人間には12の感覚がある(つづき)

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ジャッキー・ヒギンズ著『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』(文藝春秋)を読んだ。本書の前半では、人間の視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚について最新の研究に基づいて紹介している。その能力は意識していないけれど、驚くべきものであり、それら全てに「脳」が関係している。我々は脳を介して、いろいろなものを認識していることになる。

本書の後半では、日常ではほとんど意識していない平衡感覚、時間感覚、方向感覚、身体感覚が取り上げられている。

私たちがまっすぐに立って頭を上げていられるのは、耳の奥にある内耳の中にある三半規管と耳石器のおかげだ。平衡感覚は休むことなく働き続けているが、我々がそれを意識することはない。平衡感覚は、単に身体の平衡を保つだけでなく、運動の様々な側面に関わっている。正しい方向に歩くこと、空間上での自分の位置を把握すること、そして目の動きの制御にも役立っているという。

体内時計があるとよく言われる。これまでの研究によって人間の体内時計は約25時間といわれる。この周期のことを「既日リズム」と呼ぶ。このリズムを調整してリセットするために目は重要な役割を担っている。目から入った光が、無意識のうちに体内時計を調整しているのだ。

鳥のなかには何千キロも移動するものがいる。そうした鳥は体内にコンパスをもっていて地球の弱い磁場を感じとっている(慈覚)といわれる。ただ磁気感覚が存在するのは確かだが、それがどのように働いているのかはよくわかっていない。さらに、人間にも磁気により方向を知る感覚があるというが、まだ証明はされていない。研究により、古代の船乗りたちが太陽や星、そして地球の磁場を頼りに航海していたらしいことがわかってきたそうだ。

我々は自分の体を自分のものと感じている。目を閉じても指を鼻のところまで持って行けるのはこの身体感覚のおかげだ。こうした身体感覚は、自分の体の認知にも、四肢の空間内での配置、移動にも不可欠で、そして実のところ自身の存在の認知にも不可欠である。間違いなく、五感をすべてあわせたよりも重要な感覚であるという。

人の身体にはまだまだ分からないことも多い。これからの研究で少しずつ解明されていくのだろうか。解明されたら、それらの感覚や能力を人工的に高めたり、それらの成果を活用してロボットをより人間に近づけたりできるのだろうか・・・








どれだけぼーっとできるか

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UnsplashSandy Millarが撮影した写真

朝日新聞(10/24付け)の「ひと」欄に古井敬人さんが紹介されていた。彼は、どれだけぼーっとできるかを競うイベントを開催している。
90分間、何もしてはいけない。

そんな「TOKYOぼーっとする大会」を毎年開いている。観衆の投票による表情など「芸術点」と、心拍数の安定度などで決まる「技術点」で順位を決める。

2年前の第1回はオフィス街の虎ノ門で、テーマは「あくせく働き過ぎること」。第2回は高級ブランドが並ぶ六本木で「過剰な消費を求めてくる資本主義」。今年は11月3日に渋谷で開き、10〜20代限定と初めて年齢制限を設ける。

「情報過多のデジタル社会を相対化したい。人生の余白を作って欲しいから」

九十九里浜を望む千葉県山武市の出身。周囲に「子どもはいいなあ」という大人が多かった。知識もお金もあるのに何で子どもをうらやむのか、不思議に思っていた。教員を目指していた大学時代、どうやら現場では先生も生徒も息苦しそうだと気付いた。

その頃、韓国でぼーっとする大会を開催していることを知った。主催者に連絡して日本で開くことを認めてもらった。

2023年、運営するため起業した。自分を含め役員2人、業務委託3人の小さな会社だが、3年目を迎えて「株式上場」を目標に定めた。「何もしない時間をはさむことで、思考が深まり、ひらめきが生まれる」。企業研修や関連グッズ販売などの展開を想定している。

「目標を掲げてもあくせくするつもりはありませんけど」

「ボーっとする」という行為は、創造性や感情処理、問題解決とかかわりがあるデフォルト・モード・ネットワークと呼ばれる脳の活動を活性化する。刺激が多すぎる現代社会においては、自分の内面や感情を振り返る時間を持つことが、思考や行動を制御する助けとなるともいわれている。

現代社会は、情報にあふれていて、寝ている時以外でなにもしない時間というのはほぼない。ご飯を食べるときでもスマホを手放さない人もいる。それだけ外部からの刺激に頼っていると、自分の思考を深める機会がないのではないか。

スマホもテレビも、本もなく、ぼーっとしているのは大変そうだ。
しかし、現代だからこそ平穏にはとても価値があるのだろう・・・









減築で家の持続可能性を高めよ

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UnsplashRyan Stoneが撮影した写真

朝日新聞(10/30付け)の「私見卓見」欄に1級建築士の倉田 剛氏が『減築で家の持続可能性を高めよ』と題して寄稿していた。
全国的な空き家の増加は、新築偏重から既存住宅の再活用への政策転換を迫っている。政策転換の方策の一つとして、減築を推奨してはどうだろうか。

減築は、建物の規模・構造を縮小する建築行為だが、建築基準法にも明記されておらず、国土交通省の統計資料の独立項目にもなっていない。増築は規模・構造の拡張であり、価値・効用の拡大が目的となるが、減築は居住環境の最適化や維持費の軽減、高齢化に伴う生活空間の調整などが主な目的だ。既存住宅を縮小させながら生活空間の最適化を体現する減築は、省エネ政策との整合性もあり、その制度環境を整えて支援・促進すべき建築行為である。

近年の社会保障制度の方向性は施設居住から在宅居住への流れにある。高齢者が住み慣れた自宅で快適な自立生活を送るうえで、減築は居住環境を整える有効な手段となる。高齢者世帯の住まいの減築については、ライフスタイルや健康状態、家族関係、そして解体と改修の費用対効果などが検討事項となる。

減築は解体と改修による工事費の負担、工事費の高騰化による費用対効果の低下といった問題があるものの、固定資産税や火災保険料、光熱費などの節減効果、生活上の安全性や維持管理の効率性の向上、在宅での自立居住の安定性が高まる利点は大きい。

また、敷地に空間的ポテンシャルを付与する効用があり、経済的価値も補強する。空間的な余裕が建築の自由度を高め、物件の魅力的な購入動機にもなるからだ。既存住宅と周辺環境との構造的・用途的な適合性を見直す契機となり、合理的で快適な老後の自立居住を実現する在宅リモデリングとして位置づけられよう。

日本の住宅の敷地は全体的に狭小なため、建て替えが一般的で既存住宅に増築する余地は少ない。だが、敷地に余裕があれば、既存建物を残しつつ別棟を新築するといった選択肢も可能となり、結果として住宅のサステナビリティー(持続可能性)が高まり、空き家問題の予防効果も期待できる。

高齢者世帯の在宅居住環境を整える目的の減築に対しては、現実に即した柔軟な対応と政策的支援が求められる。

日本では空き家も増えている。そうした空き家を建築設計や改修の視点で考えると、
(1) 使い方を変える「コンバージョン(用途転用)」
 住宅 → カフェ、ゲストハウス、アトリエ、オフィスなどへ転用
(2) 「ミニマルリノベーション」
 全面改修ではなく、必要な部分だけ改修してコストを抑える
(3) 耐震・断熱性能の再評価と補強
 古い木造住宅でも、壁配置・基礎補強・金物補強で耐震性能を上げられる
などが考えられる。しかし、こうして再生したとしても使う人がいなければ、どんなに立派に直しても続かない(持続可能ではない)。

そのためには需要をつくるという発想も必要になる。
(1) “住む”だけでなく、“関わる”人を増やす
(2) 地域コミュニティと連携した活用

いずれにしても、新築で家を建てる場合も、その先のことを考えた建築の設計というのが必要だろう。しかし、古い敷地を何分割もして狭小住宅を建てることも多い現状はいかんともしがたい・・・









小さなスマホ、なぜ消えた?

