2017年メキシコ地震

メキシコでマグニチュード7.1の地震が9月19日に発生した。この地震で、建物の倒壊も多数発生し、200名以上が犠牲との報道もある。メキシコでは9月8日に南部の沿岸でマグニチュード8.1の地震が起きたばかりだった。
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出典:http://edition.cnn.com/2017/09/19/americas/mexico-earthquake/index.html

19日の地震はメキシコシティーに近く、被害が大きくなっているようだ。下の動画は建物が崩壊するときをとらえている。

揺れは比較的ゆっくりしてるようだ。メキシコシティはそもそも埋め立て地で軟弱な地盤の上に都市が形成されてきた。1985年のメキシコ地震の震源は遠く離れていたにもかかわらず、多数の建物が倒壊した。下はUSGSが作成している震度分布となっている。震源から離れているにもかかわらずメキシコシティの揺れが強いことがわかる。
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下は今回の地震によるもので、メキシコシティは震源に近い。それでも、揺れの強さは、震度で残度(日本の震度階とは異なる)で、最大加速度では200ガルから300ガル程度か。
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1985年のメキシコ地震では長周期地震動という言葉は使われなかったと思うが、まさに長周期地震動が発生していた。ちなみに32年前の地震も9月19日に発生しており、当日は追悼式や避難訓練が行われていたという。そのため本物の地震警報を訓練の一部と誤解する住民もいたと伝えられている。倒壊した建物の下敷きになった方々の一刻も早い救出を祈りたい。

震災時の住宅修理支援

日経新聞(8/30付け)に『 空き家活用も提言 震災時の住宅修理支援』という記事があった。
南海トラフ巨大地震などの大災害が発生した際の住宅問題について話し合う内閣府の有識者検討会は29日、報告書をまとめた。個人が所有する空き家を被災者の住まいとして活用することや、自宅を応急修理して住み続ける住民への支援策のあり方を提言。内閣府は報告書を受け、具体的な仕組みづくりの検討に入る。

内閣府の試算などによると、南海トラフ巨大地震で全壊する建物は最大239万棟に上り、最大205万戸の仮設住宅が必要になると想定。首都直下地震では最大61万棟が全壊、仮設住宅は最大94万戸が必要になる見込みで、住まいの大幅な不足が懸念されている。

有識者検討会は報告書で、東日本大震災の際に被災者が親族から物件を借りて入居するケースがあったことなどから、個人所有の空き家を災害時に活用できる可能性が高いと評価。「空き家・空き室を活用し、応急借り上げ住宅として積極的に供給していくことが必要」としている。

空き家を災害時に素早く提供するため、自治体が必要な手続きのマニュアルを定め、業務の進め方について、官民で訓練を実施する必要があると強調。自治体が「空き家バンク」に登録された物件の状態を平時から確認する必要性も訴えた。

検討会は、被災者が可能な限り自宅での生活を続けられるよう、災害救助法に基づく住宅の応急修理を促す必要があると指摘。都道府県が相談体制を整備したうえで、被災者が事業者選びの参考にできるよう、対応できる工事の種類などを記した指定業者のリストを整えることを求めた。

災害時は、被災者が一時的な住まいで長期間の避難生活を余儀なくされる恐れもある。このため検討会は、仮設住宅の有効活用策にも言及。住みやすいように改修したり、個人の敷地内に建設したりする案や、長期間の居住に耐えられるよう、住宅の基礎を鉄筋コンクリートでつくるなど、最初から強固な構造で建設する案を提示した。

応急仮設住宅では2年が使用期限といいながら、すでに長期間使用してる事例がたくさんある。実態は「仮設」ではないのではないか。下の写真は南阿蘇にある下野山田仮設住宅団地だ。この仮設住宅は木造でできていて、従来の仮設住宅よりも隣棟間隔を広くし(約1.5倍)、駐車場も住戸の近くに配置している。そして仮設といいつつも基礎はベタ基礎でしっかりしたものとなっている。
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すでにこうした取り組みはなされている。少しでも仮設住宅での生活を改善するような努力はなされている。

ただ、仮設住宅を建てるにも、その敷地がなければ建てられない。都市部では敷地が不足し、十分な仮設住宅が確保できない可能性がある。やはり根本的な解決は、すでに建っている住宅の耐震補強と、より高い耐震性を目指した住宅の建設ではないだろうか。耐震等級1ではなく3が当たり前となるような施策が必要ではないか。免震を採用した住宅は税金などを割り引くなどの具体的な対策があってもいいのではないだろうか。

震災が起きてからの対策ではなく、起きる前にできることはしておくことが大切だ。もし震災が起きれば仮設住宅や避難所の運営などに多くの費用が必要となる。しかし、被害を低減できれば仮設住宅などに関わる費用は少なくて済む。そうして浮いた分の費用を事前の対策に回せないものか。税金を投入して住宅の耐震化をはかっていくことはできないものだろうか。

その際、耐震化工事が適切に行われているかどうかを確認する仕組みも必要だろう。住宅の所有者が安心して耐震化工事を任せることができる地域の工務店、大工さんを育てていくことも求められるのではないだろうか。

熊本地震で観測された長周期地震動

2016年の熊本地震において、西原村役場で観測された地震動は「長周期パルス」だったといわれている。しかし、そもそも「長周期パルス」って何なんだろうか。NHKでも取り上げられので、いつのまにか「長周期パルス」という言葉が一般に使われるようになるかもしれない。長周期地震動がそうだったように。地震学で「長周期」といえば、もっと長い周期帯を指す言葉だったはずだったが。科学がメディアに負けている・・・

下の図は、熊本地震の本震で観測された地震動から求めた加速度応答値(減衰5%)で、周期2秒から5秒の周期帯における平均応答をコンター図で示している。これは九州大学の研究者により作成されたものだ。
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多くの住宅が被害を受けた益城町は周期1秒から2秒が最も卓越していたのに比べ、西原村や阿蘇の一の宮付近で長周期成分が卓越していることがわかる。

以下の図は、益城町役場、西原村役場、K−NET一の宮での観測記録の波形(加速度・速度)とEW成分を使った応答スペクトル(減衰5%〜30%)である。
益城町西原村一の宮

