と甚平がハイタッチをする。健も面には出さずとも心の中でガッツポーズだ。
「ところでクリスマスまでは既に日程に余裕が無い。君たちのレッスンはクラブに予約しておいたので、当日までにマスターしてくれたまえ」
「レッスン?」
 南部の言葉に忍者隊は再び怪訝な表情になった。
「マスター、って何をですか?」
「もちろんワルツのステップをだ」
「ってぇことは、そのパーティーはダンスが必須なのですか?」
「おお、言い忘れていた。この度の集まりは、さるダンスクラブのクリスマスパーティーなのだ」
 また話が飛んで分からなくなる。
「博士とそのダンスクラブと、どのような関係なのですか?」
「元々は私の大学時代の恩師がそのクラブの名誉会長を務めておられたのだが引退されてね。その後釜に私が推薦されたのだ。名前だけの名誉職で仕事に差し障りもないので引き受けて今に至っている」
「知らなかったワ。博士はマントル計画以外にも手広くやっとるんじゃのう」
「そうね。科学に化学、宇宙工学にメカニックもでしょう?」
「海洋分野にも明るいよね」
「他にも確か博士、ピアノをお弾きになりましたよね?」
「昔のことだ。今ではもう指が動かないだろう。それよりともかくレッスンをすっぽかすことにないようにな」
「もちろんです。目的があれば例えダンスだろうとステップだろうと覚えてみせます」
 力をこめて話す健に南部は小首を傾げた。
「目的?」
「え? あ、いえ、なんでもありません」
 まさか「ただで豪華な食事が食べられるから」とは言えない。
「では解散だ。レッスン日と時間、場所はこのパンフレットに記してあるので見てくれたまえ」
「分かりました」

「まぁまぁ、皆さん呑み込みが早いわ。基本的なステップはもう大丈夫ね」
 五人にレッスンをつけてくれたのは、クラブの代表だと言う五十前後の婦人だった。
 元々五人の運動神経の良さは折り紙つきである。自分は動きが鈍いと愚痴る竜にしても忍者隊にいるからそう見えるだけで、一般の人間から見ればはるかに動きは良い。
「上手になるには踊る練習も必要だけれど、日常的にワルツの曲を聞くといいわ。踊っている自分をイメージしやすくなるのよ」
 しかし代表のアドバイスに
(日常的に聞く? でもうちにはオーディオ機器はないぜ?)
(G2号機の中でワルツか? 運転が踊っちまうぜ)
(しばらくデーモン・ファイブが聞けなくなるのは困るわ)
(店のBGMをワルツにするのは考えものだよなぁ)
(一日中ワルツと言うのは、好きではない料理を食べさせらるような物じゃのう・・)
 と、思う諸君であった。

 パーティー当日、幸いギャラクターに動きは無く、五人は指定された会場へと赴いた。会場は中央にダンスフロアがあり周囲に料理とドリンク類が用意されている。会場では既に五十人ほどの華麗に装った紳士淑女がドリンク片手に談笑していた。
「想像以上に華やかだわ」
「食べ物のいい匂いもするよ。どんな料理があるんだろうね」
「あら、いらっしゃい。そんな隅にいないでこちらにどうぞ」
 五人の到着に気付いた代表が声をかけてきた。そして別のパーティーに顔を出してから合流するため、まだ来場していない南部に代わって周囲に五人を紹介した。
「おお、南部さん縁の方々かね? そう緊張しないで楽しんでいきなさい」
「遠慮しないでどんどん食べて、思いっきり踊ってね」
「ありがとうございます」
 ではまずは遠慮なく腹ごしらえを・・と五人は料理が並ぶエリアへ移動した。
「やっぱりクリスマスにはターキーだワ」
「これ海老? いやロブスター? 大きいなぁ」
「ケーキだけでも何種類もあるぞい」
「すごいや、全種類制覇を目指そうよ」
「ちょっと、二人とも意地汚い真似はしないでよ」
「それっておいらたちより兄貴に言ったら?」
「え?」
 ジュンが健を見ると彼が持つ皿の上は料理が山盛りだ。
「健、こういう場のマナーを知ってる? 皿には食べられる分だけを取る物なのよ」
「もちろん全部食べるつもりだ」
「本当に?」
「心配するなよ、健のヤツ、まだまだ育ちざかりらしいぜ」
 満足げに料理を口に運ぶ健を囲んで、しばらく忍者隊はブッフェを楽しんだ。やがて
「お、あれは・・」
 ジョーの視線が会場のあちら側に止まった。
「どうした、お前好みの美女でもいたのか?」
「まあな。あそこ、代表の隣にいるのは女優のローレン・バロールだぜ」
「本当だわ。年を重ねてもお綺麗よねぇ。ドレスも上品で素敵だわ」
「大丈夫、今日のお姉ちゃんもイケてるよ」
「そう?」
 うふ、とジュンは軽く肩をすくめた。
 今日のジュンはえんじの膝丈のドレスだ。スカートは立位だと体の線に沿っているが薄手の布が何枚も重なっている作りで、踊ると大きく広がって華やかな印象になる。男性陣は皆黒の燕尾服、蝶ネクタイとカマーベルトがそれぞれ色違いで、健が赤、ジョーが青、甚平は黄色、竜が緑だ。
 やがて会場には管弦楽団による生演奏が流れ、誘われるように人々もフロアに出て踊り出した。