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出典:https://x.com/pokemkatsu/status/1319460765896638466

日経新聞(10/27付け)に『小さなスマホ、なぜ消えた?』という記事があった。
スマホメーカーの旗艦モデルが徐々に大型化している一方で、小型モデルが姿を消したのは興味深い謎だ。ダイナミックな市場経済は通常、主流派からニッチ層に至るまで、様々な消費者層の需要に対応するのが非常にうまい。筆者のような小型モデルのファンが資本主義経済で欲しいものを手に入れられないのはなぜなのか。
(略)
なぜ大型のスマホが主流になったのか。一因は、スマホと我々の関係の変化にある。スマホは地図やコンピューター、ゲーム機、テレビなどの役目を果たすようになった。こうした機能の多くは、画面が大きくなれば格段に便利になる。誰もが複数のデバイスを所有しているわけではない。特に中国やインドのような大きい市場ではそうだ。

技術的な制約もあるとの見方もある。我々は今や精巧な多機能スマホを四六時中使う。一日持たせるためには、大型のバッテリーを搭載しなければならない。高性能カメラにもスペースが必要だ。

調査会社CCSインサイトのアナリスト、ベン・ウッド氏は「(メーカーは)市場に小型モデルを求める客層がいることを承知している。だが、コストを正当化できるほど大きな市場ではない」と筆者に語った。
(略)
そろそろ戦法を変えるべき時かもしれない。スマホが小さくならないのなら、女性の服のポケットを大きくするよう求める運動を始めなければならないだろう。

今の私のスマホは、iPhone15で、最初に買ったiPhone 3GSに比べると画面は大きくなった。メールなどの確認は確かにしやすくなった。しかし、今以上に大きな画面は必要ないと感じている。

画面が大きい方がいいと思うなら、タブレットなどを使った方がいい(自分は持ってないが)。携帯電話としてのスマホとしては、ポケットに入るサイズで、重くない方がいいと思っている。この記事を書いた記者は、女性で、衣類のポケットが男性のものより小さいか、もしくはポケットが無いため不便だとも言っている。

一つの端末でなんでもできるのは便利だと思うかもしれないけど、スマホやタブレット、そしてパソコンを使いこなすのがいいのではないか。しかし、いまのスマホではいろいろなことを1台で済ませることができるようになっている。そういうニーズが高いのだろうか。

スマホの大きさだけでなく、カメラ部分が飛び出ているのは、いやだ。カメラの性能を上げるために必要なのかもしれないが、スティーブ・ジョブズが生きていたら、こうしたデザインは許さないだろうと思うのだが・・・









ロボット進化に備えよ

建設通信新聞(10/27付け)の「建設論評」欄に『ロボット進化に備えよ』という記事があった。
ロボットが建設現場で活躍する未来なんてまだまだ先だと考えている読者は多いだろう。しかし今、世界のロボット開発は、われわれの想像をはるかに超えるスピードで進化を遂げている。特にAI(人工知能)の飛躍的な進化が、そのスピードをさらに加速させている。”決められた動作” から ”自律的な動作” への進化は、社会構造を根底から覆す可能性すらある。建設業も、その大きな変化の波から逃れることはできない。

グローバルな視点で見れば、米国や中国を中心にさまざまな分野のロボット開発が進んでおり、日本国内でも既に工場や物流、サービス業などで導入が広がっている。

4月には中国北京市で、世界初となるヒューマノイドロボットによるハーフマラソン大会が開催されたというニュースがあった。その見慣れない光景は ”異様” とも感じられ、筆者は最初、CG映像かと見間違えたほどだった。

技術力を世界に誇示する意図もあったようだが、その映像を見る限り、空想の世界が現実になりつつあるように感じた。実際の開発現場では、さらにその先を行くスピードで進化しているという。

残念なことに日本の技術開発は大きく遅れを取っている。先日あるロボットエンジニアと話をしていたところ、「日本は何周も遅れている」と嘆いていた。そのエンジニアによると、ロボット分野の特許のほとんどは中国が保有しており、さらに米国の特許であっても、開発者は中国系アメリカ人であることが多いというのだ。

一方、日本の建設業界はどうか。
資材の搬送ロボットや溶接ロボット、鉄筋の結束ロボットなどの開発や現場適用はあるものの、あくまで特定の作業の部分最適にとどまっている。大手企業が土木工事を対象にした自動化施工システムを構築しているが、多様な現場全てに対応できるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

国土交通省は「i-Construction 2.0」を策定し、建設現場のオートメーション化を推進している。個人的見解だが、ここで並べられた個々のメニューが本当に実現できるのか、また最先端の技術を柔軟に取り込んでいけるのかは未知数であると考える。未来は予測困難であるからこそ、機動的な施策の見直しに期待したい。

そもそも、建設は一品生産が基本であり、ロボットの導入が進みにくい産業だという課題はある。だが、自律的に動作可能なロボットが実用化すれば、建設現場でのロボット導入は一気に加速する可能性がある。

それがヒューマノイドロボットであれば、なおさら現実味を帯びてくる。既存の建設生産システムを大きく変えることなく、人をロボットに置き換えるだけで済むためだ。そうした未来は、本当にやってくるのだろうか。

前述のロボットエンジニアは、「技術的には10年ほどで実現可能になるのではないか」と語る。一方で、社会的受容が最大の課題になるのではないかとも。建設業界も、こうした未来を本気で考え、備える必要がある。

1960年代に「サンダーバード」という特殊メカを使った国際救助隊の活躍を描いたテレビ番組があった(子どもの頃はテレビで見ていた)。このなかに「ロケット太陽号の危機」というのがある。

太陽を観測する宇宙船"太陽号"が、太陽の強力な重力の影響で、逆噴射装置が働かなくなってしまい絶対絶命の状況に陥った。そこで、サンダーバード3号がある距離まで近づいていき、逆噴射装置を作動させる電波を照射して、"太陽号"を窮地から救った。しかし、そのサンダーバード3号の逆噴射が作動しなくなってしまう。そのため、サンダーバード2号に搭載された電波発信車から電波を送信しようとするのだが、電波の周波数がわからない。

電子計算機で計算しようとしたけど、サンダーバード2号に搭載していたのは電子計算機ではなく「ブレインマン」というヒューマノイドロボットだった。科学者ブレインズはロボットに計算式を示して計算するように指示。そうするとロボットは頭を振りながら、計算をして周波数を答える。
サンダーバード_ブレインマン2
この作品の最後にブレインマンをつくった科学者ブレインズとチェスをするシーンがある。そこで、ブレインマンがチェスで勝ったとき、ブレインズは「そんなバカなことって....機械のくせに、僕より頭がいいなんて」と言う。

