長周期パルス

免震の過去・現在・未来

日本免震構造協会の20周年記念誌(2014年)に『免震の過去・現在・未来』と題して寄稿させていただきました。執筆から4年ほど経つので、現状を反映して少し書き改めてみました。

2000年に新しい建築基準法が施行され、それにあわせて「免震材料」(この呼称は不適切です)として免震部材が規定され、さらに免震告示第2009号も施行されました。それまでは、免震部材も免震建物の設計と同じように建築基準法の旧38条に基づいた「評定」の場で審査を受けていました。それがなくなり、免震部材は大臣認定品(以下、部材認定)となりました。

また、2000年前後から免震建物の高層化が始まりました。上部構造が高層化すると、より長い免震周期(より免震層を柔らかくすること)が求められ、積層ゴムに加えて、弾性すべり支承や転がり支承が使われるようになってきました。部材認定は、免震告示による設計のためには必要だと思われますが、時刻歴応答解析による設計(性能評価)においては必ずしも必要ではないと思います。新しく開発した免震部材の性能評価も建物と一緒に審査をすればいいと思います。最近では、免震建物の評価の際に部材認定されていない免震部材も一緒に評価してくれる評価機関もあると聞きました。こうしたことがもっと普通になることを期待しています。本来、免震部材は免震構造を支える重要な構造部材であり、その部材性能は、大臣認定品であろうとなかろうと、設計者自身が責任をもって確認することが求められています。

2011年に東日本大震災が発生しました。東日本大震災では長周期成分を含む地震動が長時間継続したものの、多くの免震建物で地震観測記録が得られ、良好な免震性能を発揮したことが検証されました。一方、履歴型ダンパーは、塑性変形を繰り返し受けたことでダンパー形状が変化したり、亀裂が発生したものもありました。このような状況から、履歴型ダンパーの累積損傷や損傷度評価手法が検討され、免震層の変形履歴に基づいて、ダンパーの損傷度を評価できるようになっています。免震層の変形履歴を把握するには、地震計を設置することが理想ですが、すくなくとも「けがき記録装置」を設置してほしいと思います。

2016年には熊本地震が発生しました。免震部材の取り付け躯体が設計上の配慮が足りずに損傷した事例はありましたが、免震建物はその性能を遺憾なく発揮しました。一方で、熊本地震では「長周期パルス」が発生したともいわれています免震脅かす長周期パルス?。地震による断層変位が地表に表れると「長周期パルス」が発生するとも言われているそうですが、その発生メカニズムなどについてはまだまだ研究が必要です。熊本地震の本震では、阿蘇にある免震病院において最大変形46cmのけがき記録が得られました。これまでの地震記録で(世界でも)最大の変形の記録です。この病院から3kmほど離れたところで観測された地震波を使って応答解析をすると、最大変形は1mを超えてしまい、けがき記録とは全く対応しません。深い地盤構造の違いによる影響ではないかと推測しており、今後は地盤構造の調査などを行っていきたいと考えています。

2017年4月からは「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」(国交省住宅局建築指導課)に基づいて、関東地域、静岡地域、中京地域及び大阪地域の対象地域内において、性能評価に基づき超高層建築物等を新築する際の大臣認定の運用が強化されました。これらの地域について設計で考慮すべき地震動が提供され、それによる地震応答解析(性能評価)が求められるようになりました。これらの地震動は建築基準法で規定される地震動レベルを超えているにもかかわらず、レベル2相当の地震動として設計で検討することが求められることには違和感を覚えます。また熊本地震のように断層地震で長周期パルスが発生するとすれば、日本にある多数の断層ではそうした地震動の発生を想定しないといけなくなるのでしょうか。その場合、国交省が長周期地震動と同じように地震波を提供されるのでしょうか。

長周期長時間地震動や断層近傍でのパルス性地震動に対応するために、免震構造の設計では免震部材の地震エネルギー吸収性能を考慮することも必要となるでしょうし、想定を超える地震動に対して免震構造の終局状態(擁壁への衝突など)を検討することも場合によっては必要となるでしょう。免震建物の終局状態を把握するには免震部材の特性をしっかりと把握することが必要となります。しかし、わが国には実大の免震部材を実変位・実速度で加力できる試験装置はありません。米国や中国・台湾そしてイタリアには大型の動的加力装置が導入されています。今後の免震技術の高度化のためにも、増大する地震動入力に対して適切に設計を行う上でも、わが国に実大の動的加力装置が欲しいものです。免震部材の性能を確認する試験装置がないにもかかわらず、長周期地震動に対する免震建物の設計において繰り返し加力によるエネルギー吸収性能の変化を考慮することを求めるのは順番が逆ではないでしょうか。いま検討している試験装置世界最大級の加力装置が必要は100億円くらいあればできそうなんですが。。。

