熊本地震の初動対応

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日経新聞(7/21付け)に『 熊本地震の初動対応、物資輸送などに改善点』という記事があった。
政府は20日、熊本地震の初動対応を検証したリポート(PDF)をまとめ、物資輸送や自治体支援の改善点を記した。熊本地震では政府が支援物資を自治体の要請を待たずに送る「プッシュ型支援」を初めて本格展開し、水や食料が十分に確保できたとした。一方、物流拠点に物資が滞留し、避難所まで行き渡らないという課題も残った。

政府は地震の発生直後、各府省の幹部らで構成する「被災者生活支援チーム」を設置。熊本県庁に現地対策本部を設けて初動対応にあたった。

支援物資の滞留を解消するため、今後は自治体や物流事業者の役割分担を記したマニュアルを策定する方針。物資が確実に避難所に行き渡る体制をつくる。

自治体支援では各府省の幹部職員を現地に派遣して、迅速な対応ができたと評価した。ただ、緊急時への対応に備え、名簿やマニュアルの作成が必要だと指摘した。今後発生が懸念される南海トラフ巨大地震など被害が広域にわたる災害では、対応方法をさらに検討する必要があるとした。

詳しいことは、平成28年熊本地震に係る初動対応検証チームのサイトに出ている。レポートを読んでみると、今後検討しなければならない課題も多いことがわかる。レポートは、ー治体支援、避難所運営、J資輸送の3点について記載されている。あくまで国側の職員から見た内容であり、今後、自治体職員の意見も踏まえる必要がある。

さらに、今回の熊本地震は、被災地が比較的限定されており、生活インフラの復旧が早く、通信インフラが甚大な被害を受けなかったなど、初動対応が比較的円滑に進められたことは認識しておく必要がある。

防災拠点の耐震化については、「×」の評価となっている。
応援職員がその役割を果たすためには、被災した市町村が速やかに指揮系統を回復できるか否かが重要であるが、今般、市町村の業務が停滞した大きな要因として、庁舎が被災し、自治体としての一体的な執務継続ができなくなったことが挙げられている。

対処方法としては、庁舎に限らず、体育館等の防災拠点については、いざというときに機能できるよう、耐震化や天井落下を防ぐ措置等を推進する、という。避難所で安心して避難生活ができる環境の整備が必要だろう。ぜひ免震構造の採用をお願いしたい!!

そのほか避難所運営については、プライバシーの確保が十分でなかった、福祉避難所の認知度が低かった、ペットの問題などが示されてる。また、今回の地震の特徴として車中泊など避難所以外で避難するケースが目立った。
避難所の運営は、被災地の地理や住民、地域の諸事情に最も詳しい市町村が主体的に担うべきであるが、一方で、その負担が大きいのも事実である。被災市町村が、経験のある他の自治体やNPO、民間企業、団体等の支援を積極的に受け入れつつ、早期に避難者による自主的な運営ができるよう、速やかに、避難所運営ガイドライン、様々な取組の事例集を作成し、市町村に対して周知する。

支援物資の輸送も問題もあるが、少なくともマニュアルやガイドラインを整備しておくことが必要だろう。もし、震災が発生すれば、マニュアルのとおりにはできないことも出てくるだろう。そうした場合でも柔軟に対応できるような訓練も必要だと思われる。

ゼネコン バブル超え?

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週刊東洋経済誌(7/30号)の特集は、『高笑いが止まらない! ゼネコン バブル超え』
ゼネコン、特にスーパーゼネコンの収益は絶好調らしい。
「いまや赤字受注など1件もない。採算のよい仕事を慎重に選んでいる」。
あるゼネコン幹部は豪語する。

ゼネコンの勢いが止まらない。大成建設、鹿島、大林組、清水建設の上場4社は2016年3月期、そろって最高純益を更新した。特筆すべきはその急回復ぶりだ。たとえば鹿島の純益は、151億円から723億円へジャンプアップした。

11年以降、業界を取り巻く環境はガラリと変わった。東日本大震災の復興需要に加え、東京五輪の開催を見据えた再開発プロジェクトが次々に立ち上がった。業界では人手不足が表面化。需給は完全に逆転し、安値受注は過去のものとなった。

同誌には、スーパーゼネコンの社長へのインタビュー記事も掲載されている。
大林組の社長は、五輪後も丸の内のリニューアル工事や再開発が続いていくので、今後10年先までは大丈夫、という。大成建設の社長は、18年から19年に仕事のピークを迎え、東京では3割くらい仕事が増えるが、五輪後は仕事量が減少することは避けられない、という。清水建設の社長も、仕事量は18年から20年がピークになるため、施工能力をより高めることも必要だという。

見方が若干異なるものの、現在の仕事量が今後も続くというのは考えにくい。各社は海外進出の度合いをさらに高めたり、建設現場の働く環境の改善も必要という意見もあった。

建設業界では、以前から「3K」職場と呼ばれたり、職人不足、重層下請け構造の問題などが指摘されている。いま利益があがっている時期に、こうした問題を解決すべきではないだろうか。とあるスーパーゼネコンで働いている卒業生は、この2ヶ月間の休日は2日だけだったと言っていた。建設現場は、これが当然だということだろうか。働いた分は給与に反映されているのか?

早朝から深夜まで働いて、それで会社が儲かったというのは、何かおかしいと思うのだが・・・

液状化予測の限界

日経ホームビルダー『簡易な液状化予測の限界を露呈』という記事があった。
熊本地震では、熊本市内を中心に液状化が多発したが、事前に熊本市が公開していたハザードマップで最も発生リスクが高い予測だった場所以外に被害が続出した。また、スウェーデン式サウンディング(SS)試験の結果を基にする簡易判定では予測できない場所もあった。

日吉校区自治協議会と日吉商工会が、南区の近見、日吉、草刈地区などで実施した調査によると、液状化で家の傾きが1度を超える全壊が25%、0.5度を超え1度以下の半壊が34%に達していた。
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熊本市が公開していた液状化ハザードマップでこれらの地区を見ると、液状化の発生リスクが「極めて高い(最上位)」に該当していない。逆に、極めて高い(最上位)に指定した中で、実際に液状化が発生したのは海沿いの数カ所だけだ。市内の南側半分を「極めて高い(下位)」に指定していたにもかかわらず、液状化が発生したのはその一部に過ぎなかった。液状化ハザードマップが当てにならなかったことを、露呈した。

