熊本地震

消えた立川断層?

日経新聞(5/14付け)に『「消えた」立川活断層 データ不足、意見割れる』という記事があった。
阪神大震災のような「直下型地震」はいつどこで起きてもおかしくない。熊本地震に関する最近の研究では従来の活断層の常識が揺らぐような報告が出てきた。首都圏にある「立川断層帯」では活断層かどうかを巡り専門家の間で意見が対立する。そうしたなか、自治体や企業は直下型地震の被害を抑えるためにIT(情報技術)を活用した対策に乗り出した。

3月中旬、文部科学省で開かれた地震調査研究推進本部地震調査委員会の活断層分科会。そこで約1年ぶりに立川断層帯が議題にのぼった。東京大学地震研究所の調査報告で存在が否定された活断層について、改めて有識者の意見を募った。

東京都や埼玉県にまたがる立川断層帯(約33キロメートル)は名栗断層と立川断層の2つからなり、いずれも活断層であると長く考えられてきた。地震の想定規模はマグニチュード(M)7.4程度。30年以内の発生確率は0.5〜2%とされる。
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地震本部のサイトより>
地震調査委に委託され、2013年に東大の佐藤比呂志教授が東京都立川市内の工場跡で巨大な穴を掘ったところ、上部のローム層で一部に高度差があるが、下の層はほぼ水平だと分かった。人工的な波などを使っても「過去に繰り返し活動した証拠はなかった」。断層帯の約6割を占める名栗と立川断層南部では、活断層は存在しない可能性が高いと結論づけた。

同市内などから活断層が「消えた」立川断層帯だが、地震本部のホームページでは5年たった今でも活断層帯だとの説明が残る。活断層の存在を指摘する専門家は多く、見方は真っ二つに割れる。

名古屋大学の鈴木康弘教授は「地形学の観点からみると立川断層については活断層であることは明らかだ」と指摘する。様々な見地から活断層の有無を判断する必要があるという主張だ。

国としての意見集約が進まない現状に「どうにかしないといけない」と文科省側で見直しの機運が高まっていった。分科会では「活断層があるなら説明してほしい」などの発言があり、断層の規模を知るための手法についても話し合った。

活断層の定義や常識が変わると、国や自治体は防災対応の見直しを迫られる。安全のために必要だが、幾つもの研究のアプローチから導かれた知見を1つにまとめるのは難しい。「活断層とは」を巡る議論に終わりは見えない。

熊本地震から2年がたち、専門家らが最近注目しているのが「お付き合い断層」だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星「だいち2号」で16年、200以上の存在が確認された。

マイクロ波を飛ばし、反射から地表のわずかな上下変動をとらえた。地震の前後で調べたところ、震源域付近に延びる布田川・日奈久断層帯の周辺で、広範囲にわたりたくさんの小さな断層が動いていた。地表のずれは数センチ〜数十センチだった。

お付き合い断層は自ら地震を招くことはないが、大きな活断層につられて動く。これほどまでの数が確認されたのは熊本地震が初めてだ。「活断層の定義自体を見直す必要がある」。調査にあたった国土地理院の藤原智・地理地殻活動総括研究官は強調する。

どこまでを活断層と呼ぶべきか。正確に調べるには地下をすべて掘り起こすしかないが、現実には無理だ。東北大学の遠田晋次教授も活断層の存在については「証明が難しい」と話す。地形や地震探査、古文書の記録など幅広いデータを集めて「推定するしかない」。

活断層による地震の発生頻度についても旧来の見方は変わりつつある。

産業技術総合研究所の岡村行信首席研究員らは熊本地震後、2年かけて布田川・日奈久断層帯の6カ所で調査。高野―白旗区間と、隣り合う日奈久区間で平均2千〜3千年の間隔で断層が動いていた痕跡を見つけた。京都大学の林愛明教授らも平均の活動間隔は1千年と結論づけた。

いずれの調査も、地震前に考えられていた3600〜1万1千年より頻繁に起きたことを示す。岡村首席研究員は「地震発生確率を計算するための活動履歴のデータが不十分だった」と話す。

