いらっしゃいませ

銀河の片隅の拙ブログへようこそ。
ここは私へいが「廖化」名で書きました「科学忍者隊ガッチャマン」のファンフィクション置き場です。
(個人的見解による創作ですのでお気に召さない内容もあるかと思いますが、私的解釈とお許し下さい)


 御意見・御感想がありましたら お気軽に一言どうぞ



’13・2・01 「屋根裏部屋」を増設しました。


思いだした頃に更新されるまったりとした場ですが、よろしくお願いいたします。

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へいmikadukikichi  at 22:22  | コメント(26)  |  この記事をクリップ! 

その日


 その日、私の部屋をおとなった少年は、トロフィーを手に頬を紅潮させていた。

 今日、サーキットで開催されたシニア部門のレースで優勝したと言う。
年齢的には参加資格はないが、ジュニア部門での成績が考慮され特例として参戦し、並み居るレーサーたちに走り勝ったこと、さらに正式にレーサーとしての資格を得たことを誇らしげに報告してくる。
 彼が私の元で養われるようになって数年、彼が早くから自立の道を探していることは承知していた。そのための手段としてカーレーサーを選択したのだろう。

しかし何というタイミングだろう。ようやく概要をつかんだ謎の組織に対抗するための戦闘チーム結成を決めたこの時に。

「座りなさい」

 喜びに水を差されただろう彼は怪訝な表情を浮かべたが、それでも私の指示に従った。

「実は今、私には構想中の計画があってね」

 おとなしく私の話を聞いていた彼は聞き終わると終わると眉を寄せた。

「俺にそこに関われ、と?」

「そうだ」

 彼は静かに顔を伏せた。

「すみません。俺とは別の世界の話のようだ」


 彼は席を立つと一礼して部屋を出ていこうとした。
 
 当然だ、彼の夢がかなう一歩を踏み出すところまで来たのだ。突然の空想小説のような話に興味を持つはずもない。
 しかし遅かれ早かれ彼は戦いに身を投じる運命にある。
 なぜなら自立した後の彼が目指しているのは亡くなった両親の仇を倒すことなのだから。
 自らその組織に向かっていくか、戦闘チームの一員として向かっていくか、それだけの違いだ。
 

 故に・・

 私は彼を戦闘チームへ引き込むと決めている。

 構想中のチームには「戦う強い動機」を持つ者の存在が必要なのだ。そのために彼の復讐心は有効だ。
 彼の未来をつぶしてでも彼をチームへ引き込まなくてはならない。

 私は彼の心の奥の潜み埋火を蘇らせ、後戻りできない闇に引き込む悪魔の一言を告げる。


「その組織の名はギャラクターと言う」

 
「・・・ギャラクター?」
 
 彼は足を止めた。トロフィーを持つ手に力が入る。

「そいつは親父とお袋を・・?」

 先程までとは全くトーンの違う押し殺した声で彼が問う。

「そうだ」

 彼は背筋を伸ばすとゆっくりと振り返った。

 
 その時の彼の表情を、私は生涯忘れることは無いだろう。








へいmikadukikichi  at 12:26  | コメント(6)  |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン  

I wish... 朧影



 飛び去って行くゴッドフェニックスを窓越しに見送る彼の背中に目が留まる。肩甲骨の辺り、以前はもっと厚みのある筋肉で覆われてはいなかったか? これもしばらく前からの不調の影響か、と私の心は重くなる。
「ジョー、こちらに座りなさい」
 私の呼びかけに彼は思いの他素直にソファに腰を下ろした。

 以前、彼がふと漏らした弱音に私が適切に対応していれば、彼をここまで追い詰めずに済んだはずなのだ。
 もう遅いかもしれないが、出来る限りの手を尽くし彼の苦痛と不安を取り除いてやらなければ。
 そんな想いから私は彼の手を取っていた。
「いいかねジョー、とにかく早く治療を受けなさい。お前の不調は外傷性脳内出血による血腫の形成が原因だ。血腫が周囲の組織や神経を圧迫する事によって・・」
 
 話しながら私は既視感に襲われた。以前にも彼に同じ言葉をかけた覚えがある。
 そうだ、場所も同じこの部屋で。あれは何時のことだった?
 
 必死に記憶をたどる私を労わるように彼が言った。 
「博士、俺は運はいいほうですよね。今までも窮地に追い詰められながらも何とか切り抜けて来ましたよね。」
 この言葉もかつて聞いた。そう、あの時彼は既に敵地へ乗り込む意思を固めていた・・!