西原村役場の速度応答スペクトルをみると周期2秒以降でも高い値を維持している。その結果、変位応答スペクトルでは周期が長くなるほど大きな変形を示している。こうした応答となった要因は、速度波形にある大速度を示してる周期3秒のパルス(?)だと思われる。一の宮は短周期成分がそぎ落とされ、周期3秒が卓越している。一の宮の加速度波形は25秒以降で周期が長くなっていようにみえる。速度波形をみるとほぼ周期3秒で正弦波に近い。

なぜ、こうした地震動が観測されたのだろうか。益城町も西原村も断層上にあるが、これほど違いがでた要因はなんだろう。国土地理院の調査では西原村は約2m沈降している。こうした断層運動が西原村の観測記録に影響を与えたのだろうか。一の宮の記録も断層運動が影響しているのだろうか。

しかし、K−NET一の宮から3kmほど離れたところにある免震病院では最大変形が46cmだった。一の宮で観測された地震動をこの建物に入力しただけでは、応答は説明できない。そうなるとこの建物の入力地震動は違う可能性もある。しかし、地震の長周期成分はあまり減衰しないはず。そうなると深い地盤構造も影響しているのかもしれない。

熊本の地質は、阿蘇山の噴火による火山灰などの堆積物が多い。地表面で大きな地盤変位が現れたり、周期3秒が卓越したのは、地質の影響はないのだろうか。こうした面からの検証も必要だと思われる。
熊本の地質図


第12回日中建築構造技術交流会に参加

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日中建築構造技術交流会は約25年前に始まり、2年ごとに開催されている。今年は、神戸大学で、16日と17日にの2日間開催された。ただ2日目は台風の影響も考慮して、早めに切り上げることになっ。参加者は、中国から117名で、研究発表と活発な議論が繰り広げられた。ちなみに日本側の参加者は107名。次は2019年の9月に中国の蘭州で開催予定。

僕は、昨年の熊本地震での建物被害と免震建物の応答について発表した。免震建物はその性能を十分に発揮し、建物被害はなかった。また、免震建物の所有者や居住者から、免震で良かったといった声が多く聞かれた。

ただ、熊本地震では長周期成分をもった地震動が観測されている。
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こうした長周期の地震動が発生したメカニズムについてはさらに詳しく検証していくことが必要だろう。熊本地震では断層亀裂が地表に現れ、地殻変動が起きたために長周期成分が生み出されたのではないか、とも言われているそうだ。地殻変動が3秒程度で起きた(未確認です)ために、周期3秒が卓越した地震動が生成されたのだろうか・・・

徳島南部での謎の大津波

朝日新聞(9/14付け)に『謎の大津波 海底地滑り原因か』という記事があった。
徳島県南部で多数の死者を出した1512年の「永正(えいしょう)津波」は、海底の地滑りが原因で局地的に起きた可能性が高い――。徳島大などの研究グループが、そんな調査結果をまとめた。15日から茨城県つくば市で開かれる歴史地震研究会で発表する。

永正津波の死者は、一説には約3700人とされる。ただ、南海トラフ沿いのほかの地域では大津波の記録が見つかっていないことから、「謎の大津波」とされてきた。徳島大の馬場俊孝教授(地震学)らは、古文書「震潮記」の記述などから、海岸から約500メートルの家屋が流され、津波による浸水の深さは2メートル以上と推定した。

馬場さんらは海底地形図を調べ、徳島県南部の宍喰(ししくい)地区(同県海陽町)の24キロ沖に幅約6キロ、高さ約400メートルの崖があることに注目。昨年、海洋研究開発機構などと共同で、音波探査によって海底の地形を詳しく調べた。その結果、この巨大な崖は海底地滑りでできたとみられることが判明した。
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一般に大きな津波は、強い揺れを伴う地震とセットで起こると考えられがちだ。しかし、海底地滑りは小さな地震がきっかけでも発生する可能性があるという。馬場さんは「揺れは小さくても大きな津波が来る可能性があり、今後も注意が必要だ」と話している。

まだ我々が知らないことはたくさんある。それを解明していくことも必要だが、それを待っているわけにはいかない。さまざまなリスクに対する備えをしておくことが必要となる。そのためには、最新の科学的知見に基づいて、想像力をもって備えておくことが求められよう。

あわせて科学的知見を社会に分かりやすく伝えることが必要だ。学会で発表するだけでなく、社会にも分かりやすく伝える努力が欠かせない。日本学術会議の土木工学・建築学委員会は、今年の8月に提言『大震災の起きない都市を目指して』PDF)を出している。日本学術会議だけでなく諸学会でもさまざまな提言を出しているが、それらが一般市民に伝わっているかどうか、検証することも必要ではないだろうか。

日本はなんでも短くする?

日経新聞(9/13付け)の「春秋」では、言葉を簡略化することについて書かれていた。
「りょ」。
新入社員にメールを送ったところ、たった2文字のこんな返事がきて仰天した――という話は都市伝説だろうか。「りょ」とは「了解」の短縮形である。もっと略すと「り」。上司とのやりとりに使うかどうかはともかく、若い世代にずいぶん広まっている。

いろいろ考えて長々と書くおじさん、おばさんに比べると、若者のメールは総じてあっさりしたものだ。短っ! と驚くばかりだが、文章を縮めたり略語をつくったりするのは昔から日本人の得意技である。人々は「当たり前だべらぼうめ」「あたぼう」とはしょり、天下の豪商、紀伊国屋文左衛門を「紀文」と呼んだ。

日常的にはほとんど絶滅した電報も、かつては短縮文のオンパレードだった。古い映画を見ていると電報を打つ場面がよく出てくるが、スクリーンに大写しになる「ウナヘンマツ」とか「アトフミ」とか、いまは判じ物である。前者は「至急、返事を待っています」、後者は「あとは詳しく手紙に書きます」の意味なのだ。

オリンピックは「五輪」、万国博は3文字をさらに縮めた「万博」が世に知れわたった。短い言葉が持つパワーである。だから政府も、次々に打ち出す大仰なキャッチフレーズの短縮形など掲げてみたらいい。たとえば1億総活躍は「億総」、人づくり革命は「人革」……。しかしやはり、肝心なのは中身です。ヨロオネ。

縮めるのは日本語だけではないと思う。英語でも
  asap (as soon as possible)
  DIY (Do It Yourself)
  FAQ (Frequently Asked Questions)
  FYI (For Your Information)
など頭文字をとって短縮することがある。ただ、こちらは頭文字なのでわかりやすいものの、日本語は類推は難しいかもしれない。

