防災道州制の導入?

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日経新聞(11/28付け)の「私見卓見」欄に名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫氏が『減災のこと、本音で話そう』と題して寄稿されている。写真は名古屋大学の減災館。
「減災のこと、本音で話しませんか」。
自治体の幹部や官僚、企業担当者らと知り合うと、私はそう声をかける。南海トラフ巨大地震や首都直下地震はいつ起きてもおかしくない。被害は広域に及び、自治体をまたいだ避難者の受け入れや輸送路の確保、物資の調達が不可欠になる。

だが、各自治体の地域防災計画の多くは「わが町だけ」の内容にとどまり、省庁や自治体とインフラ企業や研究者との連携は乏しい。

今年1月、私は名古屋大減災連携研究センターに愛知県西三河地方9市1町の副市長と副町長計10人を集めて実験を行った。各市町に自分の街の地図を持ち寄ってもらい、つなぎ合わせて西三河全域の地図をつくる。それをセンター1階の床面に投影させ、吹き抜けの2階部分から一緒に眺めてみる、という試みだ。

目を引いたのは、災害時に各防災拠点を結ぶ「緊急輸送道路」が複数の市町の境でブツリ、ブツリと途切れ、緊急輸送道路ネットワークとして機能していないことだ。自治体による指定が遅れていることが原因だが、自治体間で情報が共有されておらず、副市長らも驚いていた。役所や病院、避難所などの防災拠点も各市町が勝手に配置しているため、アクセスに難がある場所がいくつも見つかった。

9市1町は「西三河防災減災連携研究会」として、日ごろから防災協力の議論をしている。それでも課題が見つかるのだから、他地域ではより多くの問題点が見つかったに違いない。

大地震から国民を守るためには自治体単位の防災計画を改め、複数の県をまとめた「ブロック」を防災の単位として、電気やガス、物流などのインフラ企業や省庁の出先機関を巻き込んた組織をつくり、対策を練る必要がある。

私は2年半前、自治体やトヨタ自動車、中部電力、東邦ガスなど地域の中核企業の担当者と「本音の会」を立ち上げた。月に1回集まり、自分たちの地域を守るためにできること、できないことを本音でぶつけ合い、真の減災連携を探るのが目的だ。会に加わる自治体は東海圏に広がり、参加企業は30社を超えた。

参加企業間で防災協力を始めたり、企業が独自に井戸を掘ったりする成果も出ている。東海圏は人口規模では国内3番手だが、自立力は高い。この地から地域防災のモデルケースをつくりたいと考えている。

大規模災害対応や防災的な調整・連携などの視点からは、現在の縦割行政の弊害があるのではないか。加えて、各府省が使途を定める「ひも付き補助金」の問題や柔軟な財源の確保なども必要だろう。さらには、都府県を越える広域的なガバナンスの強化や広域全体を俯瞰した総合的な判断ができるガバナンスの構築、なども求められよう。

今後発生するであろう大規模災害、そして復興対策の観点からは、現行の都府県を超えての連携や支援体制の構築ができる制度設計が求められるのではないだろうか。ちょっと前には、道州制の議論が活発だったが、最近ではトーンダウンしている。大規模災害や広域防災を考える上では、道州制は有効ではないだろうか。

すくなくとも、災害対応・防災連携などに特化した「防災道州制」という制度設計はできないものだろうか。福和先生がされていることも、ある意味こうしたことに近いような気がするのだが。

参考資料:
愛知県知事政策局企画課(平成 26 年3月)
「大規模災害・復興対策から見た道州制のあり方」に関する調査研究レポート


憂いあれば備えあり

日経産業新聞(11/29付け)のテクノオンライン欄に東北大学教授の円山重直氏が『災害対策の教訓』と題して寄稿されている。
新幹線は1964年の開業以来100億人以上を運んでいるが、衝突や脱線で亡くなった乗客はいない。現在の新幹線は最高時速約300キロで運行している。この速度は大型ジェット旅客機の着陸速度より早いのだ。

新幹線の安全はいかにして作られたのであろうか。95年の阪神淡路大震災では、高架が倒れたが、始発列車の出発前で脱線する新幹線はなかった。その後、国鉄は全国の高架路線を補強した。

2004年の新潟県中越地震では、上越新幹線が脱線したが直線路線だったので、大きな事故にはならなかった。それ以降、脱線しても路線から大きく外れない部品を取り付けた。

11年の東日本大震災では、27両の営業車両が走っていたが、大地震の時に電源を遮断し緊急制動する機構が働き、脱線を免れた。JRは独自の地震計測システムを持ち、気象庁が警報を出さなくても電車を停めるのだそうだ。

東日本大震災直後、JRに勤めている教え子が仙台に訪ねてきた。これまで新幹線で死亡事故が起きなかったのは幸運だったと言っていた。新幹線がすれ違うときに直下型の大地震が起きたら、これまでの安全対策では防ぎようがない。しかし、あらゆる事態を想定し、可能な限りの対策を施すことによって、事故を防いできたことも事実だ。

宮城県の東北電力女川原子力発電所は、津波地域に面しているため海面から14.8メートルの高さに建設された。東北電力の重役が東京電力の先行事例にとらわれず、強硬に主張したようである。東北の三陸地方は歴史的に津波被害が起きていたので、それに対する憂いがあったのだろう。大震災の時、地震で敷地が1メートル沈下し、津波は13メートルの高さまで来たが、ぎりぎりで女川原発は助かった。

東電福島第1原発の場合は、04年のスマトラ地震によるインドの原発の津波浸水や、01年に台湾の原発で全電源喪失の事例があったにもかかわらず、「原発の絶対安全」にすがりつき、電源の多様化や津波対策をおろそかにした。自然災害や人災などのあらゆる可能性を真摯に憂いて、対策を行っていれば、事故は防げたかもしれない。