当初、免震は低層建物にしか適用できないと言われていましたが、それが高層建物にも適用されるようになりました。1920年代の柔剛論争、あるいは戦後の高さ制限の撤廃にみられるように、新しい知見に基づいて技術は進歩してきています。ただ、技術の適用範囲が拡大することで、新しい課題も出てきます。それらを解決していくことで技術は高度化していくものだと思います。

一方、高度化するだけでなく、汎用型・簡易型の免震システムについても技術の普及が必要でしょう。残留変形をそれほど気にしなければ、すべり支承だけで免震システムを構成するような簡易型・普及型の免震も可能ではないでしょうか。さらに、上部構造でも積極的にエネルギー吸収を行う「免震構造+制振構造のハイブリッド型システム」や、アクティブ免震の導入、3次元免震化、そして建物単体から街区全体の免震へと、やるべきことはいろいろあります。

現在の免震技術をさらに高度化するとともに、汎用化することで、都市の回復性(レジリエント)を高めることにつなげることができるのではないでしょうか。そうすることで、「地震フリー建物」、さらには、『地震フリー都市』の実現へとつなげていきたいものです。

まずは免震構造の普及を促進し、免震のことをよく知ってもらうために『九州免震普及協会』を2017年10月にたちげました。見学会や講習会、勉強会などを開催して、免震のさらなる普及に努めたいと思っています。
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免震脅かす長周期パルス?

朝日新聞(1/14付け)の「科学の扉」欄に『免震脅かす長周期パルス』という記事があった。
2016年4月の熊本地震で、震度7を観測した熊本県西原村。京都大防災研究所の岩田知孝教授(強震動地震学)が記録を解析すると、小刻みな揺れに続き、脈打つような大きな揺れがみえた。「長周期パルス」と呼ばれる特殊な揺れだ。揺れが1往復する時間が「周期」で、2秒以上を「長周期」と呼ぶ。西原村の揺れの周期は約3秒だった。
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(略)
長周期パルスの影響は、「免震支承」という装置で揺れを抑える建物でも心配されている。

免震支承は変形することで地面の揺れとの共振を避け、地震エネルギーを吸収する。地面の動きが大きく、変形が大きくなりすぎると、免震支承が壊れたり、周囲の擁壁に建物が衝突したりする恐れがある。衝突を避けるために、建物と擁壁の間隔を広くするには、用地が必要でコストがかかる。

大阪大の宮本裕司教授(建築耐震工学)によると、変形が大きすぎる時だけ働くダンパーをつけ、擁壁にぶつかる前に変形を抑える対策がある。免震支承などが支え切れなくなったとしても、建物を支える構造にする方法もあるという。

想定より大きな揺れに対しては、衝突を許すという考え方もある。だが、これまで衝突を想定していなかったため、建物への影響については、よくわかっていない。詳しく調べて、擁壁の抵抗力などを解明する必要があるという。

建物の柱やはりを強くしたり、建物や擁壁に衝撃を和らげる緩衝材をつけたりして、衝突の被害を減らす対策もある。「新たな観測記録を天が与えた課題ととらえ、日本の耐震設計をレベルアップするステップにしたい」と宮本さんは言う。

長周期パルスには2種類ある。一つが、西原村で観測されたタイプ。マグニチュード(M)7級以上の地震が起こり、地表に断層のずれが達した場合、その近くだけで観測される極めてまれな現象だ。地震波に地殻変動の影響が加わって生じると考えられている。西原村では、断層に平行な東西方向で強い揺れが観測された。
(略)
もう一つの長周期パルスは、地下深いところで断層が動き、地震波が重なって大きな揺れになるタイプで、断層と直交する方向に出やすい。同じ仕組みで、周期が短いパルス状の強い揺れが生じることもある。阪神大震災で観測されたタイプだ。

長周期パルスは全国どこでも生じるわけではなく、まれな現象でもある。ただ、久田さん(工学院大学)は「大規模な活断層の近くであれば、万が一の対策が必要になる。活断層の位置や規模、地震の発生間隔などを調べて建物のリスクを判断してほしい」と話している。

昨年9月にはNHKで『長周期パルスの衝撃』という番組が報道され、免震構造も危険だという認識を多くの人たちに広めていただいた。しかし、長周期パルスというものが、どういう地震動なのかその定義も曖昧なまま、言葉だけが広まっていくのには違和感を感じる。