今では、チェスや将棋では人間よりAIの方が強い。AIを搭載したロボットは人間を超えるだろうか・・・








積層ゴム取付部に着目した実験

先月、E-Isolationを使って、積層ゴムの取付部に着目した実験が実施された。取付部としては、RC基礎が2種類、鉄骨柱が4種類を準備したものの、鉄骨柱は2種類しかで実験ができなかった。

RC基礎では、直径600mmの天然ゴム系積層ゴムを使った実験と、直径1100mmの天然ゴム系積層ゴムを使った実験が行われた。下の写真は直径1100mmの積層ゴムを使った試験体の設置状況。コンクリート強度はFc21で、ベースプレートなどは設置していない。
1100φ積層ゴム+RC基礎2

直径600mmの積層ゴムを使った実験では、最大面圧30MPaを加え、せん断ひずみ300%の加力を行った。その最終状態のRC基礎は亀裂がはいり、最大で2cmほどの沈下をしていた。なお、手前のアンカーボルトが浮き上がっているのは積層ゴムを取り外す際に、フランジが曲がっていたため、アンカーボルトを引き抜くようになったため。
600φ積層ゴム+RC基礎_実験後

このRC基礎は、面圧30MPaでせん断ひずみ350%まで変形すると壊れることを想定した試験体であり、想定通りに壊れたことになる。

鉄骨の柱を直径1100mmの積層ゴムに取り付けた実験を行った。試験体のセットアップ上、鉄骨柱は下側に取り付けられている。この試験体の鉄骨柱は、850×850の角形鋼管(板厚36mm)で、極厚(90mm)のフランジをつけているが、リブなどはない。実験では、面圧30MPaでせん断ひずみ300%までの加力を行った。その結果、90mm厚のフランジが面外変形をした。
1100φ積層ゴム+850□鉄骨柱

積層ゴムに接合する鉄骨柱にはリブなどを配置することが重要であることが確認された。









選ぶということ

TheArtofChoosing

朝日新聞(10/23付け)にコロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガーさんへのインタビュー記事があった。
初の著書「選択の科学」(2010年)が世界的ベストセラーとなった、コロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガーさん。移民のルーツと子どもの頃に視覚を失った逆境を原点に、選択と自己実現の本質を見つめてきた彼女に「選ぶという行為」とどう向き合えばいいのか、聞いた。

――物事を選ぶことの難しさや、その代償を強調されてきましたね。
「社会が複雑になるにつれ、世の中に『選択肢』があふれ、何を優先すべきか、迷う人が増えています」

「例えば、100種類の炭酸水が目の前にあって、1本だけ選べと言われたとしましょう。どれを選べばいいのか、すぐには決められない。イライラして、もう水を飲みたくない、と思うかもしれません。治療薬、節約法、投資先……、選択肢は次から次へと現れます。炭酸水に、2分ならまだしも、1時間は費やしたくありません」

「はたして自分は真に重要な決定に脳を使えているのか。さして重要でない選択に時間を費やし、肝心なことに集中できていないのではないか。人々は分からなくなってしまうのです」

――こうした選択の増加は、社会のあり方にも影響するのですか。
「深刻な影響を及ぼしています。個人レベルでは混乱や集中力の低下を招きます。企業レベルでも、従業員は絶え間なく届くメールやメッセージ、通知などの業務上の情報に注意をそらされ、それらすべてに目を通すだけで疲弊してしまうといったことが起きています。情報過多による生産性の低下は深刻で、米国では年間約9千億ドル(約140兆円)の経済的損失があるとの推計も過去にありました」

――でも選択肢があることが民主的な社会の価値ですよね?
「私はけっして独裁的社会を望んでいるわけではありません。ただ、選択の仕方には『訓練』が必要だと考えています。だれもが生まれつき、『選べる能力』をもっているわけではありませんから」

「世界的に市場規模が拡大し、日本でも多くの人々が利用しているマッチングアプリで考えてみましょう。選択肢が多いほど、実際に人に会ったり話したりするのではなく、スマホの画面をスワイプすることだけに多くの時間を費やす可能性が高くなる。そして、どんな人と出会いたいか、あるいは出会いたくないのかの判断は、ますます難しくなっています」
(略)
――「選択肢がない」と感じている人々へのヒントは?
「私は、集団の中でただ1人の視覚障害者という状況を何度も経験していますが、そのたびにこう考えます。自分は周囲の人々が生涯で出会った最初の視覚障害者かもしれない。だとすれば、視覚障害者に対する先入観は少ないはず。私の振る舞いひとつで、彼らの価値観を変えられるかもしれない、と」

「女性や少数派も同じではないかと思います。最も重要なのは、自分自身が価値を持つために何ができるかを見極めること。あなたには、変化を起こすチャンスがあるのです」

人だけでなく生物は常に選択をして生きている。その選択がよかったのか悪かったのかは時間が経たないとわからないことも多い。誰でも失敗はしたくないと思うので、最善の選択をしたいと思っている。しかし、選択は最善であったとしても、その選択で選んだ学校や職場が最善であったかどうかはわからない。

ダメな選択だと思ってやり直すのか、それともその場に踏みとどまって頑張るのか。そこでも選択を迫られる。選択の結果がどうであれ、そこで全力を尽くすことで最善の選択であったと思えるようにしたい。「迷った時は困難な道を選べ」とも言われることがありますが、楽な道を選択してもいいと思います(楽な道というのがあるのかどうかわかりませんが)。ただ、選んだ道でなんらかの挑戦を続けていくのがいいと思います。










小中高生の半数「読書0分」

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UnsplashJoel Munizが撮影した写真

日経新聞(10/26付け)に『小中高生の半数「読書0分」 スマホ使用で時間短く』という記事があった。
1日に全く本を読まない子どもは半数超――。
ベネッセコーポレーション(岡山市)が2024年に小中高生や保護者に尋ねたところ、読書をしない(0分)との回答が52.7%で、15年調査時の34.3%から約1.5倍に増えた。一方、スマートフォンの使用時間は延びており、長いほど本を読む時間が短くなる傾向がみられた。
(略)
24年調査で読書をしないとした割合は、小1〜3年33.6%、小4〜6年47.7%、中学生59.8%、高校生69.8%。いずれも15年に比べ14〜22ポイント増えた。1日の読書時間の平均は小4〜6年で15.6分、高校生で10.1分などで、15年に比べ小4以上で約5〜6分減った。

1日のスマホ使用時間(小4以上が回答)は、小4〜6年33.4分、中学生95.7分、高校生138.3分で、それぞれ15年から約22〜52分増えた。スマホの使用時間が0分の小4〜6年の読書時間は17.8分だったのに比べ、3時間以上だと9.5分に落ち込んだ。中学生もスマホが0分の読書時間は21.7分だったが、3時間以上は12.5分だった。

読書をしないとの回答が、10年前から1.5倍に増えたというのは驚きだ。小学生の低学年で3割、高学年になると約半数が読書をしない結果になっている。小学生でも3人に1人以上が読書をしないという結果はちょっと驚きだ。読書をしない分、スマホに時間をとられているということだろうか。それとも塾や習い事に時間がとられているのだろうか。読書をしたから、その効果がすぐに現れるものでもない。それならもっと効率的に成績を上げる方がいいとなるのか・・・

小学校で読書の習慣がないと、中学や高校になっても読書はしないだろう。大学では専門書や論文を読む必要がある。しかし、読書の習慣がなければ専門書や論文を読み込んだりするのは難しいと思う。