「備えあれば憂いなし」というが、「憂いあれば備えあり」の心構えが安全につながるのである。

今年4月に起きた熊本地震では九州新幹線の回送列車が脱線した。この列車に乗客は乗っておらず、列車の速度も時速80キロ程度だったのは幸運だった。(写真出典:http://toyokeizai.net/articles/-/115150
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熊本地震では、大きな地震が14日と16日に連続して発生した。14日が前震で、16日が本震だと言われている。14日の前震でも被害を受けた建物はでているが、もし地震の順番が逆だったらどうなっていただろう。本震で多くの建物が倒壊したため、前震の後、避難していなかったらもっと多くの犠牲が出た可能性も否定できない。大地震が起きる時間帯によって、被害の様相は大きく変わる可能性がある。

建築物の耐震性は向上してきているとは思うが、地震による被害はなかなか無くならない。建物被害をゼロにすることは難しいだろうが、建物の倒壊などによる被害者を減らすよう務める必要がある。古い建築物の耐震化が求められているが、歩みは遅い。

自然災害に対していつも「幸運」に頼ることはできない。災害に対する想像力を鍛え、備えをしていくことが必要だろう。

戻りコンクリートを再利用

建設通信新聞(11/25付け)に『戻りコンを再利用』という記事があった。
鹿島は三和石産、東海大学笠井哲郎教授と共同で戻りコンクリートを使用したコンクリート「エコクリートR3」を開発した。既に三和石産とグループ会社のリコーンが生産を開始しており、プレキャスト部材や生コンクリートに活用する。鹿島技術研究所建築生産グループ長主席研究員の閑田徹志氏は「大きなコスト減につながる技術ではない」としながらも、毎年400万トンとされる戻りコンの再利用は「資源循環型社会の実現に大きく貢献できる」と語った。

「エコクリートR3」は、脱水処理した戻りコンのスラッジを分級、乾燥、粉砕した「Cem R3(セムアールスリー)」と普通セメントを併用して製造する。エコクリートR3の用途は普通セメントの含有率で区別しており、Cem R3を2〜30%使用する「低含有型」は生コンとプレキャスト部材、90〜95%使用する「高含有型」はコンクリート2次製品や床スラブなどプレキャスト部材に適用する。「低含有型」は既に鹿島の一部現場で仮設材に使用しており、今後は本設への適用も検討していく。

これまで高品質の再生セメントを実現するには短時間で戻りコンを処理する必要があったが、今回新たに強度に影響を与えずに水和反応を抑制する添加剤を開発し処理時間の制限を緩和した。品質は比表面積試験で管理し強度が効果的に発現する「比表面積8000平方cm/グラム以下」のものを製品として使用するほか、日本建築総合試験所の技術証明を取得しJIS適合を担保した。

これからの地球環境を考えれれば資源の有効利用は大切なことだ。こうした技術が広まるといいな。

鹿島のプレスリリースは、こちら


免震建物の風対策用「弾性ロック機構」

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日本土地建物が東京都中央区京橋で進めていたオフィス・商業複合ビル「京橋エドグラン」(32階建て、高さ170メートル)では、高層免震建物の風対策として「弾性ロック機構」が使われている(上の写真の黄色い箇所)。同プロジェクトの建物低層部は歴史的建築物棟と商業施設、高層部はオフィス空間となっている。低層階(高さ31m)と高層階の間に免震層が設置されている。

高層免震建物では風荷重の影響が大きくなる。そのため新たに「弾性ロック機構」が開発された。この機構によって常時の機能維持と大地震時の安全確保の2段階の構造性能を実現している。再現期間500年の風(強風)に対して不足分の耐力を、弾性ロック機構によって補うことで、大地震時に最適な免震層のダンパー量にとどめることを可能としている。

さらに弾性ロック機構は、強風に耐えるだけでなく、発生頻度が高い地震(中地震)に対しては、免震層に設置したオイルダンパーを効果的に機能させ、ほぼ全数のエレベーターの自動復旧など、地震後の建物常時機能の早期回復を実現する。そして、大地震時には、ロックが解除されて(シアピンが破断して)、免震性能を最大限に発揮する。

免震部材には積層ゴム(直径1.3〜1.5m)が30台、弾性すべり支承が6台、オイルダンパーが48台設置されている。弾性ロック機構は4台設置されている。強風時と中地震時のときは弾性ロック機構の弾性変形で対応する。弾性変形範囲は約7cmで、これ以上変形するとシアピンが破断する仕組みとなっている。

弾性ロック機構はシアピンに単純梁の曲げバネを組み込んでいる。単純梁の曲げバネはH型鋼2本1組で構成され、シアピンを挟んで上下に直交するようになっている。シアピンはダボになっていて、所定のせん断力で破断するように設定されている。鋼製梁の上もしくは下にはリニアスライダーを設置し、シアピンと鋼製梁との偏心によって生じる曲げモーメントに抵抗させている。鋼製梁には、弾性域が広い高張力綱(HSA700材)が用いられている。
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強風時に免震層の変形を固定するシアピンはこれまでも使われたきた。しかし、シアピンが破断するまで免震層が変形できないので、上部構造の応答が大きくなる可能性がある。そのためある程度変形を許容し、オイルダンパーで減衰を付与することで、応答を抑制しようということのようだ。検証済みなのかもしれないが、鋼製梁の高サイクル疲労特性は把握されているのだろうか。梁は弾性範囲にあっても、接合部を含めた機構全体としては。

なお、この建物には、構造モニタリングシステム「NSmos」なるものが導入されているそうだ。地震時の建物の損傷状態を即座に分析できるとのこと。「弾性ロック機構」の効果についても実測結果を公開してくれると嬉しいのだが・・・

参考サイト:
https://thepage.jp/tokyo/detail/20150825-00000001-wordleafv
https://thepage.jp/tokyo/detail/20150825-00000003-wordleaf?page=4


免震構造を義務化?

