その言葉に、グレンの背筋に冷たいものが走った。
モリス――七大魔族の一角であり、大勢の魔物を従えていることから【魔獣王】と呼ばれている存在だ。
「お前ら、俺たちをどうする気だ!?」
グレンの隣にいたタックスが吼えると、ファルシは白衣の袖を捲りながら、筋肉質な腕を見せながら、全員を一瞥して答える。
「安心しろ、殺すわけではない」
その言葉に、隊員たちは一瞬だけ安堵しかけたが、ファルシの次の言葉が彼らの希望を打ち砕く。
「アバロン帝国軍であれば聞いたことがあるだろう。モリス様には人間の男の精子が必要なんだ。特にお前たちのような力強い肉体を持つ者のな」
隊員たちの耳に、ファルシの言葉が反響した。精子――その言葉の意味が、脳に突き刺さる。
アバロン帝国軍たちの胸に、怒り、羞恥、恐怖が一気に突き上げた。
「精子だと、ふざけるな!?」
「こんな屈辱、絶対に許ねぇぞ!」
「誰がてめぇなんかに!」
隊員たちが叫び、ファルシに抗議する。
しかし、ファルシはそんな彼らを見下ろし、低く笑った。
「無駄な抵抗だ。お前らに残っているのは選別の過程だけだからな」
選別の過程?
その言葉の意味を考える間もなく、ファルシはゆっくりとレイザーの拘束具の前に移動した。目の前に巨漢の牛が立ち、レイザーは顔を強張らせる。
「お、…俺に何をする気だ!?」
目の前に立つ巨体にレイザーの声は震えていた。素っ裸にされて両手両足を拘束された無防備な状態で敵に立たれれば無理もないだろう。
ファルシはレイザーに答える代わりに、白衣のポケットに手を伸ばし、ゴム手袋を取り出した。ファルシは薄いゴム手袋を広げ、右手を差し込む。ゴムの端を指先で掴み、ゆっくりと引き上げた。
パチン、という鋭い音が部屋に響き、レイザーの体が小さく跳ねた。右手の次は左手。ゴムの擦れる音が静寂の中で異様に大きく響き、レイザーの肩が恐怖に震えている。
人体実験という最悪の言葉がレイザーの脳裏をよぎった。
「な、…何をする気だ……?」
先程と比べると、レイザーの声は小さく、震えていた。瞳はファルシの巨大な手を見つめ、彼の睾丸は恐怖で縮こまっていた。
「心配するな。殺すわけではないと言ったはずだぞ」
ファルシはそう言いながら、背後にいる部下に目をやった。
一人が素早く動き、チューブの容器を差し出す。ファルシはそれを受け取り、その容器の蓋を外して中身を出すと、透明なジェルがファルシはゴム手袋をはめた指先に乗った。透明なジェルを指先に取ると、ファルシはゆっくりとレイザーの前にかがみ込む。
「や、やめろ!近づくな!」
レイザーは叫び、拘束具の中で身体をよじるが、動ける範囲はわずかしかない。ファルシの手が近づくにつれ、レイザーの呼吸が荒くなり、汗が額を流れ落ちる。
「あぁぁっ!」
指先に乗せたジェルを、ファルシはレイザーの睾丸に塗り始めた。冷たいジェルの感触に、レイザーの身体がビクンと震える。得体の知れない薬液を睾丸に塗られて身体を固くするレイザーだったが、拘束具に縛られた彼に逃げる術はない。
「あぁっ!やめろ!くそっ、離せ!」
レイザーの叫びは、恐怖と屈辱に満ちていた。何が起こるのかわからない恐怖が心をさらに締め付ける。
「ファルシ、やめろ!レイザーの身体に触るな!!」
グレンが叫んだが、声は空しく響く。タックスや他の隊員も目の前で起きるレイザーへの凌辱に顔を引きつらせる。身体に力を入れて拘束具を揺さぶるが、拘束具は外れず、今の彼らでは何も変えられなかった。
「ふふふ」
ファルシの太い指先がレイザーの睾丸の皺をなぞり、ジェルを隅々まで行き渡らせる。指が円を描き、睾丸全体を包むようにジェルを伸ばす。その動きは執拗なまでに丁寧で、まるでレイザーの反応を観察しているかのようだった。
そして、睾丸にジェルを塗られると、レイザーの身体に異変が起き始めるのだった。
「あぁ、…ああぁぁっ!」
下腹部に熱い感覚が広がり、自分では制御できない反応が起こる。ペニスが熱くなり、むずむずとして、気づけばレイザーは敵の前であるにもかかわらず恥ずかしくもペニスを勃起させてしまうのだった。
「な、…なんで?こんな……」
羞恥で顔を真っ赤にするレイザー。きつく目を閉じ、頭を振ったが、ペニスの勃起は治まらない。
ファルシはレイザーの反応を見て、満足げに鼻を鳴らし、
「反応は上々だ」
と言って、再び背後の部下に目をやった。
次に部下が持ち出したのは、T字型の棒状の検査器具だった。初めて見るその器具にレイザーは顔を歪める。
勃起を促進させるジェルならまだしも、今目の前で牛野郎が持っているものは一体何なんだ?
そんなレイザーの疑問に答えるように、ファルシは告げる。
「これは超音波プローブ。知恵の王である我らが主のモリス様が作った検査器具だ」
ファルシはそう言って満足そうに手に持つプローブをレイザーの前に掲げた。【魔獣王】モリスが作った検査器具。考えれば考えるほどにおぞましかった。