悔しい、どう考えてもありえない。
私も暫く駒の鑑定をしてきたが、これほどの虚脱感は初めてだ。
先日、駒のネットオークションがあった。
「秀峰昨」「錦旗」の彫り駒が出た。秀作である。
「彫りの秀峰」という言葉を暫くきかなくなった。盛り上げを主体としてきた
彼が、久々に見せてくれた彫り駒。淡いが深みのある木地に、あの重たい字母
である「錦旗」をそれは爽やかに表現していた。

古今東西、彼ほどの彫りをする造り手を私は知らない。
その、オークションでの評価を今日聞いて、愕然とした。私が落とすべきであ
った。

駒には、盛り上駒・彫埋め駒・彫駒・書き駒などがあるが、彫駒は、技術力、
表現力が一番顕著に現れる。初代天一、武山、桂山等々数多くの名工を生んだ
天童においても、別格の存在と言って良い。彼以上の彫り手を見たことが無
い。

もう5年ほど前になる、中国の「古干」という画家と彼とのコラボレーション
が行われた。「古干」は中国のピカソと欧米で評価される人物で、大英博物館
が買い上げ、その名は広がった。次に世界の5大ワインである「シャトー・ム
ートン・ロートシルト」のラベルに選ばれたことは有名な話だ。ロスチャイル
ド家の所有するワイナリーであり、1945年より著名な画家たちが、そのラ
ベルを描いている。ピカソ、ミロ、シャガール、ブラック、カンデンスキー
マリー・ローランサン。。。。「古干」は、その中の一人となった画家である。
その、古干が将棋の為に字を創った、そしてその作り手に選ばれたのが秀峰で
あった。盛上駒・彫埋駒・彫駒三種1組として五組を創ることが課題で、その
字が甲骨文字であったため、彫駒が一番難しいとされ、秀峰にその任が任され
プロデュサーとして私は、彼と古干に会うため北京へ向かった。注文主は日本
で古干の本を出版する出版社で、そのお披露目の為の駒の筈だった。

出来あがって、お披露目をする寸前に、中国大使館より「待った」が入った。
「その駒をお披露目するのは日中の文化交流の為、大使館が主宰をする。それ
以外は認められない。」との内容であり驚かされた。そして、中国大使館の為
もう1組を創るようにとのことであった。

結局5組を創り、後の1組は、未だ創られてはいない。そしてその評価は1千
万を超えるものとなった。駒の世界では考えられないことであり、これ以上の
宝は将棋界においてもう実現することはないだろう。

その、秀峰が渾身をこめて彫った彫駒のオークションの評価は十三万であっ
た。馬鹿馬鹿しくて泣けてくる。駒を見る目のある人間は日本にはいなくなっ
てしまったのだろうか。ただ、木地の艶やかさにしか目がいっていない。木地
さえギラツイテいればばアマチュアの彫駒でも、二十万近い値が付いている。
あ〜世も末だ。今日は酒量が増えそうだ。

秀峰昨、古干書の駒はネットで「古干」と検索、「古干画伯による新字体将棋
駒の贈呈式」をご覧ください。
現在、羽生名人・中井女流が1セットずつ所有されています。