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「鉄構技術」(12月号)の特集は『熊本地震に学ぶ』である。このなかで私も寄稿させていただいているが、ここでは、福岡大学の稲田達夫教授が提案されている「2025年免震構造義務化の提言」について紹介したい。
確かに、かつての日本は貧しかった。復興住宅の建設のため山の木材を伐採した結果、1950年代は我が国は禿げ山だらけであった。過伐を少しでも減らすため、建設可能な住宅の面積制限を行っていた時期もあったという。あるいはSRCなどの大型建物にあっては、戦後当初は鋼材は国からの支給品であったことから、費用最小の方法で設計を行うことは必須であった。また、そのような時代であったから、放っておくと安かろう悪かろうといった建物の建設が横行した。だから、国は国民が守るべき最低基準を定めることは必要なことであった。そのような背景の中で生まれたのが建築基準法である。

しかし、時代は変わり、今や成熟社会である。建物は単なる個人の所有するシェルターではなく、街を形成する重要な社会的共通資本である。環境問題を背景として、建物を長く使うことが常識となり、スクラップアンドビルドを繰り返した時代は過去のものとなった。

今から20年前、私が性能型構造設計に拘(こだわ)ったのは、それまで行われたきた構造コスト最小化を絶対とした構造設計からの脱却という意識があったからだと思う。だからこそ、「建築主との会話」ということを重視したのである。

構造コストを最重要とした構造設計のくだらなさは、以下の例を見れば理解いただけると思う。仮に販売価格5,000万円/戸のマンションを考えてみよう。5,000万円のうち、2,000万円は土地代や販売コストなどと仮定する。実質的には建築コストは3,000万円ということになる。その1/4が構造コストとしよう。構造コストは750万円となる。安全安心を確保するために構造コストを2割アップしたとすれば、構造コストは900万円になる。建築コストとしては3,150万円、マンションの価格としては5,150万円となるが、安全安心が確保されたことにより、例えば将来の中古マンション価格の下落が抑えられることになれば、5,150万円は決して高いものではないはずである。

活断層はどこにあるかわからないのであるから、直下型地震も、日本中どこで起こるか分からないのである。どうも性能設計の普及を待っていたのでは、そのうちにどこかまた大災害が起こるかもしれない。ここはショック療法の一つとして、賛同者を募り「2025年には新建築物はあまねく免震構造とすべき」というような提言を行ってはどうかと思うのだが、いかがであろう。

免震構造を義務化するとなれば、さまざまな建築物の用途や性能に対応できる免震部材や免震システムの開発が求められる。いまより多くの建物が免震化されれば、免震化のコストも大幅に引き下げられるだろう。現に高層免震マンションなどでは、耐震構造に比べて建築コストは低くなっているとも聞いている。低層建築物や戸建て住宅への適用を増やすには、コスト面の課題を解決することも必要だ。

一方で、個々の建築物の免震化も大切であるが、複数の敷地をまたいでより広範囲を免震化できるようにすることも必要だろう。例えば、道路に囲まれた街区全体を免震人工地盤として、その上にさまざまな建築物を建設できるようにしたり。こうした実例は我が国では、相模原市営上九沢住宅(2002年竣工)だけしかない(詳細はこちらから)のが現状である。

新築建物をすべて免震化するには相当ハードルも高いだろう。しかし、これからも免震構造や制振構造をもっともっと増やす努力をしていきたいと思う。あわせて、免震構造の安全性をより高める方策についての研究開発も進めていかなけばならない。

超高層免震の風対策

建設通信新聞(11/11付け)に『超高層免震と風対策両立』という記事があった。
竹中工務店は、地震対策と暴風対策を両立させた免震システム「Tウィンド免震」を開発した。超高層建物の耐震性と居住性を両立しつつ、(上部構造に)ブレース補強などが不要なため眺望も確保する。名古屋市の超高層建物「ベルヴュオフィス名古屋」に初適用した。今後は、板状の超高層建物に提案を進め、2020年までに5件の導入を目指す。
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一般的に、免震構造は地震対策には有効だが暴風時の揺れには効果が少ない。建物のアスペクト比が大きい場合は、風荷重を受けた際の居住性を考慮する必要があり、耐震安全性との両立が課題だった。従来、そのような建物には制震構造を採用していたが、家具の転倒を防止できるなどの利点から免震構造への需要が高まっている。近年では台風が大型化していることもあり、超高層建物を免震にしつつ強風への対策を両立することが求められていた。

Tウィンド免震は、TMD(チューンド・マス・ダンパー)またはAMD(アクティブ・マス・ダンパー)と、減衰機能とロック機能を持つパッシブロックダンパー、カヤバシステムマシナリーと新たに共同開発した「衝突緩和機構付きオイルダンパー」、積層ゴムで構成する免震層からなり、免震機能と2段階の風に対策できる。

秒速25m程度の日常的な強風には、パッシブロックダンパーが免震層の変形を拘束し、TMDまたはAMDが揺れを防ぐことで高層部の居住性を確保する。秒速43m程度の想定外の暴風時はゴムクッションが付いたオイルダンパーが免震層の過大な変形による建物周囲の擁壁との接触を防ぎ、風揺れを吸収する。あわせてパッシブロックダンパーのロックも解除され、風の揺れを抑える。

初適用したベルヴュオフィス名古屋はS造23階建て塔屋2層延べ約1万3220平方メートル。低層部がオフィス、高層部がホテルで、客室階のアスペクト比は約6.5と扁平な立面形状となっている。

すごいですね。あらゆる技術を組み込めば、なんとでもなる、という感じ。

それにしても、「衝突緩和機構付きオイルダンパー」の役割が記事だけではよくわからない。暴風による大きな揺れでストロークが限界に達した時に、ダンパー内部の金属同士の衝撃を緩和するためのゴムクッションが備えられており、これによってダンパーの破損を防ぐと同時に、衝突による衝撃力が上部構造に伝達するのを緩和するということかな。でも、ゴムクッションが引っ張られたとき抵抗力は十分あるのだろうか。

風揺れと地震のときの衝突時の速度はずいぶん違うだろ。想定外の地震動に襲われて変形が限界に達したときオイルダンパーはどうなるのだろうか。記事では風対策のことばかり書かれていたが、想定外の大地震時のときの挙動についても知りたいものだ。

免震も実用化されて30年以上、放っておいても技術はどんどん進歩する。しかし、こうまでして免震構造にしなくても、という気持ちがないわけではない。でも、これが進歩ということかな。

仕掛学

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松村真宏『仕掛学』(東洋経済新報社)を読んだ。
サブタイトルに、人を動かすアイデアのつくり方、とある。面白そうだと思い、読んでみた。