記事では周期2秒以上を「長周期」と呼ぶとしているが、長周期長時間地震動でいう「長周期」は少なくとも周期4秒程度以上ではなかったか。地震学の分野では、周期2秒から5秒程度までは「やや長周期」と呼んでいたはずで、いつのまにか使われなくなった。学問や科学で使う言葉はきちんと定義されて使われているはずなのに、いつのまにかメディアが使う言葉が広まるというのは、社会に誤った認識を与えることにならないだろうか。この分野の研究者の方々はどのように思われているのだろうか。それとも単に私の勉強不足なのだろうか。

もう一つ、阪神淡路大震災で観測された地震動も「長周期パルス」とされているが、当時建物に大きな被害を与えた地震動の周期は1秒程度であり、とても長周期と呼べるものではなかったはず。当時は、周期1秒から2秒の短周期地震動をキラーパルスとか指向性パルスとも呼んでいた。

こうしたパルス波をなぜ記事では長周期パルスとして紹介したのか?
兵庫県南部地震のときの地震動に関連して工学院大の久田先生は、次のように述べられている(SEIN WEBより
当時、私の研究テーマは堆積盆地の長周期地震動だったのですが、この地震を契機に震源特性やその影響について関心を持つようになりました。そこで、その年の秋に開催された日本建築学会・地盤震動シンポジウムにて、兵庫県南部地震と前年にロサンゼルスでの地震である1994年ノースリッジ地震に関連させて、指向性パルスを紹介しました(当時は長周期パルスと呼んでいました;久田・山本, 1995)。
※嘉章・山本俊六, 1995, ノースリッジ地震の地震動−類似点と相違点, 第23回地盤震動シンポジウム、日本建築学会, 93-100

1995年当時の文献を引用して記事が書かれたのか否かはわからないものの、最新の知見に基づいて記事を書いて欲しいものだ。

いずれにしても、なぜ西原村で、いわゆる「長周期パルス」が発生したのか、そのメカニズムなどを明らかにしてもらうことも必要だし、それに対する免震構造の設計法を検討していくことも必要だろう。まさに、宮本先生が言われているように免震設計のレベルアップをはかる契機にしたいところだ。

ちなみに、明日で阪神・淡路大震災から23年目を迎える。

熊本地震で観測された長周期地震動

2016年の熊本地震において、西原村役場で観測された地震動は「長周期パルス」だったといわれている。しかし、そもそも「長周期パルス」って何なんだろうか。NHKでも取り上げられので、いつのまにか「長周期パルス」という言葉が一般に使われるようになるかもしれない。長周期地震動がそうだったように。地震学で「長周期」といえば、もっと長い周期帯を指す言葉だったはずだったが。科学がメディアに負けている・・・

下の図は、熊本地震の本震で観測された地震動から求めた加速度応答値(減衰5%)で、周期2秒から5秒の周期帯における平均応答をコンター図で示している。これは九州大学の研究者により作成されたものだ。
熊本地震_長周期パルス

多くの住宅が被害を受けた益城町は周期1秒から2秒が最も卓越していたのに比べ、西原村や阿蘇の一の宮付近で長周期成分が卓越していることがわかる。

以下の図は、益城町役場、西原村役場、K−NET一の宮での観測記録の波形(加速度・速度)とEW成分を使った応答スペクトル(減衰5%〜30%)である。
益城町西原村一の宮

西原村役場の速度応答スペクトルをみると周期2秒以降でも高い値を維持している。その結果、変位応答スペクトルでは周期が長くなるほど大きな変形を示している。こうした応答となった要因は、速度波形にある大速度を示してる周期3秒のパルス(?)だと思われる。一の宮は短周期成分がそぎ落とされ、周期3秒が卓越している。一の宮の加速度波形は25秒以降で周期が長くなっていようにみえる。速度波形をみるとほぼ周期3秒で正弦波に近い。

なぜ、こうした地震動が観測されたのだろうか。益城町も西原村も断層上にあるが、これほど違いがでた要因はなんだろう。国土地理院の調査では西原村は約2m沈降している。こうした断層運動が西原村の観測記録に影響を与えたのだろうか。一の宮の記録も断層運動が影響しているのだろうか。

しかし、K−NET一の宮から3kmほど離れたところにある免震病院では最大変形が46cmだった。一の宮で観測された地震動をこの建物に入力しただけでは、応答は説明できない。そうなるとこの建物の入力地震動は違う可能性もある。しかし、地震の長周期成分はあまり減衰しないはず。そうなると深い地盤構造も影響しているのかもしれない。

熊本の地質は、阿蘇山の噴火による火山灰などの堆積物が多い。地表面で大きな地盤変位が現れたり、周期3秒が卓越したのは、地質の影響はないのだろうか。こうした面からの検証も必要だと思われる。
熊本の地質図


長周期パルスの衝撃?

