NobelPrize
日経新聞(9/30付け)にノーベル賞受賞者の大隅良典氏が 「日本からノーベル賞出なくなる」として懸念を表明している。
真理を探究するような基礎研究の分野で日本の水準が下がったといわれて久しい。早期の成果を見込めない基礎科学に大学も企業も研究費を回しにくくなっている現状が続けば産業競争力の低下につながりかねない。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典栄誉教授に日本の基礎科学の現状について聞いた。

――日本の基礎科学力の低下にかねて警鐘を鳴らしています。
「日本は豊かになったが、精神的にゆとりがない社会になってしまった。日本の大学はすべてを効率で考えるという袋小路に陥り、科学の世界に『役に立つ』というキーワードが入り込みすぎている。研究費が絞られるほど研究者のマインドは効率を上げることに向かうが、自由な発想なしに科学の進展はない」

「一流誌に論文を出そうとすると、みんなが飛びつく話題の方がいい。そうでないと研究費も確保できないが、自分がおもしろいと思うことをやるという原点が忘れ去られていく

――日本人がノーベル賞を次々に受賞する一方で基礎科学を支える予算は伸び悩んでいます。
「かつての日本の大学は基礎的な研究活動を支える講座費という制度が充実し、みんなが好きなことをやれた時代があった。今は研究できるポジションも少なくなり、親が大学院進学を止めるほど研究職は将来が見通せない職業になった」

「このままでは将来、日本からノーベル賞学者が出なくなると思っている。(日本人の連続受賞は)過去の遺産という面もある。世界的な学術誌に論文が出たからといって新しいコンセプトは生まれない。発想を転換しないといけない。オートファジーの研究には30年近くかかった」

――具体的な処方箋は考えられますか。
「日本の研究力が高まらないと日本の空洞化が始まると思う。日本企業も日本の大学を大事にする視点がそげ落ち、生命系のような分野では海外の大学にお金を出している。大学と企業の関係を見直す必要がある。基礎研究は大学、自由に製品化するプロセスは企業という分業関係も生まれないといけないだろう」

――産業競争力を高める中国や韓国でノーベル賞受賞が遅れています。
「中国は文化大革命の影響が大きかった。研究に大変なお金を投じており、これから続々と受賞者が出ると思う。中国は海外経験がないと大学の先生になれず、みんな留学をする。米国でポジションを得た人が中国に帰る際はすごくいい条件を得ている。オートファジーの分野でも10人ほどが米国から中国に戻った」

――10月2日から今年のノーベル賞受賞者が発表されます。
「今年も日本人の受賞があるかは分からないが日本で突拍子もなくおもしろい研究をしている若者が減っているのは事実だ。日本社会が科学者というある種の特異な人を育てる余裕を持ってほしい。科学は失敗の蓄積から生まれ科学者は社会的な存在であることを分かってもらえたらと思う」

科学の世界にも「効率」とか「役に立つ」という考えが広がっているのか。工学の世界では、社会問題の解決や新技術の開発などで、役に立つことが求められるのはわかるが、科学(サイエンス)にそれを求めるのはいかがなものか。ただこれまでの科学で取り扱っていた領域が、生命科学などのように大きく拡大してきており、こうした分野では「役に立つ」ということが求められているのかもしれない。そういう意味では「科学」というものを再定義する必要があるのではないだろうか。

同様なことは工学にも当てはまるように感じている。工学の分野でも非常に基礎的な研究も必要となる。そうした研究は今すぐには役に立たないかもしれないけれど、将来必要となる。そうした研究に対して「何の役に立つのか?」と問い詰めることは、工学の発展を遅らせたり阻害したりする可能性もある。

科学や科学者というものが、もっと社会に認知されることが必要だろう。

先日、福岡市科学館がオープンした。九州最大級のプラネタリウム(ドームシアター)を有している。こうした施設により、科学や技術のことを身近に感じ、基礎科学の重要性に理解を示してくれる市民を増やしていくことも必要だろう。