「仕掛学」は著者による命名だが、無意識に人の行動を変える仕掛けを、体系的にまとめた本となっている。たとえば、ファイルボックスに斜めの線を入れておけば、直線となるように並べたくなる。こういうものを仕掛けと呼んでいる。男性なら経験があると思うが、小便器に的(まと)のような印があるのは、綺麗に便器を使ってもらう仕掛けとなっている。
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こうした仕掛けを分類分けし、仕掛けの発想法も解説されている。しかし、新しい仕掛けのアイデアを思いつくのは難しいとも。「アイデアは既存の要素の組み合わせ以外の何者でもない」ということで、仕掛けの要素を組み合わせることを推奨している。また、子どもの行動などを観察することで、仕掛けの存在の発見や発想につながるのではないか、とも。

アイデアの発想につまったときは視点を切り替えるのが良い。ということで、オズボーンのチェックリストが紹介さされている。
  1)他の使い道は?
  2)他に似たものは?
  3)変えてみたら?
  4)大きくしてみたら?
  5)小さくしてみたら?
  6)他のもので代用したら?
  7)入れ替えてみたら?
  8)逆にしてみたら?
  9)組み合わせてみたら?

問題に直面したとき、技術に詳しい人ほど技術にとらわれてしまい、使う必要のない技術をわざわざ使って簡単な問題を難しく解決しようとする、と。そして、例としてアメリカのジョークが紹介されている。
アメリカのNASAは、宇宙飛行士を最初に宇宙に送り込んだとき、無重力状態ではボールペンが書けないことを発見した。この問題に対処するために、NASAの科学者たちは10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて、無重力でも上下逆にしても水の中でもどんな表面にでも氷点下でも摂氏300度でも書けるボールペンを開発した。

一方、ロシアは鉛筆を使った。

仕掛けを考えるときには、「鉛筆を使う」というアプローチを大事にしたい。

中国の科学技術力

日経産業新聞(11/22付け)のテクノオンライン欄に東京電機大学特別専任教授の近藤正幸氏が『頼もしい連携相手、活用を』と題して寄稿されていた。
最近、中国の科学技術力の高まりを感じさせる機会が多い。10月には有人宇宙船「神舟11号」が宇宙実験室「天宮2号」とのドッキングに成功した。2022年前後には宇宙ステーションの完成を目指すという。

今月発表された世界のスーパーコンピュータの計算速度ランキング「トップ500」では、1位と2位を中国のスパコンが占めた。3〜5位は米国、日本は6位と7位。9月に発表された英紙による世界大学ランキングを見ても、上位50位に入った中国の大学は香港の3校を含めると6校、日本は2校である。

こうした中国の科学技術力を文部科学省の「科学技術指標2016」で見てみると、近年、中国が科学技術への投資を急速に増やし(下図、中国の伸びが著しい)、論文・特許といったアウトプットも急増していることがわかる。研究開発費は00年から14年にかけて実質で8.4倍に増えて、世界第2位、日本の2.2倍になっている。この間に日本は3割しか増えていない。研究者数は中国は世界第1位の152万人(14年)で、日本の2.3倍もいる。
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論文シェアは12〜14年で16.6%を占め世界第2位、日本は5.9%で第5位である。10年前の02〜04年では日本が第2位、中国が第6位だった。特許についても、14年国内特許出願件数は中国80万1135件、日本26万5959件と、中国は日本の3倍以上である。10年前の04年には逆に、日本が中国の5.6倍だったのにである。

中国の大学教員から、論文・特許について現金支給のインセンティブがあってかなりドライブがかかっているという話も聞くが、それにしてもすごい勢いである。こうした中国の科学技術力の高まりを脅威とみることもできるが、頼もしい連携相手と考えて活用するとい観点も必要であろう。

日本はまだ活用が少ない感がある。米国登録特許(76〜13年)について筆者の分析によると、中国にいる発明者が絡んだ件数は、台湾や米国の企業などが7000件を超えているのに、日本の企業などは700件に満たない。

論文の共著についても、筆者らの別の分析によると、日本の共著相手国としての中国は割合を高めて01年から米国に次ぐ地位となっているが、米国の35%(02年)に比べて8%にも満たない。今後、中国と科学技術分野で連携を強化していくために、これまで以上に戦略的な取り組みが求められよう。

朝日新聞(11/22付け)には、中国でリニアモーターカーを独自開発するという記事があった。
中国が国家プロジェクトとしてリニアモーターカーの開発に乗り出す。2020年をめどに時速600キロの車両製造を目指す。後発ながら世界最長の高速鉄道(新幹線)網を築いた中国は、次世代の技術でも日本などを追い上げる考えだ。
中国は豊富な資金をもとに、研究開発をすすめ、日本に追いつき、追い越そうとしているようだ。これは企業だけでなく、大学でも同様の現象がみられる。日本の大学では研究資金が不足しているといわれるが、中国の大学には政府から莫大な予算がついて最新の研究施設が整備されている。

研究資金の豊富さを羨ましがってばかりいても仕方がない。
資金が足りなければ、アイデアで勝負、ということかな。

ところで、中国の新幹線開発で思い出したが、リニア新幹線が時速500キロとか600キロに対して、いま開発中のハイパーループは、時速1200キロ(!)を目指している。
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中国でも真空チューブを使った超高速リニア列車が研究されているとの報道もある。将来、こんな移動手段が実現されたときには、「今日はリニア新幹線でゆっくり旅行でもするか」、なんてことになるのかな。。。

7ヶ月が過ぎた益城町を訪ねる

熊本地震で震度7を2回経験した益城町に行ってきました。

倒壊した住宅の片付けがずいぶんと進んでいますが、手つかずの住宅も残されています。被害が小さかった住宅では、そのまま生活を継続されていますが、更地になったところも多く、町の景色は大きく変わってきています。下の写真は益城町の県道沿いにあった鉄骨造の建物で、左側は8月に撮影したときの状態。本震で2階が圧壊したままでした(車の上に崩壊した建物が乗っています)。この建物もようやく解体が始まったようです(右の写真)。
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熊本県内で最大の仮設住宅「テクノ仮設団地」に行きました。阿蘇くまもと空港の近くにあり、被災者の居住地から離れているということで、入居辞退も出たようですが、仮設団地内にはイオンをはじめ仮設商店も整備されています。また、復興住宅のモデルハウスが建設されていました。平屋建て、延床面積は73平方メートルで耐震等級は3です。建設費は1000万円とのこと。
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益城町では復興計画も策定され、今後具体的な復興町づくりが進められていくことを期待したいです。

