
モノカキ関係のヒトと初めて会うとき、よくこんなふうに聞かれたりする。
「子どもの頃、どんな本を読んでいましたか?」
なぜかあたしはいつもしどろもどろになってしまう。
子どもの頃……。えーと、あの、その。
たしかに幼稚園にあがる前から、本はトモダチだったけれど、
こう聞かれたときに、どんな作家名や作品名をあげればいいのか。
中高時代には宮沢賢治や寺山修司が好きでよく読んでいたから、
そう答えればいいのだろうし、結局はそう答えるのだけれど。
でもそれだけじゃないはずだ、と、胸の中では思っている。
「子どもの頃」というのなら、特に。
本は、いつも身の回りにあった。
おこづかいを握りしめて本屋に走ったりもしたし、
学校の図書室から本を借りることも多かった。
夢中になって読んだ本は、それこそ無数にあったはず。
なのに、思い出そうとしても思い出せない。
そのひとつひとつの題名や作家名が浮んでこない。
なんだっけ、誰だっけ、と焦るような想いで、
記憶の中の本棚に目をこらしても、
そこには何も書かれていない背表紙が並んでいるだけで、
あたしはいつも自分が記憶喪失になったような気がしてしまうのだ。
いや、もしかして「いつも本を読んでいた」というのは、
単なる思いこみに過ぎないのかも。
そんなふうにさえ思えてきて、なんだかやたらに不安になる。
ところが。
ここのところ、ちょっと必要があって自分の履歴を書いたりしていた。
自分にとって「読む」ことや「書く」ことはどういうものだったのか、
そんなことを軸に、生まれた時から今日までのことを、
他人の人生を眺めるようにして、ひとつひとつ書きだしていた。
と。
少しずつ、見えてきたのだ。
背表紙どころか、その本の表紙が。
そういえばあの頃は、こんな絵本が好きだったとか、
あの物語に夢中になっていた、とか。
あれも読んだし、これも読んだ、そうそうあんなのもあったっけ。

そうやって思いだしてみて、初めて、
「子どもの頃何を読んでいたか」分かってきた。
考えてみれば、子どもの頃、あたしは実に「年相応」だったのだ。
うんと幼い頃に好きだった絵本は、
誰もが知っている「一寸法師」や「鶴の恩返し」等の昔話だったし、
グリムやイソップ、そしてディズニーもひととおり読んでいた。
どんな物語だったかうろ覚えではあっても、
その本に描かれた挿絵や色合いをうっすらと覚えている。
もう少し大きくなると「赤毛のアン」や「あしながおじさん」のような
少し長い「物語」を読みはじめて、
やがてオトナの本(小説)を読むようになり……。
なんだ、ちゃんと読んでいたじゃない。
そう思って、あたしはちょっとほっとした。
その遍歴はあまりにも自然で、あまりにもフツウで、
だからこそきっと「思い出せない」ような気がしてしまったのだ。
特筆するような「コレ」というものじゃなく、
誰もが知っているようなものばかりだったから。
まるで面接のようにして「子どもの頃、何を読んでいたか」と聞かれると、
その答えで、自分の書く力や読む力を判断されるのでは、と思ったりする。
相手の顔がリトマス試験紙のように見えてきて、
青か赤か、と、待ちかまえている相手に対して、
「コレ」というものを差しださなけれならない。
そんな気さえしてしまう。
だから自然に誰もが知っているような物語や作家を、
蚊帳の外に置いてしまったのかもしれない。
カウントしようとしなかったのだ。
でも今回思いだしてみて、
そしてうろ覚えだった物語をネットで調べてみたりして、
決してそんなことはないのだと思い直した。
子どもの頃に好きだった「あしながおじさん」や「赤毛のアン」は、
今読み返しても面白いと思えるだろうし、
そして実はすごく深い物語だったりするのだ。
そういう物語を「カウント」の対象外にしてしまうなんて、
なんて失礼なことだろう。
本に対しても、その著者に対しても。
あたしは「思いだした」ことにちょっと安堵しつつも、
おおいに反省したのだった。
「子どもの頃に読んでいた本は」
そう聞かれたら、これからは
「かえるの王さま」とか「赤毛のアン」と答えてみようかな。
堂々と。
うふふ。
あなたは子どもの頃、どんな本を読んでいましたか?
◆◇◆
こんなことをやっていたせいだろうけど、
昨日、「かえるの王さま」の夢を見た(なんとも単純)。
その夢の話しは、また後日アメブロにでも。
ところで。
著作権の切れた小説を無料で公開している「青空文庫」には、
こういう「誰もが知っている」ような童話もちゃんと入っているんですね。
「赤ずきんちゃん」もあるし「かえるの王さま」も。
うーん。今まで気がつかなかった。
(ここでもまた「対象外」にしていたらしい。反省)
その数はまだ少ないけれど、
「青空海外子ども文庫への道(仮)」
http://www.biwa.ne.jp/~maerd/aozora/aozora_childlen.html
という頁もできているようなので、今後に期待しておりまする。
ぜひ、「あしながおじさん」とかも入れてほしいなぁ。
「あしながおじさん」はアニメでもやっていたけれど、
こういうものはやっぱり「読む」ほうが数段面白いと思うから。
今考えてみれば、あれは恋愛小説でもあったと思うし。
主人公のジュディが書いた「作文」の「ゆううつな水曜日」
そのタイトルからして、なんて素敵なんだろうと思ったり。
うーん。
オトナになった今、もう一度読んでみた本はいっぱいあるかも。
そして、その「青空文庫」が「本」になったのだそう。「aozora blog」
http://www.siesta.co.jp/aozora/
あの膨大な、そして貴重なテキストを無料で提供しているなんて、
そしてその労力を考えたら、ほんとにすごいことだと思う。
これはぜひ読んでみなくては、ね。
「青空文庫」に敬意を表して。
「インターネット図書館 青空文庫」
野口 英司 (編集)
価格: ¥1,575 (税込)
出版社: はる書房 ; ISBN: 4899840721 ; (2005/11)
◆◇
TOP画像は、「かえるの王さま」
絵本・グリム童話
著者:矢川澄子 /梶山俊夫
出版社:教育画劇
発行年月:2001年10月
ISBN:4774605069
価格 1,200円 (税込 1,260 円)
「あしながおじさん」
ジーン ウェブスター (Jean Webster)原著
坪井 郁美 (翻訳)
福音館文庫
ISBN: 483401987X ; (2004/06)