WASC基礎地盤研究所社長の高森洋さんは、南区の住民から新築時に実施したSS試験の結果を2棟分入手。それを基に液状化危険度の判定を試みたところ、2棟とも液状化のリスクが小となった

(日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針で規定している)簡易判定法は便利な方法だが、これだけでは判定を誤る可能性が少なくないことを再認識した。土質の調査と正確な水位測定が不可欠だ」と高森さんは話す。

液状化の発生リスクをハザードマップや簡易判定以外の観点からも調べたい場合は、地形区分や土地の履歴のチェックも重要だ。熊本地震で被害が多く見られた地形区分は自然堤防だった。近見・日吉・刈草地区や川尻地区などが該当する。

土地の履歴でジャパンホームシールドが注目したのは、堀田と呼ばれる水田だった場所だ。熊本市東区秋津地区など、堀田を埋め立てた数カ所が液状化した。同社技術推進部部長の小尾英彰さんは、「堀田は全国各地に作られて、圃場(ほじょう)整備で無くなった。水田の埋め立て地では要注意だ」と話す。

熊本地震での液状化に関しては地盤工学会において詳細な調査が実施され、液状化マップも作成されている。日本建築学会は主として建物被害に着目して調査・分析を行っているが、地盤や液状化のことまでは手が回っていないのが現状だ。今後は地盤工学会との連携なども視野にいれている。

本来、建築物は地盤の上に構築されるわけで、設計時に想定していない地盤変状がおきればどうしようもない。建築しようとしている土地の履歴や地盤特性をしっかりと把握することが欠かせない。

建築のプロ、耐震基準に厳しい目

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日経産業新聞(7/25付け)に『建築のプロ、耐震基準に厳しい目』という記事があった。
建築に関わるプロは現行の建築基準法で建てられた木造住宅に対して、震度6強から震度7の地震動を受けた場合「全壊する」と考えている人の比率が16.4%、「倒壊する」が同6.4%いることがわかった。全壊と倒壊の回答を合わせると22.8%の人が現行の耐震基準では震度6強以上の地震動で大きな被害が生じると考えていることになる。
(※上の図は木造住宅の設計・施工に関わる実務者に絞った数値なので若干割合が異なっている)

日経ホームビルダーだ6月24日から28日までインターネットで調査した。回答数は311人。木造住宅の設計や施工に関わる工務店や設計事務所といった実務者のほか、大規模建築などに関わる建築のプロが回答した。

木造住宅の耐震性能に対する意識は熊本地震後変わったのだろうか。

回答を木造住宅の設計・施工に関係する実務者(246人)に絞り込んで分析したところ、54.9%の人が「以前よりも高い耐震性能を想定するようになった」と回答した。家づくりの実務者は今後、建て主に対してどのような耐震性能を持つ住宅の仕様を薦めるのだろうか。

今後推奨する住宅の仕様を尋ねたところ「耐震等級3」と回答した人の比率が最も高く25.6%だった。「耐震等級3+制振システム」(19.9%)、「耐震等級2」(14.2%)と続く。「耐震等級1」と回答した人は1.6%にとどまった。

この調査で回答した人の数が少ないので、なんとも言えないが、多くの実務者が現行の耐震基準を上回る耐震性を持たせたいと思っているようだ。しかし、耐震等級2以上の性能を持たせたいという回答は約6割であり、残りの4割はどういう回答だったのだろうか。

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(写真は日経ホームビルダーの記事から)

熊本地震では耐震等級2の新しい住宅でも大きな被害を受けている事例があった。詳細な検証は現在行われていると思われるが、柱や筋交いの取り付け部が不十分だったために、その性能を発揮できなかったのではないかという報告もされている。構造設計や仕様だけでなく、施工においても耐震性が確保されるようにしなければならない。

加えて、震源断層の近くでは非常に大きな揺れ、地盤のズレが発生する。そうした場合には、耐震等級3でも不足するかもしれない。地震の危険度、地盤特性などを考慮しながら、適切な耐震性を付与することが求められよう。

熊本地震から100日

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熊本地震から100日を迎えた7月23日、岩手日報社が被災者を激励する号外を発行し、一部を熊本県内の避難所や仮設住宅にも配布した。公式サイトでもPDF版を公開している。1面にはこうある。
震災で、岩手は熊本をはじめ全国からの温かい支援を受けて、前を向くことができた。あれから5年4カ月。大船渡東高1年の新沼翼さんは「明日のことも分からず不安だらけの中、支援や励ましが何よりの助けになった」と振り返る。

私たちは、あの時の感謝を忘れない。

そして、今回の熊本地震。大船渡高1年の佐々木麻依さんは「1人では何もできないけど、みんなが力を合わせれば必ず復興できる。熊本に感謝と希望を届けたい」と、旗を握る手に力を込める。私たちは決して人ごととは思えない。

復興への航海は始まったばかりだ。荒波を越え、人々が心豊かに暮らす未来を目指して、共に歩んでいきたい。大切な古里がよみがえる日まで。

地震は自然現象であり、我々の力ではどうしようもない。
しかし、地震による被害は、なんとかできるはず。地震被害をできるだけ小さくする努力が不可欠となる。こうした悲劇をできるだけ少なくすることが、専門家の使命であろう。

震度7の揺れが60回?

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日経新聞(7/23付け)に『戸建て、耐震性競う』という記事があった。
戸建て住宅大手が地震に強い商品の開発・販売に力を入れ始めた。熊本地震では大手が手がけた住宅は全半壊といった大きな被害は少なかったものの、消費者の地震対策への関心は高まっている。三井ホームは新たな耐力壁の開発に乗り出した。ミサワホームは制震装置の搭載率を引き上げる。各社は安全性をアピールし販売増につなげる。

三井ホームは新たな耐力壁の開発に乗り出した。既製品を改良して強度を高めた試験品では、薄い木片を接着して圧縮した構造用壁材を使う。揺れで生じるずれに耐える力などが優れ、強度は国が定める3段階の耐震等級で最高の「3」(建築基準法の耐震性能の1.5倍)の水準を上回る。

実験棟で震度7級の揺れを繰り返し加えたが、損傷は下地の一部のひび割れ程度にとどまったという。同社ではひび割れも生じにくい素材・仕様を詰め、来年にも商品化を目指す。都心で需要が拡大している4階建て以上の住宅でも活用できるとみている。