「あらあなたたち、今年はうちには来てくれないの?」
 曲に身を任せて優雅に踊る人々を眺めていたところに突然声をかけられた健とジョーが振り返ると、そこにはロングドレスに身を包んだ婦人が立っていた。
「さゆりママ!」
 婦人は以前健とジョーが従業員のピンチヒッターでアルバイトをしていたバー『SAYURI』のママだった。
「なんでママがここに?」
「なんで、って私もここの会員ですもの。良い機会だわ、健、踊って」
 ママは健に片手を差し出した。
「え? いえ俺はダンスは苦手で・・、あ、ジョーがお相手をしますから・・」
「いいえ、私は健と踊りたいの。さ、いらっしゃい」
 ぐいぐいと手を引かれた健は踊りの輪の中に引っ張り出された。余裕の笑みを見せる彼女にリードされ、健も苦笑しながら踊り始めた。
「小耳にはさんだんじゃが、才媛なんじゃろう? あのママさん」
 ぎこちなく踊る健を目で追いながら竜がジョーに聞いた。
「ああ。文章も書くし画も描くし翻訳もする。他にも何か資格を持っている、とも聞いたぜ」
「流石の貫禄じゃ。健でも太刀打ちできんのう」
 一曲踊ると健とママは輪を外れて皆の元に戻ってきた。
「ありがとう。さて私は店に戻らないと」
「お忙しいですね」
「店、混んでますか?」
「この時期客商売は繁盛上等よ。健、ジョー、手が空いたらまた手伝ってね。あなたたちならいつでも歓迎よ。ではごきげんよう」
 ははは、との力無い二人の笑顔に送られてママは颯爽と去って行った。

 その後、五人は次々と踊りに誘われた。
「お嬢さん、一曲お願いします」
 若い紳士がジュンに一礼する。
「喜んで。ただ全くの初心者なのでお手柔らかにお願いしますね」
 ジュンが紳士とフロアに進むと次はマダム達が
「お兄さんたち、是非お相手を」
 と男性陣四人をダンスの輪へといざなった。
「俺たちも初心者なので脚を踏んだり躓いたりしたらすみません」
「男性がリードすべきなんじゃが出来るかどうか・・」
「あらあら、その時はその時よ。まずは楽しんで」
 新参者たちに気を使ってくれているのか、五人には次々と声がかかった。最初は足の動きと姿勢に気を取られてばかりいた五人だったが、徐々に音楽に合わせて動けるようになっていった。しかし慣れない動作には疲れも溜まる。
「すまんのう、もう喉がからからじゃ、一休みしてくるワ」
 竜が踊りの輪を外れドリンクを取りに戻ると他の四人も休憩を取っているところだった。
「いやぁ、こんなにモテるとは思わなかったぞい」
「竜にはもうこんなモテ期は来ないかもね~」
「はっきり言うヮ」
 漫才もどきのやり取りを始めた竜と甚平の隣でジュンが会場の入り口に目を向けた。
「それにしても博士は遅いわ」
「またアンダーソン長官につかまっているんじゃねぇのか?」
「もしくはボロンボ博士や他の博士と研究話で盛り上がっているか・・?」
 その時、会場の一角がざわつきだした。
「レジェンドだ、レジェンドが踊るぞ」
「まあ。レジェンドが?」
 どうやら真打ち登場、誰か上級者が踊るらしい。五人の視線もそちらに吸い寄せられた。そして代表の手を取って颯爽とフロアに出てきたのは・・

「は、博士!?」

 見慣れたいつものスーツでは無く、黒の燕尾服に白の蝶ネクタイとカマーベルトと言う正装で登場した南部は代表と共にフロアへ出ると軽やかに踊りだした。
「やっぱり素敵ですわ、レジェンドのステップは」
「力強くかつ華がありますな」
 クラブ会員たちがため息とともにささやく。
「あの速さなのに上半身が全くブレ無い姿勢の美しさといい、女性を生かすリードと言い完璧ですな」
「あれでシングルだなんて罪だわ」
「今年流に言えば『壁ドン』されてみたいですわね」

