2010年12月05日

雪と学生闘争。そしてジョニー・マー

Stop saying that you like The Smiths, no you don't. I forbid you to like it.

(スミスを好きだなんて言うのはやめろ。あんたは違う。あんたのスミス好きを禁止する)

 

http://www.guardian.co.uk/politics/2010/dec/03/johnny-marr-david-cameron-twitter?intcmp=239

 

ジョニー・マーが、自らのTwitterで英国首相デイビッド・キャメロンに送ったメッセージである。

 

雪の中を学生たちが街に出てアンチ保守党政権闘争を繰り広げている今、誰かがこれを言うのをわたしは待っていた。

 

わたしは雪の中で抗議運動を繰り広げた人々の中にはいなかったが、デモ行進を続けた人々のガキどもの面倒を託児所でみていた。

個人的にはもはや、デモ行進だの流血の抗議運動だのにわくわくできる年齢ではないが、今回の全国的な学生運動には、“わたしの心は君たちと共にある”な心情である。

 

労働党政権もしょうもないものだったことは間違いないが、あの政党のしたことで最もブリリアントだったのは(トニーやゴードンが個人的にしたかったかのは別にして、党の伝統的イデオロギーとして優先しないわけにはいかなかった政策として)“底辺引き上げ志向”の教育ポリシーがあった。

 

底辺民を上に引き上げるのは、教育しかない。

の思想を奉じる労働党政権のおかげで、どれだけの貧乏人やアンダークラスのガキどもが大学や大学院に通えたことか。

元ロックスター志望のトニー・ブレアが、演説で「Education, education, education!」と叫んで聴衆を熱狂させたあの政策である。

 

テレビのニュースなどで映っている学生たちはみんな若いので、あまりマチュアな学生たちは話題にのぼることはないが、保守党(&自民党。は政権発足時からいないも同然だが)政権が教育予算を大幅削減するせいで、おっさん・おばはんステューデントへの補助金や学費免除制度なども廃止されることになり、「英国っていい国ね。いくつになってもいろんなことを勉強している人がいて、人生のオプションがたくさんある」みたいな日本人留学生の所感などは、今後あまり聞かれなくなるであろう。いい歳こいて巨額の借金を背負ってまで大学で勉強したいと思う人はあまりいないからである。

 

十代でボロボロ子供を産んでその後20年を母親として暮らしたが、子供がみんな大人になったので、大学に行って勉強したくなった。という貧民街の女性なども、現政権には、「ふざけたこと言ってないで、下層の人間は下層の人間らしくいつまでも最低保証賃金で働け。住宅補助金も打ち切るからな」みたいな仕打ちを受けることになる。保守党の支持ベースがミドルクラス以上の人々である限り、彼らは“底辺民の引き上げ”などには興味ない。どちらかといえば、上のほうの人たちを満足させるためにもっと格差を広げたいだけで。

 

わたしは英国で保育士をしている人間だが、労働党が打ち出していた“0歳からのカリキュラム政策”も保守党にスクラップにされつつある。

ミドルクラスの家庭の幼児に比べると、日々耳にしているボキャブラリーの数が10%以下。と言われている貧困層の幼児たちを“底上げ”するため、前政権は保育士を“幼児教育専門教員”化して保育施設でも11人の子供に対応した学習カリキュラムを作成させようとした。そのため、そうしたカリキュラム作成ができる専門家育成のための新コースを全国の大学にスタートさせ、働きながら学ぼうという保育士には全額授業費を免除した。

特に貧困な地域の保育施設に勤める保育士が大学に通う場合には、その勤め先にも奨励金などが支給されていたのである。

 

底辺託児所のような場所が、このような労働党政権の政策でどれほど助けられたかは言うまでもなく、『ロザリオ』という拙ブログのエントリーのモデルになった女性なども、この授業料免除制度を利用して大学に入学したが、新政権がその制度を来年から廃止するので勉強を続けられない状況になり、粉雪の舞うブライトンの街をプラカードを掲げてデモ行進した1人である。

 

デイビッド・キャメロン首相は、無人島にたった一人で行くとしたら持って行く曲。としてザ・スミスの『This Charming Man』をあげたことで有名だ。

 

I would go out tonight

But I haven’t got a stitch to wear 

 

高学歴上層階級子女キャメロンは、この歌詞を文学的比喩として受け取っただろう。

しかし、下層民にとっては、これは比喩ではなくリアルな現実の吐露だ。

この部分の歌詞をリアルとして受け取れるかどうかで、ザ・スミスのファンも二つに分かれる。

 

ロンドンで行われたある日本人の集まりの壁際の最末席で小さくなっていた時に、邦人ロックバンドのメンバーだという人が、「スミスの音楽には階級はありませんよ。リッチとかプアとか、そんな狭いものじゃないし、もっと普遍的です」と語っていた。

が、十何年もこの国の貧民街に住んだせいでわたしは感受性が腐ってしまっているのか、ザ・スミスの音楽は英国の底辺階級の若者の恨み節にしか聞こえない。その意味では、最もセックス・ピストルズに近いとも言える。

 

Stop saying that you like The Smiths, no you don't. I forbid you to like it.

 

ジョニー・マーがTwitterでつぶやいた一言は英国では高級紙にも取り上げられ、大きな話題になった。

ザ・タイムズ紙の女性コラムニストは、「ブラーもレディオヘッドも同様の声明を出せ」と扇動している。

 

学生たちの抗議運動もそうだが、このようにストレートな政府への“反抗”のモメンタムは、もう何十年もこの国では見られなかったものだ。

特に、貧乏な若者たちが本気で怒っている。

底辺生活者サポート施設周辺でも、若い子たちの顔つきが変わっている。

 

ひどい時代になってきた。が、面白い時代になってきた。

 



Posted by mikako0607jp at 08:13│TrackBack(0)

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/mikako0607jp/51734166