今回、益城町に行ったのは、テレビの取材も兼ねていました。下は益城町役場の前でインタビューに答えているところです。
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建設業とグッドデザイン

建設通信新聞(11/9付け)の「建設論評」欄に『建設業とグッドデザイン』という記事があった。
グッドデザイン大賞が与えられるのは図案や工業製品だけではない。建物や空間もその対象とされ、いままでに「蔵のある家」(1996年)、「金沢市民芸術村」(97年)、「せんだいメディアテーク」(2001年)、「モエレ沼公園」(02年)、「岩見沢複合駅舎」(09年)が受賞している。

いずれも人と空間との関係に新たな可能性を開く作品である。このように、デザインの善しあしを左右するのはモノの良否や感覚の快不快ではなく、モノによって実現するコトの意味、とりわけそれが社会にどのようなインパクトを与えるかである。

グッドデザイン賞は輸出振興策として発足したが、社会経済の変化の中で、デザインの考え方や賞のあり方が変容していまの形となった。そもそもデザインの本質は、人と人以外のものとの関係を形づくることにある。グッドデザイン賞の考え方がデザイン本来の姿に近づいたのである。

日本デザイン振興会によると、現在はデザインを「人間を中心に考え、目的を見いだし、その目的を達成する計画を行い実現化する一連のプロセス」ととらえている。そして、その評価の視点として
  ,發痢Δ海箸鼎りを導く創発力 
  現代社会に対する洞察力
  Lね茲鮴擇螻く構想力
  にかな生活文化を想起させる想像力
  ゼ匆顱Υ超を形づくる思考力
の5つを定めている。

もっとも、これらを人間・本質・創造・魅力・倫理の五語に理念化しているが、これは実質を欠いた簡略化であって疑問がある。

さて、このようなデザインの考え方は、建設業が取り組まなければならない課題と一致する。成熟社会のもと、モノを造ることに価値があるのではなく、人と空間との関係をつくり出すことが重視され、それによってどのような価値を生み出すかが問われているからだ。もちろん価格や品質は大事だが、価値の重点は人間性に働きかける作用いかんに置かれることになるであろう。実際、デザインの視点から建設事業の善しあしを明らかにするには、それが人に対して一体どのような可能性をもたらすのかを具体的に記述すればよい。広告宣伝文がいかに空虚なものであるかが浮き彫りになるだけでなく、プロジェクトの目的や必要性についても吟味を迫られるはずだ。

さらには、デザインの善しあしが問われるのは建物や空間の設計だけではない。仕事の仕方もデザインの対象となるのである。事業のプロセス、施工体制、管理システムなどは、グッドデザインの考え方に照らしてとらえ直し、より良いものとすることができる。例えば、建設現場が働くことを通じて人間的な豊かさをもたらし、社会や環境を形づくる実感を得ることのできる場となっているかどうかを問うのである。

良いデザインを探求する挑戦は、固定化された枠組みを破る視点と勇気を与えてくれる。建物や空間だけでなく、建設現場そのものがグッドデザイン大賞を得る日を期待する。

人口が減少していく日本では、働き方も変わらざるを得ないだろう。ワークライフバランスを考えた働き方、女性だけでなく男性にとっても働きやすい環境の構築、育児との両立などなど改善が求められよう。同様のことは建設現場にも当てはまるのではないだろうか。建設現場がグッドデザイン賞を受賞できるようになることを期待したい。

ところで、2011年には平成建設が、ビジネスモデルのデザインという分類でグッドデザイン賞を受賞している。

1980年に98万人いた大工は2005年には54万人。内50歳以上が30万人である。つまり今後10年で大工は半減するといわれている。優れた職人の不足が叫ばれるなか、大工を育て、伝統・文化を守る組織を形成していること。大工、鳶・型枠・鉄筋・土工、設計士、監督など建築にかかわる一連のプロセスを内製化していること、などが評価されているようだ。

さらに、2015年には、新和建設が「大工育成ビジネスモデル」でグッドデザイン賞を受賞している。将来の大工の育成や伝承のシステム構築などを目指している。
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このような取り組みは他でも行われているのかもしれないが、わが国の建設業の将来を見据えた取り組みが必要になっていると思われる。これまでの枠組みを打ち破る発想も必要ではないだろうか。

空気からプラスチックをつくる

従来、プラスチックをつくるときには、その6倍のCO2がでています。現在、地球上では一人あたり35kgものプラチックがつくられており、毎年3%ずつ増加しているそうです。温室効果ガスを減らすことが地球温暖化にとって不可欠だといわれています。

こうした課題に対して、2003年に設立されたNewlight社「排出された温室効果ガスを資源として利用できないのか?」という課題に取り組みました。10年にもわたる研究の結果、空気と温室効果ガスをプラスチックに変換させる独自の温室効果ガス回収技術を用いて、AirCarbonという炭素不使用のプラスチック素材を発明しました。

温室効果ガスを回収して、資源として再利用するという発想がユニークです。

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問題は製造費用(価格)だと思いますが、実はAirCarbonの製造コストは既存のプラスチックよりも安いともいわれています。現在は生産数が少ないために販売価格は割高になっているようですが、今後は生産拡大により販売価格を既存の石油ベースのプラスチックより下げることが計画されているとか。

こうした発明によって、地球に優しい製品が生まれてくることは素晴らしい。

オーサグラフ世界地図

2016年のグッドデザイン大賞を受賞したのは「オーサグラフ世界地図」
大きさや形の歪みをおさえた正確な地球の全体像を示す四角い世界地図です。この地図を眺めればグリーンランドはオーストラリアよりずっと小さいこと、成田空港からブラジルにオリンピックを見に行くときにヒューストンを経由する飛行ルートは理にかなっていること、南極はインド洋、大西洋、太平洋全てに面している唯一の大陸であることなどを理解することができます。同時に球面世界という行き止まりがない世界観、G20という言葉に表されるような多中心な世界観を描くことができる特徴を持っています。