大学の入試を総合型選抜に変えて、読書の習慣があるのか、これまでどんな本を読んできたか、などを面接でしっかり確認してはどうだろう。記事には、「読書と学力は関連」していることが書かれており、読書の習慣が根付くことを願いたい。








トップ国立大で文理融合が加速

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日経新聞(10/23付け)に『トップ国立大、文理融合が加速』という記事があった。
東北大は24年、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドから支援を受ける「国際卓越研究大」の第1号に認定された。ゲートウェイカレッジの構想は卓越大の計画に盛り込まれていた。

入学定員は178人から始める。国際的に活躍できる人材を育てるため、日本人と留学生を半分ずつとする。授業は主に英語で実施し、1〜2年次の海外留学などを必須とする。

入学定員は10年後に1000人に増やし、最終的には1学年全体の8割に当たる2000人に拡大する計画だという。医学部など国家資格の取得を目指す学部は除く。学部生に占める留学生の比率は現在の2%から20%に高める考えだ。

入試は総合型選抜で、筆記試験や面接などを課す。

学生は専攻を決めずに入学し、1〜2年次に文理を横断した幅広い科目や人工知能(AI)リテラシーなどの先端分野を学ぶ。日本人学生については入学後の半年間で英語を集中的に身につける。1年次は寮生活も経験する。3年次に興味関心に合わせて専門分野を選ぶ。卒業後は基本的に国内外の大学院への進学を想定する。

トップ国立大にこうした動きが出ている背景には、社会問題の複雑化や最先端技術の進展がある。自身の専攻だけ学んでいても太刀打ちできなくなった。例えば地球温暖化対策に対しては、そのメカニズムを理解する気候科学に加え、再生可能エネルギーなど技術分野、世界各国と協調して対応するための国際政治学の知見も求められる。

日本の高校では、早い段階で文系・理系にクラス分けをするが、このような大学が広がれば、高校側も教育方法を変える必要が出てくるだろう。記事によれば入試は総合型選抜とされ、学力試験だけでの評価ではなくなる。このため、中学や高校では幅広い分野を学ぶことにつながるだろう。

東北大のようなことがすべての大学でできるとは思わない。しかし、大学に入ればあとは卒業するだけという社会の認識を変えるためにも、トップの大学は率先して、入試や教育方法を変えていってほしいものだ。東北大学のゲートウェイカレッジがどんな成果をだすのか楽しみだ・・・


 





コンクリート新時代の幕開け

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建設通信新聞(10/16付け)の「建設論評」欄に『コンクリート新時代の幕開け』という記事があった。
約1900年にわたり、その基本構造を保ちながら荘厳な姿を維持するローマのパンテオン神殿。その構造を支えるのは、火山灰を巧みに利用したローマン・コンクリートである。時を経てなお強度を増し、微細なひび割れを自ら治癒する能力を持つ。この古代の技術は、建設史における一つの到達点と言える。

しかし今、インフラ老朽化対策や脱炭素社会への移行という現代的課題を背景に、コンクリートは新たな進化の扉を開こうとしている。単なる「構造材料」から、エネルギーを蓄え、情報を伝え、自らを治癒する「機能体」へ。くしくもその鍵の一部は、古代ローマの技術思想にも連なる。

コンクリートが「蓄電池」となる時代が始まった。マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した「ec3」は、セメントに炭素の微粒子であるカーボンブラックを混入し、内部に微細な導電性のネットワークを形成する技術だ。これによりコンクリートは、電気エネルギーを貯蔵できるスーパーキャパシタとして機能する。化学反応に依存する一般的な電池と異なり劣化が少なく、構造物の寿命に匹敵する長期利用が期待できる点は、インフラ材料として大きなアドバンテージである。

この革新は、インフラの概念を根底から覆す可能性を秘めている。建物全体の蓄電池化は、再生可能エネルギーの活用効率を飛躍的に高める。戸建て住宅の基礎だけでも、1世帯が1日に使用する電力を賄えるとの試算もあり、災害時のレジリエンス向上にも直結する。

道路インフラへの応用も具体的だ。導電性コンクリートを舗装に使えば、走行中のEV(電気自動車)へのワイヤレス給電がより現実のものとなる。大成建設は時速60キトでの連続無線給電に成功し、熊谷組も東京理科大学などと共同でプレキャストコンクリート版を使った実証実験により、90%を超える高い給電効率を確認するなど、2030年代の実装が視野に入る。また、通電による初ネルを利用した融雪道路は、例えば年間270億円超の除雪費用を要する札幌市のような積雪地帯の維持管理に革命をもたらすだろう。

さらに、コンクリートの導電性は、構造物の自己診断(ヘルスモニタリング)にも応用できる。内部のひび割れや損傷による気抵抗値の変化を常時監視し、劣化状況をリアルタイムで把握する。これにより、予防保全型の効率的なインフラ維持管理が可能となるだろう。

現代の最先端技術がコンクリートに与えようとしているのは、「エネルギー」や「情報」といった動的な機能である。走行中の車に電力を供給し、自らの健康状態をデータとして発信する。これはまさに、IoT(モノのインターネット)時代のスマートインフラを構成するキーマテリアルだ。

かつて「コンクリートから人へ」というスローガンが議論を呼んだ。しかし今やコンクリート自身がエネルギーを供給し、インフラを守ることで、より直接的に人々の生活を支える存在へと生まれ変わろうとしている。古代が示した究極の耐久性と、現代が生み出す多機能性。この二つが融合したとき、真の「コンクリート新時代」の扉が開かれるだろう。

現代の建築の構造材料といえば、コンクリートや鋼材が中心となる。こうした材料を使って現在の都市やインフラが構築されてきている。コンクリートや鋼材は経年変化で劣化していくため、メンテナンスが欠かせない。メンテナンスしなくても、パンテオンのように1000年以上も使える材料が必要ではないか。例えば、こうした材料で建築物をつくれば、構造体はそのままで内外装を変えることで、住み方や働き方の変化に対応することができる。1000年といわずに200年くらいは使えるようにすればカーボンニュートラルの達成も近づくのではないか。

コンクリート新時代というのは、いろいろな機能を加えるだけでなく、そこに長寿命という性能も加える必要があると思う。







人間には12の感覚がある

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ジャッキー・ヒギンズ著『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』(文藝春秋)を読んでいる(まだ半分だけど)。

本書は、同じ地球上でともに暮らし、それぞれが「感覚を持つ存在」である私たち人間を含む動物たちの感覚について書かれている。個々の感覚がどのように違い、それが世界観、世界の理解の仕方にどう影響しているのか、またそれが人間にとって何を意味するのかを考察している。

人は普段、自分の感覚について特に意識しない。レオナルド・ダ・ヴィンチはそれを「見えてはいるが見ていない、聞こえてはいるが聴いてはいない、触れてはいるが感じてはいない、食べてはいるが味わっていない・・・息を吸ってはいるが、におい、香りに気づいていない」と言っている。多くの人は感覚の力をよくわかっていない。過小評価していると言ってもいい。

少し前まで、人間の「第六感」などと言えば、テレパシーなどの超能力の類とされていた。第六感とどころか、感覚は7つ、8つ、9つ、もっとあるかもしれない。哲学者のバリー・スミスは「神経科学者にきくと、感覚は22種類くらいある、という答えが返ってくる」という。