耐力壁の既製品は約130平方メートルの家に付けると80万〜160万円だが、新商品は強度を上げながら価格は2〜3割下げることを検討する。
(以下省略)

住宅の価格が3000万円とすれば、コストアップは5%ほどか。これくらいのコストアップで免震化できるといいのだが。。。

下は、三井ホームが土木研究所で実施した実験映像。 震度7の揺れを連続60回も加振したが、構造体に損傷はない、という。


家具も一応おいてあるけど、大きく滑っている。棚とか食器棚がおいてあれば、完全に転倒しているだろう。構造体が損傷を免れるのいいとしても、基礎や地盤がそのぶんしっかりしていないとその性能は発揮できない。

地震の揺れと自動車

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この写真は、南阿蘇村で撮影したもので、軽自動車が横倒しになっている。後ろの建物は1層が完全に崩壊しており、庭には亀裂が入っていた。断層運動によって地表が激しく揺れたためであると思われる。自動車が転倒するような揺れとはどういうものだったのだろうか。

ところで、今回の熊本地震では、避難所ではなく自家用車で避難生活をしている方が多かったし、いまも継続している方々もいる。避難所ではプライバシーが確保できないとか、余震で避難所が揺れたり音がしたりするのが怖かったという声も聞かれた。

自動車は車体フレームと車軸との間に、ばねやショックアブゾーバという油の入ったダンパーが取り付けられている。これらは、自動車が走っているときに受ける衝撃や、振動を弱めるためのものだが、地面の揺れを伝えにくくする効果もあるだろう。自動車の上下の固有振動数は1ヘルツ〜1.5ヘルツほどと言われている。水平方向の振動数はタイヤの特性によるのかもしれないが、地震波の短周期成分はカットしてくれるだろう。

そういう意味で、自動車は柔構造であり、ダンパーによる減衰効果も見込めるため、余震による揺れも感じにくいのかもしれない。自動車技術を応用すれば、新しい減震効果をもつ建物もできるかな?

社会の納得する最低水準

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日本建築学会から『最低基準に関するWG報告書』(2007年3月、PDF)が出ている。この報告書のなかで千葉大学の高橋徹先生が「社会の納得する最低水準」と題して書かれていた。一部転載する。
他分野の安全性との比較
例えば自動車の場合新しく発売された型式の車に対して独立行政法人自動車事故対策機構が衝突安全性能試験を実施しているが、最近ではほとんどの車種で評価基準の最上位にランクされることが多くなっており、建築基準法で定められた最低水準さえ守っていれば地震に対しては安全であるかのような幻想を抱かせる結果となっている建築構造物と比べて大きな違いを生じている。

このような違いを生じさせていることの大きな要因として、建築物は一品生産であり、評価機関による試験などに馴染まない、地震などに遭遇する確率が非常に小さく、性能が確保されているか居ないかを評価する機会が非常に少ない、などの議論がこれまでのWGでの議論で挙げられてきた。しかし、免震・制震デバイスのような工業製品を組み込む構造物も増えてきており、このような面では評価機関による性能表示が可能になっている。

では、なぜ建築基準法で規定されている最低水準に設計水準が集まるのか、であるが、筆者は、建築基準法が最低水準(それがどのような判断に基づいて設定されたのかの議論はオープンにされていない)だけを規定しているのが大きな要因になっているのではないかと考えている。自動車の衝突安全性のように5段階程度の指標を設けて提示すれば、最低ランクの評価に陥ることは避けようとする心理が働くのではないか。

もちろん、その前提として、現在の1次設計レベルが震度4と5の間くらいの、ごくありふれた水準を念頭にしていることや2次設計で想定している地震動のレベルでさえ震度6強程度であることなどがもっと一般に膾炙していかなければならないことは言うまでもない。

一方で、我々が地震に対する設計レベルを論じる場合の尺度である加速度や速度といった物理量と、一般社会で用いられる尺度である震度(気象庁震度階)の対応が、単純ではなく、上述のような当てはめもある一面でしか正しくないという問題もある。今後は一般社会の人々に建築構造物の設計水準について気象庁震度階よりももう少し踏み込んだ表現で広報していく必要性を感じる。

社会の納得する最低水準の設定
そのような基盤が整備された上での話として、社会の納得する最低水準を議論することができるようになるのではないだろうか。ほとんどの建築構造物が横一線の設計荷重(地震荷重の場合)を前提として設計されている現状では、最低水準を下げることは社会全体の安全性を切り下げることに繋がって非常に危険だし、そこに悪乗りする業者が出てくることが危惧される。

幸い、既存木造住宅の耐震改修では現行の耐震基準まで引き上げなくてもある程度生命の保全に繋がるとして、自治体によっては評点0.7 程度への補強や場所によっては多少なりとも補強すれば補助金が使えるようになる機運が見えるなど、耐震等級に差を付けることへの素地ができつつある。また、新築に対しても住宅性能表示制度に基づく評価を得た住宅が平成17年度には15.7%にまで増加しており、耐震等級で商品価値をアピールする気運も高まってきている。

新築住宅の耐震等級にしても既存住宅の評点にしても、荷重は一定で構造耐力側を上下させる考え方であるが、次の段階として、日本国内でも地点によって荷重の値もしくは信頼性の水準を変えることによって最低水準を定める可能性について考える。荷重の値を地点ごとに定めることは古くから雪荷重において行われており、地震荷重でも地域係数で、風荷重でも基本風速のマップとして与えられている。地震については近年、地震調査研究推進本部の活動などにより確率的地震ハザードマップなどが公表されるようになっており、建築基準法施行令にこだわらなければ相当確率論的に荷重値を定めることは可能になっている。

しかるに、これを基に一律の信頼性に基づいて最低基準を定めればそれでよいか、となると、そこにはもう一つ別の側面が有り得るように見える。それは、地域の防災力とでも呼ぶべきもので、ある一定規模の災害が発生したときに、その地域でどれだけの人を賄うことができるか、ということを考慮する必要があるだろうということである。

例えば、兵庫県南部地震と新潟県中越地震を比較したとき、最も地震動の大きかった地点で比較すれば、震度7相当の非常に大きな地震動が観測されており、地表最大加速度などの指標はほぼ同等となるが、全壊棟数は前者が10万棟以上なのに対し後者は3千棟あまりで約3%、死者数は前者が6400人に対し、後者は 67人(2006年9月22日現在)と約1%になる。地震動の持つエネルギーや位相特性なども関与するので単純比較はできないが、全壊棟数の比率と死者数の比率の違いだけから抽出すれば、中越の方が3倍災害に強いとも言える。