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知っている世界地図とは、ずいぶん印象が違います。アフリカ大陸は非常に大きいこと、米国よりカナダの方が面積が広いこと、中国の国土はこれまでの地図より小さく見えます。

正しい国土や大陸の面積を知ることは大切です。こうした正しい地図で世界観を養うことが必要ですね。

詳細情報は、こちらから。

台北のねじれた超高層免震

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建設通信新聞(11/17付け)に熊谷組が台北で建設している免震建物が上棟したとの記事があった。
熊谷組台湾現地法人の華熊営造が施工を手掛けている台湾・台北市の超高層住宅「陶朱隠園(タオヂュインユェン)」が上棟した。独創的なデザインの陶朱隠園は、台湾の新たなランドマークとして国内外から高い注目を集めていた。

上棟を迎えた陶朱陶園は、これまで台湾で積み重ねた実績と施工能力が受注につながった事例だ。建物の最大の特徴はDNAの二重らせん構造から着想を得た斬新なフォルム。地上部構造体は2フロア分の高さのトラスを中央コアとウイング部先端のメガカラムに架け渡す構造で、左右ウイング部が中央コア部分を中心としてフロアごとに4.5度ずつ回転することでメガカラムをねじれた形状にしている。

コンクリートなどの荷重がかかるとトラスが正規の位置に納まるように、あらかじめ左方向にずらし、かつ鉛直方向に持ち上げて設置した。17階では、約12cm持ち上げた状態で施工した。山崎英樹華熊営造総監は「トラスの数値は議論を重ねて手探りで進めた。3フロアほど施工した段階で計算に近い数値が出たため確信を得た」と振り返る。稲豊彦華熊営造董事長は「技術的にも意匠的にも特殊な建物。竣工に向けて華熊営造、熊谷組一同全力で取り組む」と力を込める。

規模はS造地下4階地上21階建て延べ4万2773平方メートルで高さ93.2m。基本設計はフランスの建築家ヴィンセント・カレボー氏、実施設計は元宏聯合建築師事務所、構造設計は傑聯國際工程顧問が担当。

この建物については、こちらのエントリーでも紹介していた。
無事に上棟して何よりだ。

免震システムには、球面すべり支承が用いられている。台湾でも地震が多く発生するので、ぜひ地震計による観測をしてもらいたい。日本では多数の地震観測記録が得られているが、諸外国での観測事例はあまり見たことがない。世界各地で地震観測を行うことは、免震構造だけに限らないが、建築物の安全性向上に寄与するはずだ。

完成したら見学に行きたいものだ。

トイレ革命?

小中学生の発明やアイデアを募る「市村アイデア賞」新技術開発財団主催)の今年度の入賞者が決まった。47回目で、過去最多の2万8984件の応募があったそうだ。

文部科学大臣賞を受賞したのは、「ecoでマイナス気温」というもの。水で湿らせたタオルに扇風機で風を送ることで、冷気を生み出すというアイデア。タオルを湿らせ続けることが秘訣のようだ。
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興味を引いたのは、朝日新聞社賞を受賞した『トイレ革命 〜男性女性に心地よいトイレ〜』
一つの便座を回転させることで、座っても、立ったままでも使えるというアイデア。最近では学校の便器も洋式が増えてきたが、学校で洋式便座を使うことに抵抗感がある生徒もいるようだ。また自宅に洋式トイレしかない場合にも、重宝しそうだ。
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誰か実用化してくれないかな〜

新しいアイデアを思いつくことも大変だが、それを実用化するときも大変な苦労を伴う(ことが多い)。
免震構造のアイデアは1920年代に出ていた。建物と地盤の間で、転がしたり滑らしたりすれば、地震の揺れを建物に伝えないことは、ある意味誰でも思いついたかもしれない。しかし、実際にそれを現実のものとするには、ずいぶんと長い時間がかかった。

それを実現したのは、1980年代に実用化された「積層ゴム」であった。
わが国で積層ゴムを実用化するために、ゴム材料の研究、積層ゴムの形状などさまざまな問題を解決する必要があった。しかし、それが実現できたのは、わが国で「免震」を実現したいという開発者たちの熱意があったからではないだろうか。

免震層のつくり方

先日、とある技術者から免震建物における免震層の点検について話を聞かされた。以下は、それを聞いての、ひとりごとである。

免震層は建物を地盤から絶縁し、地震の揺れを建物に伝えないようにしている。免震層のつくり方によって、免震建物の性能が決まるといっても過言ではない。免震層には、アイソレータとダンパーが設置される。

アイソレータというのは、建物の重さを長期間支えながら、いざ地震というときには水平方向に大きくゆっくりと免震建物を揺らすことが求められる。主なアイソレータに、積層ゴムがある。

ダンパーは、建物の重量は支えないものの、地震のときには揺れのエネルギーを吸収して、揺れの大きさ(振幅)を抑制したり、揺れている時間を短くする働きをする。主なダンパーに、鋼材・鉛ダンパーやオイルダンパーなどがある。またダンパーには風揺れを抑えるという役割もある。具体的には鋼材や鉛ダンパーを降伏しないようにすることで強風時の建物の揺れを低減できる。

免震層には、この二つの機能が欠かせない。
この機能を一つの部材(装置)に組み込んだものを「機能一体型」、別々にしたものを「機能分離型」などと呼ぶこともある。機能一体型の代表は、鉛プラグ入り積層ゴムや高減衰積層ゴムとなる。鉛プラグ入り積層ゴムは積層ゴムの中心に鉛の棒を封入して、地震で積層ゴムが水平に変形したときに、それに伴い鉛棒も変形して地震のエネルギーを吸収するという仕組みだ。高減衰積層ゴムは、ゴム自体でエネルギーを吸収できるように特殊なゴム配合にしたものである。

機能分離型は、アイソレータに天然ゴム系積層ゴムを使い、ダンパーを別に設けるタイプである。天然ゴム系積層ゴムは、性能に優れた天然ゴムを主成分としており、それ自身でエネルギーを吸収することはできないが、建物の支持性能や水平方向の変形性能に高い性能を有している。ダンパーを別に設置するので施工の手間が増えると意見も聞いているが、そこは施工者の腕の見せ所ではないだろうか。