感覚が結局いくつあるのかは、専門家の間でも意見は一致していない。それは、感覚とは何か、が明確に定義されていないからでもある。感覚の数に関して意見が一致しなくても、目や耳、皮膚、舌、鼻のはたらき方が一通りではない。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚はどれも確実に2通り以上存在している。たとえば、目は空間だけでなく、時間も感じ取っていることが研究でわかっている。

視覚については、「モンハナシャコ」が取り上げられている。モンハナシャコの目には、12種類(人間の4倍)の光受容体があり、それは人間の目には見えない波長に対応している。しかし、人間の目と共通点もある。詳しく調べると細胞、タンパク質といったレベルでは驚くほど似ている。しかし、光受容体が少なくても人間は脳がそれを補うことでモンハナシャコよりもはるかに豊かな色世界を体験しているという。

全色覚異常の人たちがいて、彼らが見ているのはモノクロームの世界。しかし、彼らは次のように言う。「私たちは見て、感じて、匂いを嗅いでーーーあらゆることを同時に受け止めるんです。でも、そのとき、あなた方はただ色を見ているだけだ」。色が見えるために、世界が提示してくれるその他の大量の情報を受け止められなくなっている可能性があるということだ。

聴覚は単に音の性質を測るだけでない。周囲の空間の様子を描写するという機能も持っている。まるで、コウモリのエコーロケーション(反響定位)と同様の能力である。人間の感覚はとても素晴らしい。そうした感覚を総動員して世界をみれば新しい発見があると思う。

スマホの画面に目を捕らわれ、耳がイヤホンで塞がれた状態は、なんとももったいないと思うのだが・・・








AI活用し学生がつく噓 

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UnsplashKristina Flourが撮影した写真

日経新聞(10/20付け夕刊)に人材研究所代表の曽和利光氏が『AI活用し学生がつく嘘』と題して寄稿していた。
マイナビの調査では2024年大卒・院修了の就活での人工知能(AI)利用率は18.4%だったが、26年卒では66.6%と2年で3倍超に急増している。生成AIの登場で学生は「面接で話を盛る」どころか、自分で文章を考える必要すらなくなった。

「サークル活動で後輩育成に力を入れた経験をもとに、リーダーシップと課題解決力をアピールするエピソードを作って」と指示をすれば、AIは数秒後に論理的かつ構成の整った文章を生成する。
(略)
エントリーシートや面接でのエピソードがどれほど感動的でも、それが学生自身の体験に基づいた事実という保証はない。AIで「矛盾のない物語」が構築されていれば、面接官はそれを見抜くすべがほとんどない。
(略)
しかし、学生を責めるつもりはない。彼らはやりたくてやっているわけではない。ある人は「正直に書いたら地味で書類選考に通らない」「盛るのは意味がないと思う。入社後にバレるかもしれないし疲れる。でも、選考に上がれないからやるしかない」と語った。
(略)
私は、これはオトナである企業側、採用側の責任であると思う。構造化面接など、事実を丁寧に確認できるインタビュースキルを獲得できているか。成績表や履修履歴によって、確実なファクトに基づいて学業の話を聞いたり、適性検査やワークサンプル(実際の仕事をやらせてみること)など、面接以外の精度の高い選考手法を用いたりしていれば、学生はわざわざ嘘をつく必要がない。

そういう工夫をすることなく「学生は面接で嘘をつく」「なんということだ。もっと誠実に取り組んでほしい」などと、被害者のようにふるまっている場合ではない。世の中の多くのことはたいてい個人に起因するのではなく、取り巻く構造に起因する。その構造を作り出しているのは企業の側なのではないだろうか。

生成AIはずいぶん進歩している。先日も海外からのちょっとややこしい問い合わせに対して、AIに返信メールの作成を頼んだら、あっという間にメール案を提示してくれた。学生の間でもAIを使うことが増えている印象だ。

当然ながら、就活のエントリーシートを書く際もAIを利用することが増えるだろう。そうなったとき、今の選考のやり方で企業側は見抜くことができるのだろうか。企業は学生のなにを見て選考しているのか、学生に何を求めているのかが明らかでないことが問題なのではないか。

だいぶ前に、ある大手建設会社を第一志望としている学生が、別の大手ゼネコンの面接を受けるときに相談を受けた。面接のときに、第一志望はどこですか?と聞かれてたときにどう答えればいいでしょうか、と。私は「嘘つきは育てていない」と言ったところ、学生は面接で本当のことを言ったそうだ。そうしたら面接は不合格になった(当然か)。

嘘でも「御社が第一志望です」と応える学生を合格にする選考というのは何なのでしょうか・・・








建築教育とは何か

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UnsplashUmit Yıldırımが撮影した写真

昔の建築雑誌を検索していたら、昭和45年4月号に梅村 魁先生(当時東京大学教授)が寄稿されていた。
私は建築学科を出たけれども、あまりデザインはすきでなかったので、卒業後もっぱら力学のことばかりに没頭していた、丁度40才になろうとする時期に初めて日本を離れイスタンブールに一年間滞在した。イスタンブールはその起りは紀元前の古い町であり、東洋と西洋の接点であるが、この特異な町に住んで見て、われながら物事を知らないのに驚いたのである。イスタンブールが永年その首都であった東ローマ帝国とは何なのか、ビザンチンとは?またこの地を通った十字軍とは何なのか、さらにトルコの人たちに日本の国の事、その過去や現在を尋ねられ一つとして満足な答えが出てこない、完全なる専門バカを自覚させられ、週刊誌的知識の限界を知らされる思いがした。
(略)
私は、教育を建築といった枠の中だけで考えない学校もあってよいと思っている。建築学科の特色はその創造性、総合性にある、これを設計と言ってよいかもしれない。こちらの意義を大きく見て建築物に限る必要はなく、ある目標に向かって物質をどのように組み上げてゆくか、その技術を考える場所を教育の場と見なすのである。

私自身の専門で言えば目標は構造物の耐震であり、この目標に向かって何が必要かを考えて見ると、われわれが住んでいる土地に将来どのような地震が、いつ頃やってくるか、次にこの地震によってわれわれの考えている構造物がどのようにゆれ、どのように壊れて行くかを予想しその壊れるのを防ぐには構造物をどのような形にコントロールしておけばよいか、以上のことを知るのにどのような技術が必要かを検討して見る。そして現在適用可能な技術はどのようなものなのかを見出し、さらに新しく適用可能な理論、技術の発見を行う場所が教育の場であるという考えである。

命題に端的に答えるとすれば、上記のことができるような人間が育ってくれることを期待する。

しか以上は専門分野の話しであり、科学技術的人間像であって、このほかに社会科学的人間像の問題がある、これのためには技術的人間と同様に未来の社会を予想しうる能力の養成が必要であるが、技術的問題以上に偶然にも支配されるし、その法則性もむづかしいが、情報の処理の仕方など教育すべき問題は種々あろうかと思う。これらはいわゆる旧建築学科の中だかでは無理である。

以上二つの能力は学校教育を出発点として社会人として自主的に時代の変化につれて伸ばしてゆくべきものであろう。

最後に人間性の問題があるが、これは個人の倫理、哲学、宗教の問題であり、私としては学生諸士と高歌痛飲する以外術を知らない。

大学の学部教育に何が求められているのかを考えてみると、「教育を建築といった枠の中だけで考えない学校」というのがあってもいいと思う。建築業界が学部生に何を求めているのかを考えたときに、専門的な知識をある程度知っていればいいという程度ではないかとも思える。昔の大学教育では、学部2年間は教養科目を学んで、残りの2年間で専門科目を学んでいた。いまは学ぶ内容が増えたから4年間を使った専門教育が必要なのだろうか。