正式なビジネスの世界ではLINEでやりとりをすることはないだろうが、部署内の連絡などではLINEを使っているところもあるかもしれない。そういうときには、文字で返信する代わりにスタンプで返信ということもあるかも。
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ただ逆に文字だけよりも、雰囲気や感情などを伝える効果もあったりして。
もちろん適切なスタンプを使うことができればだけど。

万能製図機械「ドラフターMH-1」

日本機械学会誌(9月号)に機械遺産(No.21)である『ドラフターMH-1』が取り上げられていた。
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武藤与四郎がドラフターを考案する元になったのは、乗合バスの中でアメリカ人が読んでいた雑誌の記事が偶然目にとまったことであった。その雑誌には当時の設計者が使用するT定規や三角定規・分度器などを組み合わせた道具に関する記事があった。その記事からひらめきを受けて、ドラフターを開発・商品化することに繋がった。当時、戦前から続けていた目盛彫刻や金型の加工を主な事業としていた武藤工業(株)(現MUTOHホールディングス株式会社)にとって、新しい時代の幕開けであった。

1957年頃から製図機械「ドラフター」という名称が広く普及・浸透し、登録商標であるにも関わらず当時の文部省の文書に設計・製図機のことが”ドラフター”と書かれたこともあった。欧米ではMUTOH(ミュートー)と呼ばれ、エンジニアの間で親しまれるようになった。

ドラフターは当初、製図板を平面にするものであったが、大きな図面を座ったまま作図できるように上部にカウンターウエイトを付けて製図板を立てられるように改善を行った。これにより操作性の向上だけでなく省スペースにもなり、製図室に多くのドラフターが並んで設計・製図作業をしている懐かしい光景が実現できた。

これと同時にスケール(定規)の角度を読み取る方式も、遊標(バーニア)式、ダイヤル式、デジタル式と進化し、設計者に複数の選択肢を提供できることとなった。また構造もベルトプーリー式に加えて縦レールと横レールのXY駆動となるレール式が開発された。これらにより、ドラフター販売の最高記録は年間12万台に及んだ。
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最近のモデルは↓らしい。僕が学生のころにはメーカーの販売員がドラフターのデモ機を展示して、学生に販売をしていたな〜。多くの学生が購入していたと思う。懐かしい。
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いまでは設計製図は手書きからCADへほぼ完全に移行していると思われる。しかし、建築士の製図試験ではまだ手書きの図面だし、大学での建築教育でも、まだ手書きだ(全部ではない)。本学でCADの授業があるのは2年生後期からで、CADを使うのは3年生からとなっている。

実務では手書きでスケッチくらいはできた方がいいだろうし、図面を書く感覚を身につけておかないと、CADで図面も書けないと思われる。そういう意味で授業では手書きによる製図を行っているが、もうドラフターはない。いまでは、T定規と三角定規を使っての製図となっている(特に1・2年生は)。

いま建築模型はスチレンボードなどを使って製作しているが、そのうち3Dプリンターで出力なんて時代がくるのか、も・・・

働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。

サイボウズ株式会社が、創業20周年を記念して、人気アニメ『紙兎ロペ』原作者・内山勇士氏による、働き方改革をテーマにしたアニメ『アリキリ』を公開している。
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日本社会における働き方改革の必要性が昨年頃から強く叫ばれる中で、生活スタイルは人それぞれのはずなのに、会社から求められる成果は変わらず、残業時間だけが規制されるなど、画一的な制度改革に対する現場の不満の声は高まる一方に見受けられます。 サイボウズは2005年に離職率が28%に達したことを機に、ひとりひとりが幸せに働くことができる環境作りに挑戦してまいりました。『100人いれば100通りの働き方』をポリシーとして働き方改革に取り組んできた企業として、世の中で働き方改革が一般的になったいま、どうすれば働くことが喜ばしく、楽しいものになるのか、皆さまと一緒に考えていきたいという想いから、記念すべき20周年の節目に働き方改革をテーマとしたアニメを制作いたしました。

創業20周年記念アニメ特設サイトでは、3つのアニメが公開されている。
  テーマ:「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。」
  第1話:残業編
  第2話:女性活躍編
  第3話:イクメン編

特に、いいな!と思ったのは、「女性活躍編」。女王アリに社外取締役になって欲しいという電話が他の企業からあったという話で、私たち(アリの世界)はとうの昔から女性活躍だったわよ、男性諸君もしっかり活躍してね、というところがよかった。


このアニメで働き方改革は誰のためにやっているのか、何を目指しているのか、というところを考えてもらうきっかけになるといいけど・・・

日本型雇用の弱点

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週刊東洋経済誌(9/9号)の「ミスターWHOの少数異見」欄に『雇用延長の実態が示す日本型雇用の弱点』という記事があった。
高年齢者雇用安定法の改正で、65歳を迎えるまで、元の職場で働き続けられるようになった。(略)しかし企業側は彼らを持て余している。役職を外れ、給与水準が大きく下がり、本人たちのモチベーションも極端に下がっている。経営者たちが言葉にしないところをいえば、「これは国が決めたルールだから我慢するしかない」というところだろう。政府は年金の代わりとして、65歳を迎えるまでの生活コストを企業に肩代わりさせた

ただ政府だけが悪いとなると、重要な論点がピンぼけする。
核心は日本型雇用システムの弱点にある。

日本のサラリーマンは新卒一括採用で入社し、レール上を走っているときは有能であっても、一度レールの外に置かれると、能力を失う。いや、ポストを失い、給与が下がると、モチベーションをなくし最後はプライドも消える。

公務員も例外ではなく、若い頃は切れ者でも、ひとたび出世競争から外れると変わり果てて天下りしていく。政府が企業に求める雇用確保策は、日本型雇用の「真空地帯」に年長サラリーマンを追いやっただけだ。

さて、上級役職者への昇進の道が閉ざされ、さらに役職定年、再雇用になりやる気を失った社員をどう処遇するか。仮に企業に対して積極的な役割を求めるとすれば、彼らに
  ”業・兼業を勧め、
  起業を支援、 
  出戻りを可能にして転職を促進、
といった選択をさせることが挙げられる。

だが、会社から自立できる人材はほんの一握りで、大多数はそのような能力などとてもない。会社が最後まで残ってほしいと考える人材はごく少数で、サラリーマンは年長になるほど自分が会社から愛されていないことを知る。雇用延長が可能になったことで、自分自身の生き方をうまく決められずに漂流する年数もまた長くなった。結局、兼業、起業、転職する能力などなく、会社にいるしかないわけだ。

