私のペンパルにオーストラリア人のサラ・アンという女性がいる。どうせ本名ではないようだから此処に名前を挙げたのだが、ジャパンキューピッドコムというサイトからメッセージをよこしてきたのが始まりである。
私は異性の友達を求める女性の顔写真をブラウズして眺めるのが好きなので、そういったサイトに沢山登録している。しかしそれらサイトの多くは登録だけ無料だが、連絡する(つまりメッセージをやり取りする)のは有料ということになっている。だからサラからのメッセージを私が読むことが出来、かつ返事をすることが出来たのは、彼女が有料会員であるということである。通常は女性からメッセージが来ると、その旨の通知はくるが、有料会員に変更しないとメッセージは読めないようになっている。
私はそのサイトを通じて送ったサラのメッセージに対する返事の中に私のメールアドレスを書いたから、その後は直接メールのやり取りをしている。ところがメールの内容が異常にごり押し気味で辟易してしまった。私には愛する妻と息子がいると書き、3人一緒の写真ばかり4枚送ったというのに、そんなことお構いなく誘惑するような書き方に終始している。
日本に来ていったい何をするつもりなのかと質問したら、次のように答えてきた。
私の両親は不幸にして交通事故で死に、それとは無関係ですが私自身も数年一緒に暮らした夫と離婚しました。両親の残してくれた財産を持って日本に移住し、何かビジネスを始めたいと思ってあなたのような信頼できる人を探していたのです。
何で私が信頼できる?私は女と金が三度の飯よりも好きな俗物である。とうとう馬脚を現しおったなと思って、はっきり返事を書くことにした。両親の残してくれたという金額は書いていないが、それがミソなのである。「ビジネスを始めると言っても金額に応じてプランは変わります」などと書こうものなら、「引っかかりおったか、馬鹿めが」などと言いながら適当に5ミリオンUSドルくらいの金額を書いてくる。するとその1割のアドバイザー料を貰ってもご、ご、ご5000万円じゃん。1割なら別にぼってるとは言えないよな、などと取らぬ狸の皮算用にふけることになる。
「どんな女性が好きですか。その女性とどんな関係を築きたいと思いますか」というのはいったい何ちゅう質問ですか?私はあなたの男ではないし、あなたは私の女ではありません。女性に対してどんな夢を持っているかと聞くから答えますが、私はアドリアナ・リマの顔を持ち、キム・カルダシアンの体を持つ女性と刺激的なデートをする夢を持っています。あなたが持っている金でそういう顔と体に作り替えたうえでラテックスのタイツとかシースルーのベビードール風衣装を着て私と繁華街を歩いてくれれば、半分EDになりかかっている私のあそこもgigantic(巨大)になって私は幸せ至極になることでしょう。
私は本当はもっとはっきりしたことを書きたかったし、それでも良かった。どうせ相手はろくにこちらのメールなど読みはしない。いや、読まないことはあり得ないが、騙せるかどうかという観点からしか読まないから、何を書いてもそれで向こうが気分を害するなんていうことは無いのである。
彼女はたくさん写真を送ってきたのだが、それで見る限り彼女は標準的と言えばかなり好意的な評価になってしまう。具体的なイメージを持ってもらうために言い添えると、彼女の写真を見て私は土木技師とか建設関係の仕事をしている女性のイメージを持った。ガタイが大きくてがっしりしているのである。顔はまあ普通だと思うが、ノーメイクだから化粧すれば結構見られるのかもしれない。不細工な眼鏡を外して短髪を伸ばせば案外いいかもしれない。しかし体の割には小さいおっぱいだからそもそも初めから私の助平心を刺激することが無かった。私はおっぱいが大きければ、ブスでもいいし坊主頭でも我慢できるが、小さい胸の女性には刺激を受けないのである。
昔は胸と尻が大きくて、それを強調する服装を着た写真を送ってくるのがメール詐欺の定番だった(今でもそんなのはいくらでも来る)。男は馬鹿だからそんな写真を見ると「嘘だろ」と思っていても知らず知らず騙されていく。近頃はそうした手口は一発で詐欺と見抜かれてしまうので、むしろ標準以下のルックスを持った女性の写真を送って来る。その方がリアリティがある。顔はまあ全頭マスクでもかぶせれば関係なくなるし。体は私のようにこだわりを持つ男もいるが、普通は「穴があればいいさ」という所で妥協してしまうのが男というものである。
彼女の写真は私の巨乳好きの観点から問題外だったので、「胸にシリコン詰めてからもう1回メールして下さい」と言っても良かったのだが、今は写真を修整してそんな胸に見せるのは簡単な時代になってしまったから、リクエスト通りシリコンを入れましたなんて写真を送ってくるといけないので、言わなかった。
まあ実際に送付した私の返事だって十分に侮辱的だと思うのだが、詐欺を心掛ける連中は全然めげないのである。返答しようのない所は無視して相変わらずの内容でメールを送って来る。私は経験豊富だからわかる。