昨晩放送されたNHKのメガクライシス『長周期パルスの衝撃』を見ました。
期待どおりの内容でしたね。
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https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2017/09/0901.html

この番組を見てて、次のような疑問が浮かびました。
  • 内陸の活断層地震では、長周期パルスが必ず発生するの?
  • これまでの活断層地震でも長周期パルスが発生していたの? 観測されなかっただけ?
  • そもそも長周期パルスって何?定義はされているの?
番組では、2016年熊本地震の西原村役場での地震計で観測された地震記録が紹介されていました。それは大きな記録で長周期構造物に大きな応答をもたらす記録だったからでしょうが、他の地点での記録はどうなっていたのでしょうか? 西原村役場で観測された地震記録だけを見て、活断層地震では長周期パルスが発生するといえるのでしょうか?

私の不勉強のためかもしれませんが、内陸の活断層地震で長周期パルスが出るということは聞いたことがありませんでした。長周期パルスは3秒が卓越するのでしょうか。もしそうだとすれば、長周期構造物の設計において周期3秒を避ければいいだけです。長周期パルスの成因について地震動や地盤震動の専門家の先生のご意見をお聞きしたいところです。

新宿の○学院大学の校舎に西原村での地震記録が入力されたときには、とても大きな被害が出ると紹介されていましたが、新宿で長周期パルスって起きるんでしょうか? そもそもそれを起こす活断層はどこに?

熊本地震のときに熊本大学の免震病院での応答変形についても紹介されていました。応答変形が40cmとなっていて、もう少し地震が大きかったら擁壁に衝突していたかもしれないという。しかし、熊本市内にある建物に長周期パルスの影響はあったのでしょうか? 

そもそも1995年の阪神淡路大震災で、短周期パルス(キラーパルス)が観測され、断層破壊の方向(ディレクティビティ)が影響したことが要因であると説明されています。では熊本地震の断層破壊の方向はどうなっていたのでしょうか?

分からないことがまだまだあります。阿蘇にある免震病院では最大変形46cmを記録しました。この病院の東3.5kmにある地震観測点では長周期成分(周期3秒が卓越)が観測されていました。この地震動が免震病院に入力されたとすると応答変形は1.5m弱となり実応答とはまったく違ってきます。こうした現象も解明していかないと、長周期パルスがどのように発生し、その影響がどういう範囲に及ぶのかは分からないのではないでしょうか。

Eディフェンスで空気圧を使った免震装置(?)の実験が紹介され、これを使えば街全体を免震化できるらしいです。空気圧でどの程度の高さの建物を支えることができるのでしょうか? 確かに戸建て住宅では空気圧で免震化されているものもあるようです。また空気圧によって上下免震実現した3階建て建物もあります。3階建てとなっているのは、使える空気圧が法的に制約されているからと聞いています。より高い空気圧を用いれば高い建物も免震化できるかもしれません。
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1気圧は平方メートル当たり約10トンに相当します。基礎面全体に1気圧の空気を瞬時に送ることができれば10階建てくらいの建物を浮かせることができるかもしれません。では4気圧なら40階建てくらいはできる? でもそうした設備を常に備えておくのって大変かも。

番組の最後に「見たくないモノを見る必要がある」と言われてましたが、そのためには情報を正しく伝えることが必要なんじゃないでしょうか。

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講義中・・・
著書など
研究室のマスコット
「アイソレータ・マン」。頭部は積層ゴムで、胸にはダンパーのマークでエネルギー充填
『耐震・制震・免震が一番わかる』
共著ですが、このような本を技術評論社から出しました。数式などを使わずに耐震構造、制震構造、免震構造のことを、できるだけわかりやすく解説しています。
『免震構造−部材の基本から設計・施工まで−』
免震構造協会の委員会活動の成果として、このような本をオーム社から出しました。免震構造の基本をしっかり学べるような内容となっています。
『4秒免震への道−免震構造設計マニュアル−』
いまでは少し内容が古いかもしれませんが、免震構造の基本的な考えを述べています。初版は1997年に理工図書から出ていて、2007年に改訂版を出しました。
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