制振

日本の免震・制振技術の海外展開

日本免震構造協会では、我が国の免震・制振技術を海外に展開すべくいくつかの国で免震・制振セミナーを開催してきている。

最初は、トルコだった。トルコでは大規模な医療施設を免震構造で建設しており、その際に日本の技術を導入したいという要望もあったのが最初の取りかかりだった。下は建築模型だが、1200床の医療施設。これ全部が免震構造。
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そうしたこともありトルコの首都アンカラで政府関係者を対象にしたセミナーを開催し、その後、イスタンブールで技術者などを対象としたセミナーを開催した。トルコの後はルーマニアで同様のセミナーを開催した。ルーマニアでは1970年代に建設された建物の耐震化が問題となっており、免震・制振技術よりも耐震補強に関する知見が求められていたように思う。

そして、今年の8月にはマレーシアとインドネシアで開催し、10月末にはインドでの開催が予定されている(私は校務の関係で参加できない)。マレーシアには大きな地震はないとのことで、耐震設計もそれほど求められていないという。しかし、セミナーには100名ほどが参加し、積極的に質疑応答があったと聞いている。

マレーシアの構造設計基準はユーロコードをベースにしており、インドネシアでは米国ASCE基準がベースになっているそうだ。いずれの国でも設計基準にはヨーロッパや米国の基準を下敷きに作られている。日本の耐震設計基準などはいくつもの震災経験に基づいて改訂されてきており、実績も高いと思われる。しかし、英文化して広く海外に周知できていなかったためか、日本の設計基準が世界で流通しているとはいいがたい。

別に日本の設計基準が他の国で使われなくてもいいのかもしれないが、日本の設計者や技術者が世界で仕事をするには、日本の設計基準が使えた方が便利だろう。さらに日本の震災経験を広く共有することで世界各地で起きる震災をできるだけ軽減することにも役立ててほしい、という思いもある。

そこで、日本の「免震構造設計指針」(日本建築学会)を英訳した。あまりダウンロードされていないようだが、広く活用してもらえると嬉しい。ただ現実問題として、すでに各国では設計基準をユーロコードや米国基準にならってつくっているため、日本基準を使ってもらうことは難しいだろう。

設計基準として使うことは無理でも、設計思想(フィロソフィー)は伝えることができるのではないだろうか。「免震構造設計指針」はその名のとおり「指針」であり、こういう計算をすればいいという手順は具体的に示されていない(逆に、使えない?)。ある意味、免震建物の設計を支援するための情報や考え方、すなわち設計思想が書かれている。こうした設計思想が数々の震災の経験に基づいて築き上げられたものなら、なおさら有益だと思われる。

海外での免震・制振セミナーを通じて、日本の経験や設計思想といったものを伝えていけたらと思う。こうした活動を通じて、日本と海外の設計者や技術者が交流を促進することにもつなげたい。いまは国内の仕事で忙しいかもしれないものの、その後に備えておくことも必要ではないかと・・・

木造向け制震装置

日経産業新聞(7/27付け)に「スリーエムジャパン 制震装置 木造向け開拓」という記事があった。
スリーエムジャパンは自動車のブレーキに使う素材を応用した摩擦材とステンレスを組み合わせた住宅用の制震ダンパーを投入した。

まず日本の戸建て住宅で主流の、柱と梁で構成する木造軸組住宅向け、続いて今年に入ってツーバイフォー向けを売り出した。一定の揺れまでは揺れに抵抗して建物を支え、中規模以上の地震になると摩擦材同士が擦れ合いながらずれて、揺れを熱エネルギーに変えて吸収する。

1棟に2台を使い、装置の価格は2台で税別30万円。
同社の制震ダンパーを壁に配置することで建物の設計時には、通常の筋交い入りの壁の5倍の強度を持つ壁として計算できる。窓を広くとったり、1つの部屋を広くしたりと、設計の自由度が高まる。施工性の高さも特徴で、現場で一人で30分ほどの短い時間で組み立てられるという。

この装置を中心に、建築会社に採用を働きかける。すでに年間300〜400棟の新築を手がける建築業者が採用を決めており、1万棟以上の大規模な業者も採用を検討しているという。
(以下省略)

制震装置をうまく使うことで、住宅の耐震性が高まるのはいいことだ。ただ、制震装置を効果的に働かせるには、その配置や周辺軸組の剛性・強度も重要となる。熊本地震のときには、耐震基準を満たしていても大きな被害を受けた住宅もあった。制震ダンパーの特性を十分に把握した上で、住宅に組み込むことが必要だろう。

制震ダンパーには、こうした摩擦を利用したものの他に、粘弾性体や鋼材などを利用したものもある。これらの制震ダンパーの統一的な性能評価はされているのだろうか。制震ダンパーを組み込むことで、間取りの自由度があがるという面が強調されすぎるのは良くない。制震ダンパーを上手に使うための構造計画がきちんとなされることが必要だろう。

日経ホームビルダーでは、制震特集が組まれているので、参考に。
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ハイグレードな制振構造?

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「中之島フェスティバルタワー・ウエスト」が来月開業し、中之島フェスティバルタワーと並びオフィス中心のビルとしては国内最高の超高層ツインタワー(高さ200m)になるらしい。詳細は、「中之島フェスティバルシティ」で。

中之島フェスティバルタワー・ウエストは、長きにわたって中之島を代表する建物として親しまれてきた「大阪朝日ビル」と「朝日新聞ビル」の建て替えプロジェクトで、設計・監理は建設計、施工は竹中工務店で行われてきた。

中之島フェスティバルタワー・ウエストには、最大減衰力が従来の3倍のオイルダンパーを使い、低層部に集中配置しているそうだ。竹中工務店のプレスリリース『ハイグレードな制振構造を可能とする「高減衰オイルダンパー」を開発』には、「免震構造と同等以上の耐震性能を発揮するハイグレードな制振構造を日建設計と協業し実現しました」とある。

下層部で地震エネルギーを集中的に吸収することで、上部構造を守るという発想だろう。結局は地震エネルギーをどこでどのように吸収するかということになるが、何をもって免震構造と同等以上といっているのだろうか。上部構造の加速度や層間変形も同程度になるのかな?

以前のエントリーでも書かせてもらったが、このツインタワーには地震計を設置してほしい(すでにそうなっていればいいが)。南海トラフの巨大地震の発生も近いといわれており、両建物で観測された応答は今後の免震・制振建物の設計に大変有益な情報をもたらすはずだから。

下の写真は2009年に、朝日新聞社に飾られていたツインタワーの模型らしい。
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中之島フェスティバルタワー・ウエスト(左側)は、当初の計画とずいぶん変わったようだ。最初は、道路を挟んでシンメトリーな建物として計画されていたようだが、完成したツインタワーは、アンシンメトリー?

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講義中・・・
著書など
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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