2009年04月09日

勤労しない理由〜オールドパンクとニューパンク〜

フディーズとセックスピストルズ。というお題で1年ほど前に拙ブログで書いたことがあるが、ついにファッション界のパンク・リバイバルの波が地方の末端ティーンズにまで到達した感のある昨今、本当にフディーズとパンクが合体したとしか言いようのない少年たちが街を歩いているのを見かけるようになった。

 

革のライダースジャケットの下に黒のパーカー(フードは常時被る)、昨今ではスキニーと呼ばれているらしい(おばはんの時代の用語で“黒のスリム”)細身のジーンズを半ケツが出る高さまでずり下ろしてパンツのゴムを見せながら履き、腰回りにはシルバーの鎖をじゃらじゃら下げつつ、しかし足元はラバーソウルでなく軽快にハイカットのスニーカー。

 

この21stセンチュリー・パンク・ボーイズを最初に見た時、わたしは爽やかな感動すら覚えた。過去20年ばかり、いにしえのパンクに憧れてそれらしい格好をする若者たちは後を絶たなかったが、これほど70年代から剥離した着こなしは見たことがない。もはや彼らにはヴィヴィアン・ウエストウッドの“クチュール・パンク”は必要ではなく、そこら辺のスーパーで売っているパーカーと半分出した尻がクールのポイントなのである。実にブリリアントだ。リバイバルというのは、このようにある種のダウトと諧謔をもってオリジナルを憧憬しリスペクトするものでなくてはならない。

 

というわけで個人的に鼠男系パンクたちには弱いので、先日底辺生活者サポート施設の“ボランティア・デイ”でまさにそれ風の若者が隣に座った時にはどぎまぎしたのだったが、そんなことよりも真の問題はこの“ボランティア・デイ”であった。大変に濃厚なイベントであると聞いていたし、ハードコアな無職者が集うらしいので昨年はパスしたのだが、種々のしがらみがあって今年は逃げ切れず、グループディスカッションの時間帯に参加させられることになったのである。

 

円形に配置された椅子の一つに嫌々ながら腰かけると、右隣りに鼠男系パンク、左隣りにはあろうことかニックが腰かけてきた。この人は70年代のパンク時代にバンド活動をしていた御仁で、周囲がパンクだのバンドだのを卒業して就職したり、結婚して父親になったり、会社で昇進したりして行く中で、いつまでも革のライダースジャケットを着続け、黒のスリムことスキニージーンズを履いて25年間も無職を貫いてきたおっさんだ。

 

このように、いわばオールドパンクとニューパンクに挟まれて、「なぜ私はボランティアとして働くのか」というテーマでのディスカッションに参加せねばならなくなった我が身の不運を呪っていると、のっけから進行役の女性がわたしに質問をふってきた。

「あなたは、どうしてボランティアとして働いているのですか?」

「保育のコースを受けようと思ったんですが、無給、有給にかかわらず、どこかですでに子供相手に働いている人でないと当該コースを受ける資格はないということが判明したので、とりあえずここでボランティアすることにしました」

みたいな面白くもなんともないことを喋ると、よせばいいのに進行役は同じ質問を隣のニックにふる。

 

「俺がボランティアとして働くのは」

と言って彼はもったいぶって深いため息をつき、意気揚々と演説を始める。

「俺は25年間ボランティアとして労働してきた。対価を貰って労働している人間が、世界や人間のためになる仕事をしているとは思えないからだ。企業がやっていることを見てみろ。みんな環境を破壊することしかしていない。企業の社会貢献なんてことが騒がれるようになって、どこの企業もプロパガンダとしての社会貢献ゲームをするようになったが、所詮イメージづくりのための貢献は長期的に見れば世界にとってダメージになることばかりだ。営利を目的にした途端に、ビジネスは全て人間のためにならないことになる。だから自分は営利を目的とせず、対価を貰わずに労働するんだ」

 

英国(特にブライトンのようなリベラルな街)にはこのタイプの長期無職者がけっこうおり、彼らが中心となって運営されているチャリティー団体がある。彼らはLibertarian(自由意志論者)又はアナキストと呼ばれ、集団で畑を所有して無農薬野菜を作り団体の中で流通してそれを食べて生活したり、フェミニズム、同性愛、環境問題、難民問題、動物愛護などの問題に関して極左的立場から流血の抗議運動を繰り広げたり(ということは近年めっきり減り、ラディカル本のライブラリー経営、オーガニック食品の販売などのソフトな方向に活動の軸が変化しているので、旧ヒッピー&旧パンクな高齢メンバーは怒っているようだが)しており、そうした団体で働いている人々は全て無給のボランティアである。ブライトンのロンドン・ロードにカフェを持つ某CClubOxfam1ポンドショップの間にあると書けばローカルな方々はもうおわかりだろう)などはその格好の例だ。

 

無職。というと、何もしないでだらだら家にいる人のイメージが強いが、こうした人々の場合はそうではなく、毎日きびきび労働している。が、それが利潤を生み出す企業・団体のための労働ではないので還元される賃金が存在しない。英国にはこの種の無職者がけっこう存在し、彼らは“ミリタリー系”無職者と呼ばれている。何故ミリタリー系なのかというと、軍隊の軍人並みに毎日しゃかしゃか熱心に働いているし、社会や政府を相手に“戦っている”意識が強いからだ。

 

そんなわけで放っておけば何時間でも熱く喋り続けそうな“ミリタリー系”ニックの話をなんとか終わらせ、進行役は他の人々にも同じ質問をした。

「無職の年数が長過ぎて、働く自信が無くなりました。それを回復するためにボランティアしています」「無職でずっと家にいると他者とのコンタクトに餓えます。それを何とかするためにボランティアを始めました」等のよくある発言が出回った後で、わたしの右隣りに座っている(おそらくグループで最年少の)フディーズ・パンクの番になった。

 

「あなたは、どうしてここでボランティアしているのですか」

進行係に尋ねられた鼠男系パンクは、ふふん、と不敵な笑いを浮かべ、喋り始めた。

「俺がボランティアをしている理由は、世の中のためではなく、自分のために何かをしたいからだな。実際、無償で働くっつったって、人間は金がなきゃ食っていけないんだ。で、どこからその金が出ているかって言ったら、政府だろ。そこの、ヴィンテージのライダースジャケット着た人も、失業保険貰ってるんだろ?じゃなきゃ、25年もボランティアなんてふざけた生き方、できねえよな」

 

わたしは左脇のオールドパンクの肉体からどよどよとした気炎がたちのぼるのを感じながら右脇に座っているニューパンクの傲慢な横顔を見ていた。

ああもうほんとにろくでもない場所に座ってしまったなあと思いながら。

 

つづく



Posted by mikako0607jp at 18:40│TrackBack(0)

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