学部では、建築を基本にして、ほかの学問分野を学ぶことができてもいいのではないか。そういう多様性があっていいと思うが、教える側の方に柔軟性がないかもしれない。

高歌痛飲とは、声を大にして詩や歌を歌い、大いに酒を飲むこと。最近の学生はあまりお酒を飲まなくなっている。世界的にもそういう傾向はあるようだ。昔はコンパなどで学生と本気で議論をしていたが、そういう場も減っているような・・・







教育の場で「聞く力養成を」 

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UnsplashBrett Jordanが撮影した写真

日経新聞(10/17付け)に『教育の場で「聞く力養成を」』という記事があった。
米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は、労働者がエリート層に持つ不満をたきつけるトランプ米大統領の手法に絡み、分断が深まる時代では対話の重要性が増していると話した。SNSをはじめ言論空間に攻撃的な表現が飛び交うなか、教育で若い世代の「聞く力」を養うべきだと主張した。
(略)
米国の政治分断は深刻だ。9月には保守活動家チャーリー・カーク氏が銃撃で殺害された。サンデル氏は「SNSが攻撃と対立のトーンを強めている。SNSをなくすことはできないが、もっとうまく封じ込めるべきだ」と説いた。

一例として、教室でスマートフォンの利用を禁止し、意見が異なる人の話を傾聴することを教えるべきだと提唱した。サンデル氏は「聞くことは市民の美徳であり、健全な民主的対話の土台だ」と述べた。

SNSやテレビといったメディアでは罵り合いが政治的な議論を支配し「世界中の市民が中身のない対話に失望し、自分の声が届かないと感じている」と指摘した。

サンデル氏は正義や責任について社会の「共通の善」を見いだす政治を理想とする。「熟議を深める教育を小学校から始め、『共通の善』の政治を目指すことが権威主義的ポピュリズムへの対抗手段になる」と話した。

社会に連帯感を育むことがその前提になる。サンデル氏は経済格差を縮め、社会の流動性(中間層への移行のしやすさ)を高めることが必要だと指摘する。具体的には低所得者が利用できる教育や医療、住宅といった公共サービスの拡充を求めた。
(以下省略)

Z世代に人気のSNSは次のようだ。
Instagram
視覚的に世界観を表現しやすく、ストーリーズやリールで“瞬間”の共有が好まれる
TikTok
短尺動画で共感や笑い、学びを届ける。音楽や編集の自由度が高い
X(Twitter)
速報性と匿名性が強み。ニュース収集や意見表明の場として活用
YouTube
長尺コンテンツで学び・エンタメ・レビューなど多様なニーズに対応

私が最初にやったのはFaceBook だが、若い人たちは使わないので、数年前からInstagramを使っている。そういえば、ブログもめっりき減っているそうだ。

電車の中や休み時間の教室では、多くの学生がスマホを見ている。SNSなどをチェックするのが忙しいのだろうか。TikTokに代表されるように、動画なども短いものが重宝されているらしい。SNSは便利だし、いろいろな情報を得ることができる。しかし、使い方次第では社会の分断を深めたりもする。

人の話を聞いて、自分で判断することが求められている。日本の学校でAIを取り入れているのは海外に比べると少ないそうだ。AIを使いこなし、「熟議を深める教育」につなげることも必要ではないだろうか。そうなると、ますます先生方の負担が増えるかも・・・







能登の仮設住宅がグッドデザイン大賞

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朝日新聞(10/16付け)に『能登の仮設住宅、グッドデザイン大賞受賞』という記事があった。
日本デザイン振興会は15日、今年度のグッドデザイン大賞に、建築家の坂茂さん(68)らが手がけ、能登半島地震の被災地に建設された「DLT木造仮設住宅」が決まったことを発表した。

DLTはシンプルな工程で製造できる木質パネルで、これを用いた仮設住宅は比較的簡便に短期で建設できる。室内空間の質も高く、解体せずに恒久的に住み続けられる点などが評価された。

これまで石川県の珠洲市と輪島市で、12棟166世帯分の2階建て仮設住宅が建設されたという。坂さんは受賞コメントで、「被災者の精神的・肉体的負担をなくす」「解体して廃材を出さない」ことの重要性を指摘している。

同じく朝日新聞(10/18付け)には『大屋根リング→復興住宅、加工せずに活用へ』という記事があった。
大阪・関西万博の「大屋根リング」の木材の一部が、能登半島地震の被災地の石川県珠洲市に建設される復興公営住宅にそのままの形で活用されることになった。世界各地の被災地の避難所や仮設住宅を手がけ、今年の文化功労者に選ばれた建築家の坂茂さん(68)が設計を担当する。

坂さんによると、再利用が決まっている大屋根リングの木材は、42センチ角の柱や、42センチ×21センチの梁など約1500本(約1200立方メートル)。復興公営住宅は1棟あたり9世帯が入る設計で、柱に22本、梁に50本の再利用木材を使う予定だという。坂さんは「木材を加工せず、住宅の柱や梁にそのまま使う」と説明している。

同市は約700戸の復興公営住宅の整備を予定しており、大屋根リングの木材がさらに再利用できれば、より多くの復興公営住宅に活用できるようになる。坂さんは「建築資材が高騰する今、自治体にとっても助かることだ。他の工務店などにも、大屋根リングの木材を活用してほしい」と語り、取り組みが広がることに期待する。

仮設住宅は、災害時に迅速に提供する必要がある。DLT木造仮設住宅はどれくらいのスピードで建設できるのだろうか、また大量に提供することは可能なのだろうか。最近では、仮設といいつつ2年を超えて住み続けなければいけない状況もある。できるだけ快適に住み続けられるような仮設住宅を用意することも必要だろう。

大屋根リングの木材を活用することも、もっと増えるといいな、と思う。大屋根リングの一部(200m)は残すそうだが、大屋根リングの木材を日本各地でもっと活用すれば万博のレガシーを残すことにもつながるのではないか。








料理のわざを科学する

料理のわざを科学する

だいぶ前の本だが、『料理のわざを科学する キッチンは実験室』(丸善)を読んだ。

本書は、実験物理学を本業とする著者が、サイエンスと料理を融合させて執筆している。本書の前半は、調理のときの化学変化や物理変化について解説されていて、後半は具体的なレシピをもとに調理のサイエンスが紹介されている。また各章の最後には家庭でもできる実験の紹介もある。

卵をゆでるという基本的な調理が紹介されている。
卵には白身と黄身がある。どちらも主成分はタンパク質で、一定の温度になると化学反応して固まる。その進みを調節すれば、白身と黄身が望みの固さに仕上がってくれる。温度が上がるとタンパク質は変性を始め、ある温度から化学反応が起きて固化が始まる。その温度は、白身がほぼ63℃で、黄身がじょぼ70℃。だから、63℃以上、70℃以下の温度にしばらくおけば、黄身の柔らかい半熟卵ができる。

黄身の固化反応は速いので、その固まりぐあいは、中心部がどんな温度に達したかでだいたい決まる。とろとろの半熟が好みなら70℃以下にとどめ、やや硬いのが好みなら黄身の外面を70℃以上にする。黄身の中心部が80℃に近づけば、固ゆで卵のできあがりだ。

また、望みのゆで卵ができる時間として、エクセター大学のウィリアムズ博士が1996年に発表した式が示されている。
ゆで卵ができる時間

さて、この式で求めたゆで時間を使えば理想的なゆで卵ができるか・・・

もう一つ、面白い話題として「湯と水はどちらが早く凍る?」が紹介されている。
ある高校生が、同じ容器に同量の水と湯を入れ、並べて冷凍室においたら、いつも湯の方が早く凍ったという。

なぜなのか?
湯が蒸発するときまわりが冷えるとか、湯のまわりに対流が起きて熱伝達が早まるとか、沸騰のときできた沈殿物が氷結核になるとか、湯の熱が底の氷を溶かして密着性が良くなるとか、さまざまな解釈があるが、どの解釈も実験結果を説明できていない、そうだ。

この現象をchatGPTに聞いたら、それは「ムペンバ効果」といわれており、一部の条件では熱い湯の方が先に凍ることがある、という。

不思議なことはあるものだ・・・







美食大国いつまで? 

