2013年05月25日

今年読んだ本でNo.1の傑作!薩摩藩出身の海軍医を描いた「白い航跡」(吉村 昭)5

私の敬愛する作家 吉村昭先生の「白い航跡」という本を読みました。
あまりに面白くて、あっという間に上下巻を読了。
今、NHK大河ドラマ「八重の桜」にハマッている皆さん、何も言わずこの「白い航跡」を読んでください!
ちょうど幕末から明治の時代の話なので、八重の時代背景と重ね合わせてイメージできます。

薩摩藩の軍医として戊辰戦役に従軍した高木兼寛は、西洋医術を学んだ医師たちが傷病兵たちの肉を切り開き弾丸を取り出す姿を見聞し、自らの無力さを痛感すると同時に、まばゆい別世界にあこがれる。やがて海軍に入った兼寛は海外留学生としてイギリスに派遣され、抜群の成績で最新の医学を修め帰国した。


NHK大河ドラマ「八重の桜」の主人公 八重は敗者となる会津藩のお話ですが、本著は勝者となる薩摩藩の藩医「高木兼寛」が主人公です。私は、恥ずかしながらこの年までこの方の名前を知りませんでした。
高木兼寛は薩摩藩の軍医として戊辰戦争に従軍し、会津を攻撃します。その時に、漢方しか学んでいなかった高木は洋医学で学んだ医者が負傷兵を手術によって助けるのを目の当たりにします。
これが高木の人生を決定付けます。前半では、高木が敗者会津藩の悲惨な状況も体験します。
武士の一家が正装の上、一家心中したシーンもあります。いつの時代も敗者は過酷な運命が待っています。

洋医学を学びたい一心で、父は九州の大工だったにも関わらず持ち前の頭脳と努力によって明治政府から
イギリス留学を勝ち取ります。高木は明治新政府の元で、海軍軍医になります。
高木はイギリスの名門病院でも優秀な成績を修めます。言葉も十分通じず、ましてやこの時代、アジア人というだけで差別された時代に学年最優秀賞を取って帰国します。
この時代は、士農工商の身分制から実力だけで出世できる激動の時代だったんですね。ある意味、羨ましい。

後半、高木は当時の国民病と呼ばれた脚気の撲滅に乗り出します。特に海軍では水兵は白飯中心の食事で、副菜は各自が補助金で購入していたため、貧しい下士官たちは貯金したりして満足な栄養のある副菜を取らなかったそうです。イギリスで学んだ高木は、欧米ではこのような病気が無い事に着目して、海軍はパン食とたんぱく質のバランスが取れた食事を提唱します。従来の食事で、脚気のため多数の水兵が死亡したという事を始めて知り、驚きました。単なる航海訓練だったのに、戦闘並の死者を出しています。高木は、パン食に切り替えて全く同じ航海をしてもらうよう、大臣や天皇にまで直訴します。

その壮大な実験の結果、脚気の死者はゼロとなり、高木の食事バランス説が正しかったことが証明されます。
これは、最近流行のビッグデータと同じで、「原理は良くわからないけど、統計を取ると対策が取れる」という実証主義であり、高木の先見の明は高く評価されます。

その一方で、作品後半にはびっくりする大物陸軍医が登場します。その名は森鴎外。私は高校時代の国語の教科書で彼の「舞姫」を読み、衝撃を受けました。こんな名作を書いた森鴎外ですが、ドイツに留学して細菌学の権威コッホに師事したため、「脚気は細菌による風土病」と大きな間違いを犯します。しかも、イギリス流の実証実験から海軍は脚気をほぼ退治したのに、陸軍は長い間、白米主義をとって台湾の戦争などで多数の脚気による死者を出します。

脚気がビタミンB不足による事が明らかになっても、森鴎外はそれを最期まで認めなかったそうで、彼は軍医としては失格、多数の陸軍兵を死なせた責任は万死に値するのではないでしょうか?森鴎外は自分の墓に「名前以外の肩書きなどは一切書くな」と遺言したそうですが、この脚気論争の勝敗を自分が一番分かっていたのではないでしょうか??

本書は、それ以外にも資生堂や生命保険会社が設立された経緯などが描かれ、大変面白かったです。また、早稲田大学の創立者大隈重信がテロに遭い、片足を切断するエピソードなども印象的でした。

今年読んだ中で文句無しの一位。幕末から明治時代に興味のある方にオススメです。


  
Posted by miliken at 18:04Comments(0)TrackBack(0)