年金の支給がさらに延長されるような事態になれば、政府は再雇用の年数をさらに延ばすつもりだろうか。将来は、年金の額や支給年齢が変わって、これまでと同じように年金がもらえるという状況ではなくなる可能性もある。雇用延長は、ある意味「福祉」となっていき、それを民間企業に負担させている。これから日本の人口が減っていって、高齢者の割合が増えてくれば、こうした制度も成立しなくなるのではないだろうか。

そのときには、従来の日本型雇用システムも大きく変わっていき、「定年」という制度がなくなり、優秀な人材はいつまでも働くことができるようになるかもしれない。そういう意味では、設計事務所などをやっていると健康であればいつまでも働ける。創造的な仕事に「定年」はないといえる。

大学教授の場合は、ポストの問題もあるし、新陳代謝という面もあると思うが、現状では業績などに関係なく定年で辞めてしまう。大学教授に限らず、こうした点を改めていくことも必要な気がする、な。

世界初の水平スライドクレーン

建設通信新聞(8/28付け)に『世界初の水平スライドクレーン 次世代型建築生産の一翼』という記事があった。
清水建設が次世代型生産システム「Shimz Smart Site(シミズスマートサイト)」の一翼を担う新型建機として開発した、世界初の水平スライドクレーン「Exter(エクスター)」の1・2号機が完成した。24日、製造した広島県呉市のIHI運搬機械安浦工場内で実機を公開し、デモンストレーションを実施した。
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Exterは、水平方向に伸縮するブームにより作業半径を自由に調整できる。ブームは3体に分割され、クレーンの根本に位置する最大外寸のブームは固定式で、その中に中間と先端のブーム2本を納める構造になっている。従来のブーム起伏式のタワークレーンに比べ、ブーム先端の最高到達点を20〜25m低くすることができ、全天候カバー内でも効率よく稼働できる。主な仕様は、作業半径3〜25m、定格荷重12t、揚程200m。

シミズスマートサイトは、AI(人工知能)を搭載したロボットとBIMが連携した次世代型建築生産システム。BIMを核とする情報化施工により、最先端技術を搭載した自立型ロボットと人がコラボレーションし、建築現場の生産性向上に取り組む。

実機デモには、坂本眞一生産技術本部副本部長、水島敏文同本部機械技術部長ら関係者が出席、1・2号機の完成を報告するとともに、概要を説明した。デモではブームの伸縮や、フック巻き上げなどを披露した。坂本副本部長は、来年早々にも関西エリアで同システム全体を適用した高層ビル新築の工事に着手することを踏まえ「新築のみならず、解体工事の需要にも積極的に対応していきたい」と意欲を示した。

「現場を工場のように」を目指した全天候自動施工システムのためには、こうしたクレーンも必要なんだろう。
ところで、日本の建設現場で使われているタワークレーンは、下のような形式がほとんどだと思う。
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一方、海外では、下図のような形式のクレーンをよく目にする。
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それぞれ一長一短あるのかもしれないが、日本で上の写真のようなクレーンが多用されている理由は何だろうか。清水建設が開発したクレーンは、どちらかといえば、海外のクレーンに似ている。

ところで、大林組では、「解決!!タワークレーンの謎」という特設サイトで、仕組みや解体方法、塗装色にも決まりがあるといった雑学などがわかりやすく紹介されている。タワークレーンの支柱(マスト)の色は、建設会社によってそれぞれ違う色になっていることを知った。知らなかった。ちなみに大林組は「パッションオレンジ色」らしい。

AIでビルの揺れ抑制

朝日新聞(8/31付け)に『AI ビルの揺れ抑制 長周期地震動学び対応』という記事があった。
NTTファシリティーズは、地震時に高層ビルをゆっくりと大きく揺らす「長周期地震動」を、人工知能(AI)で抑える世界初の技術を開発した。AIがビルの揺れを分析し、モーターで人工的にビルを揺らして地震の揺れを打ち消す仕組み。南海トラフ地震などで高層ビルに大きな被害が出るおそれが指摘され、対策が課題になっている。

長周期地震動は遠くまで届くことや、大きな建物ほど被害を受けやすいことが特徴だ。東日本大震災では東京のビルで1メートルを超える揺れ幅を記録したほか、震源から数百キロ離れた大阪市内のビルでも内部が損傷。2003年の十勝沖地震では大型石油タンクの火災を引き起こした。

通常の制震や免震の装置では防ぐのが難しい。従来の技術では、ビルの各階を支える梁に油圧式のダンパーを多数取り付けて揺れを少しずつ吸収するため、大規模な工事が必要だった。

NTTファシリティーズの新技術は、ビルの梁の一部にモーターで横揺れを生み出す装置を取り付ける。センサーがビルの揺れを感知すると、AIの指示で地面の動きを打ち消すようにビルを揺らし、揺れが上層階まで伝わらないようにする。完成済みのビルの耐震工事にも使える。

揺れ方はビルによって全く違うため、AIはビルの構造図面を元に様々な地震についてシミュレーションを繰り返し、揺れの抑えを自ら学習する。電動モーターには行きすぎた動きを吸収するダンパーも取り付け、AIが誤作動しても建物が壊れないようにする。

従来の技術に比べて揺れを半分以下に抑えられるうえ、工事が必要な梁の数が半分程度で済むため、コスト削減にもつながるという。近く、関西のビルの耐震工事で使われる予定だ。AIで地震の揺れを抑える技術が実用化されれば世界初とみられるという。

制御を学習したAIは建物に設置されるセンサーの計測データを使い、地震時にダンパーの減衰力を自律的に制御し、建物に生じる揺れを抑えるという。これによりパッシブ制振と同じ制振性能を半数程度のダンパーで実現し、工事量の削減と工事期間の短縮を通じて工事コストを最大30%削減することを目指している、という。

ニュースリリースには、ダンパーの有無による振動大実験の結果が示されている。これによれば、確かに応答は半分程度に抑制されている。しかし、パッシブダンパーとAIを使ったアクティブ制御との応答比較は示されておらず、制振効果ははっきりしない。
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イメージ図によれば、ダンパーを下層部に集中配置するようだが、変形をダンパー設置層に集中させることにならないだろうか。関西のビルに導入されるとのことなので、ぜひ実大実験もして欲しい。AIで強制的に建物を揺らさせて、それを自律的に抑制できるかどうか検証できるのではないだろうか。実際の地震動とは違うかもしれないけど・・・