逆の言い方をすれば、人口密集地である程度以上の災害が発生した場合には地域で被災者を救う能力を超えてしまい、復旧にも長い時間を要するようになるという可能性が見えてくる。社会の納得する最低水準を定める場合には、このような、地域の持つ災害対応能力にも留意する必要があるだろう。逆に考えると、ある程度を越えた人口密集地帯を形成するような都市開発が、防災的な観点から見て妥当なのかどうか、という点にも思い至るべきではないだろうか。

耐震性能にはいろいろなメニューがあることをもっと知ってもらうことが必要だろう。そのためにも、どの程度の耐震性能なら地震被害がこれくらいに抑えられる、ただ費用はこれくらい増える、といったことが明示できれば良いと思う。しかし、車のような大量生産と違って一品生産では性能と費用の関係を明確に表示するのは難しいかもしれない。難しいからといって何もしなければ進歩はない。耐震性能によって地震被害がどう異なるのか、などを被害調査を通じて明らかにしていきたい。

熊本県によれば、熊本地震の全壊棟数は8359棟、死者数は49名(関連死と行方不明を含めると55人)となる(2016年7月20日現在)。兵庫県南部地震の被害と比べると、全壊棟数は約8%、死者数は0.9%ほどとなる。これは地域の防災力によるものなのか、それとも兵庫県南部地震から20年間の耐震性の向上によるものなのか。

地震が発生した時間帯にもよるのかもしれない。今回の熊本地震では14日に前震がおき、16日に本震が発生した。14日の地震で倒壊を免れた住宅も2回目の地震で倒壊した事例が多い。もし最初の地震で本震と同じ揺れが発生したらもっと人的被害は大きかったかもしれない。

全壊棟数の比較だけでなく、その地域にある建物のうち何棟が被害を受けたのかという割合(被害率)による評価も必要だろう。

中国の免震構造

中国の蘭州市に行ってきました。

西安よりも西にある都市で、黄河流域に形成されています。蘭州理工大学で、免震構造を中心に講演をしました。朝8時半から夕方5時くらいまで話をし、質疑をうけてました。さすがに疲れました。
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翌日は市内にある免震建物の見学に行きました。その一つはいま建設中で、地下1階の柱頭免震となっています。しかし、階段が免震層をまたいで設置されています(!)。これでは免震効果は望めないと僕を呼んでくれた教授に話しをしたら階段下にはプラスティック・フォームが敷いてあるという返事(?)でした。

さらにエキスパンション・ジョイント部分も地盤と一体化されているような状況でした。設計者が免震構造を理解していないのか、それとも施工者の問題なのか。中国では、免震構造で設計すれば上部構造の設計用せん断力を低減できて経済的とされていますが、もし地震が起きれば被害が拡大する可能性もあります。
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黄河は、母なる川と言われています。たしかに何でも飲み込んでくれそうな感じがします。黄河に最初に架かった橋があり、ドイルの技術で約100年前にできたそうです。
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蘭州は標高が高いため気温は昼間でも25℃くらいかと思います。朝夕にはもっと気温が下がりとても過ごしやすいです。また牛肉麺が有名です。朝食代わりにごちそうしてもらいました。
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いろいろな意味で奥深いです。中国は。。。

耐震基準は最低ライン

朝日新聞(7/8付け)の「私の視点」欄に日本大学特任教授の神田 順先生が『耐震基準は最低ライン 必要な強度 自ら考えて』と題して寄稿されている。
熊本地震による被害の全貌が明らかになってきた。特に、新しい建築基準で建てられた住宅を含む多くの木造住宅が倒壊したことが衝撃を広げており、国でもより強固な住宅づくりに向けた対策が検討されている。ただ、重要な視点が抜けているように思われる。

国の建築基準法は、地震に備えるうえでの建物の最低基準にすぎないということだ。

建築基準法の第1条には、法の目的として最低基準であることが明記されている。憲法が定めた財産権を極力侵害しない考えによる。最低基準とは「震度6強に対しても倒壊しない」こと。建物内にいる人の生命を守ろうとする強度で、損傷が生じないことを目指す強度ではない。実際の規定は、建物の基礎が震度6強程度の揺れで完全に倒壊しなことを計算で確認しているだけだ。今回のように、基準が想定する揺れを超える場合や、それに近い揺れが2度あった場合に、倒壊しないことを保証しているわけではない。

現在の基準は、1995年の阪神大震災の被害、98年の建築基準法の改正などが反映されている。震度6強に対応する設計だが、少しでも超えると倒壊するわけではない。阪神大震災での神戸市の調査例では、震度7程度の揺れでも大破・倒壊したものは平均で5%程度だった。地区によっては、0%から40%という具合に大きなばらつきもあった。同じ震度でも、地震や地盤の性質によって建物に及ぼす影響は異なる。同時に建物が基準より強固に造られたり、構造上の弱い部分が補強されたりすることが効果を発揮する場合も多い。現在の基準よりも、強固な住宅を造ることは十分に可能なのだ。

基準の想定を超えた地震がくれば数%の倒壊もやむなしというのが、建築基準法の意味するところだ。大きな地震のたびに、国が規制を強化する繰り返しは「国民のことを考えている」というポーズに見える。その基準さえ満たせば十分という誤解を招き、個々の建築主が自分で考えて判断することを妨げている。

さらにいえば、国の基準よりも、高い水準の住宅を造っている建築主や設計者が、コスト高となることで、市場経済の中で不利になったり、被害を免れても特に評価されなかったりするのは、健全な住宅市場とはいえないのではないか。

今回の地震で観測された最大の揺れでも壊れないほど、基準を強化するのはコストから考えて現実的ではない。国は基準強化ではなく、耐震基準が最低レベルの基準であることを国民にわかりやすく説明して、建築主が自分にとって必要と考える強さの住宅を建てる意志決定を大切にすべきだ。住宅業界は、住宅の強度と価格の関係を分かりやすく説明する。そうした仕組みを醸成していくことが肝要だ。

熊本地震を受けて、メディア関係者から質問を受けるなかに、「震度6強」の揺れを対象にしていることはなぜかということがある。なぜ「震度7」ではないのか?と。おそらく一般の方も不思議に思われるだろう。「震度7」は最上級なので、揺れに上限がないため、とてつもなく大きな揺れも含まれることになるので規定が難しいためだ、と説明するのだが、いまいち理解してもらっていないように思う。

それと、「数%の倒壊」もやむを得ないとしたときに、数%というのが1%なら許容できるのか、2%や5%でも許容範囲なのかについて社会的な合意はなされていないと思う。先日、電話で質問をしてきた記者は、2%は高いと感じると言っていた。

耐震問題を、災害時だけでなく、日常的に話題にできるような取り組みも必要ではないだろうか。

なお、地震荷重を大きくした場合、どれくらい建設費が増加するかを検討した研究がある。これによれば、建築基準法の2倍の地震荷重を考えたとしても、建設費は10%くらい増える結果となっている。耐震等級3であれば(1.5倍)、約5%の増加となっている。これくらいのコストアップで耐震性を高めることができるのなら、もっと高い耐震性を備えた建物が増えてもいいように思うのだが。。。
地震荷重と建設費
出典:神田 順、浅野美次ほか「地震荷重を変動させた時の各種建物の建設費について」
     日本建築学会大会学術講演梗概集、1994年7月


熊本城の復興

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日経新聞(7/14付け夕刊)の「あすへの話題」に城郭考古学者の千田嘉博氏が『熊本城の復興』と題して寄稿している。
平成28年熊本地震が4月に起きた。被災されたみなさまに心からお見舞い申し上げたい。

この地震でわが国を代表する近世城郭、国特別史跡の熊本城は甚大な被害を受けた。わかっているだけで52ヵ所の石垣が崩れ、13棟の重要文化財の櫓と門が破損し、5棟が倒壊。復元建物19棟も損傷を受け、倒壊の恐れがあるものは5棟に達した。国特別史跡として前例のない被災状況といえよう。

私は熊本市の特別史跡熊本城保存活用委員を務めている。知らせを受けて傷ついた城に駆けつけたが、あまりの被害の大きさに言葉を失った。

すでに崩れてしまった石垣に加え、石垣の変形や積み石のズレが生じている部分も多く、実際の修理はではそれらへの対応も求められる。新たな大規模崩壊を防ぐために、石垣の変形を止める措置が急がれる。また倒壊してしまった重要文化財の部材のすみやかな回収と、倒壊寸前の復元建物を支える緊急対策も欠かせない。

一刻も早く復興を進めたいところだが、大切にしたいのは安全性を確保しながら、城跡としての真正性を保つことだ。いくら早く修理ができても、にせものの石垣や、史実と異なる門や櫓を建てたのでは、加藤清正が築き、細川家が修理を重ねて守り抜いた熊本城ではなくなってしまう。

この城の学術調査を担ってきたのは市の熊本城調査研究センターだ。同センターが中心となり、学術的な成果を踏まえて城の本質的価値をよみがえらせることこそ、熊本の人びとが求める本当の熊本城復興だろう。

朝日新聞(7/1付け)で、千田氏は次のようにコメントしている。
近年の史跡整備では、城跡の本質的な価値をもつ石垣の保護を最優先して、建物の修理や復元建物の建設で、石垣内に建物を支える杭を打たないようにしてきた。私もそれが最善だと考えてきた。しかし櫓などが倒壊した熊本城の被害を実見して、城跡の歴史的価値を守りながら、見学者の安全も確保する新しい整備基準を、改めて考えるべきだと思う。

確かに史跡としての真正性や価値を守りつつも、新しい考えを導入してもいいのではないだろうか。これまでと同じものを継承していくことだけが、復興の姿ではないと思う。加藤清正の時代にこのような大きな地震被害があったなら、当時の職人たちは知恵をしぼってより良いものをつくったに違いない(と思う)。

現代の技術をうまく融合していくことも大事ではないだろうか。

宮大工の卵が倒壊神社の再建へ汗

西日本新聞(7/13付け)に『宮大工の卵が倒壊神社の再建へ汗』という記事があった。
全国で唯一、宮大工の養成課程がある球磨工業高(熊本県人吉市)の生徒たちが、熊本地震で倒壊した同県益城町の木山神宮の再建支援に乗り出した。「住民の心のよりどころを取り戻したい」。そんな思いから、地震から3カ月となるのを前に、装飾品の取り出しなどの文化財保護作業に取り組んだ。東日本大震災でも支援経験がある同校の生徒たちは培った知識や技能を活用して、地元の人々を勇気づける。

木山神宮は町内最古の1752(宝暦2)年建築。4月の地震で本殿や拝殿、楼門、鳥居など境内の全建築物が全壊した。復旧への公的な補助金が出ない未指定文化財のため、自力で再建しなければならず、苦境を知った同校は「解体時の装飾品の損失を防ぐ」などとして保護作業を申し出た。

作業は12、13日に行い、建築科3年の3人と伝統建築専攻科2年の3人、職員4人が取り組む。12日は現状を写真に収め、部材の名称と位置を記録。工具を使い、つぶれた本殿内から長さ約3メートルの柱を引き抜いたり、一刀彫の装飾品を取り出したりした。
(以下省略)

写真は地震から約2ヶ月後の神社の様子。
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木山神宮のフェイスブックページでは、現状の報告がされている。指定文化財ではないため、自力再建が必要ということで寄付を募る書類が倒壊した拝殿の前に置いてあった。寄付はこちらからでもできる。

益城町の分岐断層

日本学術会議の防災学術連携体が主催して『熊本地震・三ヶ月報告会』が開催され、さまざまな学会から熊本地震に関する情報が提供された。

そのなかで、日本活断層学会(発表PDF)では、活断層の詳細な調査が行われ、これまで知られていなかった活断層の存在も明らかにされている。益城町では甚大な建物被害が起きているが、その要因の一つとして、益城町には布田川・日奈久断層から分かれた分岐断層によるものではないかという報告があった。

図は発表スライドからとったもので、左側に益城町があり(記号fの近くが益城町役場)、分岐断層は県道28号線に沿うようにある。
益城町分岐断層

益城町の建物被害は、県道28号線とその南側にある秋津川にはさまれた地域で、特に被害率が高くなっている。益城町でも「震災の帯」のようなものがあったのではないか。震災の帯(断層の上)では、強烈な地震動に加え、断層運動にともなうせん断力、そして地盤破壊も関係しているのではないか、と報告されていた。

益城町だけでなく、西原村や南阿蘇村などにも地表断層が現れており、断層近傍での建物被害の分析では、地震動による揺れだけでなく、さまざまな要因を考える必要があり、一筋縄ではいかない・・・

熊本地震での免震構造

Yomiuri160710
読売新聞(7/10付け)に寄稿した文章です。
最大震度7の地震が続いた熊本地震からまもなく3か月。4月14日の前震では倒れなかったのに、2日後の本震で倒壊した建物もありました。地震の揺れに対し、建物の耐力や靱性(粘い強さ)を高め、抵抗するようにしたのが耐震構造です。柱を太くしたり、耐震壁を増やしたりしますが、建物の耐力よりも強い揺れに見舞われると、建物には損傷が発生します。1981年の法改正で設けられた新耐震基準で建てられた住宅で、大きな被害が出ていることが問題になっています。さらに、耐震性を高め、建物を守ることができたとしても、室内の安全を確保できるわけではないことも指摘されています。

耐震構造と考え方が異なる免震構造は30年ほど前から実用化されています。免震構造は、地盤と建物の間に柔らかい絶縁層を設けることで、地盤(地震)の揺れを直接建物に伝えない構法です。この絶縁層を免震層と呼び、建物を常に支え、地震発生時には水平方向に柔らかく変形します。免震層に使われる代表的な装置が積層ゴムです。薄いゴムシートと鋼板を交互に積み重ねており、水平方向にはゴムの柔らかさで変形し、水平面に対し、垂直な「鉛直」方向には、高層建物を支えることができるほど頑丈な仕様になっています。

積層ゴムだけだと揺れが長く続いたり、揺れ幅が大きくなったりするため、地震のエネルギーを吸収する装置も設置します。吸収する装置の材質は、鋼材、摩擦やオイルの粘性を利用するものなどさまざまで、車のブレーキの役割があります。適度にブレーキをかけることで、建物の揺れを低減するのです。

免震構造では、柱や梁などの構造部材に損傷が生じないだけでなく、建物の中にある家具や家電製品などの転倒も防止できます。今回の地震で、熊本県内の建物を調べたところ、マンション、病院、ホテルなど22棟の免震構造の建物がありました。免震構造の効果を調べる性能調査もしています。いずれの建物でも免震効果が大きく、建物だけでなく、室内にも大きな被害は出ていませんでした。病院やホテルなどでは業務を継続できています。

免震のマンションにお住まいの方に聞いたところ、家具も倒れず、食器も一切割れなかったそうです。水道や電気といったインフラの復旧後、そのまま生活を送っておられました。このように安全と安心を提供できる免震構造ですが、国内の普及率は1%程度とみられています。今回の地震をきっかけに、居住者に建物内の安心と安全をも提供できる免震構造の建物がもっと普及することを期待しています。

当初の原稿には、「アイソレータ」「ダンパー」という言葉を使っていたのですが、新聞社の担当者からは難しいので使わないでくれ、と言われました。だいぶ手が入った原稿となっていますが、一般向けの文章の書き方の勉強にはなったかもしれません(^_^;)。

いまのところ免震構造は万能ではありませんが、適切に地震動を想定し、余裕をもった設計をすれば、現時点ではもっとも優れた構法ではないかと思っています。もっと世の中に免震を!

熊本地震、米など5カ国で研究

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日経新聞(7/6付けの夕刊)に『地震、米など5カ国で研究 連続の揺れに強い設計など』という記事があった。
4月の熊本地震で被害が拡大した原因の究明と対策に向け、東北大学や防災科学技術研究所など日本の7大学・研究機関は、ニュージーランドや米国など4カ国と8件の国際共同研究を始める。震度7の揺れを2度受けた建物の被害を調べ、繰り返し大きな揺れに見舞われても倒壊しない建物の設計法を開発するほか、余震の推移を予測する新たな手法を探る。政府が研究費を緊急支援する。

共同研究の相手国はニュージーランドと米、タイ、ネパール。いずれの国も大地震のリスクを抱えており、地震による被害を軽減するための対策が急務になっている。熊本地震の教訓を共有し、共同研究を通じて減災を目指す。

熊本地震では、4月14日に発生した震度7の地震では倒壊を免れたものの、同16日に起きた2度目の震度7の地震で倒壊した建物が少なくなかった。市役所などの防災拠点も大きく損傷し、建物の耐震対策に課題を残した。

東北大学の前田匡樹教授はニュージーランドのオークランド大学と共同で、揺れの繰り返しによって建物の耐震性能がどのように損なわれるか調査する。被害を受けた建物と受けなかった建物を比較し、連続する地震に強い建築の設計手法の開発につなげる。
(以下省略)

秋山宏先生により提案されたエネルギー法に基づく耐震設計というのがある。この設計法では地震による荷重効果を地震入力エネルギーとしてとらえ、建物の塑性変形による吸収エネルギーとの対比で耐震安全性を評価するものとなっている。地震入力エネルギーは非常に安定した量で、建物の構造種別に依存せず、建物の1次固有周期と総質量にだけ依存する量とされている。

以前、日本建築学会の委員会でエネルギー法を鉄筋コンクリート(RC)構造に適用しようと試みたことがあった。エネルギー法を適用するためには、構造体のエネルギー吸収性能を評価する必要がある。RC部材の実験でエネルギー吸収に着目することはほとんどなされておらず、RC部材のエネルギー吸収性能をどう評価するかが課題となった。

そのとき、RCの研究者から、RC構造は繰り返し変形ではなく、最大変形によって性能がある程度決まるので、繰り返しの影響は考慮しなくてもいい、これまでも考慮してきていないといった主旨の発言があった。RC構造では繰り返し変形の影響は少なくて、最大変形に着目することが大事だ、という。

今回の熊本地震では震度7の地震が2回連続して発生したことで、損傷が拡大したと言われている。その原因は、繰り返し変形によるものか、それとも2回目の本震による揺れが大きくて被害拡大につながったのか。このあたりの検証から始めてもらうことが必要ではないだろうか。

こうした点は、RC造だけでなく鉄骨造や木造でも同じことだろうが。

熊本地震の建物被害と耐震設計

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熊本地震から3ヶ月が経過した。新建築(7月号)に『熊本地震の建物被害と耐震設計』と題して寄稿させていただいた文章を掲載する。
平成28年熊本地震では、震度7の地震が連続して発生するなど近年稀にみる震災となった。旧耐震基準の建物の耐震補強などが急務であるとされているが、それが不十分である現状が見せつけられた。一方で、新しい耐震基準に基づいた木造住宅でも大きな被害を受けたことについて関心が集まっている。

日本建築学会九州支部では災害調査委員会(委員長:高山峯夫)を組織して、被害調査を行っている。災害調査委員会では主に構造種別ごとに調査班を設け、日本建築学会本部委員会との連携も図りながら、建物被害の調査にあたっている。

特に益城町においては、悉皆調査を実施し被害要因の分析などを行っている。悉皆調査は、5月3日から8日の6日間実施し、約2,600棟の建物を調査した。調査にあたっては、災害調査委員会の構成員のほか、JSCA、建築士会、建築事務所協会、JIAなどからも協力を得た。悉皆調査のデータに基づいて、新耐震基準以降の住宅がどの程度被害を受けたのか等を明らかにしたいと考えている。

5月14日に行われた日本建築学会の速報会では、現段階での被害分析として,2000年以降に竣工した木造住宅(約400〜500棟)のうち、倒壊・全壊棟数は最大でも17棟であることが紹介された。ただし、悉皆調査のデータには多少の記入漏れなどがあり、また被害の評価にばらつきがあるため、現在精査中である。

ここからは建物の被害について,筆者の個人的な見解を交えて紹介したい。益城町以外でも西原村や南阿蘇村などでは木造住宅の被害が多数みられる。木造住宅が全壊・倒壊した要因については、〃設年代が古い(旧耐震基準)、∪澤彜霆爐鯆兇┐詁力地震動、C枠廖Υ霑辰諒兢,ど綉爐篁楾不良、などがあげられる。南阿蘇村では学生向けの木造アパートが多数倒壊(1階の層崩壊)している。これらのアパートは新しいように見えるものの、構造体は古いまま内外装などのリフォームをしたものと思われる。以前から耐震改修の重要性が指摘されているものの、リフォーム時点で耐震改修が推奨され、費用の補助制度があればこうした被害を防ぐことができたかもしれない。さらには、木造住宅の設計に構造設計者が関与するような仕組みづくりも必要ではないだろうか。

鉄筋コンクリート造建物でも被害が多く発生している。特に古い建物では層崩壊なども発生している。その一例としては宇土市役所が挙げられよう。災害時に防災拠点となるべき市庁舎などは、地震後にもその機能が維持できる高い耐震性をもたせるか、免震構造を採用することが望まれる。熊本県内にあった約20棟の免震建物は十分な効果を発揮したことが分かっている。

一方、マンションなどでは写真に示すようなエキス パンションジョイント(以下、Exp.J)の被害が発生している。地震の発生時間が夜だったこともあり、幸いなことにExp.Jが落下してけが人などは出ていない。Exp.Jの可動範囲や安全性については、建築計画の段階で十分検討されるべきだろう。
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熊本地震のように震度7の地震が連続して発生することを耐震設計でどのように考慮すべきかについては大きな課題となる。建築基準法に準じた設計だけでは建物が損傷することが改めて示された。どの程度の耐震性能を持たせるべきかについては地震危険度や建物の用途などを十分考慮して検討すべきである。

また、14日の地震の後、軽微な被害であった住宅に戻った人たちが16日の本震で被害にあった例もある。今回の地震では応急危険度判定をする間もなく本震が発生したが、もし応急危険度判定で緑のステッカー(調査済み)が貼られていたら、住民は安心して自宅に戻るだろう。しかし1回目の地震で建物の耐震性が低下していたら、次の地震で被災する可能性もある。古い建物に緑のステッカーを貼る場合にはそれだけ慎重な対応が求められるものであり、今後の応急危険度判定のあり方についても、検討が必要だろう。最後に、熊本地震で被災された方々ができるだけ早く元の生活に戻れることを祈りたい。

今回の熊本地震では、これまでの震災と同様な被害が発生し、避難所の問題なども従来から指摘された課題が残された。仮設住宅などでは「みんなの家」を建設するなど改善はみられるものの、罹災証明のための被災度判定などにはまだ時間がかかっている。

建築学会として熊本地震の被害分析はまだ十分ではない。今後は益城町の悉皆調査による被害データをまとめ上げ、被害要因についても検討を加えていきたいと考えている。

益城町の被害集中地域での地震記録

「益城町での臨時観測で得られた本震記録」で紹介した観測記録のデジタルデータが公開されました。

本震(4/16)の記録は、M-1(益城町役場近く)、M-2(役場の東側)、そして被害が大きいS-3(県道28号線の南側)で得られています。

観測波形(東西成分)を積分して速度波形、変位波形を求めました。S-3地点での最大速度値は184cm/sとなっています。S-3地点での加速度波形、速度波形とも短周期成分はあまりみられず、まるで正弦波のようです。
波形とスペクトルHATA_ページ_1

加速度応答スペクトルと速度応答スペクトルを求め、KiK -net益城と益城町役場の記録を重ね書きしました。
波形とスペクトルHATA_ページ_2波形とスペクトルHATA_ページ_3

スペクトルは南北(NS)方向と東西(EW)方向でそれぞれ計算しています。減衰定数は5%です。益城町役場(図ではTownHallと記載)での記録以外は、ほぼ調和的な応答となっています(短周期領域で差はみられますが)。特に周期1秒付近で非常に大きな応答となっており、南側の観測点ほど大きな応答となっています。

図中の黒い線は、告示スペクトルを示しています。実線は工学的基盤でのスペクトルで、点線はそれを単純に2倍したものです。観測記録の応答スペクトルは、告示スペクトルを大きく超えていることがわかります。

被害が県道28号線付近に集中しているのは、このような大きな地震動のせいなのでしょうか。

M6.8以上の地震 中国地方で50%

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日経新聞(7/2付け)に『6.8以上の地震発生確率、中国地方で50%』という記事があった。
政府の地震調査委員会(委員長・平田直東京大学教授)は1日、中国地方にある活断層が起こす地震の発生確率を評価した結果を公表した。今後30年以内にマグニチュード(M)6.8以上の地震が中国地方で起きる確率は50%とした。鳥取市や原発のある松江市がある北部で40%、山口市や広島市がある西部は14〜20%、岡山市など東部は2〜3%だった。

地域別に活断層の地震確率を公表するのは2013年の九州地方、15年の関東地方に次いで3例目。中国地方での発生確率は関東地方の50〜60%とほぼ同程度で、九州地方の30〜42%よりやや高い。今後、関西地方なども公表する。

今回は中国地方で長さが20キロ以上ある安芸灘断層帯など6つの主要活断層のほか、比較的小さな活断層や沿岸部の海底にある活断層など18を加えた合計24の活断層が地震を起こす確率をそれぞれ算定した。

今回の評価結果とは別に、調査委は6月に巨大地震の発生確率の長期予測を示す「全国地震動予測地図2016」を公表。主要活断層による活断層地震のほか、海溝型地震の両方を考慮し、30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率を示している。

この全国地震動地図と今回の評価結果で発生確率が大きく異なる地域もある。

岡山市は今回の評価では活断層地震の確率が2〜3%とされた地域にあるが、全国地震動地図では41%だった。平田委員長は「岡山は活断層評価では低い数字が出たが、(海溝型地震である)南海トラフ地震の影響もあり、油断しないでほしい」と呼びかけている。

同じ地域で地震発生確率が大きく異なるのも、ややこしい。一方ではマグニチュードで評価し、他方では震度を使っている。それぞれ目的が異なるのだろうが、この評価結果は、誰を対象にして公表されているのだろうか。一般市民か、行政関係者か、専門家なのか?

ものすごく専門的な評価を公表する際には、できるだけ分かりやすい説明があるべきではないだろうか。たとえば、地震動予測地図には付録2として「地震動予測地図を見てみよう」というのがある。ここでは予測地図の見方がある程度わかりやすく説明されている。

ただ、予測地図には大量の地図が掲載されており、どれが何を意味するのかを把握するにはずいぶん時間がかかりそうだ。だれに何を伝えたいのか、いまいちど検討してもらうことも必要ではないだろうか。

それにしても、今後30年で発生確率50%は高くない?

新耐震RCに被害なし

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出典:http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/041500569/041600012/

建設通信新聞(7/4付け)に『熊本地震被害の原因分析有識者委/新耐震RCに被害なし』という記事があった。
国土交通省は6月30日、熊本地震による建築物被害の原因を分析する有識者会議「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の第2回会合を開いた。構造別の被害状況と原因を分析した結果、1981年以降の新耐震基準でも被害があった木造に比べて、現行の建築基準を満たすRC造建築物に倒壊・崩壊といった被害は確認されていないことが分かった。

現時点での分析結果によると、被害の大きかった益城町中心部における新耐震以降で倒壊した木造住宅について、分析の対象になった99棟のうち、筋交い端部の接合仕様を確認した70棟の約7割に当たる51棟で接合仕様が不十分であることが確認された。

また、柱脚柱頭の接合仕様を確認した94棟のうち、 90棟は現行基準の接合仕様を満たしていなかった可能性があることも判明。 残る4棟は現行基準に沿った接合仕様であったことが推定されるとした。

結果として、木造住宅に特化すれば、接合部仕様が不十分であったために、地震動により接合部が先行して破壊、耐力壁が有効に機能しなかったことが被害を大きくした主な要因として推測されるとしている。

その一方で、RC造建築物については、 倒壊・崩壊した11棟がすべて新耐震基準の導入以前の建築物であることを確認。 現行の建築基準を満たすもので倒壊・崩壊に至った建築物は確認されていない。

この有識者会議は、実際に現地での調査を行っている国土技術政策総合研究所(国総研)の「建築構造基準委員会」(委員長・久保哲夫東大名誉教授)と、建築研究所(建研)の「建築研究所熊本地震建築物被害調査検討委員会」(同・塩原等東大大学院教授)の合同会議という位置付け。9月に開く第3回の会合で最終報告をまとめる。

あくまで建築物被害の原因分析を目的にした会議となることから、今後の対策への提言や耐震基準の引き上げといった建築基準の見直しに向けた議論は予定していない。最終報告を受けた国交省が必要に応じて今後の対策を検討することになる見通しだ。

日本建築学会でも同様の調査をしているものの、被害分析の方は正直言ってここまで進んでいない。学会の委員会ではこれから被害分析をするWGなどを立ち上げることになっていたりする。いずれにしても、木造住宅の柱や筋交いの接合部の仕様や施工方法には問題があるということのようだが、RC造やS造などには現行の耐震基準を見直す必要のあるような被害例はみられないようだ。

しかし、震源に近い益城町などにRC造のマンションなどがあったとしたら、その被害はどうなっていただろうか? また、倒壊に至らなくても被害が出ている建物はあるので、入力地震動の大きさに応じてどのような被害が発生するのかについては、施主や住民に説明することも必要ではないだろうか。

想定外だった2度の揺れ

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データ・マックスという会社が発行している雑誌『I・B』に免震構造のことでインタビュー記事が掲載されている。免震構造や耐震構造の説明をして、免震構造のメリットを説明している。熊本地震からの復興に際しては、免震構造の採用を考えてほしいと、結んでいる。

この雑誌には九州大学の清水 洋教授のインタビュー記事もあった。
清水先生は地震火山観測研究センターのセンター長であり、布田川・日奈久断層の地震リスクについても警告をされていた。清水先生は、本震クラスの地震が立て続けに2度起きたのは我が国では初めてのケースだという。その結果、倒壊するなどの大きな被害につながったと。

さらに、断層の真上に建物があったことで被害拡大につながったという。
断層の真上に建物がある場合は、これは耐震補強をしていようが何していようが、関係なく壊れてしまいます。と言うのも、揺れで壊れるのではなく”ズレ”で壊れるわけです。つまり断層の真上では耐震補強は無力ですし、そもそも耐震補強とかを超えた次元の話です。

あと、残念ながら耐震補強は万能ではありません。揺れに対してはいいのですが、今言ったようにズレと、あとは津波に対しても無力です。それは知っておかなければなりません。

今回の場合は、津波の心配はありませんでしたが、今後はなるべく断層の周りに建造物をつくらないだとか、あるいは学校や病院、公民館などの避難所になるような公共のものは、断層直上は避けて都市計画を行うという考え方が必要になると思います。

断層の真上というが、断層面の広がりもあるだろうし、どの程度離れていれば”ズレ”による被害を避けることができるのだろうか。益城町での建物被害を、「揺れによる被害」「ズレによる被害」に分けることができるだろうか・・・

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講義中・・・
著書など
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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