2018年1月23日 週刊現代


危機感がなさすぎる

第1部で触れた、アマゾンの業務拡大によって業績の悪化が見込まれる米企業で構成された「アマゾン恐怖銘柄指数」の別名は、「デス・バイ・アマゾン(アマゾンによる死)」。

ウォルマートや百貨店最大手・メイシーズのほかにも、書籍チェーンや事務用品、家具、アパレルと、アメリカのありとあらゆる小売企業がアマゾンの波に呑み込まれ、軒並み減収や赤字にあえいでいる状況から、いつしか生まれた呼び名だ。

これは、アマゾンが都市部近くへの拠点新設を進め、どこでも1日から数日で商品が届く体制づくりを急激に推し進めた結果だが、日本もこれから同じ流れに呑み込まれることになる。

 

現在、アマゾン日本法人は全国に15ヵ所の配送拠点を持っているが、さらに東京・八王子市にも新たな大型拠点を準備しているのだ。

流通業界に詳しいアナリストの角井亮一氏が言う。

「こうしたアマゾンの拠点増加の影響を真っ先に受けるのは、やはりイオンに代表される大型ショッピングセンター(SC)でしょう。自宅にいながらにしてあらゆるものを購入できてすぐに家に届くのであれば、わざわざSCに足を延ばす必要はない。

アメリカではこれからSCが3割減少すると言われており、日本でも同様のことが起きるかもしれません」

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追い込まれた米・ウォルマートは、アマゾンと同じネット通販に生き残りの道を見出そうと躍起になっている。'16年にはオンラインショッピング大手を3600億円で買収し、さらにオンラインの小売サービスを買い進めている最中だ。

翻って、国内スーパー最大手のイオンもネットショッピングにようやく力を入れ始めたものの、「おうちでイオン」、「イオンドットコムダイレクト」、さらに系列企業が運営する「ダイエーネットショッピング」などグループ内で競合するサイトを乱立させている状態で、「1ヵ所ですべてがそろう」アマゾンに対抗できる長期的な戦略は見られない。

元アマゾンジャパンの林部健二氏が言う。

「現状を見る限り、日本の小売チェーンはまだまだアマゾンの脅威に対する危機感が薄い。アマゾンは『徹底的にムダを省き、効率化する』という鉄のルールを掲げて利用者の支持を得ています。


顧客第一主義のこのルールを前に、古い慣習にとらわれ意思決定のスピードが遅い日本企業は太刀打ちできません」

デス・バイ・アマゾンはすぐそこ

昨年9月、アメリカでは、アマゾン台頭の煽りをモロに受けたおもちゃチェーン最大手・トイザラスが破産し、激震が走ったが、「トイザラスの次の餌食」とささやかれているのが、日本でもよく知られている衣料品チェーン・GAPだ。

ショッピングセンター内店舗の不振が響き、昨年9月には、今後3年間で傘下の約200店を閉鎖することを発表した。

この状況を日本に当てはめたとき、ダメージを真っ先に受けそうなのがユニクロを展開するファーストリテイリングだ。

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「アマゾンはすでに7つのファッションブランドを独自展開していますが、次に同社が準備しているのは、ユニクロが得意とするベーシックな服のブランドだと言われています。

高価なブランドであればネットで購入することに抵抗を感じる人はまだ多いと思いますが、普段使いの服であれば後発でも十分にシェアを取れると判断している」(流通専門紙記者)

そして、アマゾンに商売の基盤を脅かされているのは、こうした小売企業だけにとどまらない。

 

現在、米アマゾンの収益の柱となっているのが、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)と呼ばれるクラウドサービスで、米法人の年商は100億ドル(約1兆2000億円)に上る。

「簡単に言えば、各企業が膨大なコストをかけて独自に管理してきたデータなどを代わりにインターネット上で保管するサービスで、日本ではNECや富士通などが担ってきた。

ところが、導入スピードが早く料金も安価でセキュリティも強固なAWSがあっという間にシェア首位を奪取し、これらの企業は大打撃を受けています。日本家屋がどんどんなくなって洋式住宅に取って代わられたのと同じ状況です」(前出・林部氏)

「デス・バイ・アマゾン」が、日本企業にもひたひたと迫っている。


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