東日本大震災から6年半が経過する。
こうした最新の制振・制御技術も必要だろうが、巨大地震後の生活再建やまちづくりというものをどう考えていくのかについても課題だ。こちらはAIではなかなか解決しそうにない。

ウルトラC

朝日新聞(9/6付け)の「ことばの広場」に『ウルトラC』が取り上げられていた。
森友学園や豊洲市場の問題を伝える記事で、「ウルトラC」という言葉に久しぶりに出合って驚きました。とっておきの秘策とか現状を変える大逆転技というような意味で使われているようでした。この「C」はどこからきているのでしょうか。

朝日新聞のデータベースでウルトラCが記事の見出しに登場するのは、1964年の東京五輪が開幕する半年前の同年4月。日本の男子体操チームが秘密練習で考案した技を認めてもらうために、欧州遠征で披露するという記事でした。ウルトラは英語のultraで、他の語の前について「極端に」「超」の意味を表します。当時、体操の技はABCの3段階に分かれていて、Cが最高の難度でした。そのCを超越する技がウルトラCなのです。

東京五輪で金メダルを獲得したことで流行語になりました。日本国語大辞典では「(比喩的に)難しいことを見事にやりとげること。ものすごいこと。最高であること」と説明されています。

66年に始まる特撮テレビ番組「ウルトラQ」は、ウルトラCが流行語になったことで番組名が「アンバランス」から変更されました。当時の監督の一人は「そのままなら、あとでウルトラマンという名前のヒーローは生まれなかったかな」と本紙紙面で語っています。

Cが最高だったとき、男子体操は五輪や世界選手権で金メダルを競っていました。その後、新しい技に対応するため85年にD難度が設定され、現在はIまで上がっています。一方で、今でもウルトラCの語が生きているのは、Cが最高難度を指した期間が長く、それだけインパクトが強かったからでしょう。

10月には、女子体操のナディア・コマネチさんが五輪で10点満点を連発したカナダのモントリオールで、世界選手権が開催されます。新たな「ウルトラC」が飛び出すでしょうか。

まだ、「ウルトラC」という言葉は通じるのかな、若い人にも。

ところで、ウルトラシリーズができてすでに50年以上がたつ。最初のウルトラQに続いてウルトラマン、そしてウルトラセブンはリアルタイムで観た世代で、ユニークな怪獣や科学特捜隊などにワクワクしていたことを思いだすな〜
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それにしても半世紀もシリーズを続けることができているのは、すごい・・・

「採光」と「遮光」を同時に

日経産業新聞(8/31付け)に『窓際は遮光、明るさ奥まで』という記事があった。
大成建設は採光と遮光が同時にできるブラインドを開発した。ブラインドの下の部分で光を遮りながら、上部に設けた採光部から太陽光を取り入れる。独自開発の部材を使うことで、窓際のまぶしさを防ぎながら室内の奥まで自然な光を届ける。室内照明を抑えられるため省エネルギーにもつながるといい、自社開発のオフィスビルなどに導入する。
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開発した『T-Light Blind』(大成建設プレスリリース)は、人の目線より少し高い位置で2つに分割されており、上部が採光部、下部は通常のブラインドになっている。天井高が2.8メートルの一般的なオフィスの場合、床面から2メートルの位置に採光部との境を置くと、窓から15メートル離れた奥まで光が届く。

採光部に使うスラットと呼ぶ羽の表面には鏡面材を蒸着しており、裏面はつや消し材を活用する。裏面にあたった太陽光は反射が弱まるため、人の目線より低い位置には強く照射しない。一方で表面にあたった光は天井方向に反射し、部屋の奥側まで届く。

取り入れる太陽光の量を増やすために、採光部の羽の枚数は通常のブランドの2倍にした。羽の角度を変えなくても太陽の高度変化に対応できるという。同社は羽の形状などについて特許も申請中だ。
(以下省略)

このブラインドの価格は未定だそうだが、オフィスなどで使われる標準的な電動ブラインドの半分程度になる見通しだとか。自社物件で普及をすすめた上で、将来的には外販も検討するという。

なぜ、今までこうしたブラインドが開発されなかったのだろうか。オフィスでは照明で何も問題がなかったということかもしれないし、ブラインドとはそういうモノだという固定観念があったのかもしれない。いま当たり前と思っているなかに、何か問題や課題を見つけることができる観察力や想像力を逞しくしていくことが必要なんだろう。

これは商品の開発だけに限らない。研究でも同じことだが・・・

国立大付属「抽選選考を」

朝日新聞(8/30付け)に『国立大付属「抽選選考を」』という記事があった。
国立大学の付属校が「エリート化」し、本来の役割を十分に果たせていないとして、文部科学省の有識者会議は29日、学力テストではなく、抽選で選ぶことなどを求める報告書をまとめた。学習能力や家庭環境などが違う多様な子どもを受け入れ、付属校での研究成果を教育政策にいかしやすくすることが狙いだ。2021年度末までに結論を出すよう、各大学に求めた。

国立大の付属校は本来、実験的・先導的な学校教育を行う
 ▽教育実習の実施
 ▽大学・学部の教員養成に関する研究への協力
といった役割を担う目的で設立された。だが、「一部がエリート校化し、教育課題への取り組みが不十分だ」などの指摘が出ていた。また、学校現場で教員の新規採用が減る一方、発達障害や外国人の子の支援へのニーズなどが高まり、有識者会議は国立の教員養成大・学部の改革と一体で付属校のあり方を検討してきた。

報告書では入学の際に学力テストを課さず、研究・実験校であることについて保護者の同意を得て、抽選で選考することや、学力テストが選考に占める割合を下げることを提案。同じ国立大の付属校間で、無試験で進学できる仕組みにも見直しの検討を求めた。「多くの学校に共通する課題と対応策のあぶり出しが重要だ」とし、教員の多忙化解消などで付属校が先導役になることも求めた。

文科省によると、国立大付属学校は現在、幼稚園49、小学校70、中学校71、高校15など計256校あり、約9万人が通っている。

■有識者会議が国立大付属校に求める主な改革
  ・学力テストを課さず、抽選など多様な選考を実施
  ・同じ国立大付属校間の無試験の「内部進学」などを見直す
  ・教員の多忙化解消などで公立校のモデルをめざす
  ・30〜40年の長期間の教職生活を視野に、教員の研修機能を強化
  ・2021年度末までに結論をまとめ、できるものから実施

「エリート(elite)」は、選り抜きの人々、社会や組織の指導的地位にある階層・人々、とされている。お金や知識をもっていて、社会に影響を与えることができる人ということになるのかな。では、いまの日本の大学教育ではエリートを養成しているのか?