日経新聞(10/13付け)に『美食大国いつまで? 揺らぐ調理師の厚み』という記事があった。
美食大国、日本の将来に影が差している。担い手である調理師の免許交付数が2023年度までの10年間で4割減り、一層減る可能性もある。長期間の修業や低賃金といった厳しい働き方が課題だ。料理人が競うからこそ味も値段も磨かれる。25年後も世界に冠たる地位を保つべく厨房は変わり始めた。

9月25日、「ミシュランガイド東京2026」の発表会が都内で開かれた。東京の星付きレストランは160軒と19年連続世界一。同ガイド責任者グウェンダル・プレネック氏は「東京が世界屈指の美食都市であることを証明した」と絶賛した。
(略)
厚生労働省によると23年度の調理師免許交付数は約2万4000人と10年前比38.4%減った。08〜23年度の平均減少率は年3.7%で、このままなら50年度には8000人台になる計算だ。東京のミシュランの星付き店数も26年は最多の12年から35%減り、2位のパリが迫る。

調理師免許は調理技術と栄養学、食品衛生などの専門知識を持つと証明する国家資格。免許なしでも飲食店で働けるが、より高いスキルを証明できる。

交付数が減少する背景には少子化に加え、下積み時の「長時間労働、低賃金など飲食業界特有の課題がある」と全国調理師養成施設協会(東京・渋谷)の松下純子事務局長は分析する。

もっとも「職人が技術を磨くには数を重ねるしかない」(仏料理ジョエル・ロブション=東京・目黒=の関谷健一朗シェフ)のも事実だ。練習の機会が限られるほど「一人前になるには昔より時間がかかるかもしれない。あるいは密度の濃い時間を過ごすしかない」とみる。
(以下省略)

東京が星付きレストランの数が一番多いとは知らなかった。一流の料理人になるには、それなりの時間と経験が必要なのだろ。建築の世界でも職人のなり手が不足している。そのため職人技に頼らなくても済むようにやり方を工夫しているとも聞く。

ミシュランの星をとったお店には行ったことがないし、あまり行こうとは思わない。身近なところで、美味しいものが食べられればそれでいい。最近のお気に入りは、駅前にある定食屋だ。昼でも夜でも定食を食べることができる。お店では昔からホルモンが有名だったらしい。麺なしチャンポンも野菜がとれて嬉しい一品だ。
ひさや_ホルモンひさや_麺なしちゃんぽん

ミシュランの星がなくても、お客さんが美味しいといいながら、楽しい時間を過ごすことができれば、それで十分なような気もする・・・







値引きの是非と可否

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UnsplashArtem Beliaikinが撮影した写真

建設通信新聞(10/7付け)の「建設論評」欄に『値引きの是非と可否』という記事があった。
米国で工事現場の所長を務めていた時、発注者側の責任者から呼び出されて、部下の行いに忠告を受けたことがある。「下請け会社に値引きを要求している。これを止めさせろ」との小言だった。

米国では、州ごとに商行為の法律がさまつな部分で異なっており、それに伴って商慣行も州によってさまざまである。彼が言うことには、この州では、買い手(建設工事では発注者)側が売り手(受注者)側に対して、無条件でプライスガイドと称する値引きを要求することは、ご法度とのことだった。法規でプライスガイドを禁止する州もあるらしい。

「値引きを要求するには相応の理由が必要で、頭から問答無用の要求はいけない。所長から当人に忠告してほしい」ということだったので、当人にその趣意を伝えて、以後、守らせるようにした。だが、当人は相手の見積もりを値切る日本の商慣行を当然視する信念で、その忠告を納得していなかったようだ。そして、別件で日本に出張で帰国した際に、本社の幹部に不満を述べたらしい。その幹部から筆者に電話がきた。

幹部は「業者が出してきた見積もりを、1銭(1セントというべきかも)も値切らずに受け取るとは」と、電話口でののしった。彼の頭の中も日本の商慣行で固まっているのである。「とにかく米国ではそうした商慣行なのだから」と説得して押し切ったが、肝心の部下は現地に戻りたくないという。それで適当な口実を設けて、担当者を交代させることにした。

現場ではその後も下請け発注の都度、見積条件を相手側に認めさせてから見積もりをさせ、受け取った見積金額でつつがなく契約を進めた。契約や調達部門は、波風の立たない平穏な職場だった。

このような慣行に慣れると、それまで見慣れていた国内の光景に違和感を持つようになる。発注者との打合せから戻ってきた社員が、いきなり見積もりに手を入れ始める。「施主から見積もりが高い、安くしろ」と言われたとして値引きのタネを探すのである。その値引きの額が、相手の要求に応えられないことがある。それでも相手は満足せずに「何とかしろ」と迫る。

その結果、相手の言い分に応えて、赤字の見積書を提出する羽目になる。つまり、相手の顔を立てるのである。当然竣工時に赤字が出る。この赤字は相手の顔を立てたから出たわけで、「この度は、こちらの顔を立てて」と値増しのお願いになる。

そして、相手がそれに応えてくれるように、お願いを重ねるのである。民間工事でしばしば見られる光景である。プライスガイドが禁じられる背景に思いを致すと、見積もる者が発注者側が提示した見積条件に忠実に従ったことを、双方がお互いに確認して納得すればそれで良しとすべきなのである。

相手の条件を守った見積もりなのに、その条件を変えずに値引きを求め、それに応じる慣行は、確かに不合理である。価格を下げさせたければ価格交渉ではなく、彼の国のごとく、数量、仕様、品質、頻度、精度、工期などの条件交渉にするべきなのである。

わが国の商慣行の土壌も、そのように変わってほしいものである。

だいぶ前のことであるが、ゼネコンで働く卒業生に建築材料の価格はどうなっているかを聞いたことがある。そしたら、定価の「半値八掛け2割引き」だと言っていた。いまはどうなっているか知らないが、その言葉を聞いてゼネコンが購入する金額は値引きが当たり前なんだと思った。

ネット上には値引き交渉のテクニックを紹介しているサイトがいくつもある。家電量販店でも値引きを前提にしているところもある(ポイントが付くのも値引きと同じだろう)。こうなってくると値引きを前提とした価格設定などが行われているのではないかと思いたくなる。

家電なら使ってみれば、その性能や機能が明らかであり、価格への納得感は得やすい。しかし、建築は一般の人にはわかりづらい。だからこそ、価格の根拠を明確に説明できるようにしておく必要があるのではないだろうか。