「ジョー、いけない」
 私は彼の手を強く握った。
 だめだ、行かせることはできない、行かせればそれは永久の別れとなってしまう。
 
「ジョー、ここにいなさい。必ずお前の健康を取り戻してみせるから・・」
 言いながら私の背に冷たいものが走った。
 そう私は思い出してしまったのだ。私は彼を引き留めることができなかった、という事実を。
 
 あの後、彼は一人でクロスカラコルムへと飛んだ。そして単身で戦い抜いたのち力尽き、冷たい草地の上で独りで・・
 
 では目の前にいる彼は誰だ?
 ああ、これは夢だ。彼を一人で逝かせてしまった私の悔いが見せている夢だ。
 
 しかしたとえ夢であろうとも、二度と彼を一人で行かせはしない。
 
 私はなりふり構わず彼に食い下がっていた。
「ジョー、私は将来、きっと頑固な老人になる。誰もが手を焼くような偏屈者にだ。そんな私を扱えるのはお前だけかもしれない。だから・・」
 だからその時まで、ずっと先のその時までお前は生きていなくては・・
 決して有り得ない未来を語る私の無茶振りに彼は困ったように、しかし柔らかな笑みを浮かべた。
 
 行くな。行ってはいけない。
 
 私は彼の手を、更に強く握りしめる。

 しかし無情にも夢は覚める。

 ベッドの中、強く握りしめていた両の手を開く。
 もちろん、そこに彼の手はない。



  <I wish...


へいmikadukikichi  at 22:48  | コメント(8)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン  

迎えてくれる人

迎えてくれる人


質素で必要最低限の家具しかないが奇麗に片づけられた部屋。
暖炉には赤々とした小さな炎。
そこまではいつもの自室だがこの季節、机の上にはクリスマス仕様の燭台が置いてある。

しばし燭台に目を向けた後、老婦人は再び編み棒を動かした。
物資が何もかも不足している今、新しい毛糸を手に入れることはできなかったが古いセーターをほどいて息子が好きな色を用意した。
あの子のために編み物をするのは何年ぶりだろう? 手作りの品を気に入ってくれるかしら? いえいえ、そんな心配よりまずはクリスマスまでに仕上げてしまわないと・・

  婦人がリズミカルに編み棒を操っていると、ノックの音がした。
「奥さん、今お邪魔してもいいかしら?」
 隣に住む女性の声だ。
「どうぞ、開いていますよ」
 老婦人の返事にドアを開けて入ってきたのは恰幅の良い中年の女性だ。
「薪とパンの配給があったのでもらってきましたよ」
「まぁ、いつもありがとうございます。助かります」
 編み物の手を止めて女性へ礼を述べた老婦人は、女性の後ろの人物に破顔した。
「まぁアンナさん」
「こんにちは、おばさん、ご無沙汰しています」
 アンナと呼びかけられた二十歳前後の娘は丁寧に挨拶をした。
「本当にお会いするのは久しぶりね。最近はすっかりあなたのお母さんにお世話になっているのよ」
「奥さん、それはお互いさまよ」
 隣家の女性は謙遜すると娘を振りかえった。
「この娘もいろいろ忙しいらしくてなかなか帰って来ないんですよ」
「仕方ないでしょう、お母さん。今は世界中が復旧に向けて動いているのよ」
 
 
 今年、地球は大きな自然災害に見舞われた。世界征服を企んだ組織が人工的に地殻を破壊したことにより地震が発生し、更に地震に伴う土砂崩れや津波が多くの人々の命を、生活の場を奪って行った。
 クリスマスを迎える今もなお生活インフラの寸断や物資の不足が続き、日常生活にも支障が出ていた。
 隣家のアンナはまだ学生であるが食料調達と配布のボランティア活動に奔走している、と母親から聞いていた。