一部の大学ではそういう意識もあるかもしれないけれど、多くの大学は横並びではないだろうか。大学の役割を明確化していくことも求められるのではないだろうか。ところで、英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が今年の大学ランキングを発表した。

上位200校に入った日本の大学は東京大学と京都大学のみ。その2校の順位の推移は下図(出典はReseMom.biz)のとおりで、順位は低下傾向にある。これは中国などの他の大学の順位が上がってきているからだろう。
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トップ10の大学のほとんどが英米の大学で占められている。ランキングに入ることが大学の目的ではないにしても、大学入試の選抜方法がこれまでの学力試験だけで本当にいいのかどうかについて見直す必要があるのかもしれない。

大学の入口ではなく、大学に入ってからの成長をみるべきで、入口より出口での管理をしっかりすることが必要ではないだろうか。加えて、いまの就職・採用活動も大幅な見直しが求められる。大学の4年次が就職活動に費やされることは学業を妨げるし、そもそもみんな同じ服装をして就活にのぞむなんて海外から見れば異様だろう。就職活動は大学を卒業してからやるようにし、そのときには大学での成績も重視してもらいたいものだ。

日本の免震・制振技術の海外展開

日本免震構造協会では、我が国の免震・制振技術を海外に展開すべくいくつかの国で免震・制振セミナーを開催してきている。

最初は、トルコだった。トルコでは大規模な医療施設を免震構造で建設しており、その際に日本の技術を導入したいという要望もあったのが最初の取りかかりだった。下は建築模型だが、1200床の医療施設。これ全部が免震構造。
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そうしたこともありトルコの首都アンカラで政府関係者を対象にしたセミナーを開催し、その後、イスタンブールで技術者などを対象としたセミナーを開催した。トルコの後はルーマニアで同様のセミナーを開催した。ルーマニアでは1970年代に建設された建物の耐震化が問題となっており、免震・制振技術よりも耐震補強に関する知見が求められていたように思う。

そして、今年の8月にはマレーシアとインドネシアで開催し、10月末にはインドでの開催が予定されている(私は校務の関係で参加できない)。マレーシアには大きな地震はないとのことで、耐震設計もそれほど求められていないという。しかし、セミナーには100名ほどが参加し、積極的に質疑応答があったと聞いている。

マレーシアの構造設計基準はユーロコードをベースにしており、インドネシアでは米国ASCE基準がベースになっているそうだ。いずれの国でも設計基準にはヨーロッパや米国の基準を下敷きに作られている。日本の耐震設計基準などはいくつもの震災経験に基づいて改訂されてきており、実績も高いと思われる。しかし、英文化して広く海外に周知できていなかったためか、日本の設計基準が世界で流通しているとはいいがたい。

別に日本の設計基準が他の国で使われなくてもいいのかもしれないが、日本の設計者や技術者が世界で仕事をするには、日本の設計基準が使えた方が便利だろう。さらに日本の震災経験を広く共有することで世界各地で起きる震災をできるだけ軽減することにも役立ててほしい、という思いもある。

そこで、日本の「免震構造設計指針」(日本建築学会)を英訳した。あまりダウンロードされていないようだが、広く活用してもらえると嬉しい。ただ現実問題として、すでに各国では設計基準をユーロコードや米国基準にならってつくっているため、日本基準を使ってもらうことは難しいだろう。

設計基準として使うことは無理でも、設計思想(フィロソフィー)は伝えることができるのではないだろうか。「免震構造設計指針」はその名のとおり「指針」であり、こういう計算をすればいいという手順は具体的に示されていない(逆に、使えない?)。ある意味、免震建物の設計を支援するための情報や考え方、すなわち設計思想が書かれている。こうした設計思想が数々の震災の経験に基づいて築き上げられたものなら、なおさら有益だと思われる。

海外での免震・制振セミナーを通じて、日本の経験や設計思想といったものを伝えていけたらと思う。こうした活動を通じて、日本と海外の設計者や技術者が交流を促進することにもつなげたい。いまは国内の仕事で忙しいかもしれないものの、その後に備えておくことも必要ではないかと・・・

日本における地震工学の発展

耐震工学研究会は、1999年から毎年数回の研究会を東京で開催している任意団体です。耐震設計に関する情報交換や勉強会を通じて、耐震設計の課題などについて議論しています。堅苦しい団体ではありませんで、耐震問題に関する”サロン”を提供したいと考えて発足しました(まだ十分ではないかもしれませんが)

第95回の研究会では、東北大学名誉教授の柴田明徳先生をお招きし、『日本における地震工学の発展』と題してご講演をいただきました。

地震は人間にとって不思議な自然の現象であり、また多くの災厄を人間の社会に与えてきた。科学の時代になり、地震現象の理解(地震学)と共に、地震災害の解明とその防止(地震工学)のための探究が始まった。建物を中心に、これまでの様々な地震災害と、多くの優れた先人たちによる地震工学の発展の過程を話していただきました。地震工学は過去の災害の経験に学び、それを克服しながら進歩してきています。しかし、社会の巨大化、複雑化により、これまでになかった困難な課題も新たに発生しています。私達ひとりひとりが過去を振り返り、その記憶を心にとどめ、将来に備えることが必要である、と解説いただきました。

柴田先生から、講演の概要とパワーポイントのスライド(いずれもPDF)をご提供いただいています。
ご興味がある方は、EeNiXのホームページからダウンロードができます。

ところで、柴田先生の名著『最新 耐震構造解析』で勉強された方も多いのではないでしょうか。いまは第3版となっています。昔この本で勉強された方が、本を研究会に持参されサインをお願いする場面もありました。
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ご講演の最後のスライドには、ここ100年くらいの建築物の大きさが示されていたのが印象的でした。たかだか100年の間に建築物はすごく巨大化してきました。地震被害からの経験を踏まえて、新しい構造技術や設計手法などが開発されてきています。過去の先人がどのようなことを考えていたのかを知ることは大切なことではないでしょうか。
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緩い筋交いで応答を低減?