 周囲の憧れのまなざしを受けながら南部は相手を代表から女優のローレン・バロールに替え、より華やかに舞い踊る。
「これも博士の隠された特技の一つか」
「博士もまだまだ引き出しが多いぜ」


 Merry Christmas 聖なる夜

 人は巡り合い縁を結ぶ
 一つ一つの縁は小さくとも 幾つも繋がれば大きな輪になる
 華やかで賑やかで多彩な輪に

 Merry Merry Christmas 

 

追悼 鷲尾さゆりさん



へいmikadukikichi  at 00:30  | コメント(3)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! 

同郷

同郷


 夜明けが遅く日の入りの時間が早くなる。この時期の花が香り始める。
 静かに、でも確実に季節が移り、秋の訪れを告げる頃ジュンの胸は騒ぐ。
 それは大切な仲間を失った記憶が甦ってくるから。
 もちろん一年を通じて彼のことを忘れた日はない。

 それでも。

 季節のうつろいが当時を思い出させて、後悔と追悼の想いが強くなる。

 そんな折り、ジュンは街の目抜き通りに張り出されたポスターに足を止めた。

『歌姫ヴィヴィアンナ・チリエジーノ、ユートランドで初のコンサート』との文字とともに、豊かな黒髪の女性シンガーがこちらに暖かな笑顔を向けている。

「この人・・!」
 大きく息を飲んで、ジュンは戦いの中に身を置いていたかつてのある日を思い出した。

 
 

 
 
 

 あれは平日の遅い午後、ジュンはスナックジュンのカウンターの中で開店の準備をしていた。
 食器類をチェックしてコーヒー豆を揃える。料理の下準備は今は遊びに出掛けている甚平が、朝からキッチンで仕込んでくれているので心配はない。
 そう言えばそろそろ甚平が帰ってくる時間ではないかしら? 開店の30分前には帰ってくる約束だわ。
 そうジュンが時計を見上げた時、入口の戸を控えめに開けてジョーが顔を出した。
「すまねぇ、中途半端に時間が余っちまったんだ。邪魔はしねぇから店で時間を潰していてもいいか?」
「もちろんいいわよ。どうぞ入って。何もお構いは出来ないけど」
「構わねぇさ、俺の我儘で入れてもらうんだ、気は使わないでくれ。こっちで新聞でも見ているから・・」
 そう言ってジョーはカウンターの端に腰を下ろした。

  シンク周りの仕事が一段落すると、ジュンは冷蔵庫からブラッドオレンジシュースを出し、コップに移してジョーの元に運んだ。
「ジョー、サービスするわ、どうぞ」
「ん・・」
 生返事をするジョーの顔にジュンは小首を傾げた。熱心にと言うよりも、むしろ睨むような厳しい表情で雑誌の記事を見つめている。
 ジョーが視線を注いでいたのは、ジュンがデーモン5の特集目的で購入した音楽情報誌だった。中に『注目の新人・ヴィヴィ』という特集記事があり、ジョーはその人物から目を離せないでた。
 余りに真剣な様子にジュンが声をかけあぐねているうちにジョー低くがつぶやいた。
「この娘は『ヴィヴィ』なんて名前じゃぁ無い。マリアリータだ」
「マリアリータ?」
「ああ、幼友達だ。ガキの頃、島で・・」
 言いかけてジョーは言葉を切った。
 ジョーは先日故郷の島で友人を失っていた。彼の故郷を話題にするにはまだ日が浅すぎる。そのためジュンからは先を促せないでいたが、
「『ヴィヴィアンナ・チリジエーノ。通称ヴィヴィ。イタリカ出身の25歳』・・か」
 雑誌に記載している彼女のプロフィールを確認したジョーがひとつ息をついた。
「別人、か」
 落胆したともほっとしたとも取れる顔でジョーは肩の力を抜いた。
「ヴィヴィと彼女は・・、マリアリータとはそんなに似ているの?」
「ああ。まずこんなに見事な黒の巻き毛の持ち主はそんなにはいないぜ? それに顔の輪郭も少し大きめの口もマリアリータにそっくりだ。だが名前と出身地が違う」
 他人の空似か、と諦めかけたジョーにジュンは言った。
「歌手だもの、本名では無くて芸名かもしれないわ」
 それにね、とジュンは真っ直ぐにジョーを見た。
「直観は、当たるのよ」