政治が感情に言葉を与えることの危険

週刊東洋経済(10/11ー18号)の「経済を見る眼」欄に上智大学特任教授の苅谷剛彦氏が『政治が感情に言葉を与えることの危険』と題して寄稿していた。
いつの間にか、私たちが日本の社会や政治を語る言葉に、ほんの少し前までは海外の出来事を論じることに使われた「排外主義」という表現が入り込んだ。

朝日新聞のデータベースで調べると、この言葉が日本の出来事に使われ始めたのは1990年代の半ば以降である。それ以前は、海外の政治や社会を記述する際に使われた。それが今では外国人をめぐる国内問題に普通に使われるようになり、選挙のスローガンにまで登場するようになった。

記憶に新しいのは、国際協力機構(JICA)にまつわる誤情報の流布が巻き起こした事件である。アフリカ諸国との友好関係を強化するために地方自治体と特定の国々との関係を言及したことが思わぬ反応を引き起こした。そのときもこの言葉が多用された。

しかし海外での使用例は、いずれも人口に占める移民や外国人の割合が10%を超える場合である。日本は3%にも満たない。外国人によって職が奪われたり、賃金低下がもたらされたりする実質的な影響はほとんどない。

それどころか、政府はグローバル化や観光立国を進めてきた。労働力不足を補うために外国人に頼らざるをえないことは、火を見るより明らかだ。外国人留学生を増やすことで、どうにか経営を続ける私立大学も少なくない。

このような受益に比べ、損失がどれだけあるかは明確ではない。少なくとも経済合理主義の立場に立てば、経済的にも社会的にも、外国人への依存は高まりこそすれ、排除に向かうほど実利が失われているわけではない。

「主義」という言葉がなぜかここには付いているが、それがまとまった思想を意味するわけではない。元は英語の「xenophobia」(外国人嫌い)の翻訳だろう。英語のそれが感情を表す言葉なのに対し、日本語では「主義」になり、感情との違いを印象づける。英語に倣ってこの語が感情を表す言葉だとみれば、合理的な判断と相反することも理解できる。

言葉や行動様式の異なる外国人が日常生活に入り込むことは珍しくなくなった。電車・店・観光地・職場・大学と、外国人と接する機会は格段に増えた。そこから「自分たち」とは異質な人々に、違和感や不安や恐れを抱く。

実際に迷惑行為に遭うこともあるだろうが、同様の行為は日本人が起こすこともある。犯罪も同じだ。だがこの感情が外国人に向かうのは、この感情の根底に、言語化しにくい「わかりにくさ」があるからだろう。共感や相互理解の難しさが引き起こすマイナスの感情である。

言葉になりにくいマイナス感情を言葉に与えたのが「排外主義」である。感情社会学によれば、言葉を与えることで感情は社会性を持つ。最初は個人の感情だったはずが、集団の感情であるかのような感覚を生み出す。言葉の共有が集合的意識にまで高められることはあるだろう。ナチスの喧伝が感情に言葉を与えることで集合意識をつくり出したように。

感情に言葉を与えることの政治性には気をつけた方がよい。そう肝に銘じるべきだ。

大阪・関西万博が閉幕した。
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開幕前は、工事の遅れなどが指摘されネガティブな意見もあったが、蓋を開けてみると来場者が増え、最終的には200億円以上の黒字だそうだ。

日経新聞(10/14付け)の「春秋」欄には、万博について以下のように書かれていた。
交流と融和を重んじる声は大きかった。「本当をいえば、何も施設などは無くてもいいのだ」。太陽の塔をたてた岡本太郎はそう言っている。世界中から人々が集い、一つの渦の中に高揚する。顔を見あわせ手をふれあって、同じ人間であることを確かめる。それが大事なのだと(「万国博ここに開く」)。

大屋根リングの外に目を向ければ、会期の半年間だけを見ても、排外の言葉が一層増えた印象はぬぐえない。外国人の存在が日常になって、摩擦は確かにある。それでも岡本が訴えた融和の意義は変わるまい。「多様でありながら、ひとつ」。大会メッセージを私たちは本当に受け止められたのか。問われるのはこれからだ。

大屋根リングの内側には、「排外主義」などはなかったのだろう。そうした体験をリングの外でも活かしてほしいものだ。ところで、一部のパビリオンで建設費の不払いがあったという。黒字なんだったら、工事費を立て替えてもいいんじゃないかな・・・








小さな研究が開いた大きな科学

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「科学」(10月号)の巻頭エッセイに東京科学大学の永原裕子氏が『「小さな」研究が開いた「大きな」科学』と題して寄稿していた。
地震や津波、火山噴火に関わるニュースを耳にしない日はない。トカラ列島の地震は2025年6月後半から8月初めまでに震度1以上の地震が2200回を超えたという。(略)これらの変動は直接あるいは間接的にプレートの沈み込みにより引き起こされるが、沈み込んだプレートは上部マントルを沈降し、深さ約660kmの「遷移層」下部に滞留する。地質学的な時間の後にさらにそれ以深の下部マントルを落下し、深さ2900km、コアの直上に達することもある。その大きな構造の理解のためには、地震波などを用いた地球内部の地球物理学的観測結果と、マントルにどのような物質が存在し、沈み込んだ物質は地球内部でどのように変化するかという化学的・物質科学的情報が必要である。その物質科学的理解をもたらしたのは、小さなダイアモンド2個の間に微小な試料をはさんで締め上げることで超高圧を発生させることのできる「ダイアモンドアンビルセル」という手の平に乗るほどの小さな実験装置と言って過言ではなかろう。
(略)
めざましい超高圧物理学の発展をになってきたのは研究室あるいは小さな単位の研究グループであり、科研費などの基礎科学支援の研究費に支えられてきたものが多い。自由な発想にもとづき未知の解明をめざした結果といえよう。現在の日本では「役に立つ科学」が声高に求められ、予算の多くがそこに振り向けられ、それが研究者をめざす若い人のポストの提供につながり、研究者として自立する段階で目的が初めから設定された立場に身を置かざるを得なくなる。このような状況がもたらす結果は今さら指摘しなくても明らかだろう。なんとかして若い研究者に自由な研究を、10年くらいのスパンで思う存分展開できる環境を提供できるようにしたいものである。

手の平に乗るような実験装置で、地球の奥深いところの大きなスケールを調べるというのも面白い。

同誌には、素粒子ニュートリノの観測を行う地下実験施設カミオカンデを紹介する記事もある。いま第三世代のハイパーカミオカンデの建設が行われている。ハイパーカミオカンデのタンクは直径68m、深さは71mで、約26万トンの純水を貯める。建設費はなんと約650億円。巨大プロジェクトだが、構想から30年、予算申請から承認までに10年の歳月がかかったという。こうした巨額の投資が実現できたのは、これまでのカミオカンデでの観測で2つのノーベル賞を獲得できた実績があったからだろう。

もちろん巨大な実験施設が必要な研究もあるし、その実現には大変な苦労もあるだろう。限られた研究費をどのように配分するかは難しい問題だが、萌芽的研究にもっと予算を配分してもいいのではないか・・・







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著書など
研究室のマスコット
「アイソレータ・マン」。頭部は積層ゴムで、胸にはダンパーのマークでエネルギー充填
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
2022年に改訂版がでました。初版から10年が経ったので新しい情報やデータを追加・更新しています。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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