「奥さんの所の息子さんもせっかく帰って来たのにろくに顔を合わせていないんでしょう?」
「ええ」
 老婦人の息子は経済的な理由で学業を続けられない環境から家を飛び出し、長い間音信不通の状態だった。しかしこの夏に安定した職を得たと連絡があり、一度だけ帰ってきたがその直後に例の災害が起きたのであった。
「息子も職場では新人だから周りに気を使って、なかなか席をはずしにくいようなのよ」
「まぁ、そういうこともあるのねぇ」
 二人の会話を聞いていたアンナがふと口をはさんだ。
「おばさんの息子さんって、背の高い茶色の癖っ毛の人?」
「いいえ、息子の髪の色は茶だけれどストレートね」
「そう? 前におばさんの家から出てきた若い男の人を見かけて、てっきりあの人が息子さんだと」
「ああ彼は・・」
 老婦人が思いだしたというようにうなづいた。
「彼は私が公園で転んで動けなくなっていた時に家まで送ってくれて、その後も様子を見に来てくれていた青年なの。彼もあの頃から仕事が忙しいと言っていたわ。そうね、彼もどうしているかしらね」
 老婦人の言葉に隣家の女性がため息をついた。
「若い方たちが身を粉にして働いているのに、私は何も手伝えなくて申し訳ないわね」
「あら、いいのよ、気にしないで」
 アンナは母親の肩を優しく抱いた。
「お母さんやおばさんは私たちが疲れて帰って来た時に笑顔で迎えてくれればいいの。それだけで私は元気百倍になるんだから」
「まぁ、それでいいの?」
「もちろんよ」
 そしてアンナは一つの包みを老婦人に差し出した。
「そうそう、これをおばさんに」
「私に?」
「ローストチキンなの。本当に一口だけどクリスマスにどうぞ」
「まぁ、物の無い時期なのにいただいてもいいのかしら」
「無い時期だから分けあいましょう。クリスマスには息子さんも短時間でも帰って来られると良いわね」
「ありがとう」
 老婦人が包みを受け取って胸に抱く様子を見て、隣人親子は帰って行った。

 老婦人は包みを燭台の隣に置くと編み物を再開した。そして先程の会話の中に出てきた青年の事を考えた。
 親はいない、と言ったあの青年にも仕事から戻った時に迎えてくれる人がいるといいのだけれど。
 そうだわ、クリスマスには間に合わないけれど彼にも何か編みましょう。
 世の中が落ち着いたら彼もまた顔を見せてくれるかもしれないし。
 色は何にしましょう。彼の瞳の深い青がいいかしら?


Merry Christmas 聖なる夜

「いってきます」と出かけた人が、元気に「ただいま」と帰ってくる
「行ってらっしゃい」と送り出してくれた人が、「お帰りなさい」と迎えてくれる
そんな当たり前の日々が続く世界でありますように

Merry Merry Christmas 



へいmikadukikichi  at 23:12  | コメント(8)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン  

二つの名前

 

  彼の故郷で
 彼の幼馴染が
 俺たちには聞き慣れない名前で彼を呼んだ。

 それはこの土地に俺たちが知らない彼の生活がかつてあった、と知るには充分だった。

「ジョージ」と「ジョー」。
 彼には2つの名前があった。
 発音は似通っているが、全く別の名前だ。

『俺はケン。ケン・ワシオ』
 初対面時、自己紹介した自分に対して彼は
『俺は・・、ジョー』
 とぶっきらぼうに答えた。
『ジョー、だけ?』
 ファミリーネームは? と問いかけたが返事は無かった。
 他国から来てまだ言葉が不自由だと聞いていたので、こちらの質問の意味が判らないのだと思いその時はそれ以上聞くことはなかった。
 

 暗殺された両親と共に命を奪われる寸前だった彼を救った南部は、彼の存在を隠すため彼を記録上死亡者扱いとし、彼の本名は故郷の墓に葬られた。
 しかし彼の命を守るためとはいえ、自己を最も表現している名前を失い、更に故郷で両親と共に過ごした幸福な日々までを封印しなければならなかった彼の苦悩はいかばかりであっただろうか。


 後日彼が話してくれたことがある。
「『ジョー』というのは親父とお袋だけが使っていた愛称だ。だから『ジョー』は仮の名ではあるが、本当に親しい人たちが使ってくれる名前なのだと思っている」

 2つの名前の間で揺れた彼の生涯を想う。

 
 
 
 
 
 

 彼の命を狙っていたギャラクターが消滅した今、彼は亡き両親の息子に戻り、堂々と本名である「ジョージ」を名乗ることができる。
 しかしやはり自分にとっての彼は「ジョー」だ。

 自分は今、どちらの名前で彼を呼べば良いのだろう?
 お前はどちらの名で呼ばれたい?
 

 答えが 聞きたい。



へいmikadukikichi  at 08:43  | コメント(10)  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! ファンフィクション・ガッチャマン