これまでに、わが国を襲った大地震(たとえば阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など)において、免震構造はいずれも良好な効果を発揮し、構造躯体の被害のみならず、室内の家具の転倒も起きず、病院などの機能も維持されている。わが国において免震建物の総数はすでに4,000棟を超えている。

免震建物には鉄筋コンクリート造が用いられることが多い。これは積層ゴムを使う場合、所定の支持荷重が確保できないと適切な免震周期を得にくいため、建物重量が重い鉄筋コンクリート造との組み合わせが多くなると思われる(もちろん建物の用途にもよるだろうが)。ただし、最近では鉄骨構造の事務所建築などへも適用される例が増えているという。

2016年4月にニュージーランドの地震工学会議に参加する機会を得た。その会議終了後、クライストチャーチに足を伸ばした。2011年に地震が起きて以降、クライストチャーチでは多くの建物が取り壊され、新しい建物が次々と建てられている。この地震以前には免震病院が1棟あるだけだったが、4月に訪ねたときには確認できただけでも6棟の免震建物が建設されていた(レトロフィット含め)。その中で最も多かったのは数階建ての鉄骨構造の事務所建築だった。

下の写真がその一例である。
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1階の柱は鉄筋コンクリート造であるが、その柱の上にアイソレータ(球面すべり支承)が設置されている。上部構造は鉄骨構造である。こうした事例が他にも見られ、球面すべり支承+鉄骨構造の組み合わせがよく利用されているようだ。球面すべり支承は、球面の曲率によって固有周期が決まるため、建物重量に依存しない。また摩擦によって地震エネルギーを吸収するためにダンパー機能も併せ持っている。球面すべり支承はコンパクトであり、柱頭免震にすることで免震層も有効に活用できるだろうし、基礎部分にクリアランスも不要となる。

どのような免震システムを使うかは、建物の規模、用途や機能、フロアレスポンス、免震層の応答変形、もちろんコスト、そして設計者の好み(?)などを勘案して決められる。こうしたことが設計の醍醐味であると思われるが、標準設計のようなものを用意しておいて、これにならって設計することができるようなものがあれば、もっと免震が増えることにつながらないだろうか。

低層建築物や高層建築物などを対象として、設計事例を多く紹介することができれば、免震設計に二の足を踏んでいた設計者も興味を示すのではないだろうか。わが国でも通常の耐震設計において、「免震」を用いることがより高い耐震性を目指す一つの有力な選択肢となる機会が増えることを期待したい。