2016年11月10日 ITmediaエグゼクティブ


企画がうまくなるのではない。企画の通し方が、うまくなるのだ。

『チャンスをつかむプレゼン塾』

 リーダーの仕事は、アイデアをつくり、それをクライアントにプレゼンで通すことです。

 リーダーがアイデアを実現するわけではありません。クライアントがお金を出して、リーダーのアイデアを実現します。プレゼンなしには、リーダーの仕事は成り立たないのです。

 企画力に関しては、新人もベテランもまったく差はありません。ただし、それが実現できるかどうかには圧倒的な差があります。リーダーの企画が通るのは、企画がいいからではなく、プレゼンがうまいからです。

 同業者の中には、「あの企画はオレも考えていた」と負け犬の遠吠えで言う人がいます。プレゼンで通る企画は、ほかの同業者も全員考えていることです。そこでクリエイティブ能力が発揮されるのは、そのアイデアをどう通すかというところです。

 本当のクリエイティビティーは、聞き手を説得する力です。クライアントを説得できなければ、つまらない仕事しかできなくなるのです。

 出版の世界でも、他社のベストセラーに対して「あれぐらいの企画は自分も考えていた」と言う編集者がいますが、負け犬の遠吠えです。その人は、企画を通せなかっただけです。ベストセラーにできた人は、企画を通す力があったのです。

 企画を通すには、2段階あります。

 最初に会社の中で企画を通し、次に社外で通します。今度はそれを消費者に向かって通します。無限に人に向かってつながり、味方にしていくためには、プレゼンという壁を越える必要があるのです。

 僕は博報堂時代に先輩から、「企画をどうしたらもっと面白くできるかより、どうしたらプレゼンで通せるかを考えろ」と教わりました。TVを見て「面白いCMだな」と思うと、いつも「このとんがった企画はどうやって通したんだろう」ということに目が行きます。

 チャンスをつかむ人は、面白いCMを見て「このCMをどうしたら企画できるか」とは考えないのです。

スクリーンの横に立つと、スクリーンが主役になる。

 プレゼンでパワーポイントを使って話をする時、たいていの人が失敗するのがスクリーンの横に立つことです。スクリーンの邪魔になってはいけないと考えるのです。その結果、スクリーンが主役で話し手がわき役になります。映画を解説する弁士のような状態です。

 スティーブ・ジョブズは、プレゼンをする時、スクリーンの前に立っていました。体に映像が映ってもビクともしません。スクリーンが「従」で、自分が「主」であるということです。スクリーンの邪魔にならないように陰に隠れると、話し手の勢いがなくなってしまいます。

 聞き手はみんなスクリーンを見て、話し手を見なくなるからです。

 本来、聞き手を説得するのは、スクリーンではなく話し手です。スティーブ・ジョブズも、プレゼンの失敗を自分で認めたことがあります。それは、スクリーンに映し出したビル・ゲイツをよけたことです。これは、ビル・ゲイツの勝ちを意味します。しかも、ビル・ゲイツはスクリーンに大きく映っていました。

 「例えビル・ゲイツがスクリーンに大きく映っても、それを遮るように前に立ち、自分の体にビル・ゲイツが映っているなら自分の勝ちだった」というのが、スティーブ・ジョブズが反省して出した答えです。

 よくスティーブ・ジョブズのプレゼンの形だけをマネする人がいます。一見、スティーブ・ジョブズのプレゼンは何げなしにしているように見えます。実際は、多くの失敗を乗り越え、試行錯誤を繰り返してあの形になったのです。

ホワイトボードに近づきすぎると、自信なく見える

 今、パワーポイントが増えている中、ホワイトボードを使う効果は大きいです。パワーポイントは、どんなに文字をあとから追加してスクリーンに表示されても、結局は家で準備したものです。聞き手とは一緒につくっていません。

 ホワイトボードは目の前で書くので、聞き手と一緒につくられたものです。例えば、学校の先生の授業もプレゼンです。先生が「これ、どう思う?」と聞いて、生徒が答えたことをホワイトボードや黒板に書いた瞬間に、話し手と聞き手が一体になります。聞いている側は自分の意見が書かれたと思うからです。

 聞き手の言った答えがくだらないことでも、ホワイトボードに書くことによって「これであなたとは味方だよ」となります。いまいちだなというアイデアもホワイトボードに書きましょう。

 これは、ブレストで起こります。「もっとない?」「今、ここに書いたのと似てるね」と言って書いてもらえないと、アイデアを出した人はガッカリします。チャンスをつかむ人は、似ていることも全部書きます。「自分の意見が書かれている」と思った時点で、そのアイデアの賛成派になります。

 これがパワーポイントではできないことです。僕は「黒板芸」と呼んでいます。パワーポイントがこれだけ多く使われている時代に、講演や講義でホワイトボードを使っています。

 これは、駿台予備校の講師の先生から学んだことです。

 予備校の先生は、黒板芸が圧倒的にうまいのです。英語の先生でも、事前につくったパワポで授業をするよりは、生徒の目の前で黒板に書く授業のほうが面白いです。

 ましてや企画会議では、「自分の言ったアイデアがホワイトボードに書かれること」が大切です。

 最終的に自分のアイデアを通したいと思う時は、ホワイトボードに向かう立ち方で勝負が決まります。チャンスをつかめない人は、ホワイトボードに近づいて立ちます。チャンスをつかむ人は、ホワイトボードから最も離れたギリギリのところに立ちます。

 基本は、聞き手にお尻を向けないことです。聞き手に背中を向けるのは、説得力が弱くなります。聞き手を見ながら、ホワイトボードから最も離れた位置に立って書けばいいのです。

 これこそが会場全体を支配でき、説得力のあるリーダーのホワイトボードの書き方なのです。                   

著者プロフィール:中谷彰宏

作家

1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。

【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー、ワークショップ活動を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。

著作は、『チャンスをつかむプレゼン塾』(学研パブリッシング)など、1,000冊を超す。

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