免震建物は、耐震構造と異なり、非常に単純である。免震建物であれば、大地震がきても建物は弾性範囲にあり、損傷はでない。これは免震層で地震エネルギーのほとんどを吸収するからである。一方、耐震構造では構造体が損傷することで地震のエネルギーを吸収する仕掛けとなっている。そのため建物のバランスが悪いとどこかにエネルギーが集中して、大きく壊れるということもおきている。

このように単純な免震建物には、免震層も単純明快な構成とすることが望ましいと考えている。単純なシステムに複雑な機構は似合わない。すなわち、機能分離型である。機能一体型も部材(装置)が一種類で済むとか、施工が簡単だとも言われるが、もし大地震が来た後の性能の検証は可能なのだろうか。鉛プラグ入り積層ゴムの中の鉛棒はどうなっているのだろうか、次の地震が来ても性能は確保されているのだろうか。鉛棒を直接見ることができない状況で、どう判断するのだろうか。高減衰積層ゴムも同様だ。

これに対しては、事前に実験で性能を検証しているから、大地震が来ても問題ないという判断もあるかもしれない。しかし、将来発生する地震動は誰もわからないし、何十年先になったときに、そのことを知ってる設計者や技術者は残っているだろうか。

機能分離型ならば、ダンパーの外観をチェックすることは簡単だ。鋼材・鉛ダンパーにいたっては、地震エネルギーを吸収すれば、鋼棒や鉛が変形して、どのくらいエネルギーを吸収したのかは一目瞭然である。必要なら交換することも、建物を支えていないので、アイソレータに比べれば簡単だ。2011年の東日本大震災のときに鋼材や鉛のダンパーが地震エネルギーを吸収して変形をしたのを見て、こんなに曲がってしまって大変だ、と設計者が言っていたという。真偽のほどはわからないが、設計者として地震のときに免震部材がどうなるかを知らなかったということになる。

免震構造も実用化から30年を過ぎて、マニュアル設計が増えてきたのかもしれない。そうした設計だと、何十年も先のことを、どこまで真剣に考えているだろうか。大地震がきたら免震部材と免震層の点検をして、免震建物の性能を判断する必要がある。そのときに、免震部材の性能を誰が、どのように判断するのかを決めておく必要があるし、それを何十年も継承していくことが必要となる。何十年先でも、専門家でなくても、外観の目視で性能が確認できるのは、機能分離型でしかない。

免震層の環境も劣悪なところがある。湿度が高く、鉄部がさびていたり、結露によって弾性すべり支承のすべり板の上が水浸しになっていたりする。また鳥の糞があったり、基礎部に常に水が溜まっているところも。免震部材の選択・配置だけでなく、免震層をどうつくるかによって、何十年ものあいだ免震建物が性能を維持できるかどうかが変わってくる。
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免震建物の設計と施工では、免震層のつくり方と点検のことを十分に考えてほしい。

付け加えるならば、ここ10年くらい新しい免震部材(装置)の開発は行われていないのではないか(改良はあっても)。免震技術のさらなる発展のためには、免震部材の性能の高度化などが不可欠である。しかし、設計者をはじめメーカーの腰はおもい・・・

熊本城宇土櫓の被害状況

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朝日新聞(11/18付け)に『熊本城の宇土櫓、内部映像を初公開』という記事があった。上の写真の手前が宇土櫓で、奥に見えるのが天守閣。
熊本市は18日、熊本地震で被害を受けた熊本城の宇土櫓(やぐら)(国の重要文化財)内部を撮影した映像を初めて公開した。17世紀初めの築城当時の威容を誇る櫓だが、内部の壁の多くがはがれ落ち、柱や床が傾いていた。

映像は約16分。熊本城総合事務所によると、職員3人が16日、最上階の5階まで階段で上り内部を撮影した。宇土櫓は1601〜07年建築で、構造は三重五階櫓。同事務所の河田日出男所長は「建物は残ったが、内部はかなりの被害が出ていることを実感した」と話した。

宇土櫓の内部(1階と2階)の被害状況は↓から見ることができる。


1階から3階までは鉄骨のブレースが壁面に配置されている。耐震補強されていたようだ。2階の鉄骨ブレースが一箇所座屈していることが確認されている。1階と2階では漆喰壁の剥落などの被害は大きいものの、軸組自体の被害はそれほど大きくないように思われる。櫓全体が傾いている可能性もあるが。

3階から5階は↓で。


3階より上での漆喰壁の大きな剥落はほとんど見られない。櫓の構造にもよるのかもしれないが、下層部ほど大きな層間変形が生じたということか。今後詳細な調査が行われ、櫓の耐震性の解明につながることを期待したい。

参考までに、熊本城天守閣の内部の被害映像は↓


Fランク化する大学

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音 真司著『Fランク化する大学』(小学館新書)を読んだ。

Fランクというのは、大手予備校による命名で、入試がないか、あっても形式だけで入学できる大学ということのようだ。こうした呼称はいまでは使われていないというが、現実的にはこうした大学もあるということを著者は指摘しているし、こうした大学に入学しないように受験生や親に大学選びのアドバイスも示している。

著者は、5年間にわたり3つの私立大学で非常勤講師をした経験に基づいて、本書を執筆している。「総理大臣の名前がいえない」「ヨーロッパを国の名前だと思っている」など学生の質の低下が叫ばれているが、それは学生だけの問題ではなく、教授陣の教育に対する考え方、大学経営の問題などもあると指摘している。

Fランク化する大学をこれ以上増やさないためには、市場原理にかけて、増えすぎた大学の中でも質の低い大学や、小手先の手段を使った受験生集めに走る大学を淘汰するしかない、という。大学の情報公開も求められているが、それだけでは不十分で、消費者としての受験生や親が大学教育についてもっと関心をもつ必要があるとも。

私立大学に通う場合、文系学部なら4年間で450万円ほどは授業料が必要となる。さらに親元から離れて一人暮らしする場合には、生活費を含めて月10万円程度、4年間で480万円も必要となる。これだけで約1000万円という金額が必要となる。理系学部ではさらに高額になる。