日経産業新聞(8/31付け)に『地震時、柱への力半減』という記事があった。
広島大学の田川浩教授らは、巨大地震の際に高層ビルの柱に及ぶ力を従来の半分以下に低減できる耐震技術を開発した。柱とはりの接合部につなぐ鋼製の筋交いをあらかじめ緩めた状態で設置し、地震による揺れの影響を受け流す。柱の補強などをしなくてもよく、コスト低減につながるという。企業と組み、3年後の実用化を目指す。

高層ビルでは鋼製の2本の棒をX字型に組み込んだ「ブレース」を地震対策用に使う例が多い。新技術はブレースの先端部をきっちり固定せず、あえて緩めた状態で固定しておく結果、大きな地震が起きたときも、柱に与える力が減らせる。

施工の際は建物の1階から最上階まで各層にブレースを設置する。研究チームは高さ81メートル、横幅40メートルで20階建ての高層ビルを想定。建物を設計する際の想定を大きく超える地震が起きた場合の影響を2次元の模擬実験(シミュレーション)で検証した。

ブレースを単に設置する場合は柱が壊れる力がかかる。新技術ではこれに比べて柱に与える力を従来の半分以下に減らせる性能を確かめた。ブレースの損傷も軽減でき、建物の変形も抑えられることも検証した。損傷で建物が使えなくなるのを防げるとみている。

従来はブレースを設置するとともに、柱も崩壊しないように補強する必要があった。新技術ではこうした対策が不要になり、コスト低減につながるという。今後はより詳細なシミュレーションを進め、ダンパーなど他の対策と組み合わせる手法なども検討する考えだ。

提案されている緩い筋交い(ブレース)のイメージは下記のとおりで、ブレースは一定の層間変形をした後に効き始めるという。
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実験でその特性も検証されている。
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このようなブレースを組み込んだ20階建ての建物モデルの地震応答解析から、ブレースが効き始める層間変形角が約0.01のときに、ブレースの側柱の軸力が大きく低減されることがわかったという。引張側のブレースしか効いていないから、柱軸力が減るのは当然なような気もするが・・・。なお、ブレースがあってもなくても層間変形角の応答最大値は0.01を超えたところにあり、解析結果をみる限り変形の低減効果はあまりなさそうだ。

こうした緩いブレースを付けることの効果がいまいち理解できていないものの、詳しくは下記の論文で。
Prevention of story drift amplification in a 20-story steel frame structure by tension-rod displacement–restraint bracing

アリになった数学者

日経新聞(8/24付けの夕刊紙)の「プロムナード」欄に森田真生氏が『アリになった数学者』と題して寄稿されています。
息子が「ママ」と「パパ」を使い分けられるようになった。
(略)
最近は「ママは?」と聞くと母の方を指し、「パパは?」と聞くと私を指さす。「じゃあ、ジョーは?」と聞くと、部屋に置いてある自分の写真の方に駆け寄り、それを得意げに指し示す。まだ、自分自身のからだを指すという発想はないようである。

彼にとって「自分」はきっと、世界と一緒くたなのだろう。自分が嬉しいときは世界も丸ごと嬉しくなるし、自分が心細いときは世界の隅々が心細くなる。幼子の心は周囲のすべてに浸透していて、他から切り離された自己の意識は芽生えていない。彼はまだ自分が「一人」だという自覚を持たないのである。だから、家族揃ってもそれを「三人」と数えることができない。

「自分」すら、世界のなかの対象としてフラットに認識できるようになったとき、人は初めて冷静に、世界の対象を平面に並べて、互いに比べたり、測ったり、数えたりすることができるようになる。
(略)
今月、『アリになった数学者』(「たくさんのふしぎ」9月号)という絵本を福音館書店から刊行した。「『1』とは何か」を主題にした絵本を作ろうという企画が動き始めたのはちょうど今から3年前だ。これは大変な仕事になるぞと覚悟すると同時に、「1」が無機的な記号ではなく、人間に深く根ざした実感であることを絵の力を借りて表現できたら、どんなに素敵なことだろうかとも思った。

「数える」というふるまいが、いかに人間の生命に深く根ざしているか。そのことに気づくためには、一度人間でなくなってみる必要がある。たとえば、折って数える指もなく、視覚よりも化学物質の分布を頼りに生きるアリたちにとっては、数とはどんなものだろうか。そんな疑問から「アリになった数学者」というモチーフが生まれた。
(略)
数とは何かを突き詰めていくと、数がわかる人間とは何かという問いにぶつかる。この問いを、絵本を通して一人でも多くの人と分かち合えたら嬉しい。

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アリたちは「数」という概念があるのでしょうか? 
それはこの絵本を読んでもらいたいですが、きっと人間がわからない方法をもっているのかもしれませんね。

この本の中からちょっとだけ引用させてもらいます。
アリになるまえ、僕は数学者だった。
「算数」は数や図形を便利に使う方法を教えてくれるが、
「数学」は数や図形をつかうだけではない。
「数や図形がそもそもどのようなものか」を考えるのだ。
「数」や「図形」は、からだや星とちがって
この宇宙のどこを探してもない。
数学者は、存在しないものについて研究しているのだ。

数学者は、家族や友だちや、好きな人を思うのと同じくらい、
真剣に数や図形のことをかんがえているのだ。
そうやってじっと関心をあつめていると、
数や図形の心がすこしずつわかるようになってくる。

数学をわかることも、これに似ている。
ただうまく計算したり、
知識を増やしたりするだけじゃない。
数や図形の声に耳をかたむけ、心をかよわせあうこと。
それが、数学者のいちばん大切な仕事なのだ。

絵本というには、少々文字が多いかな、と感じますが、こうした絵本を読んで、数学のことを理解する人が増えるといいかな、と思います。学校教育で「数学」がきらいになる生徒や学生がいますが、入試のための「数学」ではなく、その楽しさなどもわかってもらうといいかな、と思いました。

長周期パルスの衝撃?

昨晩放送されたNHKのメガクライシス『長周期パルスの衝撃』を見ました。
期待どおりの内容でしたね。
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https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2017/09/0901.html

この番組を見てて、次のような疑問が浮かびました。
  • 内陸の活断層地震では、長周期パルスが必ず発生するの?
  • これまでの活断層地震でも長周期パルスが発生していたの? 観測されなかっただけ?
  • そもそも長周期パルスって何?定義はされているの?
番組では、2016年熊本地震の西原村役場での地震計で観測された地震記録が紹介されていました。それは大きな記録で長周期構造物に大きな応答をもたらす記録だったからでしょうが、他の地点での記録はどうなっていたのでしょうか? 西原村役場で観測された地震記録だけを見て、活断層地震では長周期パルスが発生するといえるのでしょうか?