 ジュンはすぐにTVを付けると、チャンネルをビデオクリップ専門局に合わせた。
「今ヴィヴィの曲はヒットチャートの上位だから、そのうち流れると思うわ。声を聞けばヴィヴィがマリアリータかどうか分かるかもしれない」
「すまねぇな」
 ここでジョーはやっとジュンが用意したジュースを口に運んだ。ジュンも自分の飲み物を持ってきてカウンターに座った。
「マリアリータとは仲が良かったの?」
「いや、彼女の方が大分年上だったから遊ぶという程でもなかったな。でもまあ顔見知りではあったし・・」
「『あったし』?」
 ジュンがそっと続きを促す。
「別れた時の印象が強くてな。それで覚えていた」
「・・・」
「彼女は本土の人間と結婚すると言って島を出たんだ」
「結婚? でもあなたの遊び仲間なら年上とはいえ当時幾つ? まだローティーンでしょう? 結婚には早くない?」
「ていの良い身売りさ。結婚と言う口実で売られたんだ。俺もあの頃はまだはガキだったから最初は彼女の言葉通りに受け取っていたが、後から考えれば分かることさ。そうでもしなけりゃ残った家族が食べていけなかったんだろう」
 そのような出来事が日常だったのだろうか? 当時の島の苦しい生活が思いやられた。
「『この島を出て衣食住の心配のない生活をするんだ、幸せになるんだ』、仲間の前ではそう快活に振る舞って無理に笑っていた姿が子供心にも痛々しくてな。それで忘れられなかった」
 あ、とジュンがTVを見やった。
「これよ、ヴィヴィの曲」
 前奏に続いてのびやか声が流れ出した。ポップスとカンツォーネを融合した雰囲気を持つ曲を、シンガーは情感たっぷりに歌い上げる。その人物の一挙手一投足を食い入るよう見つめながら、ジョーは何かを思い出そうとしているようだった。やがて余韻を残して曲が終わった。
「どう?」
 彼女なの? とジュンは目で問いかけた。
「ああ、・・マリアリータだと思う」
 ジョーは乾いた唇を湿らそうと再び飲み物を口した。
「聞いているうちに思いだしたが、マリアリータは教会のミサでよく讃美歌を歌っていた。あのころは声量は無かったが芯の通った素直な声で、今聞いた声質とも似ていると思う。それに・・、この曲の一部には島の伝承歌の旋律と歌詞が使われている」
「待って」
 ジュンはすぐに雑誌を開いて曲の作詞作曲者を確認した。
「ええ、これは彼女自身の作品だわ。では彼女は故郷への想いをこめてこの曲を作ったのね」
「たぶん、な」
 ジョーは再び雑誌の記事に目を落とした。自分の記憶の中の少女と写真の女性とを重ね合わせているようにも見えた。
「どうする? マリアリータに会ってみる?」
「まさか」
 顔を上げるとジョーは言った。
「名前や出身地を変えているのも島との繋がりを断ちたくてのことかもしれない。だったら知らんふりをしている方がいい。あんな形で島を離れざるを得なかった彼女が元気に活躍していることが分かればそれでいいのさ」
 結婚を口実に買われていった少女がどんな運命をたどったのかは知る由もないが、こうして生き抜いて自立している、ジョーにはそれで十分だったのだろう。同じように自分の意思に反して故郷から引き離されたジョーだからこその想いだったと思う。それにあの直前に故郷の幼馴染を亡くしたのは、ジョーが密かに島に戻ったことがきっかけだった。だからまた自分と関わることで彼女に害を及ぼす可能性を心配していたのかもしれない。

 
 


 人通りの多い道沿いのポスターの前で、ジュンはしばらく立ちつくしていた。
 月日が経ち、ヴィヴィは世界的にも名の通った歌手になっている。
 意外にもユートランドでは初めてのコンサートの報に、ジュンは彼女に会って「あなたはBC島出身のマリアリータ? 故郷の島にいたジョージ・アサクラを覚えていますか?」と聞いてみたい衝動にかられた。
『元気で過ごしていてくれれば』と願ったジョーの想いを伝えたいと思った。しかしその時にはジョーの消息も伝えなければならず、彼女に新たな悲しみを与えてしまうだろう。自分の想いだけで行動してはならない。ジュンは湧きあがった感情を抑え込んだ。
 でもコンサートには行ってみよう、生の彼女の歌を聞いてみようと思った。彼女の歌に込められた、彼女が、ジョーが離れてなお想い焦れた、今は解放されて平和になった故郷への想いを共有してみよう。
 
 
 


 その足でチケット売り場に走ったジュンはチケットを2枚買った。
 彼にも彼女の歌を届けるために。





へいmikadukikichi  at 17:36  | コメント(6)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン