大学のある地名は、『七隈』（ななくま）という。
住所の漢字を説明するときに、「大隈重信」の「隈」などと説明しているが、「隈」がどんな意味なのかなんて思ってもみなかった。朝日新聞（4/12付けの夕刊紙）に『九州になぜ多い「隈」』という記事が掲載されていた。
難読地名で名高い福岡の雑餉隈（ざっしょのくま）。ここが地元の俳優武田鉄矢さんが、テレビで言っていた。「福岡は隈（くま）が多い」。地図を広げると、ある、ある、「隈」のついた地名が・・・。

福岡には干隈、田隈、佐賀には早稲田大学と創設者で同県出身の大隈重信を合体させたかのような「早稲隈」なる地名も。民俗学者・柳田国男は「地名の研究」の中で「クマという語は、九州には無数にある」と書く。

どしてこんなに「隈」のついた地名が多くあるのだろう。熊の生息地だったの？

日本地名研究所（川崎市）の菊地恒雄さんに教えを請うと「九州、特に九州北部は『隈』のつく地名は多いですね」とのこと。「ただ、動物の熊とは関係ないと思います」。

菊地さんの助言を受け、まずは「隈」の意味を調べた。地名を考える時は漢字よりも音が大事。歴史の中で様々な漢字があてられるからだ。地名辞典をひもとくと、「くま」には久万、球磨、隈、神などの漢字が挙がっていた。あれこれ辞書と格闘した結果、地名に関わる「くま」の基本的な意味は大きく二つあった。

一つは、川が曲がったところ、という意味だ。
長野県の千曲（ちくま）川は、まさに「曲」の字を「くま」と読む。菊地さんによると、熊本県の球磨川の名は、「くま」が多かったからと考えられるという。「くま」といって気になるのは、県名にもなっている熊本だ。熊本市立熊本博物館によると、かつては「隈本」と表記し、戦国武将の加藤清正が「熊本」に変えたとされる。同市を流れる白川の流域に「曲がったところ＝隈」があったのが由来との説がある。冒頭の雑餉隈も、近くを流れる御笠川との関連があるといわれている。

もう一つが、川が曲がった結果の、すみの方、奥まったところ、という意味だ。久留米地名研究会の古川清久さんによると、佐賀県内の帯隈や鈴隈など七つの「隈」は、それぞれ、有明海の奥まったところを指していたと考えられるという。

ただし、福岡市営地下鉄の路線名にもなった七隈は由来が違うようだ。運送業の人々が住んでいた「七車」からと考えられている。では、なぜ九州に多いのか。これははっきりとは分かっていない。古川さんは「隈とつけられた場所は平らな土地が広がり、稲作に適していた。隈を大切に思う集団がいたのではないか」という。

「地名の歴史学」などの著書がある九州大の服部英雄教授（日本中世史）は「地名から昔の人々の暮らしがみえる。歴史を見直す手がかりにもなる、大切な歴史研究の素材だ」と語る。

「七隈」は「七車」か。だから七隈駅のロゴは、荷車の車輪に七つの点を配置してるということか。
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「隈」に限らず、地名にはいろいろな意味が込められていると思われる。古い地名は災害の履歴書とも言われており、地名には「先祖のメッセージ」が込められているのだろうか。地名を分析することで、災害の予測や対策に結びつくかもしれない。

地名に隠された意味を探るのも、面白いかもしれない。