私の不勉強のためかもしれませんが、内陸の活断層地震で長周期パルスが出るということは聞いたことがありませんでした。長周期パルスは3秒が卓越するのでしょうか。もしそうだとすれば、長周期構造物の設計において周期3秒を避ければいいだけです。長周期パルスの成因について地震動や地盤震動の専門家の先生のご意見をお聞きしたいところです。

新宿の○学院大学の校舎に西原村での地震記録が入力されたときには、とても大きな被害が出ると紹介されていましたが、新宿で長周期パルスって起きるんでしょうか? そもそもそれを起こす活断層はどこに?

熊本地震のときに熊本大学の免震病院での応答変形についても紹介されていました。応答変形が40cmとなっていて、もう少し地震が大きかったら擁壁に衝突していたかもしれないという。しかし、熊本市内にある建物に長周期パルスの影響はあったのでしょうか? 

そもそも1995年の阪神淡路大震災で、短周期パルス(キラーパルス)が観測され、断層破壊の方向(ディレクティビティ)が影響したことが要因であると説明されています。では熊本地震の断層破壊の方向はどうなっていたのでしょうか?

分からないことがまだまだあります。阿蘇にある免震病院では最大変形46cmを記録しました。この病院の東3.5kmにある地震観測点では長周期成分(周期3秒が卓越)が観測されていました。この地震動が免震病院に入力されたとすると応答変形は1.5m弱となり実応答とはまったく違ってきます。こうした現象も解明していかないと、長周期パルスがどのように発生し、その影響がどういう範囲に及ぶのかは分からないのではないでしょうか。

Eディフェンスで空気圧を使った免震装置(?)の実験が紹介され、これを使えば街全体を免震化できるらしいです。空気圧でどの程度の高さの建物を支えることができるのでしょうか? 確かに戸建て住宅では空気圧で免震化されているものもあるようです。また空気圧によって上下免震実現した3階建て建物もあります。3階建てとなっているのは、使える空気圧が法的に制約されているからと聞いています。より高い空気圧を用いれば高い建物も免震化できるかもしれません。
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1気圧は平方メートル当たり約10トンに相当します。基礎面全体に1気圧の空気を瞬時に送ることができれば10階建てくらいの建物を浮かせることができるかもしれません。では4気圧なら40階建てくらいはできる? でもそうした設備を常に備えておくのって大変かも。

番組の最後に「見たくないモノを見る必要がある」と言われてましたが、そのためには情報を正しく伝えることが必要なんじゃないでしょうか。

地震「予知前提」見直しへ

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この図は「鯰絵」と言われるもので、安政地震のあとに多く描かれている。鯰絵には鹿島大明神と要石、そして大鯰がモチーフとして描かれることが多い。この図は、建物を壊したり、仕事を奪われたので地震を起こした鯰を懲らしめているという構図。ただ、左の上に描かれている一団は、鳶や大工さんとなっていて、彼らは鯰を懲らしめにきているのではない・・・(実は鯰を助けにきている)

地震の発生については科学的な解明が少しずつ進んでいるところだと思うが、朝日新聞(8/25付け)に『地震「予知前提」を転換』という記事があった。
東海地震の予知を前提とした「大規模地震対策特別措置法」(大震法)の仕組みが約40年ぶりに見直される。予知は困難だとして、新たに現実的な防災、減災対策に取り組むよう切り替える。国の中央防災会議の作業部会が25日、最終報告を取りまとめる方針。

大震法は1978年、国が唯一予知できるとした東海地震に対応するため作られた。観測網で前兆を捉えると、首相が「警戒宣言」を出す。被害を抑えるため、現在は8都県157市町村で鉄道やバスの運休、学校の休校などの応急対策が取られる。

だが、研究が進むほど、地震の予知は難しいことがはっきりしてきた。2013年には別の部会が「確度の高い予測は難しい」との見解をまとめている。こうした流れを受け、中央防災会議の作業部会は昨年9月から、東海地震を含む「南海トラフ巨大地震」の防災対応について議論を開始。東海地震の予知を前提とした大震法についても、現在の科学的な知見を踏まえ、再検討を始めた。

作業部会はこれまで6回の会合で、「予知は困難」との方向で議論を進めている。25日にもまとまる見通しの最終報告には、「大震法は予知を前提にしているが、前提が変わったため、現行の防災対応は見直す必要がある」などの内容を盛り込む方針だ。また、首相の警戒宣言の発令についても、事実上棚上げにする見通しだ。

一方、現在まで培った地震の観測技術や評価手法は今後の防災対策に活用できるとして、予知を前提とせず、対象を南海トラフ全域まで広げる。その上で常時観測の強化や事前の避難計画作成など、各地域や住民の特性を踏まえた防災対策を予め整備するよう国や自治体に求める。

大震法は、静岡県沖の駿河湾や遠州灘を震源域とし、マグニチュード8クラスと想定される「東海地震」の防災対策について手順を定めた法律。現在は静岡、愛知、三重など8都県157市町村が「地震防災対策強化地域」に指定されている。

2011年に東日本大震災がおきたり、南海トラフで巨大地震が起きることが予想されていたりする現状を考えれば、大震法を見直すのは遅すぎたくらいかもしれない。今年の建築学会の全国大会でも熊本地震の発生メカニズムや観測地震動に関する研究が発表されていた。そういう意味では、地震の発生メカニズムなどに関する知見はずいぶんと蓄積してきていると思う。

ただ、研究して知見が蓄積されてきても、地震がどういうメカニズムで起きるかを予想することは難しい。研究者によっても見解が分かれていたりするし、研究手法にも限界があるだろう。まさに研究すればするほど、わからないことがでてくるという状況ではないだろうか。

国が警戒宣言を出すにしても、「空振り」を前提(?)としておかないと出せないのではないか。いずれにしても地震対策は建物の耐震化などが基本であることに変わりはない。防災訓練も警戒宣言を前提にしたものから「突発型」で訓練をすることも必要ではないだろうか。

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講義中・・・
著書など
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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