どうせ俺は金なんか持ってないから騙されようがないさと思っていると簡単に騙されてしまう。何故かと言うと彼らの狙いは数十万、数百万ではなく、せいぜい5万円くらいだからである。それくらいなら今どき生活保護を受けている人だって出せる。生活保護を受けているくせに1日で9万円をパチンコにつぎ込んだという人を私は知っている。1人から5万円だって、1万人から集めれば5億円である。
ではどうやってその5万円を出させるのか。私はそこまでは知らないが、想像することは出来る。
オーストラリアの日本大使館でビザをとるのにあなたの保証書が必要です。それに添えて5万円のデポジットが助けになります。あなたが私のために支出するという事実が大切なので、一時出してもらうというだけです。私が日本に行けばそれをお返しするのは勿論ですが、それだけでなく今後ずっとあなたには私のアドバイザーになってもらわなければならないので、私が持参する金額の1割くらいはまず空港に着いたところでお渡しするつもりです。
恐らくそんなところだろう。5万円で5000万円の夢が買える。宝くじなら300円で3億円というのもあるが、確率は限りなくゼロに近い。それに引き換えこの話は相当に確率がいい。多分半々くらいに思っておけばいいだろう。それなら5万円は安い投資だ。そんな風に思ってしまう。
私はコートジボワールの政府高官の遺児と称する女性と実に30回以上にわたってメールを交換したことがある。その時は清楚なお嬢様風の顔に似合わず大きな胸をした写真を送ってきたので、私も遊んでみる気になった。毎回甘いことを書いてくるし、内戦を逃れて今避難キャンプにいるのだが、そこの牧師に電話してくれれば私を呼び出してくれるから話が出来ると言うので、電話もしてみた。実に素敵な声をした若い女性だった(実際は婆さんかもしれないが)。両足を机に乗っけて下着が見えることなど気にもせずタバコを吸いながら話しをしたって可愛らしい声は出せる。役者やのうと思いながら私はその可愛らしい声の女性との会話を楽しんだことがある。電話は信用させるための手段としてしか考えていないから、電話では金の話は一切してこない。ただひたすら可愛い声で甘いことを囁いてくる。
レビ(Reverend=牧師)には毎日あなたのことを話しているのよ。レビは、よっぽど素晴らしい男性を見つけたんだねといつも私をからかうの。
そんな調子である。
亡父の残してくれた莫大な預金は安全対策として私一人では降ろすことが出来ない設定になっている。外国の銀行にある、誰でもいいから外国人の口座にいったん送金してからでないと降ろせない。だからあなたの銀行口座を教えてくださいということだった。使っていない銀行口座があったからその詳細情報を教えた。向こうはどうせ送金するつもりなどないのに、いかにも本当らしく見せかけるためにIDの写しとかいろいろ請求する。コートジボワールの銀行からの送金先確認メールも届いた。それには、当国の銀行は世界的ネットワークに加入していないので、直接の送金は出来ず、提携しているイギリスの銀行経由で送金することになる。はい、そうですかとメールを返したら、送金依頼に基づいてロンドンの銀行に送金しましたというメールが返ってきた。それがヤフーだったかGmailだったかなので、銀行がフリーメールなんて使うかいねとメールしたら、先進国の人はみなそういう疑問を言うのですが、アフリカの銀行は普通にフリーメールを使うのですよと返事が来た。
それから翌日だったか今度はロンドンの銀行からメールが来て、あなたへの送金依頼と現金を受領しましたが、受領したのはコートジボワールの現地通貨なので、これをイギリスのポンドに両替しないとあなたの銀行口座に送金することが出来ませんと言う。つまり私に両替料を支払えというのである。その金額は忘れたが大した金額ではない。5万円くらいだったと思う。何億の金がすでに私の口座に送金すべく待機状態にある。ただその手続き上ポンドに両替しないといけないのでそのくらいの金額はまあいいか……..なんて私は思わなかった。
郵便局が切手を貼ってない郵便物を受け取ることはあるだろうが、その切手代金を郵便の宛先人に請求するなんて馬鹿なことがありますか?切手を貼るべきは差出人であり、郵便局は差出人に請求して支払いがなければその郵便物を差し出し人に返送するのです。何処の世界に宛先人に切手代を請求する郵便局がありますか?銀行だって同じでしょ。送金するのに両替が必要なら、その両替料金を送金依頼人が支払わなければ送金依頼を受け付けないのが当たり前じゃないですか。もう少しうまい口実でないとたとえ1USドルだって騙し取るのは無理ですよ。そう書いてメールを出したら、ぴたりとメールは止まってしまった。
あの素敵な声の女性は大股広げてボリボリ掻きながら、またぞろ別の男と電話で話しているんだろうなと思った。