


4月10日、ミメオの実家がある神戸へ向かう。我が家を出るとき、辺りの桜はもう花吹雪を降らせていたから、神戸の桜も散りはじめているだろうと思っていたのだけれど。着いてみればまさに満開。翌11日は暑いくらいの快晴で、義父の眠る墓地の桜は溢れんばかりの花盛り。間近に迫る山にぽつぽつ混じる薄紅色も愛らしく、桜越しに見渡す神戸の港はやわやわと霞んでいる。気温はもう初夏のようだったけれど、朧に霞む景色は、やはり春。



義姉は花作りの名人で、いつ行っても庭は花盛り。いったいどんな魔法を使っているのか(あたしは枯らす名人なので、よけいにそう思ってしまう)。花のあいだにしゃがみこむと甘い香りに包まれて、まるで秘密の花園にいるかのよう。風に揺れる小さな青い花も、おおらかに開くチューリップも、明るい春の光の中で嬉々として咲いていた。



群れ咲くクリスマスローズの向こうにいるのは、猫のキャンディ。ゆったり春を楽しんでいたのに、次々に見慣れぬ人がやってくるものだから、人見知りのキャンディは木陰に身を隠して固まってしまったのだった。怖がらせて、ごめんね。
明くる日もまた快晴で、長袖Tシャツでも暑いほど。でもせっかくの天気だからと義母を誘って近所を散歩。桜に似たピンク色の花は海棠のようにも見えるけれど、でもどこか違う。皆で首をひねりながら見あげても、花は素知らぬ顔で揺れるばかり。ドウダンツツジは満天星とも書くのだと井坂洋子氏の詩で知ったけれど、たしかに小さな白い花は星の数ほどありそうだね、と、そこかしこに咲く花に足をとめながらの、春散歩。きもちよかった。



神戸からの帰り道、どこかに寄り道をしようとあれこれ候補を探っているとき、たまたま旅番組で見たのが、いにしえの宿場町・木曽福島。名古屋から一時間ちょっとで行けるから寄り道の一泊にはちょうど良い。神戸で満開の桜を見たあたし達は、木曽福島は名古屋と松本のちょうど真ん中くらいの位置だから、また桜が見られるかもね、と言い合ってはいたのだけれど。着いてみれば、この町の桜もまさに満開で、ちょっとびっくり。なんと去年より10日早い満開だという。
冬の寒さが厳しい土地では春が一気にやってくる、そう聞いてはいたけれど、この目で見るのは初めてだった。群れ咲く黄色い花は蒲公英かと思ったら福寿草。掌をめいっぱい広げているみたいな白い花は四手辛夷。ウチの辺りでは辛夷が散ったあとに桜が咲くけれど、この町では辛夷も桜も一斉に咲くのだった。



福寿草と四手辛夷が咲いていたのは、室尾犀星が小説「家」のモデルとした「高瀬家」の庭。ここには辛夷だけじゃなく、梅も木瓜も菫も水仙も咲いていて、静かな庭にひっそりと忍ぶ春の気配が優しかった。時代が巻き戻されたような庭と家。いつまでもぼんやりと佇んでいたいような場所だった。
木曽川の流れる小さな町のそこかしこで目を引いたのはレンギョウの花。「萌えたつ」とはこのことか、と思うほどに鮮やかな黄色。家々の庭や山裾にぽつぽつと咲く桜の色は優しくて、こういう里山の桜もいいものだなぁと思う。これも遠くまで見渡せる町であればこそ。


宿の人に「町歩きをしてきます」と言ったら、「ちょうど今興禅寺の枝垂れが満開で」と満面の笑みがかえってきた。ぜひ見てください、と。お寺の門が見えたとたん大きな桜が迎えてくれたけれど、枝垂れ桜はその奥、本堂の脇に。



木曽義仲お手植え二代目の樹だそうで、たしかに見事な枝垂れ桜。足もとに立って見あげると、空が花でふさがれる。さがって揺れる花は染井吉野よりも少し色が濃くて、まるで花かんざしのよう。



ここは桜だけではなく、庭園も広くて美しい。そういえばいつも千本桜を見に行くときには、三椏(ミツマタ)はもう萎みはじめていることが多いのだけれど、この庭では三椏も盛りを迎えていた。こんなに大きくなるものか、という丈高いレンギョウにも目を見張る。
枝垂れ桜の横には、かつてここを訪れた山頭火の句碑がたっていて、それを見たあたしとミメオは、まさにこの句の通りだね、と笑ってしまった。
たまたま詣でて木曽は花まつり 種田山頭火
春を、桜を追いかけようと企てたわけではなかったのに、たまたま詣でてみれば、どこもかしこも花盛り。期せずして今回の旅は、そんな花紀行と相成ったのでありました。
Photo:MimeoAoyama/MimeiTagawa
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実は「高瀬家」に着く直前、なんとあたしのケイタイが電池切れに。で、写真が撮れなくなってしまったのでした。いつもはばしゃばしゃ撮ってもヘイチャラなのに。どうやらこの時、このトルタリへの送信が上手くいかなくて何度もやり直したりしていたので、そのせいらしい(泣)。なのでそこから後の写真はすべてミメオのコンデジにお任せ。もっとも桜のようにこまかな花はケイタイだと上手く撮れないので、まぁいいか、と諦めもついたのだけれど。でもやっぱりそろそろ機種替えすべきなんでしょか。気づけばもう5年も変えてないのでした(古すぎ?)
紙上(?)お花見、ビール片手に堪能させていただきました。ごちそうさまです。