地震本部は09年にまとめた総合基本施策で、活断層評価の高度化や全国の位置を示す「活断層基本図」の整備をうたった。ただ今のところ目立った成果は見えない。常識が揺らぐなか、実践的な取り組みに結びつくには時間がかかる。

いろいろと調べて知見を蓄積することで、新しいことが分かることもある。一方で、調べれば調べるほど、分からなくなることもある。防災上は、活断層がありそうだということになれば、それに備えて対策をとることが求められよう。

『科学』(5月号)で島崎邦彦氏(東京大学名誉教授)が次のように書いている。
日本列島のどこでも地震は起こるのに、なぜ長期予測が必要なのか?
日本列島のどこでも最低限の対策は必要であるし、重要構造物や危険物質を扱う施設(原子力発電所など)がどこにあっても、十分な対策が必要なことは言うまでもない。だから、日本のどこでも対策をという呼びかけは、それ自体正しい。しかし日本列島各地で大地震が起こるたびに大災害が発生している。甚大な地震災害が続く現実は、地震発生前の対策が遅れていることを示している。漠然とした具体性のない呼びかけより、将来の災害を心配して備えることができるようなお知らせが望ましい。
これに答えるものとして、地震の長期予測があるという。予知はできないが、どこでどのような地震が起こるかを知らせることはできる、と。

地震学、地震工学の研究者には、断層のことがもっと分かるように、そして長期予測の精度を高めることにつながる研究を進めてほしいものだ。一方で、建物側の研究者には、建物の耐震性を高める方策や効果の高い耐震補強方法の開発などにも取り組んでほしい。









「他人ごと」を「自分ごと」に

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『まんがで知る教師の学び3 学校と社会の幸福論』(さくら社)を読んだ。著者は、前田康裕・熊本大学教職大学院准教授で、昨春まで教頭を務めた向山小学校での体験に基づいている。

朝日新聞(3/13付けの夕刊)に『教頭先生、避難所で学んだ』という記事で本書が紹介されていた。
突然の大地震で学校は避難所に。ただでさえ忙しい教頭が、地域との関わりから学んだこととはーー。熊本市立向山(こうざん)小学校の前教頭が、熊本地震の体験をもとに自ら漫画を描き、出版した。働き方改革につながるヒントも盛り込まれている。

舞台は、熊本のある小学校。大磯賀史(おおいそがし)教頭は、保護者のクレーム対応や施設管理に忙殺されている。そこに起きたのが4月14日夜と16日未明の大地震。学校に駆けつけると、1千人を超す人や車がどんどん押し寄せてきた。困り果てていると校区の自治会の人たちがやってきて、テントを建て始めた。

「市役所は何をやっているんだ」といらだつ教頭を「だれかのせいにした瞬間に思考はストップします」とたしなめ、てきぱきと避難所を運営する。その姿を見た教員らは、「力を合わせてよりよい未来をつくる」との視点で教育課程を見直す。すると、子どもの意識も変わっていくーー。
(略)
熊本地震では多くの学校が避難所になった。うまく機能しない所もあったが、向山小では校区の人たちが一致団結して避難所を運営した。その様子を目の当たりにして、前田さんは「行政サービスを受けるだけの『お客さま』では、まちはできない」と痛感した。地域のことを「他人ごと」ではなく「自分ごと」と考えるようになり、自らの生き方も変わったという。

「教員の多忙化も、文部科学省や教育委員会のせいにしては解決できない。教育を学校だけに任せず、みんなが『自分ごと』として考えれば、よりよい社会ができる」。
(以下略)

本書の最後にある「解説8」では次のように書かれている。
熊本に「できるしこ」という言葉があります。「自分でできる範囲で」という意味です。教育に関わる様々な問題に関しては、他人に責任を求めるのではなく、全ての人びとが自分のできる範囲で協力して動き出せば、解決の方向に導かれていくのだと思います。我々が創ろうとする未来は、他人に責任を求めて攻撃する「他責社会」ではないはずです。他人のがんばりに感謝し応援する「感謝社会」であれば、全ての人びとがその社会にできるしこ参画することができるのではないでしょうか。

災害時や避難生活などにおいて、地域における住民のつながりが重要となる。これから人口が減少してく日本社会において、地域のまちづくりや共同体としての連携を深めていくことが求められるのではないだろうか。そうした核の一つとして「学校」があるのだろう。

教師という仕事は忙しいし大変だけど、やりがいがあるということを本書を通して理解してもらえるといい、と思った。










新阿蘇大橋 地震に強く

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日経新聞(4/17付け夕刊)に『新阿蘇大橋 地震に強く』という記事があった。
熊本地震で崩落した熊本県南阿蘇村の阿蘇大橋の下流側で架け替え工事が進む新たな橋について、国は、大きな地震で周辺の地盤がずれた場合、橋脚と橋桁の接合部がすぐに外れ、衝撃を抑える構造を導入することを決めた。2度目の激震「本震」発生から2年。関係者は「地盤がずれる前提で橋を造るのは珍しい」としている。

阿蘇大橋は阿蘇地域を流れる黒川に架かり、国道325号の一部として南阿蘇村中心部と熊本市方面を結んでいた。本震で土砂崩れが起き、周辺では阿蘇市の大学生、大和晃さんが犠牲となった。新たな橋は国直轄事業として崩落箇所から南約600メートル下流で建設が進められ、2020年度の開通を目指す。

国土交通省九州地方整備局によると、橋脚6本のうち、活断層の推定位置に近い右岸側から3本目と4本目は橋桁との接合部の強度を弱め、最大震度7を2度観測した熊本地震と同程度の揺れが発生すると外れる構造にする。丁字形をした橋脚の上部の幅を当初予定より広げ、外れた橋桁は橋脚がそのまま受け止め、橋の機能を維持する。

橋の長さは605メートルとしていたが、工事で出た土砂を右岸側に盛るため、525メートルに短縮することになった。

西日本新聞では、阿蘇大橋の直下に活断層があった可能性を指摘し、「アーチ橋は固い地盤の上に造られるが、地盤が動くと致命的な力を受ける。橋は断層を避けるべきで、もし架ける場合は構造に考慮が必要だ」という識者のコメントを掲載している。
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工事が進められている新阿蘇大橋の下にも活断層があると考え、橋脚と橋桁がずれる構造を導入することにしたのだろう。一種の免震構造ともいえるが、どれくらいのズレ量まで対応できるのだろうか。橋に直交するズレであれば、ずれることで免震的な効果は得られそうだけど、橋の長さ方向に断層のズレが生じた場合はどうなるのだろうか。新阿蘇大橋はアーチ橋ではないので、大丈夫ということだろうか。

いずれにしろ新阿蘇大橋が開通することで、被災地へのアクセスがよくなり、早期の復興につながることを期待したい。







熊本地震から2年

2016年熊本地震の本震から2年が経過した。
日経新聞では4月13日から15日まで『途上の再建』と題して記事を掲載している。まだ仮設住宅などでの避難生活を続ける人は約3万8000人に上る。仮設住宅で暮らしている人たちのなかには、まだ次の住まいが見つかっていない人も多い。

一方で、建物被害が多かった益城町での復興計画を巡っては戸惑いも広がっているという。
行政主導の復興事業が議論を招くケースもある。益城町では震災後、町の大動脈の県道の4車線化や土地区画整理の計画が相次いで打ち出され、移転を求められた住民に戸惑いが広がる。
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「ただ出て行けってことですか?」――。
県道沿いで営んでいた商店が全壊した矢野好治さんは3月下旬、県担当者の説明に耳を疑った。4車線化の拡幅で立ち退きが必要とは聞かされていたが、代替地は用意されず、営業補償もないことが分かったからだ。

明治期から先祖代々守り続けてきた店。昨年3月、4車線化に国の認可が下りたため建築制限がかかり、建て直しも断念した。「店を再建できなかったのも4車線化のせいなのに。近くの病院も転出すると聞いた。将来、この地域はどうなってしまうのか」。県によると、道路沿線の243人の地権者のうち、3月末までに契約したのはわずか17人にとどまる。

町中心部の約28ヘクタールの区画整理も、昨年12月に「住民の理解が得られていない」などとして町の審議会がいったん否決する異例の経過をたどった。4車線化や区画整理に慎重な立場の住民団体の前川賢夫さんは「必要な事業なら反対はしたくないが、住民の声は置き去り。誰のための復興なのか、もう一度考えてほしい」と訴えている。

本来、優先度が低いはずの事業が復興名目で行われていないだろうか。行政は住民の声に耳を傾け、必要に応じて計画を見直すことも必要だと思う。加えて、この地域では国交省の調査で活断層があるということが判明している。活断層のことを考えた町の将来像をどう描いていくのかも気になるところだ。












「阿蘇西原新聞」が創刊

朝日新聞(4/13付け)の「ひと」欄に、ウェブで「阿蘇西原新聞」を創刊した川野まみさんが紹介されていた。
熊本地震から2年。「被災地の外の人に『もう復興したよね』と言われるが、被害のひどい店や人は再建途中。注目してほしいのはこれからなのに」。昨年末にウェブ上で「阿蘇西原新聞」を創刊し、熊本県西原村から情報発信を続けている。

移住して2年で新居が被災。公務員の夫は災害対応で戻れず、乳飲み子の次女ら子供3人と小学校に避難した。「新住民の自分に炊事もさせないくらい大事にされ、恩返ししたい」と思った。

新興住宅地内の街路は私道。村の予算では直せないと言われ、募金を呼びかけたのをきっかけに復興支援サイトを立ち上げた。その縁で、東京の地域情報をウェブ配信する「恵比寿新聞」の高橋賢次編集長と出会う。「伝える側になってみては」と勧められ、高橋さんが運営する「地域密着新聞ネットワーク」の支援で創刊した。

熊本市の短大を卒業後に地域情報誌で働いた経験を生かし、再建したり、その途上だったりする人々の思いや、防災グッズを完備したのに家具が倒れて取り出せなかった自らの失敗談などを織り交ぜる。明るさと行動力で急速に人脈を広げ、新聞を読んだ見知らぬ人から「あの店に行ったよ」と声をかけられるようにもなった。

「ハンバーグのパン粉のようなつなぎ役になりたい」。いつか取材した人を集めて語り合いたいと思っている。

熊本地震から2年か。
まだ3万8000人が仮住まいをしている。復興はまだこれからという感じかもしれない。

ただ、復興は建物を建てたら終わりではない。建物が建てば外観上は復興したように見えるかもしれない。それに加え、住民の交流など地域のコミュニティを再生することも大事だ。記事にあるように地域の「つなぎ役」が求められよう。









免震の過去・現在・未来

日本免震構造協会の20周年記念誌(2014年)に『免震の過去・現在・未来』と題して寄稿させていただきました。執筆から4年ほど経つので、現状を反映して少し書き改めてみました。

2000年に新しい建築基準法が施行され、それにあわせて「免震材料」(この呼称は不適切です)として免震部材が規定され、さらに免震告示第2009号も施行されました。それまでは、免震部材も免震建物の設計と同じように建築基準法の旧38条に基づいた「評定」の場で審査を受けていました。それがなくなり、免震部材は大臣認定品(以下、部材認定)となりました。

また、2000年前後から免震建物の高層化が始まりました。上部構造が高層化すると、より長い免震周期(より免震層を柔らかくすること)が求められ、積層ゴムに加えて、弾性すべり支承や転がり支承が使われるようになってきました。部材認定は、免震告示による設計のためには必要だと思われますが、時刻歴応答解析による設計(性能評価)においては必ずしも必要ではないと思います。新しく開発した免震部材の性能評価も建物と一緒に審査をすればいいと思います。最近では、免震建物の評価の際に部材認定されていない免震部材も一緒に評価してくれる評価機関もあると聞きました。こうしたことがもっと普通になることを期待しています。本来、免震部材は免震構造を支える重要な構造部材であり、その部材性能は、大臣認定品であろうとなかろうと、設計者自身が責任をもって確認することが求められています。

2011年に東日本大震災が発生しました。東日本大震災では長周期成分を含む地震動が長時間継続したものの、多くの免震建物で地震観測記録が得られ、良好な免震性能を発揮したことが検証されました。一方、履歴型ダンパーは、塑性変形を繰り返し受けたことでダンパー形状が変化したり、亀裂が発生したものもありました。このような状況から、履歴型ダンパーの累積損傷や損傷度評価手法が検討され、免震層の変形履歴に基づいて、ダンパーの損傷度を評価できるようになっています。免震層の変形履歴を把握するには、地震計を設置することが理想ですが、すくなくとも「けがき記録装置」を設置してほしいと思います。

2016年には熊本地震が発生しました。免震部材の取り付け躯体が設計上の配慮が足りずに損傷した事例はありましたが、免震建物はその性能を遺憾なく発揮しました。一方で、熊本地震では「長周期パルス」が発生したともいわれています免震脅かす長周期パルス?。地震による断層変位が地表に表れると「長周期パルス」が発生するとも言われているそうですが、その発生メカニズムなどについてはまだまだ研究が必要です。熊本地震の本震では、阿蘇にある免震病院において最大変形46cmのけがき記録が得られました。これまでの地震記録で(世界でも)最大の変形の記録です。この病院から3kmほど離れたところで観測された地震波を使って応答解析をすると、最大変形は1mを超えてしまい、けがき記録とは全く対応しません。深い地盤構造の違いによる影響ではないかと推測しており、今後は地盤構造の調査などを行っていきたいと考えています。

2017年4月からは「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」(国交省住宅局建築指導課)に基づいて、関東地域、静岡地域、中京地域及び大阪地域の対象地域内において、性能評価に基づき超高層建築物等を新築する際の大臣認定の運用が強化されました。これらの地域について設計で考慮すべき地震動が提供され、それによる地震応答解析(性能評価)が求められるようになりました。これらの地震動は建築基準法で規定される地震動レベルを超えているにもかかわらず、レベル2相当の地震動として設計で検討することが求められることには違和感を覚えます。また熊本地震のように断層地震で長周期パルスが発生するとすれば、日本にある多数の断層ではそうした地震動の発生を想定しないといけなくなるのでしょうか。その場合、国交省が長周期地震動と同じように地震波を提供されるのでしょうか。

長周期長時間地震動や断層近傍でのパルス性地震動に対応するために、免震構造の設計では免震部材の地震エネルギー吸収性能を考慮することも必要となるでしょうし、想定を超える地震動に対して免震構造の終局状態(擁壁への衝突など)を検討することも場合によっては必要となるでしょう。免震建物の終局状態を把握するには免震部材の特性をしっかりと把握することが必要となります。しかし、わが国には実大の免震部材を実変位・実速度で加力できる試験装置はありません。米国や中国・台湾そしてイタリアには大型の動的加力装置が導入されています。今後の免震技術の高度化のためにも、増大する地震動入力に対して適切に設計を行う上でも、わが国に実大の動的加力装置が欲しいものです。免震部材の性能を確認する試験装置がないにもかかわらず、長周期地震動に対する免震建物の設計において繰り返し加力によるエネルギー吸収性能の変化を考慮することを求めるのは順番が逆ではないでしょうか。いま検討している試験装置世界最大級の加力装置が必要は100億円くらいあればできそうなんですが。。。

当初、免震は低層建物にしか適用できないと言われていましたが、それが高層建物にも適用されるようになりました。1920年代の柔剛論争、あるいは戦後の高さ制限の撤廃にみられるように、新しい知見に基づいて技術は進歩してきています。ただ、技術の適用範囲が拡大することで、新しい課題も出てきます。それらを解決していくことで技術は高度化していくものだと思います。

一方、高度化するだけでなく、汎用型・簡易型の免震システムについても技術の普及が必要でしょう。残留変形をそれほど気にしなければ、すべり支承だけで免震システムを構成するような簡易型・普及型の免震も可能ではないでしょうか。さらに、上部構造でも積極的にエネルギー吸収を行う「免震構造+制振構造のハイブリッド型システム」や、アクティブ免震の導入、3次元免震化、そして建物単体から街区全体の免震へと、やるべきことはいろいろあります。

現在の免震技術をさらに高度化するとともに、汎用化することで、都市の回復性(レジリエント)を高めることにつなげることができるのではないでしょうか。そうすることで、「地震フリー建物」、さらには、『地震フリー都市』の実現へとつなげていきたいものです。

まずは免震構造の普及を促進し、免震のことをよく知ってもらうために『九州免震普及協会』を2017年10月にたちげました。見学会や講習会、勉強会などを開催して、免震のさらなる普及に努めたいと思っています。
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制振ダンパー付き住宅は熊本地震で損傷なし

日経産業新聞(2/6付け)に『熊本地震再現、損傷なく』という記事があった。
住友ゴム工業は住宅用制震ユニット「ミライエ」の公開実験を開いた。ミライエを取り付けたツーバイフォー住宅に熊本地震と同じ揺れを複数回与えて、性能を確かめた。実験では大きな損傷は見られず、日本で広がり始めた工法でも制震性能に優れることを工務店などに示した。
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ミライエはゴムを使った制震装置。地震のエネルギーを熱エネルギーに変換することで揺れを吸収する。京都大学防災研究所の装置を利用し、震度7を記録した2016年4月の熊本地震を再現した。前震に相当する揺れを起こしたあと、本震を再現した大きな揺れを繰り返した。

欧米で主流の木質パネルを張り合わせて造るツーバイフォー工法を採用した2階建ての家屋を用意した。振動台に載せて衝撃を与えて、建物のゆがみを計測した。

事前の実験ではミライエを装着していない家屋は、熊本地震の前震を起こした後の本震の揺れで大きくゆがんだ。もう一度本震を起こすと完全に倒壊した。ミライエを取り付けた家屋は揺れはするものの、合板の亀裂などは起きなかった。3回揺れを加えた時点での変形量は、ない場合と比べて95%減となった。

目立った損傷が見られなかったため、公開実験では想定よりも1回多く計4回の揺れを加えた。ハイブリッド事業本部の松本達治リーダーは「余裕を持ってクリアできたのは良かった」とほっとした表情で話した。同日に揺らした実験では計18回揺らしても大きな損傷はなかった。

一戸建て住宅には4基取り付けるのが一般的で、新築の場合は30万円前後で導入できる。

約1年前の2017年にも京都大学防災研究所の振動台を使い制振ダンパーの効果を検証した実験が行われている。日経新聞のWEBサイトでは、1年前に実施された実験の模様が紹介されている(動画もある)。そのときに使った住宅は、2階建てで延べ床面積は約40平方メートル。実験による最大変形量(1階)は、ダンパー未装着では630.2ミリを記録したが、ダンパー装着はわずか31.1ミリとなり、95%も揺れを低減することができた、とされている。

1年前の試験は木造軸組工法のようだが、今年の実験はツーバイフォー工法という違いがあるようだ。それでも、変形量の低減が95%というのは偶然なのだろうか。ツーバイフォー工法は地震には強い工法だと思っていたが、本震の揺れが2回で倒壊するというのは、少し弱くないか?

実験結果の詳細がわからないとはっきりとしたことは言えないが、制震ダンパーをつければ応答変形が「95%減」という数値だけが一人歩きしないようにしたいものだ。

戸建て住宅の地震動予測

建設通信新聞(1/16付け)に『戸建て住宅の地震動予測』という記事があった。
旭化成(プレスリリース)と旭化成ホームズは、防災科学技術研究所と、「極小アレイ微動観測を利用した建築物敷地別地震動予測システム開発」の共同研究を開始した。旭化成ホームズの住宅展示場約60カ所の敷地を対象に表層地盤の微動観測を実施し、蓄積した地盤構造データをもとに、実際の地震時の地震動予測を行う。将来的には個別の敷地における地震動予測に基づき、建築する建物に発生する建築物の損傷を推定する建築物ヘルスチェックシステムの構築も視野に入れている。

2016年4月の熊本地震では、多くの住宅が倒壊した原因に表層地盤の揺れやすさが大きく関わっていると言われている。一方で、表層地盤に関する微動調査や解析は、大規模な建築物や構造物などの特殊建築物には実施されているが、大がかりな装置や解析に時間がかかるため戸建て住宅レベルでは利用されていなかった。

今回使用する「極小アレイ微動観測」は、防災科学技術研究所などが開発。表層付近で発生する微小な振動を、戸建て住宅の敷地でも測定可能なようにコンパクトに設置された複数の微動計で測定し、データを解析することで地盤構造を推定する調査手法で、地震による建物の揺れやすさを手軽に個別に推定できる。
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共同研究では、旭化成ホームズが微動観測のために提供する住宅展示場敷地に、スマートフォンを用いた地震計を設置して地震発生時のデータ取得を行うことで「微動観測データ」による敷地の微動予測の有用性、正確性を検証する。

今後、旭化成ホームズでは、共同研究の成果を踏まえ、建築主の建設予定地で微動観測を実施し、その結果から想定される予測地震動を可搬型地震動シミュレーターで体験してもらうサービスの開発などを検討するほか、建物の揺れを軽減させて損傷を最小限に抑える設計や構造の検討にも生かしていく考えだ。

こうした手法が確立されれば、将来その敷地で発生する地震動評価のための有益な情報が提供できるようになるだろう。

熊本地震では表層地盤によって地震動が増幅したことが被害を拡大した要因であるとの見方もされている。浅い地盤構造がわかるだけでも、地震動がどのように増幅するのか判断する材料になるだろう。しかし、柔らかい表層地盤では地震時に塑性化することも考えられる。地盤の非線形特性を知るためには、敷地やその周辺地盤の地質などについても慎重に検討をすることが求められよう。

一方で、熊本地震のときに長周期パルスなるものが発生したとも言われている。長周期パルスの発生要因についても鋭意研究が進められているものの、長周期成分に関しては深い地盤構造が必要となる。今後、免震構造や超高層建物などの長周期構造物を建てる際には、深い地盤構造についても調べておく必要があるのかもしれない。

人類は、地上数百キロメートルのところに人工衛星を打ち上げることはできるし、それよりも遙か遠くの星の探査も行っている。しかし、地上から数キロメートルの深さのことはあまり分かっていない。地面の下のことをもっと知ることが、地震動や建物の耐震性を考える上ではとても大切なのだが・・・

震災時の建物被害調査における課題

政策研究大学院大学・建築研究所主催のシンポジウム「建築物地震被災度調査・評価の現状と新技術」で、熊本地震の被害調査について話をさせていただきました。日本建築学会において、熊本地震のときに益城町で実施した悉皆調査(学術調査)について考えたことを紹介しました。

まず、準備の段階として、何をどこまで調査するのかを明確にする必要があります。益城町で悉皆調査をするという判断は、その被害の大きさと共に、地震計も複数台設置されており、地震動と被害との相関関係を得ることができるという思いがありました。しかし、この思いは、臨時観測点での記録が使えそうにないということになりそうで、崩れてきていますが。

調査時期は、休日(GW)に設定したので、大学教員は動きやすかったと思いますが、調査人員の確保は課題となります。日本建築学会だけでなく、日本建築構造技術者協会や建築家協会などにも協力を要請しました。応急危険度判定とは異なり調査員の支援体制が確立されていません。

実際の実施にあたっては、当日何名くらいの方が実際に来ていただけるかは当日にならないとはっきりしませんでした。そのため、当日の朝にチームを組んでもらうなどちょっとバタバタしました。チーム編成ができたら、調査担当地域を割り当てて、役割分担をしてもらうなどして、担当地域へ。

日本建築学会の被害調査なので、調査はどうしても建物本体の被害に注目することになります。ただ、熊本地震では地盤や基礎の被害も多く、それらの被害把握は十分ではなかったように思います。また、他の学協会との連携なども必要ではないかと思いました。今回の被害調査では地盤工学会との情報交換(ワークショップ)などもしたのですが、日常的に関連学会との連携などをはかっておく必要があると思われます。

益城町の悉皆調査では6日間で延べ200名以上の方にご協力をいただき、2600棟ほどの建物の調査が実施できました。その結果、大量のデータ(紙ベース)と写真が集まりました。これらのデータをエクセルなどに入力し、分析するのは、大変な作業となりました。

さらに、得られたデータには精粗があります。それは、調査された方のスキルや専門性に依存していると思われます。たとえば木造住宅の工法や建築年代を判断できる知識の有無などによって、調査シートへの書き込みや被害程度、建築年代の判断などに違いがありました。こうした点もデータを入力して、精査することが必要でした。

木造住宅の被害を分析するうえで、建築年代を把握することは重要です。今回は国交省との連携で建築確認台帳のデータを参照できたことで、建築年代推定の精度向上をはかることができました。こうした取り組みは始めてだったと思いますが、次の調査のときにも必要に応じて協力関係をとることが有効でしょう。

最後に、日本建築学会の腕章をして被害調査していると被災者から相談をうけることもあります。被災者からは、自分の家がどういう状況なのかを知りたいでしょうし、住み続けることができるのかも知りたいでしょう。専門知識を社会に還元するという面でも相談対応できる体制の構築も課題ではないかと思います。

応急危険度判定と違い、学術調査は毎回実施されるかどうかは決まっていません。そのため上で書いた課題はすぐには解決しないかもしれません。そういう意味では新しい被害調査の方法などを開発していくことも必要でしょう。

そのため、今回のシンポジウムでは被害建物の調査における新技術として、
 ・航空写真を活用して、被災度を判定する
 ・応急危険度判定の際に、タブレットに搭載したアプリで効率化する
 ・ドローンの活用
といったことも紹介されました。

また、被災者の視点として、応急危険度判定、罹災証明のための被災度調査、保険適用のための調査、学術調査などさまざまな調査が実施されるものの、調査回数を減らせないか、といった意見もありました。調査を実施している側からすれば、それぞれ目的は違うのでしょうが、被災者からみれば同じような調査に思えるかもしれません。それぞれの被害調査の情報共有や新技術の活用などが求められます。
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応急危険度判定では「緑」「黄」「赤」の紙が貼られます。「緑」は安全と思いがちですが、熊本地震では本震によって倒壊する住宅もありました。「赤」が貼られると、もうこの家には住めないと思い、取り壊されてしまうことにつながることもあるでしょう。「赤」が必ずしも構造体の被害だけではないことを周知することも必要ですし、市民の方々にこうした被害調査の目的や結果についてのリテラシーを身につけてもらうことも必要かもしれません。

こうした被害調査の結果が、建物の耐震化や耐震設計のあり方について有益な情報を提供し、地震被害を軽減することにつながっていくことが必要でしょう。

熊本地震における病院の被害

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『病院』(Vol.76,No.6,2017,医学書院)の特集は『備えよ常に! 病院のBCPを整備せよ』。このなかで高野病院院長の山田一隆氏が熊本地震における医療機関の被害に関する調査結果を報告されている。

熊本県内の全医療機関2530施設を対象に行った調査結果(回答2055施設)によれば、被害のあった施設は62.4%であり、病院、診療所、歯科診療所の被害発生率は、それぞれ77.0%、58.5%、65.2%と高いことが認められた。

また復旧に必要な費用は、特に病院において高額であった。病院の復旧に必要な金額は総額で約303億円となっており、これを医療機関数147施設で単純に割ってみると、1施設あたり平均2億円の被害があったことになる。

この調査では病院が耐震か免震かの区別はなされていないものの、多くは耐震構造の病院であろうと推察される。耐震構造は「建物がまったくダメージを受けない」ことを保証するものではない。たとえ柱や梁などの構造体が被害を免れても、室内が散乱することにより医療提供活動が妨げられた事例が、過去の地震でも多数報告されている。

耐震構造であっても、室内の耐震安全性を高めておくことが必要となる。一方、免震構造では、建物へ作用する地震力を小さくすることができ、構造体だけでなく室内の安全性も格段に向上させることができる。ただ免震構造は地震時には大きくゆっくり動くため、キャスター付きの什器や医療機器などが移動しやすくなる点には注意が必要である。

病院は、災害時には特に重要な役割を担う。そのため病院機能を維持できる高い耐震性(できれば免震構造)を持たせることが求められる。また、地域の医療を継続するために病院の連携やネットワークの構築といったことも必要だろう。

まさに、病院・医療のBCPを確保することが求められる。

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『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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