一方、4年間を大学進学せずに、働いていたとすれば、アルバイトといえども月に15万程度は稼ぐことができる。4年間では720万円になる。これを加味すると、学生が親元から離れて私立大学の文系学部に進学した場合、4年間の投資金額は1700万円程度と試算できる。

これだけの投資をするのだから、大学や学部を選ぶ際には慎重になるべきだと、指摘している。

大学生の中には、生活が苦しくてアルバイトせざるを得ない学生もいる。そうした学生のために奨学金などの支援をしていくことも大学には求められている。学生の中には、親が授業料を払っているためか、1回の授業でいくらくらいのお金がかかっているのか理解できていない者もいる。

卒業に必要な単位数は少なくとも124単位。単純に1科目2単位だとすれば、卒業までに64科目の単位をとる必要がある。1科目は15回の講義で成り立っているので、全授業回数は960回となる。4年間に支払う授業料を450万円とすれば、1回の授業(90分)あたり4700円ほどのお金を払っていることになる。もちろん授業料の一部は図書の充実だとか、校舎や施設の充実などに使われてはいるが。

いずれにしても1時間あたり3000円くらいを支払っているわけだから、それに見合った授業の質を求めるべきだろうし、授業をサボるというのももったいないと思うのだが・・・

ニュージーランド地震でウエリントン市の建物が倒壊の危機?

ニュージーランドの南島で、11月14日(月)の深夜にマグニチュード7.8の地震が発生した。震源はクライストチャーチから北に約100km離れたところ。震源の近くにはKaikouraという観光地がある。
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この地震によって死者が2名出ているものの、建物の被害の詳細は不明(報道によればウエリントンでは構造被害が懸念されている建物が60棟くらいあるそうだが)。写真左はクライストチャーチから125km離れたところにあるコテージの被害。地割れや地滑りなどが多数発生している模様。
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この地震によってウエリントン(Wellington)でも結構揺れていて、8階建ての事務所ビル(鉄筋コンクリート造)が倒壊する危険があるとの報道もある。ウエリントン市では、周辺建物の利用制限をしているようだ。
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ウエリントン市には、数棟の免震建物があるが、それらはうまく機能したのだろうか。

リフォームで自宅にジム?

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日経産業新聞(11/11付け)に『自宅にジム リフォーム』という記事があった。
積水化学工業(株)住宅カンパニーは、主にマンションなど一般住宅を対象に、セントラルスポーツ(株)と「健康寿命を延ばすためのうちジム・そとジムリフォーム」の協業を行っており、このほど千葉県船橋市内のマンションにおいて「うちジム」第一号物件を完成した。

セキスイデザインワークス(株)を通じ、屋内で気軽に運動ができる「うちジム」・「うちジムキューブ」と、庭を運動習慣の場として活用する「そとジム」の2種類のリフォームを提案・販売する。

「うちジム」では、マンションなどの2畳程度の狭い空間でも日常動作を改善するエクササイズが行える仕組みを組み込む。「うちジムキューブ」では2坪程度のスペースに、目的別に合わせ、運動空間を施す。「マッスルーム」「ハッスルーム」「フラルーム」といった3タイプを用意している。

第一号物件は、50代の夫婦が、自宅の隣の住戸を両親(80代)のために購入。その使用頻度の少ない2部屋を有効活用するために、「うちジム」仕様によるリフォームを行ったもの。施工面積は7.5平米(フラルーム+マッスルーム)と9.8平米(ハッスルーム)。工事期間は約3週間で工事費用は約250万円(税別)。

「うちジム」「そとジム」リフォームは健康寿命を延ばすためには役立つかもしれない。そこにセントラルスポーツのノウハウが提供されることで、『暮らし方』にまで踏み込んだリフォームとなっている、ということかな。

自宅でできる健康運動器具はたくさんあるが、リフォームにまで踏み込むのは珍しいだろう。工事費用が250万円というのは、高齢者には簡単に捻出できる金額ではなさそう。健康寿命を延ばす健康法やサプリメントなどはすごく受け入れやすいが、建物の耐震性や地震に対する安全性確保についてはなかなか理解が得にくい。

住み手の健康維持のためのリフォームも大事だけど、地震のときの安全性を確保するリフォームや耐震補強がすすむような新しい視点も必要なのかもしれない。

活断層には特定の微粒子が存在する

日経新聞(11/12付け)に『活断層なら特定の微粒子 阪大が判別手法』という記事があった。
特定の岩石の微粒子が断層に残っているかで、ここ約千年の間に断層が活動したかが分かる手法を開発したと、大阪大の広野哲朗准教授(地震断層学)らのチームが発表した。成果は英科学誌電子版に掲載された。

地震を起こす恐れがある活断層の判別や、最新の活動時期の推定に役立つと期待される。

チームによると、これまで、地表付近に堆積した地層のずれが存在するかどうかでしか、活断層を判別できなかった。新手法は、この層が削られていたり地中に埋もれていたりしても使える。

チームは、大きな被害が出た慶長伏見地震(1596年)で活動した、神戸市から大阪府高槻市までの長さ約55キロの断層帯の岩石を分析。

その結果、周辺の断層ではない部分には見られない数十ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の「非晶質微粒子」が多く見つかった。他の断層でも確認されたため、地震によって断層に特徴的にできる微粒子と結論付けた。

過去の気温条件などからこの微粒子が水に溶ける速度を計算したところ、千年以内に溶けて消失すると判明し、残っていれば、約千年の間に地震があったと判断できることが分かった。

広野准教授は「活断層ごとに鉱物や環境条件を精査し、より厳密に活動時期を特定できる可能性があり、原発など重要建造物への影響の検証に利用できる」と話した。

論文中の図2では、非晶質材料がPSZ(Primary Slip Zone)に多く含まれていることが示されている。
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(a)すべての試料のX線回折パターン
(b)粘土鉱物、非粘土鉱物などの成分の重量割合
(c)非晶質材料の重量分率
(d-f)材料の走査型電子顕微鏡写真
(g)PSZ(Primary Slip Zone)からの超微粒子の電子顕微鏡写真

こうした手法が実用化されれば、活断層の活動時期をより正確に推定することができるようになるかもしれない。研究の詳細は、大阪大学研究リリース速報でも見ることができる。


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講義中・・・
著書など
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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